異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん

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異世界さん、こんにちは

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馬車に揺られ、学園からお屋敷まで帰宅。
最初は車とは違う乗り心地におっかなびっくりではあったけれど、思ったより揺れることもなく、乗り心地はいい。
私、乗り物酔いする人何だけど、こちらの世界に来てからは亡くなったような気がする。不思議だな。

私が通わせてもらっている学園があるのは、学術エリア。
この世界の人がそう読んでいる訳ではないのだが、私が勝手にそう呼んでいる。
この王都の地理を把握する為にね。なんせこの王都は広い。
一国の首都ならば当たり前なのかな?日本でも『東京』って一口に言っても広いものね。…東京駅周辺を思い浮かべればいいのかな。

学術エリアには学園だけでなく、ゼクスさんがいる『魔術研究所』だとか、その他の学問をさらに発展・研究する為の研究所とか、王国軍の騎士さんが詰める場所なんかもある。近衛騎士団がいる砦は王様がいるエリアにあるのだけど。

この王都は大きく分けて5つのエリアに分かれている。

1つ目は王様のいるお城や政治の中心となる建物が建つ行政エリア。
行政エリアには、さっきも言ったように王城、その周りにいくつか行政関係の建物が建っている。
私が中まで入ったのは、こちらの世界にやってきてから一度だけ。王様に謁見するために、だ。

2つ目、貴族が住む貴族エリア。
こちらでは貴族街とでも呼ぶのかな?文字通り、貴族達のお屋敷がドドンと建ち並ぶ。
ホントドでかいお屋敷から、小さめのものまで。
小さいって言っても、そこはお貴族様。私の感覚では立派なお屋敷に見える。
日本で言うなら、軽井沢や葉山なんかに建ってる別荘くらいの大きさはある。

3つ目、平民が住む一般エリア。
ここは貴族の称号を持たない人…すなわち爵位を持たない人達が住んでいる。
騎士見習いから、商人、農民、様々だ。異世界にはあるあるの冒険者ギルドはないのかな…?
街に出られるようになったら探してみよう。まだ1人で出かけていい許可は出てないんだよね。
治安はそこまで悪くはない。騎士さんが町中に立って警備をしている訳ではないようだけれど、平民達が有志で作っている警備隊の人がパトロールしている時もあるのだとか。

4つ目、商業エリア。
ここも、貴族が使う範囲と平民が使う範囲、それから両方が出入りできる範囲が区分けされているらしい。
門で仕切られている訳ではないらしいけど、石畳の色で区分けしているんだって。それは間違いなく見てみたい。
ここでも身分で出入りできるエリアが決まっている。…向こうでは考えられないな、と思うけど、それはそれ、というやつだろうか。

この4つに学術エリアを加え、全部で5つのエリアで構成されている。

この王都は中央にお城がある行政エリアがあり、その周囲を取り囲むように4つのエリアが展開している。
町の出入りは、4つのエリアそれぞれから可能になっている。
行政エリアだけはどこかのエリアを経由しなければならない。ちょっと厳重だけど、警備などの必要があるのだろう。

そう考えると、ここを作った人?設計した人ってすごいわよね。
後々こういった街づくりをするために最初からエリアごとに分けたのかしら。
ゲームのように建物を位置移動、なんてできないだろうし。

各エリアの出入り口ともなる、門の警備は王国軍の仕事だ。
この国では騎士といっても2通りある。

ひとつは王国軍。王国軍は私の世界で言う警察みたいな感じ?それとも自衛隊?
もうひとつは騎士団は王族を警護する近衛騎士団。こっちはあれだね、要人警護のSPだよね。

まぁ、騎士にも色々あるようだ。
警察だってキャリアとノンキャリアってあるんだし、それと同じようなもんだろう。
近衛騎士ってきっと貴族だけだろうしね。

そんな事をつらつらと思い返しているうちに、お邸が見えてきた。
大きく立派な門を抜ければ、木々がアーチを作る小道。
その先には壮麗なお邸が建つ。タロットワーク別邸と呼ばれる、今の私のお家、だ。



********************



お邸に着き、馬車から降りる。学園に通う際、馬車を運転してくれる御者さんは護衛を兼ねた人。なんでも近衛騎士団にもいた事があるらしい。

整えられた花壇を見つつ、玄関へ。
ドアを開けて入ると、執事さんが迎えてくれる。
セバスチャンさん。某黒い執事を思い浮かべたのは言うまでもない。見た目はどっちかというとタ○カさんの方です。

…それにしてもいつからいるんだろうここに。お仕事あるよね?
毎日帰ってくるとちゃんといるんですよ、玄関に。



「おかえりなさいませ、コズエ様」

「ただいま帰りました」



お辞儀のお手本です、とばかりに綺麗な動作。
私も見習わないとなぁ。綺麗に45度。動きにブレはなく、流れるように美しい動作だ。執事学校とかあるのかな。

2階に続く階段からメイドさんが降りてくる。
私に付いてくれるメイドさんの1人だ。



「おかえりなさいませ、あ・な・た♡
ご飯にする?お風呂にする?それともわ・た・しヘブッ」



私の前に駆け寄るなり、まるで新妻のように振る舞う。
セリフの直後、セバスさんにビスッ!とチョップを食らっていた。



「ターニャ、おふざけは程々に」

「は、はぁい、セバスチャンさん・・・」



頭を押さえながらよろよろと振り返り、セバスさんに謝るターニャ。
教えたのは私とはいえ…毎日しっかりやる所がこの子の凄さ。
なんかハマっちゃったらしい。そして毎日セバスさんにチョップを食らっている。



「お見苦しい物をお見せしました」

「イエ教えたの私なんで・・・」

「実行するのはターニャですのでお気遣いは要りません」



確かにターニャがこれをやるのは私にだけだ。
他に誰か近くにいる時はやらない。
セバスさんもそれをわかっていて黙認している所がある。

ここの使用人は揃いも揃って武術も達人級に修めているらしい。
そうでないと『タロットワーク』の家に仕える事はできないそうだ。
これは常識の範囲内なのだろうか?他のお邸に行ったことがないので何も言えない。



「コズエ様、お茶を御用意いたします。
お部屋にしますか?それともサロンにいたしましょうか」

「そうですね、じゃあサロンにお願いします」

「かしこまりました」



セバスさんがターニャへとアイコンタクト。
ターニャは私のお茶を用意する為にキッチンへ。

私は基本身の回りの事は自分でするので、1人で自室へと向かう。
制服着替えてこないとね。汚したら嫌だし。



********************



2階へ上がり、自室へ。
2部屋続きのお部屋。最初案内された時はどこのスイートルームかとツッコミを入れた。もちろん脳内で。

居間と寝室、という感じだろうか。
そこにバスルームやらクローゼットやらトイレが付く。
まぁほんとにいいホテルのスイートルームみたいな感じ。私スイートルームにお泊りしたことありませんけどねえ!

1階にはディナールームとか応接室だとかサロンだとか…。まぁお客様をお迎えする設備。
2階は私とゼクスさんの部屋とか書斎。使用人さん達の部屋は1階と2階に散らばっているみたいだけど、探検はしていません。何しろ広いですし、このお邸。それにウロウロするのも不審者みたいなので遠慮しています。

普段着…といってもワンピースです。さすがにこれまでのようにスウェットなんてものはない。あったとしてもこのお邸で着て部屋の外を出歩けるほど、私のメンタルは強くない。
図書館で借りてきた本を持って階下へ。読書しながらティータイムが帰宅後のお決まり。
夕飯までは読書して過ごす事が多い。これもこの世界を知るための勉強のうち。たまにセバスさんやターニャが話し相手になってくれたりもする。

この世界…この国の常識を知るためにも、セバスさん達と話すのはすごく勉強になるものだ。
そこに生活をする人の話はなによりも為になる。さすがに学園のクラスメイトを質問攻めにはできない。気兼ねなく話ができるようになるには、もう少し私がお勉強しなくてはね。



「お待たせしましたコズエ様。
今日は紅茶ですよ~ケーキとスコーンはどちらにします?」

「両方ください」

「食べ過ぎですよ?」

「大丈夫、大した量じゃないでしょ」

「そう言うと思って控えめにお持ちしましたけどね!」



ターニャはこのお屋敷に来てから、ずっと私に付いてくれているメイドの1人。歳は16歳で、今の私の身体と同じくらいの歳。
髪の色は赤毛で瞳は緑。ハキハキとよく喋る子で、一緒にいて面白い。
ミーハーな一面もあり、ムードメーカーな感じだ。

もう1人専属で付いてくれているメイドさんがいる。
18歳になる、ライラちゃん。髪の色は亜麻色で、瞳は青。
ターニャとはまた違う性格で、クールビューティ。

もちろん2人ともお強いらしいです。
魔法も使えて武術も達人とのことだ。…なんなのこの人達。
私の護衛も兼ねて…ということですね。



「また何か違うお出迎えの挨拶教えてくださいよぅ」

「えっ、まだやるの」

「うふふ、なんか楽しくなっちゃって~」

「またセバスさんにチョップされるよ?」

「大丈夫ですって、本気でやられてませんから!
セバスさんに本気出されたら首もげますよ」

「・・・ターニャ、後ろ」

「え?」
「暇を持て余している様ですね、ターニャ」

「そんな事ありません!セバスチャンさん!」



ニコニコと笑顔のセバスさんにズリズリ引っ張られていくターニャを見ながら、あの子学ばないなぁ…と思う私。
うん、今日も紅茶美味しいなぁ。遠くからターニャの悲鳴が聞こえる気がしたが、気のせい気のせい。

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