異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん

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学園生活、1年目 ~夏季休暇~

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数ヶ月ぶりに見た王城。
まあ広い。まあキレイ。さすがに城内に置かれてる彫刻とか絵画は見応えあるわよね~
借りた扇からチラチラ目線を動かすマナーの悪い私です。

王妃様専用の一角へ案内される。
緑も鮮やかな庭園の、東屋に当たる所に王妃様はお待ちかねだった。
広々とした庭園。彩り豊かな花々、大きな噴水。
その近くに涼を取るための東屋。
今日はそこに居心地のよいお部屋が移動してきたかの様だった。


「まあまあまあ!待っていましたのよエオリア!」

「紹介する日を待っていましたわ!シュレリア!」


あれ?お友達ですか?
メイドさん達を遠くへ下がらせると、王妃様もエオリアさんもまるで少女のようにはしゃぐ。

うふふ、と悪戯っぽく微笑むと、王妃様は私に向かって素晴らしく優雅なカーテシーをしてくれた。


「はじめまして、異世界から来られたレディ。
私はシュレリア・ミリオン・アルゼイド。
この国の王妃でございます」

「お初にお目にかかります、王妃陛下。
コズエ・ヤマグチでございます」

「私の事はシュレリア、でよくってよ!コズエ様とお呼びしていいかしら?」

「はい、シュレリア様」

「ダメです!様はいけませんわ!」

「え・・・」

「シュレリア、ですわ!それ以外は認めませんのよ」

「シュ、シュレリア・・・?」

「はい、なんですの?」
「ずるいですわコズエ様!私は今後エオリアと呼んでくださいませ!」

「いやいまさら」
「ダメですわ!この国の王妃様を『シュレリア』と呼ぶのでしたら私も『エオリア』と呼んでいただかなくては!」


ああもうこれずっと言い続けられるやつだ…
根負けした私は、プライベートのお茶会など周りに人がいない時のみ『シュレリア』『エオリア』と呼ぶことにした。その他は敬称付き。本人達もそれでいい、と納得してくれた。


「ごめんなさいねコズエ様。この国に嫁いでから数十年。私を名前で呼んでくれるお友達はエオリアしかいませんのよ。同年代の婦人ともなると、皆貴族の奥様ばかり。こんな風に話すことさえできやしない」

「全くですわ、私達だってたまには息抜きをして休みたい時だってありますのに」


それは仕方の無い事とはいえ、この国で一番位の高いご婦人2人。ひょんな事から気があってしまったのだとか。
それからはこうしてお互いを気安く呼び合ってお茶をする日を設けているらしい。

しかし、エオリアさんには私というもう一人気心知れた友ができたと聞いて…


「ならば私にも紹介を!と思ったのです」
「コズエ様ならシュレリアを『王妃様』とだけ見たりはなさらないと思いましたの」

「ええまあ元々身分制度のない所にいましたから、こちらの女性に比べたら偏見ありませんけどね」

「とはいえ、コズエ様は我が国の民の不始末で被害を被ったお方。私一度お会いしてお詫びをしなければと思っていましたの。心苦しい想いをさせて申し訳ございません」

「いえ、顔をあげてください、シュレリアさ・・・」

「・・・(じーっ)」

「・・・シュレリア」

「コズエ様がそう言うのでしたら、わかりましたわ!」


何この展開。でも気安く接してほしくてこうなってるのだから、私も腹を括って少し距離を詰めるべきなのか。悩む。

美味しいお茶に、お菓子。
王妃様が日々どんな事をしているか、何を不満に思っているかざっくばらんに話される。
あぁ、愚痴を話す人もこの人の周りにはいないのかもしれないと思った私は、お茶会の時くらいは好きにさせてあげたいな、と思った。


「頑張ってるんですね、シュレリア」

「そーなんですのよ!全くあの人は国王なのにもう少しシャキッとしてもらいたいですわ!」

「シュレリアがいるから陛下も気を抜いてるんじゃないですか?頼られているんですからそんな事言わないで」

「ふう、そんな事言ってくれるのはコズエ様とエオリアだけでしてよ」


こんな風に楽しくお茶会をしていると、庭園の向こう…王城の方から誰か近付いてきた。
エオリアさんがシュレリア様に目配せをすると、シュレリア様があら、といった顔をした。


「ご機嫌麗しく、母上、エオリア様」

「お久しぶりですわね、シリス殿下」
「まぁ、貴方が顔を見せるなんて珍しい事もありますわね、シリス。・・・コズエ様、紹介しますわ。私の息子のシリスです」

「なるほど、こちらが噂の姫君ですね。はじめまして、異世界からの姫君。王国第一王子、シリス・ワン・アルゼイドです。お目にかかれて光栄だ」

「ご丁寧にありがとうございます。コズエ・ヤマグチです」


私の側に跪き、手を取って自己紹介。
そのまま手の甲に軽いキスを落とす。

おやまあこれがあのカーク王子のお兄さん?
金色の髪は両親譲りか、瞳は父親の国王と同じロイヤルブルー。

私は『まあ王家の血ってイケメン率100%だな』と思いつつ返事をした。彼は私を『異世界人』と分かってて挨拶してるんだから、多少のマナーの悪さも無礼には思うまいと勝手に判断した。

年頃のお嬢様達ならば、麗しの王子様を目の前にすれば照れもするのだろう。しかし照れも恥じらいも劇的に少ない私に、当の王子様もシュレリア様もエオリアさんも少し驚いている様子。


「あらまあ、シリスの毒牙にかからない女性を初めて見ましてよ私」

「シュレリア様ったら。でもそうですわね、私もですわ」

「これは手厳しい。私はコズエ様のお眼鏡には叶いませんでしたか?」

「えっ親が見てる所で息子に色目使うって最低だと思いません?」


いや、カッコいいよ?やだイケメン!眼福!って思ってるよ?
ただ、感覚はアラフォーなの!
『若いわねえ、素敵ねえ』って感じなのよ!
だかは皆さんが思うように『ぽっ♡』となる感じじゃないわけ!あれっ?私なんか女として枯れてる?

そんな中、第一王子様は私を『興味深い』と思ったのか、必殺プリンススマイルで私を庭園のお散歩に誘ってきた。

チラッと二人を見ると『是非是非いってらっしゃい!』とばかりのキラキラした目を向けられたので行ってくる事にした。よし、ここでときめきを補充して少し女として潤いを取り戻すぞ!


「では母上、エオリア様。麗しの姫君を一時お借りします」

「コズエ様、失礼があったらひっぱたいてやって頂戴ね?」
「あらまあ、シュレリア様ったら。コズエ様、楽しんできてくださいませ」

「王子殿下とお二人のご好意、お受けいたします」


立ち上がると、スマートに私の手を取ってエスコートしてくれるシリス殿下。
素敵だなぁ、こういうレディの扱いってどこで覚えるんだろう。男性としての社交マナーってやつかしら。

東屋から遠ざかり、噴水と花壇のある方へ。
シリス殿下はお付きの人も遠ざけて、本当に私と2人で散歩を楽しむつもりらしい。


「花は好きですか、コズエ様」

「好きですよ、この庭園は素晴らしいですね、至る所に手入れがされていて。噴水も好きなので羨ましいです」

「そうですか、私も何も考えたくない時にここへ来るんです」

「考えたくない時、ですか?」


ほほう、第一王子ともなるとすでに執政に関わってるのでしょうか。しかしシリス殿下ってお幾つなのかしら。

隣をゆっくり歩いてくれる王子様を見ると、私の視線に合わせて微笑んでくれる。おお、ロイヤルスマイル眩しい。
身長は私の見上げ具合からすると、185センチは固い。


「そんなに見つめられると照れますね」

「いえ全然そうは見えませんので」

「っ、はは、貴方は本当に変わった人だ。
父上の言う通り、とても聡明で賢い人と見えます」

「すみません、私はこれまでシリス殿下のように王族の方と触れ合う機会がなかったもので。無作法をお許しください」


噴水の近く。芸術的なデザインのベンチに誘導される。
そこに王子がサッとハンカチを敷いてくれた。
本当にこういうのどこで習うんだ…?こうやってサッと敷くんですよ!とか教わるの?

折角なので礼を言ってから座る。
シリス殿下も私の隣に座り、軽く身を捻って向かい合う。


「こうやってきちんと目を見て話をしてくれる女性は、私にとって貴重です、コズエ様」

「それはきっと私が『異世界人』という事もあると思いますけど、シリス殿下が言う女性はきっと殿下が素敵だから見つめられないのでは?」

「それを貴方が言う?」

「素敵だな、とは思いますよ」

「思う、だけですか?」


そっと私の頬を彼の指の背が撫でる。
あっ、ちょっときゅんとした!ときめき補充!
そんな異性との触れ合いも久しぶりだ、と思う自分に笑いが漏れる。
それを見たシリス殿下は目を細めた。


「参ったな、私には口説き落とせなさそうだ」

「あら、口説いていたんですか?」

「貴方には足りませんか」

「久しぶりにドキッとしましたけど、私には少し刺激が足りないかも知れません」


私も意地悪にふふっと笑う。
ここでキスされたらちょっと心が揺らぐかもしれないけど、さすがにそこまで距離を詰めてきたりはしないものだ。

視線が絡むけれど、先に逸らしたのは殿下の方。


「今日は私の負けですね」

「ふふ、私を口説き落とすには10年早いですよ」

「面白い人だ。・・・また、こうして話をしてくれますか?」

「お話し相手、ならばいいですよ」

「では今日はここまでとしましょう」


にこっと微笑むシリス殿下。
なんだか年上のお兄さん、のような仕草だけれど私には背伸びした男の子のように映った。

うーん、紳士な男性って一緒にいて心地いいわよね。



********************



東屋へまた送ってもらい、シリス殿下は王城へ戻っていった。シュレリア様もエオリアさんもすぐさま私に詰め寄る。


「で、で!?どうでしたの!?」
「いけませんわシュレリア!ここはすこしずつ聞き出さなくては!」

「2人とも怖い」

「だって、シリスが自分から女性を誘うだなんて珍しいんですのよ?」

「いや自分の息子が友達誘っていくのになんかもうちょっとこう・・・何かないのかしらシュレリア」

「そうは言いますけれど、今のコズエ様はシリスと並んでもおかしくない年齢ですし。少しロマンスを感じてもいいのでは?」

「とても紳士的ないいお子さんだと思いましたよ?
でも第一王子ともなれば、婚約者もいるでしょう?」


と聞くと、シュレリアはふう、とため息ひとつ。
あれ?これって触っちゃいけない地雷案件?


「コズエ様、シリス殿下の婚約者は、病を召されてしまったのですわ」

「え?」

「隣国の王女殿下だったのですが、去年病を得まして・・・今年に入ってから正式に婚約破棄をしましたの。長年想いを温めて来た2人でしたし、今のシリスには少し時間が必要だという事で新しい婚約者は選ばれていません」

「そう、だったのね」


いやにスキンシップ多いなと思ったけどあれは傷心故の行動だったのかな?こっちの男性の距離の取り方がわからないからとりあえず不快じゃなかったし、好きにさせていたけど。
まあそういう背景があったのだとしたら仕方ない。

とりあえず、またお話しましょうって事にしときましたよと報告すると、シュレリア様は母親の顔で愚息をよろしくお願いしますわ、と頭を下げられた。

私はここで恋愛する気はないし、特別な人を作る気もない。方法が見つかれば必ず元の世界に戻る事を第一目標としているので、それが邪魔されないならある程度は楽しんでもいいかなぁと思っている。

私がいない間に、エオリアさんはシュレリア様にパンプスの話をしてくれていたらしく、非常に食い付いていた。
やはり表に出ることの多い女性に取って、履きやすさや疲れにくさは重要!
私がアドバイザー、シュレリア様が資金源かつ広報、エオリアさんが製作面で職人との交渉を主導としてパンプスの改善を行う事となった。
王妃様お墨付き!とあらば完成した暁にはこの国の社交界で流行ることになるだろう…


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