異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん

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2度目の夏至祭

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ジリ、ジリ、と互いの距離を縮める僧兵達。
その数20人ほど。ていうかこの部屋これだけ人がいても距離ある程度あるって広いわねえ。



「何呑気に眺めてるのよ、あんたは!」

「おい、あっちが突っ込んできたらチャンスだぞ、抱えてでも逃げろよ?」
「わかっている」



そんな中、私は奥で勝ち誇った笑みを浮かべる大司祭を見る。
やだわー、初老ってほどじゃないのにこんなに野望剥き出しで。でもあっさり負けてやるつもりはない。私は堂々と出ていかなくては。だって悪いことしてないもん!



「・・・仇なす者に戒めを。『捕縛魔法・鎖チェインバインド』」

「ぐあっ!?」
「なっ!」



僧兵の足元に輝く、大きな魔法陣。そこから幾重もの鎖が生まれ、彼等全ての動きを封じた。
あまりの光景に、魔法を食らった僧兵達、大司祭、巫女や神官も言葉が出ない。わなわな、と震える大司教が悲鳴のように声を荒らげた。



「そんな、そんな馬鹿な!ここで神聖魔法以外の魔法が作動するはずが」

「そう、神殿にはそういった機構が組み込まれている。
─────けれど、その魔法を組み込んだのは?」

「なっ!そ、そんな馬鹿な!」



かつて、この国は『魔術の頂点タロットワーク』と呼ばれる一族が興した。

王宮も、神殿も、この王都も。
全ての素地を作り上げたのは、他でもない。
の一族だ。

その一族に名を連ねる私が、神殿で魔法を使えない訳が無い。
異世界人の私だから、その恩恵には与れないと思ったけれど、何がどう作用しているのかわからないが、私にも『タロットワーク』の恩恵があるのだ。
─────『名前を名乗る』というのはそれだけの力があるのかもしれない。魔法という奇跡があるこの世界アースランドには。

これだけでは神殿を無事に出られる保証はない。
だからこそ、今、この時間を使ってする事がある。
覚悟、決めなきゃ。



「セバス」

「はい、コーネリア様」

「『指輪』を」



手を出せば、何処から現れたのかわからない『タロットワークの影セバスチャン』がそっと小さなベルベットの袋を恭しく乗せる。
それを握りしめれば、チャリン、と金属の触れ合う音がした。



「は?どこから、おい」
「セバスチャン殿?」
「えっ、ちょ、何するのよコズエ?」

「─────キャズ、ディーナ、ケリー。貴方達が私を守ってくれると言ってくれて嬉しかった。自分の身を危険に晒してまで、守ってくれるって言ってくれて嬉しかった。
だから、私も、私に出来ることを返します」



緊張する。こんな風に、誰かの命を、人生を背負う決断をする事を。そこまで気負わなくていいのかもしれない。でも私はこの話を聞いてからずっと、勝手に自分を戒めた。
でも今、彼等は私に全てを預けてくれた。だとすれば、私はそれに応える必要があるんだ。



「キャズ・シールケ。
ディーナ・クロフト。
そして、ケリー・クーアン。
─────『タロットワーク』の名において、ここに騎士爵ナイトの称号を授けます。
私の剣となり、盾となり、自らを戒め、『騎士ナイト』の誓いに恥じる事なく、人生を全うする事を誓えますか?」



そう、これが、

王国騎士、近衛騎士、それぞれが神殿と不文律を決めている。だがしかし、王位継承者…取り分け『タロットワークの騎士』となる者はそれに縛られることは無い。

王位継承者がさずける騎士爵ナイトの称号は、爵位とはまた違うもの。身分を示すものでもあるが、その人間の『品位』を認めた証となるものだ。
そして、特に『タロットワークの騎士』となったものは格が違う。この証を持つ者は『魔術の頂点タロットワーク』にその人格を認められたという誉れそのものとなるからだ。

3人は、驚きはしたものの、すぐに私に膝を折った。
特に、ディーナ。彼女の瞳にあるのは、歓喜と、畏敬の念。



「お受け致します、コーネリア姫。不詳、ディーナ・クロフト。貴方様を我が剣の主とできます事、光栄に思います」

「我が剣の全てを、我が主へ。ケリー・クーアン、タロットワークの騎士となる事を誓います」

「騎士でない我が身に誉ある名誉を頂き、心より忠誠と親愛を。キャズ・シールケの名に誓います」

「ありがとう、3人とも。貴方達の人生を縛る事はしません。思うように、自由に生きてください。貴方達が今、私に力を貸してくれるように、私もその為の力となりましょう」



ベルベット袋から指輪を出す。
タロットワークの紋章に、小さな宝石が嵌っている。
ガーネット。私…『コズエ』の誕生石だ。この指輪をしている人が、『私』、コーネリア姫の騎士である事を示す証。

ひとりひとりの指に嵌める。
サムリングとして作ってもらったから、あんまり剣を使う時に邪魔にはならないと思うんだけど。
感慨深げに3人とも眺めている。うん、似合う似合う!



「じゃ、これで一蓮托生ってことで」

「気分ぶち壊さないでよ!」
「せめてもう少し浸らせてくれないか、コズエ・・・」
「まーこれで、ここで暴れてもタロットワークの騎士としてなんとかなるな」

「と、いうよりも。ここで暴れてもお咎めなし、っていう保険だけど?」

「「「は?」」」

「だから。皆は王国騎士とかギルドとかよりも、私の騎士って役目が優先されるわけで。神殿と不可侵結んだのは私じゃないし」

「「「あ」」」

「なので、『私を無事に脱出させる』という大義名分があれば・・・ね?」



にっこり、と私は微笑む。そしてパチン、と指を鳴らせば、キィン!と硬質の音が響いて捕縛魔法・鎖チェインバインドの拘束が溶けた。
解放された僧兵達は、今目の前で起きた事が信じられないと言った様に、身動きが取れない。

そんな彼等に、私は最後通告。
我ながら、いい性格してるわあ~。


「それでは皆様。私の騎士達がお相手しましてよ?お覚悟なさいましね?私、敵となる方にするような慈悲の心を持ち合わせておりませんので」

「ちょ、嘘だろ」
「不味くないか?」
「タロットワークを敵にするのか?大司祭様!」

「ヨハン・グリッシーニ。ここで終わりにするのならば、私に刃を向けた事を不問としましょう。勿論先程言った様に、今回の合同結婚式での騒動に付いてはきちんと判断させてもらいますが」



『どうしますか?』と言外に問いかけた。
しかし、ヨハン大司祭は顔を真っ赤にして怒りを堪えている。あー、これは無理なやつ?まあ強行突破してもいいんだけどさあ。

ディーナやケリーがやる気だしねえ。
1番ヤル気なのはキャズなんだが。割りと…好戦的だよね…

しかし、1番いい所を持っていくのはこの人なのである。



「煩い、煩い煩い!お前達!そのおん…」
「─────我等が主に対し、不遜である。それ以上その醜い言葉を主に向けるのであれば、貴様の命を貰い受けるが、是とするか」

「は、はっ、はっ・・・、ひぃ」

「ヨハン・グリッシーニ、貴様など我等が主の手を汚すに値せぬ」



身を切られるかのような、冷たく鋭く研ぎ澄まされた殺気。
押し殺した声に、震える程の本気を込める。

そう、ヨハン・グリッシーニの背後。
闇から溶けるように姿を現した当代一の『影』が、首筋に薄く鋭利な獲物を添え、静かに問いかける。

周りの僧兵も、その声音に耐え難いものを感じたのだろう。失禁し、震え、腰を抜かす者が続出。カオス、ここに極まれり。



「セバス、その位に」

「は、御意に。・・・よろしいのですか、このような小物をのさばらせておいて」



脳裏に浮かぶのは、堂々としたゼクスさんの姿。
『今後使う時もあるかも知れぬ』と教わった心得。
見た目通りの歳であれば戸惑う事もあっただろうが、私も青臭いことだけを良しとする小娘ではない。
社会に出れば、本音だけでなく建前がないと成立しない事もある。部下に命令するには感情を押し殺す事もある。そう、必要悪とでも言うのだろうか…



「彼にはまだ、使があるのだもの。生きていてくれないと困るわ?後始末を付ける人がいないと」

「そうでしたね、生贄スケープゴートは必要です」

「ええ、レオノーラには神殿を立て直してもらわなくては。・・・ああ、補佐が必要ね?」

「お任せ下さいませ、全てはタロットワークの心のままに」



ゆらり、と陽炎のようにセバスの姿が消える。
あれどうなってんだろ…もうあの人に至っては魔法とかそういうんじゃないんだよホントに。
あんなのに目を付けられたら生きてられないだろうな…



「・・・バケモンだろあの人」

「知らないわよケリー、枕元気をつけてよ」

「やめろ!トリハダ立つわ!」

「さて、帰りましょ。この人達は放置しといていいわよね?」



こくこく、と頷くレオノーラさんと中心とした巫女達と残りの神官たち。私達が部屋を出る時はもう平身低頭で見送られた。

怖いわよねえ、セバスの能力目の当たりにするとねえ。



「んで?俺達どうすりゃいいんだ?」

「え、普通に過ごしてくれればそれで?その指輪も目立つから隠しといてくれていいわよ?」

「いいのかコズエ、いや、コーネリア姫。
騎士ナイトとして側にいるものじゃないのか?」

「うーん、普通はそうなんだろうけど。
私、言ったじゃない?『自由に生きて欲しい』って。
私の護衛は基本的にがしているから、今後私が『コーネリア姫』として外に出ないと行けない時の対外的な護衛としては指名させてもらうかもしれないけど。キャズもそれでいいよね?」

「わかったわ。騎士の2人より私がいい時もあるわよね。その時はギルドに直接打診して。私が『タロットワークの騎士』になった事はギルドマスターに報告しておくから」

「うん、よろしくね。ディーナとケリーもそれでいい?
王国騎士団には、こちらから使者を送って説明してもらうわ。変に気負わなくていいからね」



なんだか納得してないような顔もしているけど、私が皆の覚悟に応えたいと思った形だよ、と説明すればわかってもらえた。

だって皆自分の人生曲げてでも私を守ってくれようとしたんだよ?それに応えないと…ねえ?

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