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2度目の夏至祭
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しおりを挟むテラスに出ようか、と言われはしたものの。
気になるお料理エリア…
「・・・まったく姫らしい」
「えっ!?何も言ってませんよ?」
「少し食べに行きましょうか?」
「えっ、えー、その」
「遠慮しなくていいですよ?どうしたい?」
「食べたいです」
「ふふ、じゃあおいで」
くい、と優しく繋いだ手を引く。
なんだか聞き分けのない子供のようで申し訳ない…
2人で歩く間も、たくさんの人に挨拶されつつも私も礼を返す。シオンさんも如才なくお相手をしているみたい。
やっぱり、伯爵として夜会にも出ているから、顔馴染みであったり知り合いも多いのだろうな。
私はそっと離れて、魅惑のお料理エリアに。
そこには私にとっては顔見知りのメイドさんやシェフさんが。
「来ちゃったんですね、姫様」
「だって気になるんだもの。大丈夫、いつもみたいにガッツかないから」
「私共としては姫様が美味しく食べてくだされば嬉しい事はないんですけどね。セバスチャン様に後で言われますのでね」
「ご、ごめんねマートン」
どうやらマートンにはセバスから注意がいっていたらしい。マートンは私が色々と美味しい美味しい言って食べるのが嬉しくて、あれこれとなって勧めてしまう。
別邸での食事ならばいいが、今日は控えるように言ってあるようで。しかし私もターニャやライラから『あまり食べるのに夢中になったらダメですよ、特に今日は』と釘を刺されている。
お互い感じるところがあったので、控えめ~によそってもらった。近くのテーブルにお皿を乗せ、ビュッフェスタイルで味わう。
すると、困ったようにシオンさんがやってきた。
「姫?1人で動かないでください」
「すみません、シオンさんお忙しそうだなと思ったので」
「今日の俺は姫以外に優先するものはないんですよ?まったく」
通りがかるウェイターを呼び止め、シャンパンを受け取る。
私の分も取ってくれて、コトンと置いてくれた。
「飲めますか?他のものにしましょうか」
「いいえ、こちらで大丈夫です」
「あまり飲みすぎないようにね。俺が送り狼になってしまわないように」
「きっ、気をつけますっ」
むしろ酔ったシオンさんに私が襲いかかってしまわないだろうか。帰りも馬車に2人きり…?頑張れるのか私?
シオンさんも少しお料理を取り、2人で軽食を取りつつフロアを眺める。シリス殿下とエリーのダンスを見たり、その他の素敵なカップルを見る度に私はシオンさんにどこのどなたかを聞いたりして楽しんだ。
シオンさんも私に色んな事を話したり、冗談を言ったりして。
しかしグラスが空になるにつれ、ちょっぴり色っぽくなってるんですけど気のせいか…?
「おう、ここにいたかシオン」
「団長。いらしていたんですか」
「まーな。・・・ご機嫌麗しく、コーネリア姫」
「こんばんは、フレンさん。いい夜ですね」
そこに来たのは、フレンさん。
この間見たように、夜会服を着こなしたフレンさんは素敵。鍛えているから年齢を重ねていてもシルエットが決まっていて格好いいのよね。アナスタシアは来てないのかな?
きょろきょろ探すと、お嬢さん方に囲まれたアナスタシアを発見。
「強烈なモテ属性」
「アナスタシアはなあ…もう仕方ないよな…」
「勝てる気はしませんね…」
「同性だからこそアタックしやすいんでしょうね…」
「よし!んじゃ、俺もアタックするか!」
するとフレンさんはスっと私の前で膝をつき、騎士物語さながらに私の手を取る。
「麗しき姫君、どうぞ私とダンスをしていただけませんか?」
「まあ。もちろん喜んで、騎士様?」
「悪いなシオン、姫を借りてくぜ?」
「仕方ないですね、1曲だけですよ団長」
********************
フロアの中央へ。向かい合った私とフレンさん。
踊り出せば、フレンさんのリードは驚くほど優しく上手かった。意外、と思っては失礼だろうか?
「意外、って顔をしてるな?お嬢」
「すみません、つい。こうしたダンスもお得意とは知りませんでした」
「これでも侯爵様、だからな?騎士になる前はそこらにいる貴族の子息として夜会に出ることも多かったんだ」
「そういえばそうでしたね。騎士様の印象の方が強くて」
「俺も、そう思う」
ニカッ、と笑う顔は貴族よりも騎士様だ。
ワイルドといえばいいが、貴族としてはそういう振る舞いは相応しくない部類に入るのだろう。
だけど、フリードリヒ・クレメンスという男性を表すには、こちらの表情の方がしっくりくるし、魅力的だ。
「おっ・・・と。これまた」
「えっ?」
「シオン狙いのお嬢さんが、な」
「アントン子爵令嬢ですか?」
「当たりだ」
不自然でないようにターン。フレンさんは私をうまくターンさせ、私達がお互いにシオンさんがいる所が見られるような位置取りに。
そこには、1人でいるシオンさんに1人の令嬢が話しかけている所だった。アントン子爵令嬢。さっき、シオンさんとダンスをしている時にもちらりと見かけて気になっていた。彼女の切ない表情が。
シオンさんも彼女が来て避けるでもなく、話をしていた。
私達が見ていることにも、気がついているのかもしれない。
「気になるか?お嬢」
「気にならないと言えば、嘘になりますね」
「・・・そのドレス、シオンからだろ?気合い入ってるな。
思い出すな、俺がアナスタシアへドレスを送った時を。あの時もタロットワークの白と金、俺の赤を加えて贈ったな」
「彼女も、入れてますよね。シオンさんの色」
「・・・あー、気づいたか。でもな、ドレスに色が入っていようが差程問題にゃならんさ。コサージュがなきゃな」
「え?」
「どんなに色が入っていようと、コサージュがなきゃ本人からの贈物だって事にゃならんのさ。この会場にどれだけあいつの青が入っていようが、そのコサージュはお嬢にだけだ。
という事は、シオンの心はお嬢にしか向いてない、って寸法って事だよ」
「そんな事に・・・」
「それに、気付いてるか?シオンのタイピン。
ありゃ、どう見たってコーネリア姫の瞳の色に寄せたもんだろよ」
シオンさんのタイピン。確かに黒い石だった。
私の他に、瞳が黒い人はほとんどいない。それだけで『私』ということにはならないと思うが、私の胸にコサージュがある事で、周りの貴族達には関係のある2人、と認識されている。
ゼクスさんから直接、シオンさんへパートナーチェンジしたことも、その一環だ。
「お嬢、シオンの事が好きだろ?」
「・・・叶いませんね、フレンさんには。ええ、好きですよ。
でも、想いを伝える気にはまだ、なりません」
「あいつと過ごす気にはならないか?」
「半々、でしょうか。こちらでずっと生きていくのであれば、そうなれたら素敵でしょうね。でも、まだ、諦められないんです」
「・・・そうか」
「すみません」
「いや?俺に謝ることは無い。・・・俺がお嬢の相手なら、絶対に逃さないように溺愛して離してやらないんだが」
「っ、ちょ、ドキッとしましたよフレンさんてば」
「ん~?お嬢、押されるのに弱いだろ」
「そっ、そりゃ、いい男に押しまくられたら大抵の女はメロっとしますって!」
「そうかそうか俺はいい男か?お嬢」
褒められたことが嬉しかったのか、やたら上機嫌になったフレンさん。ぐいぐい聞いてくるなあなんて思ったけどね。
しかしフレンさんなら、確かに押してきそうだな。私も強引に押されたらかわしきれないかも。うーん?
ダンスを終えると、アナスタシアが迎えに来てくれた。
この間も美人だったけれど、今日の装いも一際女神。
しかし振る舞いは格好いい…。騎士服だったらダンスパートナーになってもらうのになあ。なんて。
連れ立ってシオンさんの所へ戻れば、そこにはもうアントン子爵令嬢の姿はなかった。
『どうだったんですか?』と聞けるはずもなく、私はそのまま胸にしまった。フレンさんとのやりとりも同じように…
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