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留学帰国後 〜王宮編〜
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しおりを挟むあれから2週間後。エリーからお茶に誘われた私は、王宮へ。
いつも通り、エリーのプライベートスペースにて2人だけのお茶会だ。
「そうそう、変わった侍女のことなんですけど」
「ん?ああ、あの子ね」
「ええ、どうやらオリヴァー様と恋仲のようですわ」
「えっ!?」
すごいぞ、マリーベルさん。あれから2週間しか経ってないのにもう恋仲だと!?さすがはやり込んでいる!
エリーの話だと、女性に対して興味がなさそうなドランが、彼女とは柔らかい表情で話しているとか。
休日に王都で2人を見かけた、というメイドもいるらしく、これはどうやら順調に逢瀬を重ねているそうで…
「オリヴァー様も婚約者をお決めになる歳ですものね。お父上のドラン公爵も気にしていたはずですわ。ご長男には既に奥様がいますけど、次男のオリヴァー様にはこれまで婚約者の影もありませんでしたもの。まあ、王国騎士団に入られていますし、今すぐに婚姻を結ぶ事はないでしょうけど」
「騎士になっていると、結婚て難しいの?」
「そんなことはありませんわよ?けれど、皆様ご自分の腕をためしたいという方が多いものですから、婚約はしても婚姻を結ぶのは遅くなる傾向がありますわね。
新人のうちはご家庭や恋よりも、自らの騎士としての地盤を作らなければと思うようですわ」
「んー、まあそうなのかも。うっかりしたら置いていかれてしまうものね、同僚達に」
「お相手のあの彼女も、王宮に行儀見習いとして上がった令嬢ですもの。伯爵家の出のようですけれど、私付きとなっていますし、まあオリヴァー様と一緒になるには問題ありませんでしょう」
ああ良かった。彼女はこのままいけば幸せになれそうだ。
シリス殿下も、エリー曰く最近共にお茶をする事も増えたらしい。そこで、私に告白したけど振られたよ、という話もしたそうだ。エリーはそれについて何も聞かなかった。
これよ、これ。この器の広さ。
エリーには叶わないなって思う。
幸せになって欲しい、シリス殿下も、エリーも。
********************
エリーの部屋から書庫に向かいながら、遠回りをして絵画を見て回る。皆、成長してるのよね。私だけか、なんだか空回りしてるの。
絵を見つける度に立ち止まり、タイトルを探す。
大抵、額縁の側にプレートがあって、タイトルが書いてある。
「ふーん、『暁』かあ。確かに暁と言われれば、そう見えなくもな・・・い・・・」
1人呟けば、何かが脳内をよぎる。
ん?これ、何だ?何かが引っかかった。最近、こんなフレーズどこかで見たっけ?
何か喉に引っかかるような、後ろ髪を引かれる感覚。
そう思いながらも、次の絵を廊下の奥に見つけ、そちらへ歩く。
次の絵はまたさっきとタッチが違う。タイトルは『岸辺』。
手前の階段ホールの所にも絵があるので、そちらも見る。こちらの絵のタイトルは『金色の野』。
その時、パズルがはまるような感覚が襲う。
「───『金色の野』?
そうか、『暁』!あれってもしかして、こういう事!?」
『暁より、金色の野へ
蒼き空を見上げ、祈りを捧げよ
朝日の如く、暗きを照らせ
今ぞ産まれし、主を讃えよ
いざや、知識の扉は開かれん』
タロットワークの魔法書の外表紙から出てきた、謎のポエムが書かれた紙切れ。蓬琳で見つけたあの紋様の書かれた紙と似ていた。
同じくらいの時期に書かれたもの、とは思っていたけど。まさかあれって繋がっているの?
階段を掛け下りる。
次の『蒼き空』は多分『祈りの鐘』へ向かう鐘楼に繋がる階段ホール!ドレスの裾をたくし上げ、誰も見ていない事を祈って急ぐ。
階段ホールに付き、見上げれば、天井には『蒼き空』と言わんばかりのフレスコ画。タイトルは?と思って辺りを探す。
「あ、あった・・・!」
窓の近く、カーテンに隠れるようにタイトルプレート。
そこには間違いなく、『蒼き空』と書いてあった。
じゃあ次の『祈りを捧げよ』っていうのは?
何処かに絵がある?それとも『祈りの鐘』そのものの事?
私は息を整えながら考える。この階段を登ると、鐘楼に上がっていくはずだ。前に祈願祭で登った時はそうだった。
何か絵があったっけ?記憶を辿りながら、私はゆっくりと階段を登った。ああ、足が疲れる・・・
螺旋になっている階段を、地道に登り続ける。
『祈りの鐘』がある場所は入れないかもしれないけど、近くまでは行けるかな?
そう思いながら階段を登り続けると、一旦広い踊り場に出た。
そうか、確か休むための小部屋があったよね?
ちょっとそこで休憩しよう。この先はちょっと入るの躊躇っちゃうし・・・
私は側にある小部屋へと入った。
─────そう、あとから考えればおかしかったのだ。
何故、あそこに誰も見張りがいなかったのか。
『祈りの鐘』は国宝クラスの魔道具のはずだ。誰も警備に立たないはずが無いのだから。
そして、あの小部屋にも、だ。
どうして鍵がかかっていなかったのか。
普通、これだけ広大な城なのだ、使っていない部屋があったとしてもなんら不思議はない。
ただし、施錠くらいはしてあるはずだ、いくらなんでも。
けれど、あの時、あそこには誰も警備はいなかったし、小部屋にも鍵なんてかかっていなかった。
私は、来るべくして行ったのだ、あの場所に。
********************
「はぁ、休める・・・さすがにあの階段はつらい」
どでん、とソファに身を沈める。
はあ~、とため息をついて見た正面に、絵が。でもそれは花の絵だった。が、しかし。なにか置いてある。
よく見ると、暖炉の上に『祈りを捧げる女性』の置物があった。
「嘘でしょ・・・まさか、あれがそうじゃないわよね」
ソファから身を起こすのも億劫だ。
私はゆっくりと立ち上がり、置物のところへ行き、確かめる。陶器か何かで作ってある、女性像。
大きさは500ミリのペットボトルくらい。
「・・・で?『今ぞ産まれし、主を讃えよ』だっけ?
ここから何をすればいいわけ?さすがにネタ切れなんですけど」
ポエムの続きを呟きながらも、『あ、忘れてる一文あるな』と思い出す。確か『朝日の如く、暗きを照らせ』だっけ。
…うーん、思いつく範囲だと、照明魔法か、閃光魔法の二択…
この部屋は灯りを付けてないから薄暗い。
それでも天窓から陽光が少し差し込むため、ある程度の明るさはある。これって、夜じゃないと効き目ない?
「ん~、『照明魔法』」
………、特に何も起きません。
そのまま『閃光魔法』も唱えたけど、ペカッと光ってそれだけ。
どーすりゃええねん。もう無理だから。
「あ~もう、この次の『主を讃えよ』あたりに絡んで来るわけ?だとするとそういう何かがある所で、どっちかの魔法を使ったら扉が開くの?ていうかそれって隠し部屋かなんかなの?」
ブツブツ大きな独り言を呟きながらも、暖炉の前を行ったり来たりする私。しかしこの暖炉大きいわね?よくある海外のリビングにあるやつよこれ。サンタさんはここから降りてくるわけ?
もうどうでもよくなってきた私は、床に置物を置き(実はずっと持ってました)、しゃがみこんで暖炉の奥にずりずり前進して上を覗く。
うーん?暖炉の上って煙突になってないの?空が見えたりしないの?塞いであるのかしら、もしかして。
でもうっすら明るいから、締め切られている訳では無いのかな?
よっこいしょ、と立ってみると意外と広さがある。
暖炉ってこんなふうになってるのね。
と、目の前の壁を触ってみれば、ざらりとした感触。そう、何かが掘ってあるかのような…
「えっ?・・・これって、魔法陣?」
暗い暖炉の中、振り返る。裏側の壁をなぞれば、そこにも何か掘られていた。擦ってみれば、つるりとした感触のタイルが嵌め込まれているみたい。
「み、見えない。よし、『照明魔法』」
ぽわ、と明るく照らす光。
その灯りの元、手元を見ると、そこには絵の着いたタイルがあった。
「これって、聖母・・・マリア?」
美術の教科書や、美術館。ネットで見た事のある絵。
聖母マリアが赤ん坊…イエス・キリストを抱いている姿。ていうかなんでこれがここに?
…まさか、これが『今ぞ産まれし、主を讃えよ』?
ということは?ここで『朝日の如く、暗きを照らせ』?
照明魔法、使ってますけど?
私は気づいていなかった。私の足元、そこに魔法陣が現れていることに。
はっと気付いて、足元を見た瞬間、魔法陣の紋様が立体的になり、私を包む。
「そうくるかぁーーー!?」
ぎゅっと目を閉じる。フリーフォールのような浮遊感。
あーやだ、何か捕まるものを!!!
その感覚が止んだ時、私は知らない部屋にいた。
そこは、6畳ほどの広さ。
天井は高く、上に照明が下がっている。とはいえ、充分な灯りではないが、この静かな隠し部屋には似合いだった。
「本当に、扉、開いちゃったって事・・・?」
恐る恐る、辺りを見渡す。
小さな机と、椅子。上にはランタンが置いてあった。
私はランタンを開き、そこにさっきから手の上にあった照明魔法の光を入れる。これで灯り確保、と。
机の上には何も無く、触っても埃が積もってもいない。
不思議だなあと思い、引き出しを開ける。
そこには、1冊の本と、メモがあった。
メモにはこう書いてあった。
『この地へ辿り着いた遥かな未来の誰かへ。
願わくば、この手記を私の家族へ』
「うそ、でしょ─────」
メモには、人の名前が書かれていた。
『ネイサム・タロットワーク』と─────
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