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2度目の夏至祭
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しおりを挟むなんだこれ、どうしてこうなった。
腰を屈め、髪に何かを固定される感覚。
あー、だから髪の毛をサイド編み込みにしてミニシニヨンを作ったのか、あえて髪飾りとかしなかったからシンプルにしたんだなあとか思ったわ、この為かい!!!
「よくお似合いだ、コーネリア姫」
「なんでティアラなんですかね、ティアラ」
「これはな、代々王位継承権を持つ王女に下賜してきたものなんだよ」
「いや王女じゃないですし」
「しまい込んで埃を被るよりもこうして日の目を見せた方がよかろう?」
パチリとウインク。いえ、イケオジだからって騙されないぞ!
でもこんな大勢の前でもらったものを『いるかあぁぁぁぁ』とか言えない。そこまで鋼の心臓していません。
私、今、顔死んでない?大丈夫?
すすす、とゼクスさんの横に移動して脇腹をつねる。
「イタタタタ地味に痛いぞコーネリア」
「こんなのきいてませんきいてませんよゼクスさん」
「スマンの、でもそのティアラは護身用も兼ねとるから一石二鳥」
「え?」
「代々タロットワークに伝わってる逸品故な。アナスタシアも付けとったやつじゃ。こういった正装する場には使えるものじゃし預かっておいておくれ。似たようなものはエリザベス嬢も付けとるじゃろ」
そう言われてエリーを見れば、にっこり微笑んで皆様に向かっていた。その頭には小さめのティアラ。
あー…成程…アクセサリーと見せかけて護身用の魔法具…
しかし目立ったことには変わりないのでは?
*********************
まず、広間に入るところからもう緊張ものだった。
入ったら皆こっち見るんだもの。後ろからセバスが『カーテシーですよコーネリア様』とすかさず指示があったからなんとかなったけど。
歩く速度はゼクスさん任せだったし、もう1人だったら手足一緒に出てたんじゃない?とばかりの緊張。
ようやく終わった、と思ったら国王陛下がエスコートし出すし。手を引っ込めようと思えばセバスが後ろから『そのままです』と黒子ばりに言うからついてったけども。
ただ自分から名前を名乗って自己紹介しないといけないのかな!?とか思ってたからそこはしなくてよくて助かった。
しかし、ティアラ贈呈にはギョッとしたわ…下向いてたから変な声とか出なくて済んだけど。
「はあ、終わった・・・」
「まだじゃろ?儂とダンスせんとな」
「あああああまだあった」
「そこまで気負わなくとも大丈夫じゃ。ファーストダンスは他にも大勢踊るからの。それに、カイナス伯爵も待っとるじゃろ?」
「ぜッ、ゼクスさん!」
『観念するんじゃな』と楽しそうに笑うゼクスさん。私がシオンさん相手にまごまごしてるのが面白くて仕方ないみたい。
けれど、どちらを選ぼうと構わないと言ってくれた。そう言ってくれるだけで、少しだけ心が楽になる。
胸元のコサージュ。あの人の真心。
この気持ちになんて答えを出したらいいんだろう。
嬉しい反面、苦しさも増す。
音楽が止まり、楽団が用意を始めた。
スっとゼクスさんが私の前に手を差し伸べる。
「さて、私と踊っていただけますか?愛しい人」
その声音に、仕草に。胸がギュッと音を立てて締め付けられるかのようだった。
お相手は見慣れたゼクスさんなのに、物語の1ページのような目の前の景色に、自分が御伽噺のプリンセスにでもなったかのよう。
そっと手を重ねれば、滑るようにフロアの中央へ。
私は驚くほど、ゼクスさんの優しい色の瞳から目を離せなかった。まるで恋をしたみたいに。
タイミングを図ったように、フロアでゼクスさんと向かい合った瞬間に音楽が始まった。どちらともなく、一礼をしてダンスの始まり。
「───ふむ、上手くなったなコーネリア」
「うまくなった、と錯覚する程ゼクスさんのリードがお上手なせいですよ」
「ほう、言うものだ。とはいえ、儂もまだまだダンスのリードは腕が落ちていないと言うことだな」
軽く自慢をするゼクスさん。でも、本当に踊りやすい。
右、左、音楽に乗って足が軽くステップを踏む。セバスのリードも踊りやすいが、ゼクスさんのリードは私がまるで自分からステップを踏んでいるように錯覚しちゃうくらい軽快に踊れてしまう。
くるり、とターン。
ふわり、とドレスの裾が翻る。
やだ、すっごく楽しい。周りが見えないくらい、夢中になっちゃう。自分がダンスの名手になったのかとさえ。
「ようやく笑ったのう」
「えっ?」
「さっきまで、こーんなしかめっ面しとったぞ」
「いやだって仕方ないじゃないですか!でも」
「でも?」
「今はすーっごく楽しいです!」
「それは良かった。儂も久しぶりにこんなに楽しいダンスをさせてもらっているからな。ありがとう、コーネリア」
「いつでもお相手しますよ?」
「ああ。だが・・・」
ふわり、とターンをさせて終了。
と、そのまま私を振り返らせる。
そこには、ゆっくり一礼をして私を待つ、シオンさん。
「待たせたの」
「いえ。お預かりいたします、ゼクスレン様」
「楽しんでおいで、コーネリア。カイナス伯爵、今宵は我が姫を頼む」
「かしこまりました。・・・お迎えに上がりました、私の姫」
きゅん、と甘く、苦しく、心が鳴る。
ゼクスさんの手から、シオンさんの手へ、私の手が渡される。
シオンさんが私を引き寄せ、ゆっくりとダンスのステップを踏み始める。
周りが少しざわついたのはわかったけれど、私はシオンさんの甘く優しく見つめる瞳に、捕らわれたままだ。
「立派でしたよ、姫」
「立派、ですか?」
「ええ。先程国王陛下の隣で立っていた貴方は別人かと思いました。・・・俺の手には余るほど」
「自覚は、ないんですけどね」
「でも、今はここにいる。俺の側に。それだけで俺は幸せですよ」
リードする手がきゅ、と少しだけ力が入る。
腰に回る手にも、少しだけ力がこもった。そんな感触に少し、体に力が入ってしまう。意識すると恥ずかしい!ダンスって思ってるより密着するのよね!!!
そんな私の仕草に気付いたのか、シオンさんはクスッと笑う。
「そんなに意識しなくても姫。こんな所で無体な真似をしたりなんてしませんよ?」
「ちょ、そういうつもりではなくて、ですね」
「なら、なんですか?ようやく俺を男として意識してくれる気になってくれましたか」
「ようやく、ってなんですか?
私、シオンさんを男として意識しなかった事なんて」
「ない、ですか?本当に?」
「っ、」
ダンスの最中だから、普通に相対しているよりも距離は近い。すごく近い。めっぽう近い。
「えっ、あの、近いんです、けど」
「ダンス中ですからね、これ以上離れるわけにも」
「でっ、でもさっきはもう少し離れてませんでした?」
「嫌ですか?姫」
いっ、嫌じゃないんです!でもですね!うっかりキスとか許しちゃいそうな雰囲気っていうか、流されちゃいそうになるって言うか!あー!!!私、雰囲気に弱いんですよー!!!
うわあん、いい匂いするよシオンさんー!!!
「どうしました?姫?俺が嫌ですか?」
「嫌じゃないんですけど、慣れないっていうか、あっ」
「嫌ではない、んですね?なら良かった。それにしても今日もいい香りですね、姫は」
「え?シオンさんもいい匂いですよ?男性も女性みたいに香水付けるんですか?」
「俺、ですか?何だろう?
・・・あ、香袋は持ってますね。それかもしれないな」
「香袋、ですか。そう言われると私も持ってますね」
ドレスに香りを移すのに、サッシュというかポプリの袋みたいのを置いていたのを思い出す。中身は私が色々と嗅いで『これ好き!』といったやつを中心にブレンドした感じ。
元々は私が元の世界で使っていた、オリジナル香水に近い匂いになっている。
ふんふん、とダンス中にシオンさんの匂いを嗅ぐ私。単なる変質者では?
「そんなにお気に召したのであれば、今度プレゼントしましょうか」
「え、いいんですか?嬉しいです」
「構いませんよ。でしたら俺にも姫の香袋をいただけませんか?」
「この香りでよければご用意しますね!楽しみですね、どこに置こうかな?ベッドサイドもいいですね、寝ている間にシオンさんの香りに包まれるとかいいかも」
「・・・」
「シオンさん?どうかしましたか?」
ちょっと頬を赤らめるシオンさん。
あれ、私また何か言ったか…?
でもこの香り、いい匂いだし、リラックスできそうだから寝る時に嗅いで寝たらいい夢見れるよね?
「姫、俺の他に香袋を強請ったりしてませんね?」
「してませんよ?」
「なら、俺以外の男に『欲しい』なんて言わないこと」
「は、はい?」
そう言うと、シオンさんはダンスを終わらせて私を連れて歩き出す。確かに話しながら2曲くらい踊っていたから休憩したいな、なんて思ったのよね。
フロアの端、テラスへ繋がる窓の近くへ。
私を引き寄せ、軽く腕の中へと軽く抱き寄せた。
周りにはカーテンが邪魔して見えていないだろう。
「あの、シオンさん」
「・・・まったく。俺の香りに包まれて寝たい、だなんて。
聞き用によっては誘われているのだと思いますよ?」
「っ、!」
「俺以外の男に言わないこと。わかりましたか?」
「そっ、そんなつもりはなくって、あのっ」
「だろうと思いましたよ。・・・でも、男はそう受け取ってしまうんです。気をつけてくださいよコーネリア姫」
「ごっ、ごめんなさい」
優しく抱きとめられていると、シオンさんの香りに包まれてしまう。こんな時だけどうっとりしてしまいそうな自分。
戒められているとはいえ、ちょっとドキドキしてしまう。
見上げれば、カーテンとシオンさんで少し影ができていた。
ゆっくり耳元に寄せられる顔に、ドキッと胸が跳ねる。
「あまり驚かさないでください」
「シオンさんこそ、こういうの、ずるいです」
「・・・ずるい?俺が?」
「今、とか。意地悪、です」
「どこが意地悪?教えてくれないとわからないよ、コーネリア」
「っ、ん」
耳元に落ちる、低い囁き。
『姫』と言われないだけでこんなにも耳に甘く届く。
つい、声が漏れる。男に口説かれる経験のない小娘でもないというのに…
『コーネリア』と呼ばれた瞬間、ぴくんと体が跳ね、声が漏れたのに気付かないシオンさんでもない。女に慣れた、大人の男なのだなら。
「あまり煽らないでくれ、こっちも男なんだよ」
「じゃあもうちょっと離れてくださいよ、シオンさんっ」
「・・・妥協策なんだけどな、一応」
ふい、と顔を戻して見つめ合う。
少し、シオンさんの頬も赤い?
「・・・顔を見てると、口付けたくなりそうで、ね」
「っ!!!」
「ああ、だからそうやって強請るような目をしないでコーネリア姫、こっちも大変だから」
「いや、えっと、強請ってはいなくて!」
「とはいえ、他の男に今の君の顔を見せるのはちょっとね。
だから腕の中に隠しておくのがベストかなと思ってるんだけど。
・・・困ったな、少し外に出ようか」
「ハイ・・・」
なんかいい歳した大人がお互いにやり場に困るとか…
まあ私の見た目は小娘だからね…
こう、なんていうか、シオンさんも困っちゃうんだろうな…
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