28 / 158
学園生活、1年目 ~後期・Ⅰ ~
51
しおりを挟む休み明けの学園。皆それぞれ休暇を楽しんで来たり、旅行に行った人がお土産をくれたりと、私の記憶の中にある休み明けの学生となんら変わりない。
しかし!夏休みデビューした人はいませんか!?
いたよね、休み明けに驚くほどなんか変わっちゃってる子とかさあ!
「おはよ、コズエ。何探してんのよ」
「おはようキャズ、ううん大したことは・・・」
デビューした人探してます、なんて言えない。
多分言ったところで理解してもらえるとは思えない。
「そこまで久しぶりって感じでもないね、キャズは」
「そうね、あんたの家にも行ってたし。でも私は休み中ほとんどアルバイトしてただけって感じだわ」
どこかに旅行に行ったわけでもないしね、とキャズ。アルバイトって何してたんだろ。それをキャズに聞くと、彼女はなんだか嬉しそうに話してくれた。
「それがね、凄いんだから。なんと、冒険者ギルドの事務員よ?」
「えっ、すごいじゃない!そんな伝手あったの?」
冒険者ギルド!卒業後の進路として、キャズは冒険者になりたいと言っていた。そんな彼女にとってはまさに適職と言ってもいいアルバイト先。しかしそんなに簡単に入れるものなのかしら?
聞くと、学園から毎年アルバイト先として冒険者ギルドのお手伝いは枠があるらしい。
貴族からはなり手がいないようだが、平民生徒にとっては将来の就職先として考える人も多いのだとか。
平民が剣で生計を立てて行こうとすると、騎士団に入って王国軍の軍人となるか、各領地へ行き警備隊となるか。または冒険者ギルドに所属し、冒険者となるかだそうだ。
キャズは冒険者になりたいそうだから、将来の自分の先輩達の仕事ぶりを間近で見られる冒険者ギルドのアルバイトは、願ったり叶ったりだろう。
「えー、どんな事するの?」
「受付とかはギルドの人がするんだけど、私はクエストの張り紙変えたりとか。書類仕事が多いわね。でも凄く勉強になるわ」
キャズの目はキラキラしている。目標があるっていいよね、素晴らしい。私も『元の世界に帰る』っていう目標を達成する為にそろそろ動かなくちゃ。
********************
と、いう訳で放課後は図書館に来ました。
キャズはアルバイト、ディーナは部活、ドロシーとメグはお家の手伝いがあるので帰りました。
図書館で何かヒントがあればな、なんて思うんだけど。
魔術研究所の図書室でも調べるんだけど、何せあそこは上級者用の専門書が多くって、私では何から手をつけたらいいのかわからないから困る。
学園の図書館で帰る方法が書いてある本を見つけようとは思ってないけど、少しくらいヒントがあってもいいんじゃないかと思う。
…しかし、今私は全く違う事に力を注いでいた。
「料理本、料理本のコーナー・・・」
何やってんの?と思った人、これには理由があるんです。
そう、とても重大な理由が。
なによりも、
わたし、
そろそろお米が食べたいのよぉぉぉぉぉぉ!!!
いや参ったねホント。
こっちの世界に来て半年?パンやパスタはあっても、お米がないのよ!休み中に街の中も色々見て回ったけど、お米の料理出している所がぜんっぜんない。
毎日一回はお米のご飯を食べていた私にはもう厳しい!早いところ見つけなければ…とかなり事態は切迫しているんです。
ゼクスさんに話したら、もしかしたら東方の島国とかにあるかもしれないと言っていた。
東方の島国!それは日本ですか?日本ですよね?日本ってことにしてくれませんかね?
という事で、魔術研究所にはそういった料理の本はないけど、学園の図書館からあるだろうと言われて探しに来たのです。
しかし広いのよ、ここ。検索機能はないんですか?司書さんに聞いてある程度の場所は聞いたんだけど…
書架をひとつひとつ確かめながら移動。
目的の場所には、ずらりと世界の食についての本がたくさんあった。図鑑みたいなものから、薄い冊子まで。
これを1から見るのは手間だけど、分類分けされてるみたいだから東方の国に関する所を見ればいいね。
手の届く所から順にパラパラと開く。写真…とはいかないまでも図解があってわかりやすい。数冊取って、読書スペースに移動した。
とっても座り心地のよいソファ。うむ、読書好きににはたまらない環境。お茶も飲めるって素敵。こぼさない方にしないとね。
夢中で本を斜め読み。米よ米。とにかく米!
それらしい材料が出てくるものを探す。
あまりにも集中していたのか、人が来たことに気付いたのは随分後だった。なんだかさっきから影あるなぁ、と思って顔を上げると、そこには第二王子殿下とよく一緒にいる赤毛の生徒がいた。
「お、ようやくこっち見たな」
「・・・何か用ですか?」
「ん?まぁな。この間の礼をしたかったんだ。ここいいか?」
ちょい、と私の隣を指す。今座ってる席はソファ席。本を置いたりするテーブルがあるけど、向かい合って座る為の席ではないので、私の隣しか座る場所はない。
しかし、ソファは3人くらい優に座れる作りになっていた。
了承の意を込めて少し移動すると、彼は私と少し距離を開けて座る。
「悪いな、読書の邪魔して。普段あんた学術院の方から出ることないだろ?礼をしなきゃとは思ってたんだが、接触出来なかったんだ」
「礼、ですか?私何かしましたっけ」
彼にお礼をされるような事をした覚えはないんだけど。
そう言うと彼は参ったね、と苦笑した。そんな表情にも色気があってなんだかくすぐったい。
ワインレッドのような赤毛に、琥珀色の瞳。少しだけ目尻が下がっているけど、それがまた色気を伴う。この人今の歳でこれだけ色っぽいんだから、成長したらどうするんだろう…歩いてるだけで18禁!とかなりそう。
少し襟元を崩してネクタイをしているが、それがまた私の女の部分を否応なく刺激するといいますか、ごにょごにょ。
「あぁ、その前に自己紹介もまだだったな。
俺の名前はエドワード・サヴァンだ。よろしくな」
「コズエ・ヤマグチです」
私は名乗ってもらわなくても知ってたんだけど。もちろん、メグの情報ですよ…
サヴァン伯爵家の三男。サヴァン伯爵家はいわゆる投資家だ。かなり裕福な家柄で、色々な方面に投資をして利益を得ている。だからメグのお家のバートン商会にも投資して下さっているらしい。
エドワード本人はどんな人かというと、ひと言でいうと、プレイボーイだ。いや、この言い方はあまり的を得てないかもしれない。しかしモテる。同学年というより年上のお姉様達からもモテる。そして本人は『女性は大事にするもの』というサヴァン伯爵家の家訓をしっかり守るフェミニスト。
…つーかなんだその家訓と思うけど、ホントにそうらしいからビックリです。長男・次男もそれはそれは社交界ではモテモテらしい。これはエオリアさんからの情報です。
「この間の校外実習の時に、いい物教えてくれたろ?」
「校外実習・・・って、もしかしてあの時の水琴窟の事ですか?」
「あれは水琴窟って言うんだな、知らなかったぜ。あんなの初めて聞いた。聞き惚れてたらあんたいなくなっちまうんだもんな、礼の一つもできないなんざ、男の風上にもおけねえだろ?」
パチン、とウインク。また似合うんだこれが…ちょっとドキリとしてしまった。
お礼、と言われてもね。私としてはイケメンの笑顔とウインクでもうおなかいっぱいなんだけど。
『何か欲しいものがあったら言ってくれねえか?』と言われたけど特には、うーん…。
393
お気に入りに追加
10,641
あなたにおすすめの小説

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~
於田縫紀
ファンタジー
ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。
しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。
そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。
対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる
暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。
授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~
夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。
「聖女なんてやってられないわよ!」
勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。
そのまま意識を失う。
意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。
そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。
そしてさらには、チート級の力を手に入れる。
目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。
その言葉に、マリアは大歓喜。
(国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!)
そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。
外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。
一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる