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学園生活、1年目 ~夏季休暇~
閑話~それぞれの夏至祭~
しおりを挟む【side カーク・トウ・アルゼイド】
夏至祭当日。
俺は王都での『星姫』のパレードを見るために、ナルと一緒に出掛ける。
初日ということもあって、王族としての役割はそんなに多くはない。毎年初日だけは割と自由にさせてもらえる。…程度にも寄るが。
今年は同級生が『星姫』を務めるということもあって、街中へ出たいと言ってもすんなり通った。護衛が付くことが条件ではあるが、仕方がないことなので頷く。
パレードは商業エリアから王城までのメイン大通り。
そこを『星姫』を乗せた花車が走る。
さすがに商談エリアの中心までは人が多くて行けそうにない。王城エリアにほど近い辺りで妥協した。
「さすがに人が凄いな」
「そうだな、これ以上は止めておかないか、カーク」
「ああ、この辺りだけでも祭りの雰囲気は充分味わえるさ」
俺もナルも夏至祭の間は毎日催される夜会への出席を求められている。貴族子息としては恒例といえば恒例の行事ではあるが、俺は王族として三日間全ての夜会に出なくてはいけない。
ナルに関しては毎日ではないのだが、俺の護衛として出ることを承諾したようだ。
最終日はエリザベス嬢をエスコートしなくてはならないし、婚約者として初の公のお披露目となるファーストダンスも踊らないとな。
幼い頃からの婚約者ではあるが、成人してからのお披露目は初となる。
ナルは騎士団員として、明日の昼間は街の見回りがあるらしい。
最終日は貴族子息として夜会に出席。
だが婚約者がいないため、女性のエスコートはない。
「ナル、お前婚約の話はないのか?」
「・・・俺にはまだ早いだろう。卒業後は騎士団へ入る事が決まっているし、婚約者が出来るとしたらそれからだろうな。
前々から話がない・・・訳では無いんだが、兄上にもまだいないし、俺よりも兄上が先ではないか?」
「そうか、お前の兄は去年騎士団入りだったな。ならばそろそろ話が本格的に出てもおかしくない」
「カークの歳で婚約者が決まっているのは、伯爵位より上でも嫡男だけだと思う」
それもそうか。長子であれば早くから婚約者が決まる事もあるが、第二子以降ならそこまで早くはない。
俺は王族として王家を存続していかねばならないし、そもそも兄上に幼い頃から隣国の王女という婚約者がいたから、俺には国内の貴族の娘との婚約が決まっていた。
しかし、婚約破棄をした今、兄上に次の婚約者ができるまで少し時間が必要だろう。
なんといっても、兄上の年齢は20歳になる。
同年代の姫君は大体が既に婚約している人ばかりだ。第一王子に幼い頃から婚約者がいた為、その嫡子と同年代の子供を授かろうと早いうちから婚約、結婚をする者がいたからだ。
この国での結婚適齢期は、男が18~22歳、女が16~20歳くらいとなっている。
平民は早いうちから結婚する者が多く、貴族は学園卒業と同時に結婚する者が多いためだ。
なので、兄上と同じ年齢の姫君はほとんどが既に既婚者…
周りの国の王女達もほとんど嫁いでいる者が多いだろう。その中での兄上の婚約破棄。おそらくかなりの激震が走っている事と思う。
その上、当の兄上に結婚の意志が今は見られない。
為政者としての覚悟はあるものの…父上母上共に今すぐに婚約者を、とは言わないようだ。
「・・・今年の星夜祭は凄そうだな」
「シリス殿下か」
「ああ。現在婚約者のいない姫君が兄上に殺到するのが目に浮かぶな。俺達と同年代の姫君も候補になり得るだろう?」
「確かにな。周辺諸国の王女は既にほとんどが輿入れしているはずだろうし。とはいえ大国の第一王子に末姫を輿入れさせる訳にもいかず、然りとて輿入れした王女を離縁させ、嫁がせる事もできないな」
「そういう事だ」
そんな中、当の兄上には『想い人』がいるかもしれないだなんて、口が裂けても言えない。
そうこうしている内に、広場に花車の到着だ。
花も少なくなってはいるが、まだまだ艶やかな姿。
『星姫』が笑顔で花飾りを振りまく。
「・・・来たな」
「アリシア嬢、か」
三台目の花車にアリシアが乗っていた。
俺達は人混みから見ていたので、彼女には気付かれていないだろう。華のような笑顔。視線が吸い寄せられる。
学園では彼女と話す機会も多かった。
エリザベス嬢や他の貴族の姫君達と話すのとは違う、不思議な感覚。平民の感覚と言えばそうなのだろうが、時折ハッとさせられる。
夜会には『星姫』も出席するはずだ。…ダンスに誘ってみようか?アリシアはダンスができるのだろうか。俺が誘った時にどんな顔をするのか見てみたい。
「行くか、ナル」
「花飾りはいいのか?エリザベス嬢に渡すのではなかったのか」
「・・・彼女にはこんな花飾りよりも似合う物を贈ってあるから心配いらないよ」
「・・・そうか」
一瞬迷った。エリザベス嬢に一つ持っていこうか、と。
だがアリシアを見ていたら贈る気がなくなってしまった。これは彼女の花だ。他の女に贈るものではないだろう。
ふと、生花のコサージュを愛しそうに見ていた兄上の姿を思い出した。…兄上は何を思って贈っただろう。星夜祭には意中の彼女は来るのだろうか。
********************
【side アリシア・マール】
花車の上に乗り、通りに集まった人に向かって手を振る。
えっと、忘れずに花飾りも投げなくちゃ。
教わった通りに、優雅に、優しく!
『今年の星姫をお願いできますか?』
そのお願いをされたのは、学園の休暇に入る直前。
担任の先生に呼び出され、学園の応接室へと連れて行かれたかと思ったら、そこには副学園長様と、神殿の方。
平民出の『聖』属性持ちの生徒。
学園に入る前から、神殿の方からのお話はあった。それでも私は神殿に入るよりも学園に入って、自分の未来を切り開きたかったから。
夏至祭の『星姫』は憧れだった。
故郷の小さな村でも恐れ多い、と思っていたのに王都でだなんて。冗談かと思ったけれど、王都の『星姫』は平民から選ばれるのだとか。
もちろん、お話を受けた。自分がみんなに祝福をできるなんて夢のよう。
マナーや、夏至祭についての勉強。
大変だったけど、他にも二人仲間がいたから頑張れた。
当日は綺麗なドレスを来て、花冠をかぶる。
花車に乗せられて、練り歩く。
皆とても楽しそうで、幸せそうで、私も嬉しくなってきた。
進んでいくと、通りの向こう…見知った人が!
あれって、コズエさん?他にも隣のクラスの女の子達だ!
「よし、ここはおもいっきり!」
私を見つけてぶんぶん手を振ってくれるコズエさん達に、『ふんぬぅ!』と気合を入れておもいっきり花飾りを贈った。
他にもちらほら見覚えのある生徒を見つければ、その人達に向けて花飾りをたくさん投げた。
うん、これくらいの贔屓は許されるよね!
王城エリアに近づき、ゴールの広場。
ここには貴族の方達も大勢見に来られる、と案内役の人から聞かされていた。
どなたか知っている人はいるかしら。
周りの女性達に花飾りを贈っていると、人混みの隙間から王子様に似ている人が見えた。
あれ?もしかしてカーク様…?
ちらっとしか見えなかったから、はっきりとはわからない。でも、ここの広場には貴族の方も来るのだから、見物にいらしていたのかもしれない。
「お疲れ様、アリシア!」
「アンナもリュカもお疲れ様!」
「はい、『星姫』さん達、こちらへいらしてください。
明日は祝婚式、最終日には夜会へ出席し、国王陛下に無事夏至祭を終えた事のご報告もあります。
もう一度手順を復習しますので、もう少し頑張ってくださいね」
「「「はい!」」」
案内役の神官様。
お優しい方で、私達も三人とも頼りにしている。
「ね、星夜祭にお城の夜会に行けるなんて夢みたいな話よね?王子様にもお会い出来るかしら?」
「ねえアリシアは学園で王子様にお会いしたことがあるんでしょう?羨ましいわ!」
「えっ!?でも、あと二日で二人も会えるじゃない!国王陛下へご挨拶をした時にもいらっしゃったわよ?」
そう言うと、二人ともぽっと頬を染めた。
あの時の事を思い出したのかも。確かに正装したカーク様は素敵だった。それに、お隣に立ってらしたのは、お兄様の第一王子殿下よね?
お二人とも本当に物語から抜け出して来たかのようだったな。またあのお姿を見る事ができるのね、と二人も興奮気味。
確かに楽しみかも!
粗相をしないように気をつけなくっちゃ!
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