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学園生活、1年目 ~後期・Ⅰ ~
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しおりを挟む「では、参りましょうか、コズエ様」
「よろしくお願いします」
結局、誰が付いていくかの話し合いはあっさりとセバスさんに決まった。
『コズエ様の御所望の食材ならば、私がついていく方がいいでしょう』と言い切られてしまえば反論なんてありません。
マートンも行きたがってたけどね。
待ち合わせの広場の時計塔の下には、エドが待っていた。
ブラウスにベスト。トレンチコートの様なジャケット。一流どころの商人のような装い。
「来たな」
「お待たせ、こちらは私がお世話になっているお宅の方」
セバスさんはエドの前で綺麗なお辞儀。
タロットワーク、とは名乗らなかったが、丁寧に今日の場を設けてくれた事にお礼を言っていた。
「ま、そんな畏まらなくたっていいさ。連れていく所はどっちかって言うと平民達が出入りする商会なんだ」
「そうなの?」
「ああ、俺が個人的に付き合いのある所でね」
サヴァン伯爵家は投資家。どうやらエドはすでに投資家として数々の商会に投資しているみたい。
セバスさんが後ろから小声で教えてくれる。
「サヴァン伯爵家は10歳になる頃より教育を施すと聞いております。長男は家の事業を継ぎ、貴族向けに動いておりますが、次男は芸術家に投資をしているようですな。三男であるエドワード様は多くはありませんが、平民の商会を主に目をかけているようです」
「そ、そうなのね」
あのセバスさん?それはいつ調べたんですかね…?
何よりその情報量に驚きますよ私。
メイン通りを少し中に入った所、少しチャイナタウンみたいな雰囲気のある一角に着いた。
エドが案内した先には、中規模な大きさの建物。
「おーい、いるか?」
「おや、これはエドワード様。お待ちしてましたよ」
見た目はかなり目を引く。基本王都にはヨーロッパ系の文化がある中で、アジア系の商店って珍しいもの。
エドがどんどん中に入っていくので、私もお邪魔する事にした。危なかったらセバスさんが止めてるし、何も言わない所を見ると安全なはず。
それに、エドがわざわざ私を危険な所に連れてくるとは思えないものね。
中は食料品から雑貨まで、至る所に色んな物がたくさんあった。私にはなんだが目に懐かしい物のように移る。
「わ、すごいわ、ここ」
「ほう、私も物珍しい物が多いですね」
エドは奥でお店の人と話をしているみたい。
私はまず食料品周りをウロウロ。米!米は!?
と、店員さんらしきおじさんが寄ってきてくれた。
ニコニコと笑顔で対応してくれる。
「何かお探しですか?お嬢様」
「あの、お米はありますか?」
「コメ、ですか?ええ、ありますよ。珍しい物をご存知ですね、王都の方でしょう?」
「あー、ええ、昔東の方にいたもので。子供の時なんですけど」
「ああなるほど。サヴァン様のお知り合いですね。コメに関しましてはただ今サヴァン様と店主で話しておりますのでお待ちを。他には何かありますか?」
これ幸い、と私は味噌や醤油がないか聞いた。
味噌があればお味噌汁飲めるし、醤油あったら焼き魚!ムニエルにさっぱり醤油で食べたいんです!目玉焼きにも!
これこれこんなの、と説明するとあっさりと見つかった。
やった、やったよ!この店素晴らしい!
セバスさんにその都度話せば『買い付けましょう』とあっさり頷いた。私の言い出すメニューに外れは無いらしい。
と、ひょこっとエドが戻ってきた。
そこには一緒にここの商会の店主が。
「悪いな待たせて。ん?他にも欲しいものあったのか?」
「あ、うん、そうなの」
「コズエ様、ここは私に任せて頂けますか?」
「アッハイ」
キラリ、と片眼鏡が光る。
はい、セバスさんのスイッチ入りましたー!
商店の中ににエド、私、店主、店員の他がいないのをいい事に、セバスさんは自分はタロットワーク家の執事であり、前当主が私の後見人をしている事を明かす。
その途端エドも店主も物凄く驚いていた。
店員のおじさんなんて、腰抜かしました。え?なんで?タロットワークって怖いの?何なの?
セバスさんの滑らかな説明と、素晴らしい商談は続き、今後お米と調味料、あと色々な乾物の取引が決まりました。
私?なんかぼーっとしてました。
商会の店主はセバスさんと奥に行き、何やら話し合いを。
エドも付いていったので、私はまた一人で店の中をウロウロ散策する事にした。
その後、満足そうに出てきたセバスさん。
私の欲しいものを次々と買い込み、先に馬車に戻っていきました。…あれ?私は?置いてくの?
「えっじゃあ私もこの辺で」
「あー、待て待て。帰り俺が送って行くからコズエはもう少し付き合ってくれよ」
********************
何でも、中で商談が終わった時にエドはセバスさんにちゃんと私を連れ出す許可をもらったらしい。
セバスさんは『きちんと当家までお送りする事をお約束していただけるならば構いません』との事。
「ちーとな、案内したい所があってよ」
「いい所?」
「ああ、多分気に入ると思うぜ?」
とても自然に手を繋がれ、通りを歩く。
さっきまできちんとしていたタイも取ってしまい、胸元のボタンをひとつふたつと開けて着崩すと、そこには平民にも近い男性がいた。
制服じゃないから、いつもよりも少しだけ年上に見える。
この世界の人って、基本的に大人びた顔立ちをしている。
それに個人差はあるけれど、体付きがすでに大人じみている人も多いから、見た目の年齢よりも年嵩に見えたりする。
エドなんかはホントに典型的だ。
パッと見、20歳前後に見える。
「おし、着いたぜ?ここだ」
「・・・ご飯屋さん?」
着いた所は、オープンスペースのご飯屋さんだった。
オープンスペースと言っても、カフェやレストランと言うよりも大衆食堂に近い。
香港とか台湾なんかにありそうな感じ。テントが貼られ、ざわざわした喧騒が心地よい。
「どうだ?好きだろ」
「もち!」
振り返って笑うエドのしてやったり感!
ええこっちは庶民中の庶民ですからね!こういうフードコードみたいなご飯屋さんは楽しい!
これまでずっと、こういう所には縁がなかったもんね!
私とエドは、色んな屋台のようなお店を巡り、あれやこれやと買い込んだ。ここはチャイナタウンぽい所に近いだけあって、料理が中華っぽい!
肉まんらしきもの、焼きそばっぽいもの、春巻きに似たもの!私にとっては馴染み深いものだ。
「どうする?」
「エドが嫌じゃなければ、色々買って半分こしない?」
「俺は構わねえけど、コズエそれでいいのか?」
「うん、だって色々食べてみたいし」
「なら、決まりだ」
たくさん種類を買い込み、二人で路面に置かれたテーブルへついて食べる。エドはエールを頼んだので、私もちゃっかり頼んでみた。こっちのエールは酒精の少ないビールみたいなもの。発泡酒って感じかな?
「意外とイケる口なんだな、コズエ」
「ん?お酒?」
「それも、だけどよ?こういう所でメシ食うのに拒否感ねえだろ?貴族じゃないとはいえ、あんまりないだろ」
「そういうもの?なの?」
「これまで俺が相手してきた女にゃいなかったな」
oh......エドよ……君は今まで何人の女性とお付き合いしてきたんだい?実は20歳オーバーなのかい?
ジト目になってる私に気付いたのか、エドは顔を近付けて囁く。イケボすぎて耳が落ちそう。
「知りたいか?」
「人の恋愛話って蜜の味よね」
「だったらコズエも俺に話さないといけない事あんだろ?」
私?私にはエドみたいな経験ありませんよ。
そりゃまあこっちに来る前はね?それは確かに数人の男性とお付き合いはありましたよ?でもこっちに来てからは綺麗なもんよホントに。
そんな私にエドはやれやれといった顔をする。
人差し指でくいくい、と近寄るように仕草をしてきた。
大きな声では言えないって事?
私はエドに顔を寄せて、内緒話を受ける体勢に。
「さっきの執事。タロットワーク家だって?」
「!」
「驚いたぜ、こっちはよ」
そ、それですか…
でも待ってよ?キャズ達にも驚かれたけど、それは平民サイドに取ってじゃないの?貴族であるエドも驚くような事なの?
私はなんと答えようかと迷い、目の前の肉まんに齧り付いた。…いやだって美味しいものは美味しいうちにね…?
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