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2度目の夏至祭
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しおりを挟むとてもとても濃かった夏至祭2日目。
もうやり遂げた…!達成感が…!
「はーい、コーネリア様、お風呂からですよー」
「ああああああああついに来てしまったこの日があああああああ」
「さーて、お風呂の後はエステですからね!
安心してください、ちゃーんとご飯の時間もきっちり取ってますからね!」
「往生際が悪いですよコーネリア様。諦めて御用意下さいませ」
私がうだうだしていても、もう慣れたようにターニャとライラがパッパと用意を済ませていく。
お風呂に入れば、湯船にいるうちに手や足、肩のマッサージ。髪を洗ってキレイさっぱり。
上がれば体中にオイルを塗られ、擦り込まれ、パウダーをはたかれ、薄化粧を済まされ、楽な服を着せられてランチ…
「はっ!」
「はーい、ランチですよコーネリア様。
今日はお好きなクラブハウスサンドですよ!」
「いつの間にここに!?」
「なーに言ってるんですかもぉー。食べたらネイルして、お着替えしたらお茶の用意しますからね!今日はこれまでみたいに、向こうでお食事出来ませんからおやつしっかり食べて下さいよ!」
「一応、摘める程度の物は御用意しますが、お時間があるかどうかはわかりませんからね」
てきぱき、てきぱきと用意を済ませられていく私。
ど、どうしよう。シオンさんから貰ったコサージュ…まだ胸に付けるかどうかの心の準備ができてない!!!
『胸に飾るのは求愛を受け入れた証』
そんな事をわかっていて尚、平気な顔して付けられる訳がない!だってだって、シオンさんいつの間にそんなのしれっと用意してるのあの人!子供だからって相手してなかったじゃない!
確かに、シオンさんは魅力的だ。
はっきり言って、好きだ。
しかし!私は本気で彼を受け入れる心構えができていない!
未だ、私は還る方法が見つかればそちらを取るつもりでいる。なのに、彼の想いを受け取っていいのだろうか。残される彼の気持ちは?また自分の元を去られる経験などさせたくはない。
全てをわかった上で受け入れてくれる。
そんな都合のいい人がいるわけがない。
近衛騎士団副団長、カイナス伯爵家当主。エル・エレミアにおいて盤石の地盤がある彼には、いつか消えてしまう私のような汚点を残す訳にはいかないのだ。
「はい、コーネリア様~腕上げてくださ~い」
「もうドレス着てる!!!」
「どれだけぼんやりしてるんですかもう~」
「コーネリア様、あまり思い詰めてはいけませんよ。お好きなようになさいませ。私達はどんな結末でもお支えします」
「ライラ・・・」
「そうですよぅ、コーネリア様?私達は貴方が大好きなんですから。カイナス様に翻弄されてる事もですけど!」
「あばばばばばば」
翻弄!翻弄と来ましたか!
確かにそうだよなあ。こんな風に恋心に振り回されるのは久しぶりだ。ずっと、こんな感覚忘れていたかも。
全てを話す事はできない。
それでも、今だけは、あの人と向き合ってみようか。
この世界で出会って、惹かれた意味があると思いたい。
この出会いを期に、彼にも新しい出会いが生まれるかもしれない事を信じて。私ではないかもしれない、運命の人に出会うきっかけになるかもしれないのだから。
「・・・ありがとう、2人とも」
「ふふ、ようやく笑ってくれましたね、コーネリア様」
「ええ。・・・こちらのコサージュは、如何致しますか?」
このコサージュは、シオンさんの真心。
だったら、これは彼に任せよう。
********************
「コーネリア様、カイナス伯爵がお迎えに参りました」
「ええ、今行きます」
夕刻、日がゆっくりと落ちる時間帯。逢魔が時とでも言うのだろうか。私はゆっくりと部屋を出て、玄関ホールに繋がる階段をゆっくりと降りる。
玄関で待つ、セバスと会話するシオンさん。
セバスに促され、振り返った彼の瞳が私を認めると、甘く彩られた。
・・・くそー!!!なんだあの顔!!!カメラ!カメラ持ってこい誰か!あれ絶対スチルだろ!!!永久保存!!!
「平常心ですよ、コーネリア様」
「合点ですよライラ先生」
後ろから私の荷物…ストールやバッグを持って付いてきてくれているライラが耳打ち。そうだ平常心だ!落ち着け私!
階段をあと数段残す所で、シオンさんが迎えに来てくれる。
私は差し伸べられた手を、手袋越しに軽く掴んだ。その手をキュッと握り返してくれる。あああああときめくー!
「とても・・・お綺麗です、コーネリア姫」
「ありがとうございます、シオンさん。素敵なドレスやアクセサリー、びっくりしました」
「驚かせたかったので、つい」
ふふ、と笑うシオンさん。
あああ、私を見る視線のなんと甘いことよ。
これは気がなくてもフラっと転んじゃうよホント。
セバスが私にストールをふんわり掛け、ライラが持ってきた荷物を受け取り、馬車まで送ってくれた。馬車には先にシオンさんが乗り、私はセバスの手を借りて乗る。中ではシオンさんが手を引いて席に座らせてくれた。ドレスのね、裾がね…
「コーネリア様、あちらでは旦那様がお待ちでございます。私も後からすぐに参りますので」
「ええ、お願いね」
「承りました。カイナス伯爵、では王宮まで当家の姫君のエスコートをお願い致します。くれぐれも馬車では紳士でお願い致しますよ?」
「勿論です、大切に送り届けさせてもらいます」
「では。良き星夜祭を」
恭しく礼をするセバス。
馬車の扉がパタン、と閉まり、私達はしばしの間、2人きりの時間を過ごす事になった。
********************
カタカタカタ、とゆっくりと馬車は王宮へ進む。
今日はたくさんの貴族が王宮での夜会に出席する。そこで私は『コーネリア・タロットワーク』として正式に夜会でデビューする。
これからは『タロットワーク』として生きていく。・・・元の世界へ還るその日まで。
「・・・緊張していますか?」
「しますよそれは・・・もう帰りたいくらいです」
「はは、姫らしいですね」
「シオンさん意地悪です~」
「意地悪は姫もでしょう?・・・俺が贈ったコサージュはお気に召しませんでしたか」
ドッキーーーン!!!ついに来たぁーーー!!!
そうだよね!誤魔化されてくれないよね!
心臓が口から飛び出そうなくらい、動悸が激しい。
私は、そっとセバスが持たせてくれたバッグを開けた。
そこから、コサージュをそっと取り出した。
「・・・えっと。どこから出しました?」
「え?ここからですけど」
「そこに・・・入り・・・ましたか?」
まじまじ、と見るシオンさん。確かに、ボリュームあるコサージュ。クラッチバッグのような小さなバッグだ、普通なら入らない。そう、普通なら。
「あっ。マジックバッグ、ですか」
「そうです。って、あ」
しまった、マジックバッグって貴重品でした。
魔術研究所で試作品でバカスカ作られてるから、私はあんまり貴重品と思えなくなってるけど、よく考えたら一般的に手に入らないお宝でした。
「いえ、今更コーネリア姫の持ち物に普通の品があるわけないですね」
「えっ、これ、そういうんじゃなくてですね!失敗作というか試供品というか!」
「そういう事にしておきましょうか。こうしてコサージュを持ってきてくださったのですから」
はっ!元の話に戻った!
けれど、きちんと話をしなければ。
私の為にも、彼の為にも。
「シオン、さん」
「はい、姫」
「これ、とても嬉しかったです。と、同時に困りました」
「はい」
「私は、子供・・・ですけど。シオンさんが、好き、です。だけど」
「待ってください、コーネリア姫。俺からも話したい事が」
「ごめんなさい、先に言わせてください。卑怯ですが、私の事、お話します。・・・話せる、限り」
シオンさんは、答える代わりに私の手を軽く手に取って握り返してくれる。手袋越しだけれど、温もりを感じる。
彼の目を見るのが怖い。なんて臆病なんだろう、私。
ひとつ深呼吸をして、話し出す。
王宮に着くまでに、どうか。私に、勇気を。
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