異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん

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留学帰国後 〜王宮編〜

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私がマリーベルに連れ込まれた部屋は、使用人達の休憩室だったようで、マリーベルはさっさとお茶を入れてくれた。手早い。



「わ、ありがとう」

「ううん、気にしないで!私、この世界ではもう7年は先輩だしね!貴方はいつからこっちに来ちゃったの?帰れるの?」

「えっと、1年くらいかな?なんとか伝手を辿って王宮に仕事に来て。帰る方法はわからなくて、探してる」

「そっか・・・何か手伝える事があればいいんだけど。そうだ、ここがどんな所かって知ってる?」

「え、知らないわ。マリーベルさんは知ってるの?」

「うん、ここはね「STELLA  DREAM」っていう乙女ゲームの中よ。と言っても本編じゃなくてファンディスク。第2弾のゲームの中っぽいわ。ヒロインのアリシアが既に星姫になってるし」

「そっ、そうなのね」



ヤバい!やっぱり乙女ゲーだったのね!しかもこの子詳しい!めっちゃやり込んでたタイプとか!?
これはしっかり聞いておかねばなるまい…!

ちょっと話を向けると、マリーベルは嬉嬉として色んなことを教えてくれた。こういう話ができる人がいなかったというのもあるかもしれない。



「私はね、『木野  桃子』っていうの。17歳で死んだみたい。車が突っ込んできたのは覚えてる。で、気がついたら水の中よ。ドレスが水を吸って重くてね。泳ごうとしても浮かなくて参ったわ」

「えっ、それでどうしたの」

「やだ、助かったに決まってるじゃない?ここにこうしているんだし。その時近くにいた庭師に助けてもらったの。一応伯爵令嬢なのよ、三女だけど。ここには礼儀見習いとして来たの。王太子妃付きの侍女を募集していたからね。
私、このゲームが好きでね。アリシアでプレイしていた時の推しがナル様なの。知ってる?」

「ご、ごめんね、そのゲーム・・・ステラドリームだっけ?やった事はないの」

「そっかー、残念。でね、かなりやり込んで・・・カーク王子も素敵だけどね!やっぱり私の推しはナル様なの。彼がデレてくれるのがたまらなく好きで!」

「えっ、で、ここはそのゲームの中・・・なのよね?」

「うん、そうよ。でも第1弾じゃなくって、ファンディスクの方だと思うわ。だってシリス王子の婚約イベント起きてるものね。
シリス王子ルートだと、エリザベスを蹴落として王太子妃を目指すのよ。でもすっごい難しくてね。
ファンディスクはね、自分が王宮の侍女として働いて、他の攻略対象者と好感度を上げていって、ハッピーエンドになるの。
ナル様を出すには、まずカーク王子の好感度を上げると出会えるのよ。私、今、そこを頑張ってるの!」



どうやら、生粋のドランルートを目指しているようだ。
うーんと?これ放っておいても実害なさそうだな…?異世界転移ならば一緒に帰る方法を探すとかあるけど、この子の場合は異世界転生だものね。こちらの人間ではある。
…ちょっと別の知識あるけれど、そこまで悪用しそうではないし、これは好きなようにさせてみても。

それとなくカーク王子に協力してもらってもいいかもな。私が異世界人だと知っている貴重な人物だ。まあ、マリーベル自体は無害そうだし、ドランを落とすも落とさないも彼女の手腕だろうから頑張ってもらおう。

ここでシリス殿下狙いだとか、カーク殿下狙いだとすると困った事になるけど、ドランならば問題ないだろう。

私は話を終え、『お互い頑張ろうね』と励ましあって別れた。
彼女の姿が廊下の向こうに消えてから、オリアナを呼ぶと心得ていたかのようにまたドレスに着替えさせてくれた。



「オリアナ、聞いていた?」

「はい、全て。泳がせてはいましたが、特にエリザベス様に危害を加えるわけでもなく、両殿下に対してもさほど失礼な振る舞いをしてはおりませんでしたので自由にさせておりました。今後は如何致しますか」

「そうね、彼女自体は悪い人ではなさそうね。
事が大きくなるようであれば問題だけれど、心配はいらないんじゃないかしら」

「かしこまりました、エリザベス様にもお伝えします」



ふう、と一息ついて書庫へ戻ろうとすると、カーク殿下に出会った。向こうも私と会うとは思っていなかったようで、驚いていた。



「なっ!?・・・驚いたな、コーネリア姫、か?」

「あら、久しぶりですわね、カーク殿下」

「・・・やめてくれその言葉遣い。俺の前ではナシで頼む」

「仕方ないわね、慣れてちょうだいよ。私だって頑張ってるんだから」

「書庫か?マメだな」

「やる事があるからね。カークは学園はどうしたの」

「今はあまり行ってない。週の半分は城に戻って、兄上の仕事を手伝っているんだ。俺にしか出来ないことをな」

「・・・成長したわね、カーク。シリス殿下もそう言っていたわよ」

「そうか?兄上ばかりに責務を負わせるのもな。
王子であるうちに、手伝える事はやらないと。学園を卒業したら、数年後には臣籍降下するつもりなんだ」

「覚悟を決めたのね、カーク?」

「ああ。王族を離れ、臣下に下る。そうすればアリシアを娶るにも大義名分がいらなくなるだろう?王族に嫁ぐよりも、まだ公爵位の方がいいだろうし。『星姫』としての実績があるから、問題は少ないからな」



『アリシアさんを娶る』とはっきり言葉にしたカーク。1年前は恋というものに戸惑い、決められなかった少年が、キッパリと愛する人と共に生きていくと宣言した。

ああ本当に、この1年って大きいものなのね。



「なんだよ、その顔」

「ううん?カーク、格好よくなったなと思って」

「なっ、何を言ってるんだお前は!男に向かって堂々とそんな告白じみた事を言うな!」

「は?貴方こそさっき私になんて言ったかわかってる?
『アリシアを娶る』って言ったのよ?驚いたわよ堂々とした嫁宣言に」

「っ!!!」



ばっ!と口元を抑えたカーク。頬も赤い。
嘘でしょ、まさかあれって無意識だったの…?自覚なしかコノヤロウ!怖いわー!無自覚の告白宣言!



「カーク・・・見直したのに・・・」

「わっ、忘れてくれ!今すぐに!」

「無理でしょ」

「まだ、アリシアにも言ってないんだよ、頼む」

「おいおいヘタレっぷりは相変わらずか」

「うるせぇな!仕方ないだろ!いつもいつもアリシアと会うと何かと邪魔してくる奴がいるんだよ!」

「何?男?恋敵ライバル?」

「あー、まあ、学園では男だが。神殿に行った時にアリシアと話していると決まって神殿の巫女が邪魔しに来るんだ」

「へえ」

「なんでも『聖女』候補だとかなんとか。アリシアも最近騒がれてて、『聖女』だなんだと祭り上げられそうで困ってる。
色々と手を回して、その話を立ち消えさせているんだが」



やるなあカーク。ヘタレかと思っていたけど、政治的な事もするようになってきたのね。シリス殿下の薫陶の賜物かしら。

書庫まで歩きながら、そんな話をしていた。
途中、王宮の中にはいくつも素晴らしい絵が飾られていて、私はふと目を止める。そんな私につられ、カークも絵を見上げた。



「どうかしたか?」

「王宮って素敵な絵が所々に飾られていていいわよね」

「まあ、ずっと昔からあるものも多いからな。子供の頃からあって、変わらない絵もあるし、取り替えられている場所もあるぞ」

「へえ、そうなの」

「俺の気に入りは、あそこだな。『鐘』のある鐘楼に続く階段の間。あそこの天井の絵は凄い。見ていて飽きない。よくもあんな所に素晴らしい絵を描いたもんだと思うよ」

「ああ、あれね。素敵よね。ただ眺めるには首が痛いけど」



『祈りの鐘』に続く階段のある手前のホール。
そこの天井には、いわゆるフレスコ画が書かれている。
青空と、天使の絵。大きな大聖堂なんかだとありそうなものだが、何故かそこに描かれていた。鳴き龍みたいのはないけどね。

カーク曰く『城の絵には全部に作品名が付いていて、それを見るのも面白いぞ』との事。

なるほど、今度の息抜きはそれを探しに行くのもおもしろいかも。

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