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留学帰国後 〜王宮編〜
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しおりを挟む蓬琳皇国から戻ってきて早3ヶ月。
この間、別に私は遊んでいた訳ではない。
蓬琳で読んだ本の記録、書き写して来たものなどを再度読み返し、こちらでどの部分を更に探していくべきかをタロットワーク邸で読み分けていた。
蓬琳では、実に十数人の異世界人がいたようだ。
とはいえ、全てが記録を書き残している訳ではなく、この世界の人が『異世界人』の事を書き残したものなどから推測した結果だ。
数人に至っては、書き残された記録もあったが、全てが日本人ではなかったようで、英語やフランス語?らしき記載もあった。
フランス語?と思ったのは、残念ながら私にフランス語を理解できる知識がなかったから。なんとなく、スペルの感じからフランス語かな?と思っただけ。
英語に至っては、読めばするものの、意味がわからない。どうして私は学生の時にもっと真剣に英語の勉強をしなかったのか…?理由は簡単です、日本から出ることないからいいやー!って思っていたからですー!でもたった今困ってるー!!!
「あーくそ、自分の頭のポンコツ加減が悔しい」
「何を言っておいでですか。これ程までに勤勉な御方を見るのは初めてですよ、コーネリア様」
「セバス、ありがとう」
部屋にお茶を持ってきてくれたセバス。…なんとかさん付けせずに呼べるようになった。ついポロッと出ちゃう時もあるけれど。
セバスは私の机にある書物やら描き散らかしたメモを眺めながら言う。
「異世界人とは、不思議なものですね。これ程までに多種多様な知識を持っているとは思いも寄りませんでした」
「そうかしら?こちらの世界でも物知りな方はいるでしょう?」
「コーネリア様、貴方は算学だけでなく、雑学やその他の政治的な知識、様々なものにまで造形が深くいらっしゃいます。
こちらではそのような方を『賢者』と呼ぶのですよ?」
「やめてくださいよ、そんな大それた知識じゃありませんから」
私の知る知識なんて、地球で生きる人間ならば大半が知っているようなものに過ぎない。しかしこちらでは学問に様々な制限がかかってるので、私と同じような知識を蓄えた女性などいない。
怖いわ、本当に向こうの知識をフル活用したら、産業革命とか起きちゃうんじゃない?チートってやつ?
残念な事に、私はそこまでメタ知識の持ち主ではないから、そんな事できないけど。精々美味しいもの食べたくてなんとかこちらにあるもので同じような味を再現してるけど、1から作れと言われたら無理。
「あ、そういえば、エリーの侍女に変わった子がいるといっていたじゃない?あれってどうなったの?」
「ああ、その事ですか。オリアナ曰く、エリザベス様に大変失礼な態度を当初取っていたようなのですが、すぐに落ち着いたそうですね。何度かシリス様にも接近していたと聞きます」
「えっ・・・それって大丈夫なの?」
「何やらエリザベス様が面白がって、コホン。興味を抱いたようで、色々と泳がせているようですね」
エリー・・・貴方、遊んでるわね?
しかしまあ、その彼女、やっぱり異世界人なのかしら。転移?それとも異世界転生とか?
ちょっと興味もあるし、王宮内の書庫にも本を探しに行きたいので、私は王宮へ行くことにした。
********************
ダンを護衛にしてもらい、王宮へ。
護衛といっても、王宮までの話。馬車を降りたらダンは1度邸へ戻ってしまう。私が書庫に行くと長いの知ってるからね。
「ではコーネリア様、お帰りの時は通信魔法でお呼びくださいませ」
「ええ、ありがとう。帰る時に呼ぶわね」
「では、オリアナ殿、頼みます」
「心得ました、コーネリア様の事はおまかせください」
王宮へ来ると、いつもオリアナが迎えに来てくれる。
多分セバスさんが連絡をしているんだろうな。他にも数名、タロットワークお抱え侍女や侍従さんを紹介されたけれど、基本的にオリアナが私に付いていてくれる。
最初はエリー担当の侍女なのかと思っていたけれど、オリアナは『影』直属の侍女だという事だ。
つまり、タロットワーク別邸でいうターニャやライラと同じ。要人護衛もこなし、諜報活動もし、侍女の役目もする。
…多分侍女の役目は取ってつけたもので、本質は『影』なのよね。侍女として振る舞う方が、表向きはいいのだろう。
エリーには他の『影』直属の侍女が付いている。オリアナは王宮内でそれらを束ねるリーダーのようなものらしい。
「ねえオリアナ?私が来ない時は誰かに付いているの?」
「いえ、どなたかに専属でついている訳ではなく、全体的に見ておりますね」
「それって、私が来たらできなくない?」
「いえ、問題ございません」
「そう、なの?」
「この程度で後れを取るようでは、『王の影』の名が泣きますので」
あっその口調、セバスね…。なんだろう、口癖みたいなものなのかしら?でもオリアナがいてくれるから安全だし安心よね。
「コーネリア様、そちらではなく次は右です」
「アッハイ」
未だに道を間違う私にとっては、とても良いナビでもあります…
王宮って広いわよね…未だに道が覚えられない。
似たような作りしてるように見えちゃうのよね、わかりやすい目印とかあればいいのにな。
と、向かいの角からシリス殿下が。
久しぶりに会ったかもしれない。書庫に来た時にエリーのところでお茶する事はあるけれど、シリス殿下は王太子になった事でお忙しくて、あまり会う事はないものね。
「ご無沙汰してます、シリス殿下」
「・・・お久しぶりですね、コーネリア姫殿下」
「・・・なんですか、その『姫殿下』って」
「おや、ご自分がどう呼ばれているかご存知ありませんでしたか?」
「え、初耳です」
「なるほど、ゼクスレン様かな?そういった王宮内や貴族間の煩わしい事は貴方の耳には入れないようにしているのでしょうね」
どうやら、私は思っているよりも貴族間で噂となっているらしい。静かなもんだなと思っていたのは自分だけって事ね。近衛騎士団でもそれなりに噂されていると思っていたけれど…さすがに何も知らないのも問題じゃないかしら?全く、ゼクスさんもセバスも過保護なんだから…
そんな私の表情に何かを感じ取ったのか、シリス殿下は私の後ろに控えているオリアナに向けて声を掛けた。
「オリアナ、姫はどちらに向かっているのかな」
「書庫でごさいます」
「そうか、では私が案内しよう。君は先に行っておいで」
「かしこまりました、シリス殿下」
オリアナは静かに頭を下げ、踵を返す。
書庫は反対方向だが、別の道から向かうのだろう。
シリス殿下は私に手を差し伸べ、笑顔を向けた。
「さて、私がエスコートでは不満でしょうか?姫」
「いえ、でも忙しいのでは?シリス殿下」
「おや、心配してくださるのですか?」
「目の下にクマができていますよ?素敵なお顔が台無し」
「参りましたね、消えてませんか?」
苦笑しつつ、眉間のあたりを揉んでいる。
王太子になってから、公務も多くなっているとエリーが言っていた。休んでくださればいいのだけど、笑って誤魔化されてしまいますのよ、と。
これは少しの息抜き?になるのならいいのだけど。
私はシリス殿下の手にそっと自分の手を乗せた。
「エスコートしてくれます?ついでに私の噂も聞かせてくれると嬉しいのですけど」
「お安い御用ですよ、姫。では参りましょうか」
ゆっくり私に合わせて歩きながら、シリス殿下は色んな噂話をしてくれた。
私の事は、今現在夜会にも出てこないので色んな噂が飛び交っているらしい。…1度くらいは夜会にも出てその噂ぶち壊さないといけないわね。
『目が覚めるような美人』
『学園を飛び級卒業するほどの才媛』
『始祖に匹敵するほどの魔法の才能』
どれもこれも嘘ですーーー!!!
それは多分アナスタシアのことですーーー!!!
そして私の通り名は『姫殿下』『大公女』だそうだ。
本来『大公』の爵位はないのだが、前王族たるタロットワークを表すには『大公』の爵位が相応しいとかなんとか。
ゼクスさんも周りの貴族からは『タロットワーク大公閣下』などと呼び表される事があるらしい。本人認めてないけど。
「確かに『姫殿下』は1番しっくりくる呼び名かと思いますよ。貴方は『タロットワーク』となったことで私達兄弟に次いで継承権が発生しましたからね」
「それなんですけど、どうもピンとこなくて」
「仕方ありませんよ、これまでそういう所にいなかったのですから。いきなり立場が変わりすぎて驚きますよね」
「シリス殿下も、そう思ったことがあります?」
なんだか実感がこもっているなあ、と思ったので聞いてみる。
第1王子、として生きてきた彼。ずっと王族として暮らしている彼にそのような事があったのかしら?
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