異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん

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真実の扉 ~歴史の裏側~

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書斎にて読書すること、1時間。
所々に日本語で書き込みがある。それは感想?のようなもの。

本の内容は、恐らく彼───ネイサム・タロットワークが晩年になってから書き綴ったものであると思われた。
これまで読んできた、『始祖の日記』と重なる部分も多い。以前読んだあのキャンパスノートに書かれたものは、若い頃に書いたものなのだと思った。

ほとんど終わりに近づいてきた辺りから、日本語の手記に切り替わった。どくん、と心臓が音を立てる。

『この記述がいつ、どのくらい先の未来で読まれるのかはわからない。これを読むのが私の同郷の人間であるかどうかも定かではない。

だが、これを読んだ貴方に、私の懺悔を預ける』

その記述に、息を飲んだ。
これは、まだ、ゼクスさん達にも読まれていない、のだろうか。

震える手を握りしめ、覚悟を決めてページをめくる。
何があっても、読まなければ。
このどこかに、答えがあるのかもしれないのだから。



********************



あの時、一体何があったのか。
それを今考えてもわからない。

ただ、わかることは、私は世界の壁を破り、別の所へ来てしまったという事だ。

逃げ出したい、どこかへ行きたい。
そんな気持ちがなかったとはいわない。

妻がいて、家族がいて、仕事があって、順風満帆といってもいい人生だった。ただ、楽しみは少なかったかもしれない。

今思えば、それは間違いだったのだ。
幸せに包まれていたのに、私はそれを感じ取ることは出来なかった。

こちらの世界へ来て、辛い事も苦しい事もたくさんあった。
何度、あちらへ帰りたいと願っただろう。
何度、愛する家族に会いたいと願っただろう。

しかし、それは叶わなかった。

そんな中、私はこちらでかけがえのないものと出会った。
マデインに出会い、私は変わった。
自分では切り開けなかった未来を、彼女はいとも容易く切り開いてくれた。私の希望になってくれた。

彼女と生き、家族を持ち、幸せだった。

彼女の助けとなり、国を興し、笑顔を増やした。

今は、私と彼女が作った国で、私と彼女が産み育てた子供達が、笑顔を絶やさぬよう、努力をしている。

マデインは既に逝った。
私もまた、近いうちに彼女の側へ逝くだろう。

─────だが、今になって。
残してきた家族の事を思い出す。

涼子はあれからどうしたのだろうか。
陽一は、鈴は、妙子は、どう成長したのだろうか。

あちらに残した家族が、幸せになったであろうことを願う。
もし許されるのなら、今一度、彼等にあって言いたい。
愛しているよ、と。

山口  勇



*********************



「うっ、く、・・・ふ、」

「っ!?コーネリア!?」

「ふ、あ、・・・うぅ、」

「どうしたのだ、コーネリア!?セバス!」



嗚咽を堪えきれない。
大粒の涙が、後から、後から零れ落ちてくる。

なんて
なんて、
なんてこと──────

まさか、ネイサム・タロットワークが、

自分の、

伯父、だなんて。

山口  勇ヤマグチ  イサム
それは、私の、父親の、兄の名前だ。

伯父さんは、ある日突然、姿を消した。
本当に、ふっつりと。
家にも、伯母さん…涼子伯母さんが父を頼って何度も相談に来たから子供心に覚えている。

涼子叔母さんは、3人の子供を抱えてそれは苦労した。
実家に戻り、子供達も叔父さんが失踪した時点である程度大きかったこともあり、再婚はしなかった。

だけど、色々と問題にはなった。
長男の結婚式の時に、父親が失踪したということが公になって破談になったり、次女の妙子さんは、学校で虐めにあったとも聞いていた。

涼子伯母さんはまだ存命だが、子供達は結婚してからそれぞれ縁を切った、とも聞いていた。
今では失踪したといってもそれほど大事にはならないかもしれないが、あの当時は本当に騒がしかったのだ。

やれ不倫だ、人の道に外れた事をしたからいなくなったのだ、神隠しにあったのだ・・・人の噂はそれぞれで、とても無責任だ。

けれど、その当人がまさかこんな所にいたなんて。
そんな事、一体誰が理解できるというのだろうか………



「っ、・・・もう、大丈夫、です」

「大丈夫ではなかろう、こんなに泣いて・・・」

「っふふ、ゼクスさん、お父さんみたい」

「よいよい、こんなに可愛い娘ならいくらでも甘やかしてやる」



私があまりにも泣くものだから、ゼクスさんは慌てまくって机の上の書類をぶちまけてこちらに来た。
駆け込んできたセバスが驚きながらもサクッと片付けていた。

現在セバスは私が鼻水かみまくっているのを見て、ティッシュとゴミ箱を手ずから持って待機中。

私はゼクスさんに抱えられて座ったまま、ネイサム・タロットワーク───山口  勇ヤマグチ  イサムの事について、ぽつりぽつりと説明をした。

私が覚えている、勇伯父さんの事も、全てを。



「そういう、事であったか・・・」
「ネイサム・タロットワークが、コーネリア様の、叔父だとは・・・驚きでございますね」

「そなたがこちらに来た時に『若返っている』と言っておったな。恐らく、ネイサム・タロットワークもそうだったのだろう。
彼がこちらに現れたのは、恐らく20歳前後のはず。他の記載より読み取った年齢を考えても辻褄は合う」

「私の知っている勇伯父さんは、確か40前後のはずです。
長男の陽一君が、15くらいだったから・・・」

「すると、異世界に来た際に若返りがあったのだろうな。今のそなたのように。いやはや・・・」



私をあやす様に、背中を撫でながら話すゼクスさん。
セバスはそれを静かに見ているだけだった。



「─────しかし、これでコーネリア・・・コズエ殿がタロットワークにしか出来ないとされる祈願祭の魔力充填が出来た事も説明がつく」

「え?」

「そなたの叔父、がタロットワークの原点なのだから」

「・・・あー、そういうこと、か」

「そう、コーネリアの伯父である『山口  勇ヤマグチ  イサム』と、マデイン・タロットワークの子孫が今の『タロットワーク一族』だ。
つまり、コーネリア、そなたは1番濃い血の持ち主である、ということでもある」

「えっ、でも伯父さんと全て同じというわけではないですから、半分・・・くらいでは?」

「それでも今の儂よりは、源流に近いと思うが。なるほどのう・・・タロットワークの魔力が強いのは異世界人の血が入っているから、という事もありそうだの」

「魔法は想像力が重要、と言ってましたよね。私達はそういったイメージ力は強いですから、確かに作用する事も・・・あるのかも?」

「とはいえ」



ゼクスさんは頭を撫で撫で。
きょとん、と私はゼクスさんを見上げた。

優しい瞳で、ゼクスさんは私を見つめる。



「これで、コーネリアが本当にであることにも説得力が増えたのう」

「っ、あ・・・」

「血が繋がっていない、と気にしていた事もあったであろう。しかし、それはなくなったわけだな。こうして、コーネリアとの血の繋がりが証明されたのだから」



私は無言でゼクスさんに抱き着いた。
この人は、察していたのだろうか?私が『家族の温もり』を求めていた事に。

私の家族は、もう姉と姉の子供だけだ。
父も母も既に無い。
けれど、今回の事で遠いけれど、ゼクスさんは私の『家族』であることを言い切ってくれた。



「安心したかの?コーネリア」

「はい」

「もっと甘えてくれてもいいのだぞ?」

「はい、たくさん甘えます」

「どうだセバス、羨ましかろう」
「本当に羨ましいですね旦那様。しかし、これで我等も心置き無くコーネリア様に忠誠を誓えるというもの」

「えっ?何?」



顔を起こし、セバスの方を向く。

そこにはいつの間に来たのか、この別邸で働くほとんどの使用人達がいた。皆、膝をつき、頭を垂れて私達に向いている。



「コーネリア様、我等『タロットワークの影』はこの時をもちまして、今以上の忠誠を貴方様に誓います」

「えっ、なに、何で?」

「これまでは『旦那様の客人』として。これからは『タロットワークの一族忠誠を誓う主』として」

「ゼ、ゼクスさんっ?」

「まあ仕方あるまいよ、まさか『タロットワークの源流』とも言うべき異世界人とは思っても見なかったと思うしのう」

「い、今まで通りくらいで大丈夫ですから!普通に!普通にお願いします!」

「それが主のご命令であれば、そのように」



あああああ更に面倒になったのでは?
しかし、またひとつ先に進んだのは事実。

まさか、ネイサム・タロットワークが勇伯父さんとはね…
昔からアニメとか漫画とか好きな人で、お部屋に入れてもらって漫画を読ませてもらった事もあったけどさ…

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