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留学帰国後 〜王宮編〜
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しおりを挟む目の前には死屍累々の騎士様達。
その中でも元気なゾンビが2人。
もう言うまでもないだろう、フレンさんとアナスタシアである。
「ここまで苦戦するとはな」
「いやー、いつも通りに振れないもんだな。これはたまにお嬢に来てもらって、練習するしかねえな」
「もう・・・ゆるして・・・」
「膝が・・・膝が笑って・・・」
「しっかりしろ・・・!傷は浅いぞ・・・!」
「どうしてあの人達は立っていられるんだ・・・!」
立ち上がれない隊長さん達。なのにどうして原因を作ったあの2人はああもピンピンしているのか。…まだ能力低下魔法の効果は切れていないと思うのだけど。
あれかしら、慣れ?ゴリ…ゲフンゲフン、達人ともなれば、能力値が低下していてもその状態に慣れるの早いのかしら?
そんな事を思っていると、壇上では決着が付いた様子。
「─────両者、そこまで!勝者、シオン・カイナス!」
「うおぉぉぉぉぉぉ!」
「きゃーーー!カイナス様ーーー!」
「ふむ、やはりカイナスの勝ちか」
「まあいい勝負してたけどな、クロイスの奴もよ。
あー!あそこでもうちょっと行っときゃあなあ」
順位戦、最後の達人級デスマッチ(勝手に私が命名した)も、運の差でカイナスさんが勝ち抜いた。
第2部の最後に戦った時とは別人のごとく消耗しているようだけど、顔は晴れ晴れとしている。というかよく凌ぎ切ったなあと。
総当りとなった結果、全員が全員と試合をした。
ここでフレンさんとアナスタシアがやはりというか、ガチンコ対決を始めた。能力低下魔法でお互いの能力値を下げてはいたものの、結局この2人はいつも通りの勝負に。
薄々『これは血を見る』と誰もが思っていた為、後の方に回したものの、健闘したがフレンさんが負けた。
その後、アナスタシアとカイナスさんが試合をしたのだが、いかんせんフレンさんとの試合でアナスタシアの消耗が激しかったようで、カイナスさんがギリギリの勝ちを得た。
そしてフレンさんはアナスタシアに全体力を持っていかれていたので、カイナスさんには不戦敗。
…フレンさんの膝、笑ってたもんねえ。よく立ってたわよ。
そして最終的に、隊長さん達を全て降したカイナスさんの勝利、となったわけである…
「やったな、シオン」
「いえ・・・いつも通りなら勝ててませんでしたよ。今回は姫の能力低下魔法に救われたというか・・・エラい目にあったというのか」
「カイナス、貴様姫に文句でもあるのか?もう一度相手してもいいのだぞ?」
「アナスタシア、今のお前が斬りこんだらシオン死ぬぞ?」
どうやら1歩先に、フレンさんとアナスタシアの魔法の効果は切れたようだ。なんだかさっきからフレンさんがシャキッとしたなと思ったのよね。…体力戻るの早くない?さすがはゴリラ。
カイナスさんの魔法の効果も切れたのだろう、少し顔色が良くなった。…皆さんどういう身体の作りしてるのかしら?
「あの、辛いようなら回復魔法かけましょうか?」
「いえ、大丈夫ですよ、コーネリア姫」
「私達には不要だよ、姫。このくらいで倒れているようでは近衛騎士団として示しがつかなかろう」
「そういうこった。ありがとうな、お嬢。
・・・オラ、お前らもそろそろシャキッとしろ!」
「「「「ハッ!」」」」
でろん、と座り込んでいた隊長さん達も、フレンさんの声に引っ張られるようにしゃきん、と立ち上がる。
…さっきそっと軽~く回復魔法しといたのは黙っておこう。うん、武士の情けよね。
その後、特に表彰式のようなものはなく、観戦席にいたご令嬢達が降りてきて、騎士様達はファンサービスとでもいうのか交流会のような事になっていた。
令嬢に話しかけられて赤くなる騎士様もいれば、なにやらアタックされている騎士様も。
これはあれね、試合が終わった後の「先輩、タオルをどうぞ!」的なやつ。
「姫、どうかしたのか?」
「ううん、なんでも?いいわね、ああいうのから恋人同士になる2人もいるわよねえ」
「あぁなるほど。確かにそうかもしれないな。騎士になる者はほとんどが下級貴族の次男や三男などだ。
生家の跡を継ぐものではないから、できれば令嬢に見込まれて婿にでもなれれば御の字だろう」
「なんかそう言われれば誰かもそんな事言ってたっけ。
好きで騎士になった人もいるのだろうけど、別の貴族の家に婿入りしないと、って」
「近衛騎士は花形だからな。かなり引く手あまただと思うが。
ある程度戦功を上げれば、一代限りとなるが騎士爵の位が与えられる事もあるからな」
「それって、どのくらいの身分なの?」
「そうだな、男爵や子爵の令嬢を嫁にできる位だろうか」
そう考えると、腕があるのならば騎士となり騎士爵の称号を受ける事は大きいかも。
婿入りするしかない貴族の子息が、騎士爵の称号を得れば、男爵や子爵の令嬢を迎えて家を興す事ができる。一代限りとはいえ、大きいわよね。
爵位が付くならば、その子供はまた貴族に婿入り、嫁入りする事が可能になるのだもの。平民となるよりはいい事もある。
「その騎士爵って、国王陛下が授与できるもの?」
「基本はそうだが。兄上や姫にも可能だな」
「はいっ?私?」
「姫は今、王位継承権のある身だ。無論、貴族爵位を授与するには国王陛下の許可がいるだろうが、騎士爵ならば姫自身の判断で授ける事は可能だよ」
アナスタシア曰く、他の国では違うのだろうがこの国に置いては、アルゼイド王家、そしてタロットワーク一族の直系に限り騎士爵の称号を授与できるとの事。
男爵、子爵などの貴族爵位については審査がいるようだが、騎士爵については一代限りという縛りもあるので、爵位を授けるその王位継承権のある人間の名の元に有効となると…
もちろん、『この人に騎士爵の称号を授与したいです』という報告は必要になる。
「えっ、責任重大・・・!」
「それほど堅く考えなくてもいい。姫が安易にそのような事をするはずもないからな。
その人が相応しい、と思うならば構わないだろう。
現に、私も過去に授けた事はある。まだ王女であった時にその時の護衛をしてくれていた騎士にな。兄上に勧められてだが。
確かダンとボルツには兄上が授与しているはずだ」
「そ、そうなのね」
「だから今日は皆、姫にいい所を見せようと張り切っていたな」
あーーー!!!なるほど!!!
だから始まる前にカイナスさんが『今日は姫にいい所を…』って言ってたのか!わかんないよそういうの!
しかしそんな一代限りだからってホイホイ上げられないよなあ…
まあそういう機会とかないだろうしさ…人選の基準もわからないしね。
ふとファンサービス会場を見ると、カイナスさんが件のアントン子爵令嬢とお話していた。
あっ、なにやらバスケットを差し出しました!きゃー!ああいう甘酸っぱい!ドキドキする!体育館ウラの告白現場に居合わせてしまった感!!!
受け取れ!受け取るのよカイナスさん!
乙女が純粋に貴方を思って手作りしたお菓子?を受け取らないなんて紳士の風上にもおけないんだから!!!
そんな私の念力も通じておらず、固辞して下がろうとしているカイナスさん。こらー!!!乙女の純情をなんと心得る!
ここはとりあえず受け取って、食べるか食べないかは後で判断しなさいよー!!!
「受け取れ・・・!受け取るのよ・・・!」
「なーにしてんだお嬢は」
「フレンさん今いいところですから」
「あん?・・・お、頑張ってんなあのお嬢ちゃん」
「そうなんですよ!受け取ってカイナスさん・・・!」
「・・・お嬢、どっちの味方なんだ?」
「それはもちろん恋する乙女の方ですよ。色んな女性と噂のある殿方よりは応援しがいがありますもん」
「つー事は、お嬢はシオンの女性歴が筒抜けなんだな」
「私の情報網、主に社交方面はエリザベス嬢ですよ?」
「・・・哀れシオン。隠す事もできないとはな。
でもまあ今身綺麗にしてる最中らしいぞ?」
「身綺麗というか、お相手に身辺整理されたんですよね?」
「切り口鋭いなお嬢は・・・」
いやでもそうでしょう?
しかしまあそういうお相手はいると思っていたし。お互い割り切ってそういう関係にあったのなら、外野がどうこう言うことじゃあないわよね。不倫してたんならともかく、独身同士の恋模様にくちばしを挟むような女ではいたくないわ。
様子を伺えば、押しに負けてバスケットを受け取っていたカイナスさん。頬を染めるアントン子爵令嬢の可愛らしいこと。
小さな恋が実るといいのだけど。でも、カイナスさんを見て少しだけ想いを寄せるくらいは…許されるわよね?
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