異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん

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この世界での私の立場

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「おはようございま~す」

「ご苦労様です」


魔術研究所にもすでに顔パスで出入りが可能。
一応私の魔力パターンを登録しているとはいえ、守衛さんとも顔馴染みだ。

私が向かうのはゼクスさんの研究室だけ。
たまに研究所の中にある図書館にも入らせてもらっている。さすがに絵本とか読み物類はなかった。専門書が多いかな。

ゼクスさんの研究室に入ると、いつものメンバー。
この人達も朝早くから晩まで毎日いる。家に帰っているのかな?と心配にもなるが、研究所には併設された宿舎がある。じゃないと皆帰らないそうだ。
ホントに研究好きだね、皆…

臭くないの?と思うだろう。
しかし皆適宜、自分に清潔魔法クリーンをかけています。なんか数時間おきにやれ、と決まりがあるそうだ。
その決まりを作った人、きっと女性かもね。



「来ましたよ、ゼクスさん」

「来ましたな、用意しておきましたぞ。
今渡せるものはこの辺りなのですが、気に入るものはありますかな?」



机の上には、数本のペン。
見た目は万年筆…に近いかな?私は万年筆使ったことないけれど、父親だとか、職場の上司は使っている人がいたなあ。

街に買い物に出かけた日、お屋敷に戻ってからゼクスさんに『インク要らない魔法のペン』について聞いてみると、いくつかサンプルがあるから研究所へ取りにおいで、と言ってくれた。

その言葉に甘え、今日はそのペンを貰いに来たのだ。



「思ったよりもバリエーション豊かですね?」

「そうですな、作っている職員も一人二人でほありませんから、意匠デザインは好き嫌いがあるかもしれませんな。
作っては研究所の職員に配ってテストを重ねておる所です。コズエ殿にも使ってもらおうかの」

「これ、魔力の消費量って・・・」

「いや、そんなに多くはないですじゃ。それにコズエ殿は回復も早いから疲れる事もなかろう」



そうでした、私魔力回復が早いんでした。
初級魔法とか延々使えた時はどうしようかと思った。
休憩したいとか言い出せず…気まずかった…
セバスさんはニコニコして見ていたけど、ターニャの目が途中から泳いでいたのが印象的です。

中級、上級とレッスンを進めてもよかったのだが、学園で学んだ方が悪目立ちしなくてよさそう、との意見から勉強はストップ。
でも言葉を鳥に変えて飛ばす通信魔法コールは、中級~上級になるらしいけど、これを学んでおくと便利という事で教えてもらいました。鑑定魔法アナライズもね。

なので、この2つの魔法はちょこちょこ使ってるので、かなり練度は上がったと思う。

とりあえず、シンプルなものを2本。
…なんかドラゴンがグルグルと巻きついたようなものもあったけど、むしろ使いにくくないかしら?
でもこれがあればノート取るの楽になりそう。



********************



ゼクスさんの部屋を出ると、大きな研究室にバラバラに4人のスタッフが散らばる。
ゼクスさんの直属の部下という立場で、皆ここの研究員だ。
皆ゼクスさんを『師匠』と呼んで慕っている。

年齢も18歳が最年少として、1番年上が30歳だ。
魔術研究所としては、結構若いスタッフ達かなぁ、と思う。

研究所にはもっと年上の人も沢山いる。
それこそ年代は様々だ。
ある程度の年齢になると独り立ちして、別の研究室を持つらしい。

大学の研究室みたいなものかもね。
独り立ちして独自の研究を続けられる目処があれば、部屋を持たせてもらえるそうだ。



「お、コズエ様じゃないですか」

「こんにちはー」



1番近くにいたお弟子さんが寄ってきた。
私が持っているペンを見て、僕も持ってますよーと言ってきた。



「便利ですよね、それ。ホント僕が学園にいた時からこれがあれば・・・」

「これって最近の発明品なんですか?」

「そうですよ、他の研究室の奴の作品なんですけどね。今ではそいつ以外にも作っている奴もいるんですけど。
これ、黒以外の色も出せるんですよ。知ってます?」

「えっ?黒だけですよね?」

「いやそれが、魔力の流し加減で色変わるらしいんですよ」



見ててください、と彼はそこらにあったメモに線をさらさらっと書く。色は黒。



「で、ここで意識して流すと」

「えっ!?赤になった!?」



また書き始めたペンから出た色は、赤。
どうなってるのそれ。もしかして、何色でもいけるのかしら。

彼によると、イメージが大事なようで、赤の線を書きたい時は『赤色』とイメージを強く描きながら魔力を流すと赤線が引けると。
頑張れば何色でもいけるそうだが、実務で使うなら黒、赤、青くらい出ればいいと思う、と言っていた。



「あ~ホントだ。これすごいなぁ」

「・・・というかコズエ様ですよスゴいの。
やっぱりイメージの強さですかね。できない奴も多いんですよ」

「そうなの?」

「固定観念が強い奴は苦手みたいですね。
魔法も固定して一属性だけ高めると、他の属性は練度が上がりにくくなりますし」



確かにこちらの世界の人に比べたら、イメージ力はかなり違うと思う。やっぱテレビよテレビ。
遠く離れた所の景色や、特殊効果バンバンの映画見たりとか、アニメとか見てればそれは想像イメージ力は強くもなるだろう。

魔法だって大まかに『こんなの出そう』とか『こんなエフェクトかな』って思えばできちゃうんだもん。



「学園、いつからでしたっけ」

「えーと来月からだから、あと3日かな。
イストさんて学園通ってたんですよね?」



イストさんというのが目の前の彼の名前。
年齢は25歳。彼女ナシ。周りのお嬢さん方、いい物件ですよ!どうですか!



「はい、行ってましたよ。あんまりいい思い出ないですけど」

「え、青春の思い出は?」

「僕ね、これでも貴族なんですよ。
とは言っても男爵家の五男なんで、生家の爵位継げる訳でもないみそっかすなんですけど」

「味噌に失礼ですよ」

「え?」



しまった、この国には味噌ってないんだよね。探せばどこかに売っているかもしれないが、私は今のところ見ていない。

基本的に食べ物は洋風。和食が食べたいんだけど、見かけない。ゼクスさんのお屋敷でも、本邸でも出てこない。
この世界に和食ってないの?と最初はお米が食べたくて食べたくて仕方なかった。あと醤油!!!絶対探してやる。



「いえ、なんでもないです。続きをどうぞ」

「あー、で、ですよ。学園って貴族と平民の差があるんですが、貴族もピンキリでね。
生徒は平等のはずですけど、そこはやっぱり爵位の差が出るわけで」

「かなり、ひどいですか?」

「貴族と平民の建物は別れてますから、そこはあんまりないですよ。もしかしたら僕が目にしないだけだったのかもしれないですけどね。
貴族の方はやっぱり爵位を振りかざして威張る奴もちらほら。それでも教師はほとんどが実力主義なんで、できない奴には厳しいです。そこは嬉しいですよね」

「教師って、貴族と平民の担当は別なんですか?」

「各教科、数人ずつ教師はいましたね。皆、それぞれの分野で成果を上げている人達なので、そこに身分の差を持ち出す事はしません。そんな事してたら学園のモットーが崩れますからね」

「じゃあ公平なのでは・・・」

「各教科の教師、というより生活指導教員ですね。
これが貴族・平民の担当が分かれてるんです。
こいつが変な奴だと身分で差をつけたりするんですよ」

「殴ってもいいかしら」

「僕は間違えたフリして頭から水かけたことはあります」



文系爽やか青年みたいな顔してやる事やってる…
でもそれだけ嫌な奴だったんですね?

男爵家の五男ともなると、成人したら騎士団に入るか、血族の紹介で婿入りするか、商売でもするか…とほぼ自分で道を開かないとならないらしい。
もっと爵位が上なら、婿入り先も引く手あまたなんだろうけど、下級貴族ともなると大変なようだ。

イストさんは魔力の高さから、この研究所への推薦をもぎ取ったんだとか。

将来のことに必死で、学生生活をエンジョイなんて出来なかったらしい。どこも下級貴族の長子じゃなければ一緒です、とため息。
…ゼクスさん、彼に誰かいい子を紹介してあげてくださいよ?このままここで終わるの可哀想なんですけど…

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