異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん

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2度目の夏至祭

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右にはゼクスさん。
左にはセバス。
これが両手に花、というやつですね?



「コーネリア様、私はやはり後ろから」

「ダメよセバス。今日は私の好きにさせてくれるのでしょう?」

「いえ、それはこういう意味では」

「では命令よ?私の隣を守ってちょうだい?」

「はっはっは、お主の負けだのセバス」

「・・・仕方ありませんね、我が姫の御心のままに」



ゼクスさんも夜会用のパリッとした礼服。
セバスは執事服だけれど、これまたいい生地使って素敵なデザインだから勿体ない。いつも来ている物よりもすこーしだけ外用なのだろうか。オシャレってこういうものよね多分。

2人の腕に手を絡め、ゆっくり庭園を歩く。

2年前、あの時はセバスとこっそり星夜祭を楽しみに来たんだっけ。こちらの世界に来てから初めての夜会。私はお客様気分でまるで映画を見るように楽しんだ。

けれど、今回は違う。私は『主役』として夜会に出席する。
メインは星夜祭だけれど、集まっている人達は少し違う。今宵、ここで『タロットワークの姫殿下』がお披露目される事を知っているから。

あああああ、私そういうの苦手なのよね…大勢の前に出ても平気、っていう人が羨ましい。誰も彼もがこっちに注目している!と思うと竦んじゃうのよね。

庭園は魔法の灯りでほんのり明るい。
周りは町の人、旅人、沢山の人がいる。さすがに私達の近くを歩いている人はいないけれど。
小さく『あちら、大公閣下ではない?』『まあ、なんて恐れ多い』などひそひそ聞こえる。



「・・・ゼクスさんてお顔広いですね」

「まあそうかもしれん。絵姿も出回ってるからの」

「え、絵姿?」

「話せば長いのじゃが・・・」
「その昔、旦那様が王族であった時、父君が旦那様のお忍びを防止する為に絵姿を城下に配ったのですよ」

「えっ」

「あれは・・・効果覿面じゃった・・・」
「お忍びで町歩きをすればすぐに城に報告が来ましてね」



どうやら、昔から自由なゼクスさん。王族でありながらホイホイ町に遊びに行っていたらしい。しかし、町歩きが好きなのはゼクスさんだけでなく、父親のジェムナス陛下もだったようで。
タロットワーク一族のお忍びは恒例で、王都の民は皆、顔を知っているらしい。それでいて、はしてくれるそうだ。

ゼクスさんも声をかけられれば手を挙げて応え、子供の頭を撫でたりしている。貴族の人達に話しかけられるよりは、割りと気さくに応じているように見える。



「大人気ですね、ゼクスさんたら」

「・・・昔からこうして、町に出ては民と触れ合う事に意味があるのだと仰っては抜け出していたような御方ですので」

「えーと、それをそっと見守るのが仕事だった?」

「そんな事もありましたね。王族でなくなってからはもう少し気楽に出歩けるようになりましたが、この所はあまり外に出る機会は少なくなってきていましたので」



仕事が忙しくなってしまってからは、魔術研究所の周りだけになっていたようだ。ただ、昔から放浪癖ともいうべきお忍び癖を知っている年傘の民は楽しみにしているらしい。

私やセバスの周りにもひと言、ふた言声を掛けてご挨拶をしてくる方もいる。それはきちんと礼にかなっていて不快なものではなかった。



「スマンな、待たせて」

「いえいえ、皆様と交流するのも今宵の醍醐味でしょうから」

「このような機会でもなければ、確かに貴族と触れ合う事などなかろうな。王族アルゼイドにもテラスで手を振る程度はしてもらってもいいかもしれん」

「いいですね、提案してみたらどうですか?祈願祭だけでは勿体ないですよ、王都の方も王族を見る機会が増えていいと思います」



元の世界だと、皇族を見られるのってお正月くらい?
後は視察とかに来てくださった時か。私自身は行ったことがないけれど、テレビで見る分には皆嬉しそうに手を振ったりしていたっけ。私もその場にいたら興奮して手を振るんだろうな。…ミーハー気分?

その場で談笑していると、セバスが『あちらを』とそっと教えてくれる。ふと見れば、お城の人がそっと蛍を離す所だった。
籠からふわり、ふわりと光が放たれる。それはとても幻想的な光景だった。



「・・・綺麗ですね」

「初めて見たが・・・いいものだ」

「コーネリア様が『是非に』と旦那様をお誘いしたのですよ」

「それは光栄だ。ありがとう、コーネリア」

「セバス?私は『3人で』って言ったはずよ?貴方も数に入っているのだから忘れないでね」

「勿論です」



何も口にしなくても。
言葉を交わさなくても。
私達はその光景をずっと見ていた。

互いにその光景に何を思っていたのかはわからない。
でも、そっと盗み見たゼクスさんの顔は、何かを思い出しているかのような顔で。もしかしたら亡くなられた奥様の事を思い出しているのかもしれないな、と思った。

しばしの間、周りの人の喧騒を聞きながら蛍を眺める。
時間にして15分くらいだろうか。ゼクスさんが私の手を引き、城へ向かう。以前と同様、隠し扉をセバスが開き、城内へ。
これ、誰か見てないの?と思いつつ周りを見ると不思議なくらい人はいなかった。



「この辺りは認識阻害の魔法が常時かかっておる。タロットワーク縁の者でなければ入れぬよ」

「それって、この城にある隠し機能、とかですか?」

「そうだな、タロットワークに伝わる情報のうちの一つだ。城に仕える『影』にも教えてある。いざと言う時に王族アルゼイドを守る助けとなるだろう」

「そういう機能っていくつもあります?」

「あるの・・・だろうな。儂も父上よりかなりの事を教えてもらったが。未だ隠された物もあるのだろうな。今回コーネリアが見つけた『隠し部屋』もそのひとつなのだろう」



ネイサム・タロットワークの書斎。
私が勝手にそう命名しているけど、確かにあそこもお城の秘密のひとつよね。行き方は教えたけれど、あまり手を入れて欲しくない事も伝えた。

ゼクスさんも一度確認しに行ってくれたみたいで、その意見に同意してくれた。書物などは確かに興味深い物もあったみたいだけど、大半が魔術研究所で写しのあるものばかりのようで、ここの書棚を荒らす事はないと約束してくれた。

セバスさんがふと、私を振り返る。なぜかじっと見られている。何か変?忘れ物でもしてる?



「・・・ふむ。コサージュも似合っておる」

「あああああああそれですか!?」

「カイナス伯爵も良い趣味をしておるな。ドレスに映える」
「僭越ながら旦那様。私も助言をさせていただきましたので」

「成程。どこかタロットワークの意匠を思わせると思ったらそういう事か。もう少し金を入れても良かったのではないか?」
「仕立て直して着られる事も想定済みです」

「さすがはセバスだの」
「お褒め頂き光栄でございます」



どうやら、この日だけでなく少し仕立て直してデザインを替え、また着られるようにする事を前提としているらしい。
セバス曰く『今回はカイナス伯爵の色を多めにさせて頂きましたが、タロットワーク一族の色をもう少し入れて仕立て直します』との事だ。
夜会用としてではなく、訪問着用にするらしい。

私があんまり新しいドレス作りに乗り気じゃないからですね?だって無駄遣いに見えちゃうんだもの。仕立て直して着れば良くない?と言ったのがいけなかったのかしら?
でもこれも結構気に入ってる…んですけども。まあ夜会に出るのに同じドレスを着るのもどうなんだ、という貴族の嗜みですか?



「コーネリア、カイナス伯爵と婚約してもいいのだぞ?」

「えっ!?いきなりなんです!?」

「コサージュを受け取ったという事はそういう事だろう?それともまだ、せんか」

「・・・諦めて、ませんので」

「ふむ、カイナス伯爵であれば儂は其方が良ければ縁を結んでも構わぬ。今後こちらに残る決断をした場合を考えても、カイナス伯爵家に嫁いでもよいし、逆にカイナス伯爵を『我等タロットワーク』へ迎えても構わんだろう」

「随分、薦めますね?」

「儂は人を見る目はあるつもりでの。は自身に見合わぬ権力に振り回されるような気概の持ち主ではなく、自分の器量というものを知っておる。
たとえ『タロットワーク』の名を冠した所で舞い上がるような痴れ者ではなかろう。そういう男は貴重だからの」
「そうですね、私の見立てでもカイナス伯爵はそのような御仁と見受けます。さすがはクレメンス様の副官をしておられるだけの事はある」

「彼奴もアナスタシアを嫁がせる際にかなり検分させてもらったからの。未だ儂に苦手意識を持っているようだが」
「仕方ないのではありませんか?世が世ならば、クレメンス様は旦那様を『主』としていたのですから」



私の知らないうちに、シオンさんが身辺調査されている…
ていうかエリーがしていた身辺調査の方が驚くほどエグかったけどね。この世界の探偵有能すぎない?それともプライベートがダダ漏れなのかしら。

遠回しに『仲を公認する』なんて言われて少し動揺した私でした。

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