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留学帰国後 〜王宮編〜
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しおりを挟む「では、これより近衛騎士団順位戦を行う!
貴様等、私を倒したくば全力でかかってくるがいい!」
壇上ではアナスタシアが団員達に激を飛ばしている。
肩に羽織った将軍服の裾を翻し、団員達へ突き出した腕、女性としては筋肉がついてはいるが、俺達のような男の騎士からすれば細腕だ。
しかし片手で長剣を振り回し、いとも容易く敵を屠る。
出会った頃から輝きは衰えること無く、さらに輝きを増す。
「いやー、いつもながら生き生きしてるな、アナスタシア」
「張り切ってますね、アナスタシア様。
やはりタロットワークの姫君が御覧になっているからでしょうか」
「だろうな、いい所を見せたいって言ってたからな」
ハハハ、と乾いた笑いをする騎士団員。
諦めろ、今日のアナスタシアは絶好調だ。
とはいえ、俺も無様な真似を見せるわけにはいかんだろうな。
コーネリア・タロットワーク。
王位継承権は第4位。アルゼイド王家の王子2人に次いで、タロットワークの当主、そしてお嬢だ。
異世界から来たとはいえ、タロットワークの名を受け継いだということは、俺にとっても『護るべき者』となったということでもある。
…ま、コーネリア姫の護りはアナスタシアが1番なのだろうけどな。
「どうした、フリードリヒ」
「いや?お嬢がコーネリア姫ともなれば、俺もまた盾とならねばな、と思い直しただけだ」
「ほう?姫の剣や盾となりたければ、この私を負かしてみるのだな」
「言うじゃないか、アナスタシア?いつまでも昔のままじゃないんだぜ?俺も、剣の腕もな」
「そのセリフ、1度でも私の膝を地につかせてから言ってみるがいい。今回もまた、私が優勝を攫うとしよう。
姫の前で私が負けるなどありえないからな」
フン、と鼻で笑うアナスタシア。
確かにコーネリア姫の前で負けるなどありはしないのだろう。それこそがアナスタシアが剣を持った理由でもあるのだろうから。
しかし、ここまで言わせて引き下がるなど男が廃る!
今年こそ俺がアナスタシアを負かしてみせる!
「・・・何をしているんですか、あの2人は」
「い、いい所に!カイナス副官!団長とアナスタシア様が言い争いを始めて」
「タロットワークの姫の前でどちらが強いか勝負だとか」
「何の為の順位戦なのかあの人達はわかっているのか・・・」
「おうシオン、いい所に来たじゃねえか、お前も混ざれ」
「そうだな、カイナスお前も入れ。フリードリヒだけでは物足りない」
「アナスタシア、本当に今日は容赦しないぜ?」
「その言葉が真実になる事を期待するとしよう」
「やめてください全く。順位戦は団長とアナスタシア様の腕を見せ付けるものではないんですよ?」
********************
「で、御三方はいったい私に何をしろと言ってるんですか」
目の前の広場では、騎士さん達が一体一の試合をしていた。
さすがに真剣でやり合う訳ではなく、刃を潰した剣での試合だ。それでも竹刀や木刀ではなく、本物の剣。
隊長格同士の試合ともなれば、刃を潰していても怪我をするのだという。手加減とか知ってるのかしら?
なので、必ず医療部隊が側につく。万が一が起こらないためにも。
しかし、毎回こちらの団長さんと姫将軍さんにおいては、ガチンコバトルになるため、流血沙汰もあるとか…
何そのド派手な夫婦喧嘩。他所でやってほしいわ…ってここで発散させないと建物壊しそうね?
「私達の誰が勝つと思う?姫」
「いや、今回こそは俺が勝つさ、なあお嬢」
「よく言うものだ、毎回私に膝を付くお前が」
「おいおいアナスタシア、勝ちを譲ってやっているんじゃないか」
「もうその辺にしてください、2人とも・・・」
自信満々に互いをこき下ろす2人に対し、ぐったりするカイナスさん。これ毎回やってるんだろうな…お疲れ様です…
様子を伺っている他の騎士さんも涙目なんだけど。ああそうか、自分達がこの人達の相手に当たるととばっちり受けるものね。
ん~、何かいい方法が………、ん?
「ええと、今そちらでやってる人達とも試合するんですか?フレンさんもアナスタシアも」
「いや、私達は後からの試合だ」
「こいつ等はまだ新米だからな。俺達と当たったら可哀想だろ」
「彼等はですね、入隊して5年目までの団員です。
各員、それぞれ小隊に別れるんですが、まだ小隊長までも行かない団員ですね。それぞれの隊の隊長達が彼等の評価をしていますよ」
「へえ、そうなんですか?」
「少し前に出て見てみますか?」
「もし良ければ、いいですか?」
どうぞ、と手を差し伸べてくれるカイナスさん。
団長さんとアナスタシアは椅子に座り、ああでもないこうでもないと口論中。ちょっと放置しておこう。
カイナスさんに連れられ、少し試合場へ近付く。
観客席のようになっている場所には、観戦に来ている令嬢達、それに団員の仲間達が揃って応援中だ。
怖々観戦しているお嬢さんや、ハンカチを握りしめて見つめるお嬢さん、試合中の騎士さんを熱っぽく見つめるお嬢さんも。
そんな令嬢達をそわそわと見つめる騎士さんもいて、なんだか青春真っ最中!な感じ。
「わあ・・・凄いですね?」
「・・・もう少し訓練を厳しくしても良さそうですね。
あの程度でもたついているようでは近衛騎士団の名が泣きます」
「カイナスさん、お仕事モードですね」
「ああすみません。姫をエスコートしているのに無粋ですね」
私の目には十分強く見えるんだけど。
でも、少し、危なっかしい、かな?以前にフレンさんとカイナスさんが試合している時ほど安心して見ていられないかも。
そう思うとやっぱり、フレンさんやアナスタシア、カイナスさんて特別強いのかもしれないな。
そう思ってカイナスさんを見上げると、真剣に試合を見ていたカイナスさんが私に気付いて微笑んだ。
「どうしましたか?そんなに見つめられると気になってしまうのですが」
「カイナスさんてやっぱり強いんだろうなって。
前にフレンさんやアナスタシアと試合していた時を思い出して」
「うーん、そうですね、弱いとは言いませんよ。
近衛騎士団で副長の役目を授かる身ですからね。団長やアナスタシア様に勝てる、とは言いませんが食い下がるだけの実力はあると思います」
「・・・やっぱり、あの2人は違うものですか?」
「悔しいですが、そうですね。あと数年あれば、私もあの領域に到達できるよう精進を重ねていますが」
ふむふむなるほど。そしたらあの2人に能力低下魔法掛けたら他の人といい勝負になったりするのでは?
目の前では、若手の騎士さんから少し年齢層が上の騎士さん達へと面子が変わる。カイナスさんによると、今度は中堅~古参の騎士達の試合らしい。
確かにさっきまでよりも試合がハードだし、見応えがある。
ん?団長さん達は誰と試合するのかな?
すると、1人の騎士さんがこちらへ来た。私に礼をしてから、カイナスさんに話しかける。
「お話中失礼します。カイナス副官、そろそろご準備を」
「ああ、わかっている。今年は骨のある奴がいそうか?」
「どうでしょうね?むしろ俺が副官と試合したいですよ」
「なら、勝ち上がってくるんだな?」
「言われなくても、そうしますよ。副官こそ、姫君の前で俺達に負けるような失態を演じないでくださいよ」
「姫の前で負けるような腕はしていないよ」
「これは失礼を」
私はそんな2人のやり取りにキョトン、としていた。
カイナスさん、試合するのかしら?でも、腕が違い過ぎない?
「カイナスさん、もう出番なんですか?」
「ああ、彼等の中で勝ち上がって来た勝者の相手をするんです。
どれだけ訓練を積んで腕を上げたら見てやらないといけませんからね」
「えっ、カイナスさんとは、その、違います、よね?」
「彼等に負けるようでは副官は務まりませんよ。
大丈夫、姫の前で負けるような真似はしません。
・・・俺が勝てるように見ていてくれますか?」
カイナスさんは自分の事を『俺』という時と『私』という時がある。
何となく、副官として話す時は『私』、カイナスさん個人として話す時は『俺』と使い分けているような気がする。
…だとすると、今のお願いは個人的に、って事?
少し、期待してしまってもいいのだろうか。
「姫?」
「あ、はい。もちろん」
「良かった」
大人の男の余裕?私を見て笑い、また目は真剣な眼差しで試合を見守っている。たまに掌を握ったり開いたりしていて、ウォーミングアップの代わりなのかも。
少し早くなった鼓動を落ち着けようと、私は自分の胸にそっと手を当てて深呼吸するのだった。
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