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2度目の夏至祭
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しおりを挟む「で、私達は帰りたいのですけれど。いつまでそこにいるおつもり?」
「ですが姫、私どもの話もお聞きくださいませ」
「嫌ですわ」
「えっ?」
「ですから、『嫌だ』と申しましたのよ?なんだか疲れてしまったわ。無駄な追いかけっこをさせられて。
・・・グランツ?そこにいるのでしょう?早く私を連れ出してくださいな」
未だに通せんぼをしている神官と巫女達。
関わり合いになるよりも、ここは強行突破である。
ていうか、チンタラしてたら別のややこしい人が現れたら面倒だし。この人達くらいなら私のワガママでどうにかできそうだ。
すぐそこに裏口。恐らくグランツさんは外にいると思う。だって脱出経路は押さえてくれてたのよね?なら何らかの事情で中に入ってこれないようにされている、のかも。
と、思った私は少し声を張り上げ、グランツさんを呼んでみた。いたらいいなあと思いつつ。
すると、裏口の扉付近で少しザワザワした様子が。程なく扉が開き、グランツさんが顔を出した。私を見て、騎士礼を取る。
「お待たせ致しまして申し訳ございません、姫君。こちらへどうぞ。さあ、ご友人の方々も」
「待ちくたびれましてよ?グランツ。でも貴方が迎えに来てくれた事に免じて、どなたが私を待ちぼうけさせたのかは聞かないでおいて差し上げますわ」
「は、有り難き幸せ」
私はグランツさんに恭しく手を取られながらも、通せんぼをしていた彼等を見回す。気が咎めるようで、皆下を向いたままだ。そうそう、そのまま見ないでおいてねー。
私が扉前で手招きし、キャズ、ディーナ、もう1人の近衛騎士さんを呼ぶ。彼等も心得たようにササッと動いて、外へと脱出。
ふう、脱出ミッション成功!
「・・・はあ、助かりましたグランツさん」
「こちらこそ、すみませんでした姫。あそこで待っていたものの、先程の神官達に追い出されてしまいまして。『命令なければ神殿内にあまり入らないように』と釘を刺されましてね。確かに『星姫』の警護で来ていたので、あまり派手には動けず」
「いえいえ、運良くあそこにいてくれて良かったですよ。お姫様芝居もそろそろメッキが剥がれる所でしたし」
「いや、堂々としたものでしたよ。あそこで呼ばれた時は、胸が震えましたので」
お世辞が上手いなあ、シオンさん仕込みなのかなあなどと思いながらグランツさんを見れば、そこには真剣な顔があった。私がハッタリで呼んだに過ぎないのだが、グランツさんに取ってはちょっと感動ものだったようで。
キャズやディーナも『驚いたわ』『よくやった』なんて褒めてはくれたものの。こそばゆい思いをしてしまった…
「さて、姫。神殿からは出ましたが、敷地内を出るまではお気をつけて。ここまでは巫女達も追いかけては来ないでしょう」
「そうですね、さすがに。ありがとうございましたグランツさん。助かりました。フレンさんやシオンさんには今日の事は黙っておいてください、怒られそうなので」
「はは、怒られるなどありませんよ。むしろ変わりたかった、と言うのではないですか?あのような場面で姫に求められるとは、騎士冥利に付きます。できることならば、私が姫の護衛として名乗りを上げたいくらいです」
「また上手いですねー、ではまた機会があればお願いする事にしますねー」
「ではその時を楽しみにしております」
スっと跪き、私の手の甲にキスを落とす。
立ち上がり、私達に騎士礼を取り、また神殿内へと戻って行った。『星姫』の警護まだ終わってないものね。
振り返ると、キャズとディーナがため息を付いていた。
「素敵ねえ、近衛騎士って」
「そうだな、確かに。目標になる。・・・しかしコズエも堂々としたものだ。手に口付けを受けても動揺しないとは」
「そうねえ、確かに。私ならドギマギしちゃうわよ」
「うーん・・・度重なりすぎてもう何も思わなくなったな・・・」
「「大物ね」」
********************
神殿の建物から出たものの、敷地内に出るまでは合同結婚式に出ていた観客の皆様と共に出ないとならない。
かなりの人数だったから、進みは遅い。皆、さっきの祝福魔法は凄かっただの、感想を述べあっていた。
ふと、誘導している騎士に目が止まる。と、向こうの騎士さんも私を見た。すると人波をかき分けてこちらへ来る。え、何?
「あら、ケリーじゃない?」
「本当だな。・・・今日は任務だったのか?予定には入っていなかったはずなんだが」
「えっ、あれ、ケリーなの?」
「コズエ?コズエだろ?」
「わっ」
ふわっと抱きしめられる。長身のイケメンに抱きしめられて美味しいです!じゃない!
ケリーと思しき騎士さんは、私をハグし、それから頭を撫でて来た。そのまま私も見上げる。すると、青年に成長したケリーがそこにいた。
「・・・びっくりした。随分色男になったわね、ケリー」
「まあな?勿体ない事したろ?コズエ」
「ふふ、そうね。久しぶり、元気してた?」
「ああ、今じゃディーナと同じ騎士の一員だ」
周りのご婦人方の視線も痛い。取り分け適齢期のお嬢さんの視線が。私達は端に寄り、少し話をすることに。
「ケリー、今日は非番じゃなかったのか?」
「あん?それがよ、ロイド先輩と変わったんだよ。何でも恋人がどうしても今日一緒に過ごしたいってよ」
「なるほど、それで変わってあげたということか」
「優しいじゃない?ケリー。ま、任務の方が女の子に追いかけられなくて済むものねえ?」
「うるせーな、キャズ。俺だって追いかけられたくてされてねえよ」
「冒険者の中でも噂だもの。町に戻ってきたら、アンタに会いに行くくらいよ?こっちは驚いちゃうわ」
「それでも、ココ最近は減ってんよ。ったくディーナ様々だな」
「それは私も同じだな。ケリー様々と言った所か」
長身のケリー。あれからずっと背が伸びた?180後半はありそう。それでも均整の取れた靱やかな身体付きで、ヒョロリと言うよりも野生のチーターみたいな敏捷さを感じる。ちょっとシオンさんにも似た雰囲気かも。
でもシオンさんが優しげなイケメンならば、ケリーはどこか危ない匂いのするワイルド系だ。もっと歳を重ねればより渋さが増しそう。
それぞれの近況報告のような話をしていると、ケリーと同じ礼服を来た騎士さんが3人ほど、こちらへやってきた。
「おい、クーアン!持ち場を離れるなよ」
「あ、すいません!戻ります」
「ったく、任務サボって女と逢引か?またかよ」
「ん?誰かと思えばクロフトじゃないか。お前もサボりか?いい度胸してんな」
「いえ、私は休暇中です」
「は~ん?休暇、ねえ?」
「新人のくせに一丁前に休暇なんて取ってんなよ。先輩が駆り出されてるの見たら率先して変われよ、当たり前だろ?」
「ったく、期待の新人なんて騒がれてるから調子乗ってんだよ、ちょっと腕が立つからってよ」
「おいクーアン、お前もだがクロフト、任務に戻れよ」
「はい、ですがクロフトは休暇中です、ドノウェさん」
「わかってんだよんなこたぁ。でもここに来たからには仕事して行くのが筋だろ?先輩に代わってよ」
「おー、優しい後輩を持って幸せだねえ俺らは!」
ギャハハハハ、と笑って歩いていく騎士達。
え、何あれ?バカなの?あれでも騎士なの、どうなってんの?
逡巡するディーナに、ケリーは『来ることねえぞ、お前の休暇は隊長に認められてんだ、気にすんな』と言って行ってしまった。
ディーナは迷った顔をして、留まっている。
「キャズさん?アイツら殴っていい?」
「そうね、私もやってやろうかしら」
「おい待て2人共。ダメだそんな事したら。彼等も一応騎士団の先輩だし、それに貴族なんだ。下手に手を出しては大事になる」
ディーナは『ごめん、ちょっと行ってくる。ちゃんと話してくるから』と言って、ケリー達の後を追いかけて行った。
私達の視線の先で、ディーナが彼等に追い付き、何かを言っているようだが取り合ってもらえてない感じ。
や、やーな感じ…。
このまま放っておくのも…ねえ?
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