21 / 158
学園生活、1年目 ~夏季休暇~
20
しおりを挟む数ヶ月ぶりに見た王城。
まあ広い。まあキレイ。さすがに城内に置かれてる彫刻とか絵画は見応えあるわよね~
借りた扇からチラチラ目線を動かすマナーの悪い私です。
王妃様専用の一角へ案内される。
緑も鮮やかな庭園の、東屋に当たる所に王妃様はお待ちかねだった。
広々とした庭園。彩り豊かな花々、大きな噴水。
その近くに涼を取るための東屋。
今日はそこに居心地のよいお部屋が移動してきたかの様だった。
「まあまあまあ!待っていましたのよエオリア!」
「紹介する日を待っていましたわ!シュレリア!」
あれ?お友達ですか?
メイドさん達を遠くへ下がらせると、王妃様もエオリアさんもまるで少女のようにはしゃぐ。
うふふ、と悪戯っぽく微笑むと、王妃様は私に向かって素晴らしく優雅なカーテシーをしてくれた。
「はじめまして、異世界から来られたレディ。
私はシュレリア・ミリオン・アルゼイド。
この国の王妃でございます」
「お初にお目にかかります、王妃陛下。
コズエ・ヤマグチでございます」
「私の事はシュレリア、でよくってよ!コズエ様とお呼びしていいかしら?」
「はい、シュレリア様」
「ダメです!様はいけませんわ!」
「え・・・」
「シュレリア、ですわ!それ以外は認めませんのよ」
「シュ、シュレリア・・・?」
「はい、なんですの?」
「ずるいですわコズエ様!私は今後エオリアと呼んでくださいませ!」
「いやいまさら」
「ダメですわ!この国の王妃様を『シュレリア』と呼ぶのでしたら私も『エオリア』と呼んでいただかなくては!」
ああもうこれずっと言い続けられるやつだ…
根負けした私は、プライベートのお茶会など周りに人がいない時のみ『シュレリア』『エオリア』と呼ぶことにした。その他は敬称付き。本人達もそれでいい、と納得してくれた。
「ごめんなさいねコズエ様。この国に嫁いでから数十年。私を名前で呼んでくれるお友達はエオリアしかいませんのよ。同年代の婦人ともなると、皆貴族の奥様ばかり。こんな風に話すことさえできやしない」
「全くですわ、私達だってたまには息抜きをして休みたい時だってありますのに」
それは仕方の無い事とはいえ、この国で一番位の高いご婦人2人。ひょんな事から気があってしまったのだとか。
それからはこうしてお互いを気安く呼び合ってお茶をする日を設けているらしい。
しかし、エオリアさんには私というもう一人気心知れた友ができたと聞いて…
「ならば私にも紹介を!と思ったのです」
「コズエ様ならシュレリアを『王妃様』とだけ見たりはなさらないと思いましたの」
「ええまあ元々身分制度のない所にいましたから、こちらの女性に比べたら偏見ありませんけどね」
「とはいえ、コズエ様は我が国の民の不始末で被害を被ったお方。私一度お会いしてお詫びをしなければと思っていましたの。心苦しい想いをさせて申し訳ございません」
「いえ、顔をあげてください、シュレリアさ・・・」
「・・・(じーっ)」
「・・・シュレリア」
「コズエ様がそう言うのでしたら、わかりましたわ!」
何この展開。でも気安く接してほしくてこうなってるのだから、私も腹を括って少し距離を詰めるべきなのか。悩む。
美味しいお茶に、お菓子。
王妃様が日々どんな事をしているか、何を不満に思っているかざっくばらんに話される。
あぁ、愚痴を話す人もこの人の周りにはいないのかもしれないと思った私は、お茶会の時くらいは好きにさせてあげたいな、と思った。
「頑張ってるんですね、シュレリア」
「そーなんですのよ!全くあの人は国王なのにもう少しシャキッとしてもらいたいですわ!」
「シュレリアがいるから陛下も気を抜いてるんじゃないですか?頼られているんですからそんな事言わないで」
「ふう、そんな事言ってくれるのはコズエ様とエオリアだけでしてよ」
こんな風に楽しくお茶会をしていると、庭園の向こう…王城の方から誰か近付いてきた。
エオリアさんがシュレリア様に目配せをすると、シュレリア様があら、といった顔をした。
「ご機嫌麗しく、母上、エオリア様」
「お久しぶりですわね、シリス殿下」
「まぁ、貴方が顔を見せるなんて珍しい事もありますわね、シリス。・・・コズエ様、紹介しますわ。私の息子のシリスです」
「なるほど、こちらが噂の姫君ですね。はじめまして、異世界からの姫君。王国第一王子、シリス・ワン・アルゼイドです。お目にかかれて光栄だ」
「ご丁寧にありがとうございます。コズエ・ヤマグチです」
私の側に跪き、手を取って自己紹介。
そのまま手の甲に軽いキスを落とす。
おやまあこれがあのカーク王子のお兄さん?
金色の髪は両親譲りか、瞳は父親の国王と同じロイヤルブルー。
私は『まあ王家の血ってイケメン率100%だな』と思いつつ返事をした。彼は私を『異世界人』と分かってて挨拶してるんだから、多少のマナーの悪さも無礼には思うまいと勝手に判断した。
年頃のお嬢様達ならば、麗しの王子様を目の前にすれば照れもするのだろう。しかし照れも恥じらいも劇的に少ない私に、当の王子様もシュレリア様もエオリアさんも少し驚いている様子。
「あらまあ、シリスの毒牙にかからない女性を初めて見ましてよ私」
「シュレリア様ったら。でもそうですわね、私もですわ」
「これは手厳しい。私はコズエ様のお眼鏡には叶いませんでしたか?」
「えっ親が見てる所で息子に色目使うって最低だと思いません?」
いや、カッコいいよ?やだイケメン!眼福!って思ってるよ?
ただ、感覚はアラフォーなの!
『若いわねえ、素敵ねえ』って感じなのよ!
だかは皆さんが思うように『ぽっ♡』となる感じじゃないわけ!あれっ?私なんか女として枯れてる?
そんな中、第一王子様は私を『興味深い』と思ったのか、必殺プリンススマイルで私を庭園のお散歩に誘ってきた。
チラッと二人を見ると『是非是非いってらっしゃい!』とばかりのキラキラした目を向けられたので行ってくる事にした。よし、ここでときめきを補充して少し女として潤いを取り戻すぞ!
「では母上、エオリア様。麗しの姫君を一時お借りします」
「コズエ様、失礼があったらひっぱたいてやって頂戴ね?」
「あらまあ、シュレリア様ったら。コズエ様、楽しんできてくださいませ」
「王子殿下とお二人のご好意、お受けいたします」
立ち上がると、スマートに私の手を取ってエスコートしてくれるシリス殿下。
素敵だなぁ、こういうレディの扱いってどこで覚えるんだろう。男性としての社交マナーってやつかしら。
東屋から遠ざかり、噴水と花壇のある方へ。
シリス殿下はお付きの人も遠ざけて、本当に私と2人で散歩を楽しむつもりらしい。
「花は好きですか、コズエ様」
「好きですよ、この庭園は素晴らしいですね、至る所に手入れがされていて。噴水も好きなので羨ましいです」
「そうですか、私も何も考えたくない時にここへ来るんです」
「考えたくない時、ですか?」
ほほう、第一王子ともなるとすでに執政に関わってるのでしょうか。しかしシリス殿下ってお幾つなのかしら。
隣をゆっくり歩いてくれる王子様を見ると、私の視線に合わせて微笑んでくれる。おお、ロイヤルスマイル眩しい。
身長は私の見上げ具合からすると、185センチは固い。
「そんなに見つめられると照れますね」
「いえ全然そうは見えませんので」
「っ、はは、貴方は本当に変わった人だ。
父上の言う通り、とても聡明で賢い人と見えます」
「すみません、私はこれまでシリス殿下のように王族の方と触れ合う機会がなかったもので。無作法をお許しください」
噴水の近く。芸術的なデザインのベンチに誘導される。
そこに王子がサッとハンカチを敷いてくれた。
本当にこういうのどこで習うんだ…?こうやってサッと敷くんですよ!とか教わるの?
折角なので礼を言ってから座る。
シリス殿下も私の隣に座り、軽く身を捻って向かい合う。
「こうやってきちんと目を見て話をしてくれる女性は、私にとって貴重です、コズエ様」
「それはきっと私が『異世界人』という事もあると思いますけど、シリス殿下が言う女性はきっと殿下が素敵だから見つめられないのでは?」
「それを貴方が言う?」
「素敵だな、とは思いますよ」
「思う、だけですか?」
そっと私の頬を彼の指の背が撫でる。
あっ、ちょっときゅんとした!ときめき補充!
そんな異性との触れ合いも久しぶりだ、と思う自分に笑いが漏れる。
それを見たシリス殿下は目を細めた。
「参ったな、私には口説き落とせなさそうだ」
「あら、口説いていたんですか?」
「貴方には足りませんか」
「久しぶりにドキッとしましたけど、私には少し刺激が足りないかも知れません」
私も意地悪にふふっと笑う。
ここでキスされたらちょっと心が揺らぐかもしれないけど、さすがにそこまで距離を詰めてきたりはしないものだ。
視線が絡むけれど、先に逸らしたのは殿下の方。
「今日は私の負けですね」
「ふふ、私を口説き落とすには10年早いですよ」
「面白い人だ。・・・また、こうして話をしてくれますか?」
「お話し相手、ならばいいですよ」
「では今日はここまでとしましょう」
にこっと微笑むシリス殿下。
なんだか年上のお兄さん、のような仕草だけれど私には背伸びした男の子のように映った。
うーん、紳士な男性って一緒にいて心地いいわよね。
********************
東屋へまた送ってもらい、シリス殿下は王城へ戻っていった。シュレリア様もエオリアさんもすぐさま私に詰め寄る。
「で、で!?どうでしたの!?」
「いけませんわシュレリア!ここはすこしずつ聞き出さなくては!」
「2人とも怖い」
「だって、シリスが自分から女性を誘うだなんて珍しいんですのよ?」
「いや自分の息子が友達誘っていくのになんかもうちょっとこう・・・何かないのかしらシュレリア」
「そうは言いますけれど、今のコズエ様はシリスと並んでもおかしくない年齢ですし。少しロマンスを感じてもいいのでは?」
「とても紳士的ないいお子さんだと思いましたよ?
でも第一王子ともなれば、婚約者もいるでしょう?」
と聞くと、シュレリアはふう、とため息ひとつ。
あれ?これって触っちゃいけない地雷案件?
「コズエ様、シリス殿下の婚約者は、病を召されてしまったのですわ」
「え?」
「隣国の王女殿下だったのですが、去年病を得まして・・・今年に入ってから正式に婚約破棄をしましたの。長年想いを温めて来た2人でしたし、今のシリスには少し時間が必要だという事で新しい婚約者は選ばれていません」
「そう、だったのね」
いやにスキンシップ多いなと思ったけどあれは傷心故の行動だったのかな?こっちの男性の距離の取り方がわからないからとりあえず不快じゃなかったし、好きにさせていたけど。
まあそういう背景があったのだとしたら仕方ない。
とりあえず、またお話しましょうって事にしときましたよと報告すると、シュレリア様は母親の顔で愚息をよろしくお願いしますわ、と頭を下げられた。
私はここで恋愛する気はないし、特別な人を作る気もない。方法が見つかれば必ず元の世界に戻る事を第一目標としているので、それが邪魔されないならある程度は楽しんでもいいかなぁと思っている。
私がいない間に、エオリアさんはシュレリア様にパンプスの話をしてくれていたらしく、非常に食い付いていた。
やはり表に出ることの多い女性に取って、履きやすさや疲れにくさは重要!
私がアドバイザー、シュレリア様が資金源かつ広報、エオリアさんが製作面で職人との交渉を主導としてパンプスの改善を行う事となった。
王妃様お墨付き!とあらば完成した暁にはこの国の社交界で流行ることになるだろう…
382
お気に入りに追加
10,641
あなたにおすすめの小説

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~
於田縫紀
ファンタジー
ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。
しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。
そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。
対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~
夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。
「聖女なんてやってられないわよ!」
勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。
そのまま意識を失う。
意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。
そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。
そしてさらには、チート級の力を手に入れる。
目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。
その言葉に、マリアは大歓喜。
(国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!)
そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。
外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。
一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい
うどん五段
ファンタジー
昔やっていたゲームに、大型アップデートで追加されたソレは、小さな箱庭の様だった。
ビーチがあって、畑があって、釣り堀があって、伐採も出来れば採掘も出来る。
ビーチには人が軽く住めるくらいの広さがあって、畑は枯れず、釣りも伐採も発掘もレベルが上がれば上がる程、レアリティの高いものが取れる仕組みだった。
時折、海から流れつくアイテムは、ハズレだったり当たりだったり、クジを引いてる気分で楽しかった。
だから――。
「リディア・マルシャン様のスキルは――箱庭師です」
異世界転生したわたくし、リディアは――そんな箱庭を目指しますわ!
============
小説家になろうにも上げています。
一気に更新させて頂きました。
中国でコピーされていたので自衛です。
「天安門事件」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる