異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん

文字の大きさ
上 下
135 / 158
2度目の夏至祭

158

しおりを挟む


ついに来てしまった、夏至祭。

例年通り、1日目は『星姫』のパレード、2日目は合同結婚式、そして3日目最終日が王宮で夜会のある星夜祭である。



「キャズ!久しぶり!」

「コー・・・、っ、コズエ、久しぶり!」

「今何で詰まったの?」

「そりゃそうでしょ?有名よ、『コーネリア姫』?」



さすがは冒険者ギルドのルーキー。キャズはギルドの職員をしながら、冒険者稼業もしているそうだ。
ギルドの職員とはいえ、一定の腕っ節がないとやってられないらしい。討伐なんかにも加わるそうだから。



「キャズさん、わかってるねー、その格好」

「派手すぎる?これでも他の冒険者よりは地味なのよ」

「いやいや、そのミニスカ具合がいいわよね」

「あんた言うことオッサンね」



この夏至祭の2日間だけ私は『コーネリア姫』ではなく『コズエ』だ。
2日後の星夜祭で、私は正式に『コーネリア・タロットワーク』として社交界にお目見えする。
そこからはこうしてお忍びはできても、『コズエ・ヤマグチ』という一般市民として振舞うことは難しいだろう。

だからせめてもの時間として、今日と明日。
キャズやディーナと過ごすこの2日だけは『コズエ・ヤマグチ』として過ごす事を許された。
…残念ながら、ドロシーとメグは都合が付かず。

他の街から来てくれたキャズと、王国騎士団に所属するディーナだけは王都で落ち合うことになっている。

ちなみに今日は、2人ともタロットワーク別邸にお泊まりである。この空白の1年の事を報告し合うのに、1晩かけても足りないかもね。



「・・・ねぇ、護衛とか大丈夫なの?」

「えっ?キャズとディーナいるじゃない」

「さすがに、本職が来たら守りきれないわよ?
自分の腕にそこそこ自信はあるけど、自惚れる程じゃないんだから」

「平気平気、どうせんだろうから」

「・・・そうよね」



いるかどうかなんてわからないけど、多分前と同じようにターニャかライラがくっついて来ているはずだ。

広場で場所取りをしていれば、人波を掻き分けてディーナが来た。
長い髪をポニーテールにして、動きやすそうな私服。



「ディーナ、こっちよ」
「久しぶりー、ディーナ」

「コーネ、コズエ!キャズ!」

「危ないわね」
「私より危ないわ」



ツルッと言ってしまいそうだったのでは。
ディーナはギリギリ名前を呼ばず、私を『コズエ』と呼んだ。こんな所で呼んでも気づかれやしないと思うけどね。
『コーネリア』なんて名前そこらにいるんじゃない?



「危なかったな」

「ホントよ全く!ヒヤっとしちゃったわ」



キャズとディーナは、お互いに頻繁に連絡を取り合っているらしい。冒険者ギルド職員のキャズ。王国騎士団のディーナ。ギルドと王国騎士団はあまり仲が良くないみたいだけど、本人達には関係ない。王都周りの魔獣の出没情報だとか、そういう差し支えのない類いの情報交換をしているみたい。

ディーナは私の方を向き、やんわりと抱擁してくれた。



「久しぶりだ、コズエ。元気そうで何より」

「久しぶりね、ディーナ。連絡しなくてゴメンね」

「いや、仕方ないだろう。コズエもたいへんだろうからな。とはいえ、私から訪ねることもできなくて済まないな」



なんて紳士なの、ディーナ。こういう所は変わりないなあ。
私とキャズ、ディーナの3人で話に花を咲かせながら、星姫の山車が来るのを待つ。



「今年もアリシアさんが『星姫』とはねえ」

「さすがに3年連続とは思わなかったな。今年はもう1人神殿の巫女頭が『星姫』らしいよ」

「へえ、巫女頭って、巫女さんのトップよね?
前は3人いたけど、今年は2人なの?」

「去年もそうだったわ。もう1人選べるんだけど、あの2人と並べると見劣りするのよ。2日目に合同結婚式あるじゃない?『星姫』はあそこで『祝福魔法ブレス』を使うんだけど、ね」

「去年も3人選ばれてはいたんだよコズエ。でもリハーサルでバランスが取れなくて、最終的にアリシアさんと巫女頭だけで行ったんだ」

「それにしてもよ?ホントかしらね『聖女』認定の話」

「神殿上層部がかなり推してるらしい。反対派もいるようだけど、押し切られるだろうというのがの見解だ」

もよ。ま、仕方ないのかもね」

「え、ちょっと、2人だけで盛り上がらないでよ」

「あんたって平和よねえ」
「それだけ重要視されているって事じゃないのか?キャズ」



2人…めっちゃ…仲良くない…?
アイコンタクトで意思疎通ができるっていうのは…なんですか?相棒バディなんですか?

そこんとこ詳しく、と食い下がろうとしていると、周りからわあっ!と歓声が上がった。道の向こう、『星姫』が乗った山車がやってくる。



「あー、来た来た!この話は後にしましょ!」
「そうだな、楽しまないとな!」

「・・・そうよね、アリシアさんかわいいわー」



おもいっきり話を逸らした感。
いいやもう、夜にでも聞いておこう。

目の前の道を、ゆっくりと山車が引かれてくる。
警備には王国騎士団の人が立ち、道に観客が溢れてこないようにしている。

『星姫さまー!』
『巫女様ー!』

と歓声が飛ぶ。2台の山車はゆっくりと進み、上に乗った『星姫』が花のコサージュを撒く。それは壮大なフラワーシャワー。これは前と変わらないわね。

アリシアさんが先に来て、後ろから巫女頭様だろう。銀髪を結い上げた女性がにこやかに手を振り、花を撒いていた。

アリシアさんはまたも私達に大量の花を巻き、手がちぎれるほど振りまくっていた。大丈夫か、あの子。



「変わらないわねえ、毎年ああよ」
「それが彼女のいい所でもあるんじゃないか?」

「ふふ、またこれ持って帰ろうか。お風呂に浮かべましょ」



********************



その夜は、持ち帰った花をお風呂に散らし、贅沢なフラワーバスを楽しんだ。

キャズとディーナには客室を用意し、そこに3つベッドを入れてもらって私も一緒に寝ることにした。

寝る、とはいえ、3人で長いことお互いの事に付いて語り合った。

私が学園を去り、蓬琳皇国へ行ってからの学園の事。
アリシアさんの頑張りや、周りの状況。
キャズやディーナ、ドロシーやメグのそれぞれの進路について。



「私は2年で卒業して、冒険者ギルドで働くって決めていたからね。そんなに迷いもしなかったわ」

「私もそうだな。領地に帰ることも考えたんだが、王国騎士団に入って自分の力を試してみたかったし。女性で近衛騎士団に入る人もいると聞くし、数年は機会を伺うつもりだよ」

「ディーナなら入れそうね。確か3年目くらいで入団試験が受けられるって聞いたよ?」

「確かにディーナなら入れそうよね」

「ふふ、頑張ってみるさ。キャズもかなり早く昇格してるって聞くぞ?もうD級ライセンスを取ったんだろう?」



冒険者ギルドは実力性。キャズは職員として働くだけじゃなくて、クエストをこなしてライセンスも取っている。どこまで行くつもりなのやら。



「まあ、地道にコツコツとね。とはいえ、ここからが狭き道だから踏ん張りどころよね。両方できるスーパーウーマンを目指すわ!
そして、憧れの『獅子王様』に会うんだから!」

「えっ、誰それ」

「はあ!?あんた知らないの?・・・ってそうよね、コズエだもんね」
「コズエ、『獅子王』っていうのはS級冒険者の1人なんだ。キャズはずっとその人に追い付きたくて頑張ってるんだよ」

「そうなの?」

「私の初恋の人なのよ!あの人と一緒に冒険するのが目標なの」



キャズの初恋。なんでも12歳位の頃に、盗賊に襲われていたのを助けてもらったらしい。馬車で移動していたけれど、街道の途中で盗賊の襲撃にあったのだそうな。

危なく連れ去られるところを、これまた通りかかった『獅子王』に助けられて事なきを得たらしい。

キャズ…君もテンプレな物語のヒロインだったとは…
しかしその人の話をするキャズの可愛らしい事よ。
それなら、学園で他の男子生徒に見向きもしなかったはすだ。
もう心に決めた『王子様』がいたんだものね。

夜遅くまで私達はお喋りし、眠りについた。
ああ、学園に行ってよかったな。かけがえのない友人を得た事は、本当に宝物だと思う。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る

拓海のり
ファンタジー
 階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。  頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。  破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。  ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。  タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。 完結しました。ありがとうございました。

処理中です...