異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん

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2度目の夏至祭

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夏至祭2日目。
今日は合同結婚式を見に行くつもり。アリシアさんの祝福、結構凄いらしい。去年キャズが見た時感動したのだとか。

朝ごはんを食べながら、他の出店やカフェはどこに行こうかを話していた。すると、通信魔法コールで作られた魔法の鳥が窓から入ってくる。



「ん?」

「あら、通信魔法コールね?誰かしら」
「コズエ宛、だろう?」



通信魔法コールの鳥はスイっと私の元へ。
クロワッサンをかじりながら、私はそれに触れる。



『───おはようございます、コーネリア様。
夏至祭は楽しんでおられますか?アリシアです』

「お、主役からよ」

「何かしらね」
「見に来てください!とかじゃないのか?」

『昨日、キャズさんとディーナさんと楽しんでらしたのを見ました。私も後から少しだけ街を散策したんですよ。
今日のご予定はいかがですか?もし良かったら、合同結婚式を見に来てくださると嬉しいです。私頑張りますので!あ、こっそりとですからね?』

「ディーナの勘が当たりだね」

「・・・これだけ?単なるお誘いの為に『コーネリア姫』に通信魔法コールしてくるとは思えないけど」
「私もキャズと同意見だ。まだ魔法も切れてない」



確かに。通信魔法コールは伝える内容を伝え終われば消えるもの。しかしアリシアさんの飛ばして来た魔法の鳥は、未だ消える気配はない。私達はこの次に聞こえる声に集中する。



「・・・切り忘れ?」

「シッ、静かに」

『もし、もし、なんですけど。

─────お時間があれば、合同結婚式の前に会うことはできますか?私がコーネリア様にお願いをできる立場ではありませんが・・・』



通信魔法コールはそこで切れた。時間切れだったのか、アリシアさんがここまでしか入れなかったのか。
それはどちらかわからないけど、朝早くに私───コーネリア姫に伝えたいことが、これ。何かあると考えるべき?



「・・・キャズ、ディーナ。どう思う?」

「まあ100%厄介事ね」
「私も同じだ。コズエならまだしも、『コーネリア姫』を巻き込むのは些か騎士として気が引けるな」

「でも、コーネリア姫を名指ししたからには、それなりの理由があるんじゃない?・・・かなと」

「そこは断言しなさいよ、そこは」

「いやわかんないじゃん」

「・・・行ってみるか?コズエ」
「ディーナ、ちょっと!」



腕組みして目を伏せていたディーナが、はっきりと口にした。
キャズは慌ててそれを遮ろうとしていた。私は、部屋に控えているライラに目を向ける。彼女は私と目が合うと、ゆっくり一礼して部屋を出た。…セバスを呼びに行くのかな?私がどうするかわかったんだろう。



「ディーナ、いいの?」

「構わないさ、友達に激励に行くだけだろう?」
「ちょっと、ディーナ!何かあったらどうするのよ!」

「その時はその時さ、私達2人で何とかなるだろう?
それに、タロットワークの影が付いてこない訳もない」

「それを期待するのも違うじゃない!」

「そうだな、確かに期待はしちゃいけない。でも万が一『コーネリア姫』を守る手段としては考えておくべきだろう?」

「そうだけど・・・コズエ、あんたはどうしたいの?」



キャズは優しい。なんだかんだと言って、私のさせてくれようとしている。じゃないと『どうしたいの?』なんて言わない。
キャズにとって、誰かに頼るという選択肢は1番ありえない事なのだろう。自業自得、ではないが自分のことは自分で、というのが冒険者の鉄則だ。そこに誰かの助力をアテにする事は考えていない。

たった1年。たった1年のはずなのに、キャズもディーナも成長している。置いていかれているような気がしているのは私だけ?
エリーも、シリス殿下も、アリシアさんも、カークも。会えていないけれど、ドラン、エド、ステュー…皆が自分の道を選び、歩き出している。…私も、成長しなくちゃ…っていうかアラフォーなのに…この差…



「何いきなりどんよりしたのよあんた」

「いや、うん、なんでも・・・
で、私としては行きたいのよね。ほら、友達が激励に行くだけじゃない?」

「あんたわかってるのか知らないけど、今あんまり神殿に近付かない方が賢明よ?明日公になるとはいえ、あんたは王位継承権を持つ『コーネリア姫』なんだから」
「私も、騎士としては止めるべきだと思っている。今神殿はアリシアさんを『聖女』に推す『強硬派』と、現在巫女頭であるレオノーラを推す『保守派』が争っているんだ」



昨日、キャズとディーナから聞いた話。
現在、神殿では大きく2つに分裂して権力争いをしているらしい。

アリシア・マールを『聖女』に推す『強硬派』。
3年連続『星姫』を務める彼女を『聖女』と認定したい者達の集まり。これまでの神殿の在り方を否定し、もっと門戸を開くべきだという考えの人が多い。

かたや、現在巫女頭を務めるレオノーラ嬢を『聖女』に推す『保守派』。
女神の御力たる神聖魔法を使うのは幼き頃から神殿に属し、清らかなる心と身体をもつ敬虔な乙女が『聖女』となるべきである、という考えの持ち主が多い。

『聖女』はずっといるものではなくて、いない時代もあったのだそうだ。けれど、稀に強い聖属性の魔力を持った者が産まれ、巫女として神殿でたくさんの人に癒しを与える存在がいる。その巫女を『聖女』と呼び、信者の心に安定を与え癒しを行う…と。



「『聖女』ってそんなすごいの」

「そうなんじゃない?なんでも完全治癒魔法リザレクションも使えるほどの高い力の持ち主らしいわよ?
・・・私そんな魔法使う人に心当たりあんだけどね」

「うぐっ」

「まあその子はどう見ても『聖女』っていう感じじゃないから公にしたりしないけどね?・・・あらどうしたのコズエ?」

「キャズ・・・ひどい・・・」

「どこがひどいってのよ?私、冒険者ギルドで働き出して、色んな冒険者のヒーラー見てきたけど驚いたわ。ていうかあんたホントに規格外っていうか」

「あっ、頭痛が痛いっ」

「まあまあ、キャズ。コズエがどこかおかしいのは元々わかっていただろう?そこまで言わなくても、キャズだってかなり規格外だと思うぞ?」
「あら、私はちょっと器用なだけじゃない?この子に比べたら」



2人とも、ナチュラルに傷を抉ってきている…!

だけど、神殿はやっぱりアリシアさんを重要視していたんだろう。
後天的に聖属性を授かったアリシアさん。もうそれだけでもかなり『聖女』認定されちゃいそうな奇跡扱いなのかも。しかもかなり優秀だし。話によると巫女頭さん以上に素養あるみたいだし。

ここで『聖女』認定することで神殿に縛り付けておきたい、という事なのか…

なんだかんだ嫌がっていたキャズも、渋々と出掛ける用意をする。
…なぜ、ナイフのチェックをしていますか?キャズさん?別にカチコミかける訳ではありませんよ?
それにディーナ?その長剣は持っていけないよ?わかってるよね?ダメだからね?



「コーネリア様」

「セバス」

「あまりご無理なさいませんよう。本日は私が付いて行きます」

「えっ?セバス自ら?」

「何かがあってはいけませんからね。コーネリア様、明日の星夜祭までは『コズエ』様でいる事を容認しましたが、いざと言う時は『コーネリア』様でいる事を優先してください」

「・・・神殿って、そんなに?」

「外部の権力を受け入れない場所です。ですが『タロットワーク』の名は違います。ご自身に危険を感じた時は躊躇せずに身分を明かしてください。もちろん私もすぐに入ります」

「わかったわ。でも一応言っておくけど、私は友達としてアリシアさんの激励に行くだけだからね?ホントよ?」

「コーネリア様、そういうの『フラグ』って言うって言ってませんでしたっけ?」
「ターニャ、それは口に出してはいけないことですよ」

「待って、ホントにフラグ立てるの止めて」

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