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留学帰国後 〜王宮編〜
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しおりを挟むその後、私とエリーで協議した結果、『アリシア聖女伝説を作るのもそれはそれでカーク殿下と結ばれるのに役立ちそうだが要らぬ嫉妬を買うのも得策ではないのでフェードアウトする方向で』ということに決まった。
アリシアさんの気持ちを確認すると、カーク殿下と恋仲である事はとりあえず間違いない。
ただ、本人はやはり士官として国に仕えることを希望しているので、ここはカーク殿下にサッサとアリシアさんを捕まえて頂き、シリス殿下が王位を継承するもしないも臣籍降下して頂くのが丸く収まるのではと。
「んっ?でもそうなると私が繰り上がっちゃわない?」
「今更気付いたんですか、コーネリア様」
話を終え、タロットワーク別邸に帰ってきてから顛末をセバスさんに話していれば、気づいてしまった重要事項。それはそれでまた困るのでは?
「とはいえ、このままシリス殿下が王太子として数年務めあげれば王座は確定ですので」
「そうよね、安泰よね」
「ええ、何も無ければ」
「やめてフラグたてないで」
そんな物騒なフラグは片っ端から叩き折りたい。
そう思いつつクッキーを口に運んでいれば、セバスさんが口元に手をやり、何やら考え込んでいる仕草。
珍しいわね、セバスさんが悩むなんて。ポーズだけかもしれないけれど。
「セバスさんが悩むなんて珍しい」
「お耳に入れておいた方がよろしいかと思いまして。
オリアナの事を覚えておいでですか、コーネリア様」
「え?ああ、王宮に行くといつも付いてくれる侍女さんよね。彼女がどうかしたの?」
「彼女が不思議な報告をしていまして。なんでも近日王太子妃様付きの侍女を増やしたそうなのですが、その中で変わった事を言っていた娘がいたと」
「変わったこと?」
「はい。なんでも『ふぁんでいすく』がどうだと」
「は?」
「他にも『シリス様貴い』とか『イベントフラグ立てないと』とか。先程コーネリア様もフラグがどうとか仰っていましたので、思い出したのです」
イベントフラグ…だと…?
『ファンディスク』なんてやっぱりここってゲームの世界なの!?
めっきり乙女ゲームなんてご無沙汰だから引っ掛からなかったけど…知らないうちにあのタイプのゲームって増えてるのよね。
シリス殿下の事を言っているとすると…なんだ?もしかしてエリーを悪役令嬢として、侍女から見初められて王太子妃に!とかそういうゲームか!?
じゃあ私のような異世界召喚?
私が異世界人と知っているのは、タロットワークの一族と王族のみ。
エリーにすら知らされていないだろう。
この先、王太子妃となったら知らされる事もあるかもしれないが、そこは国王陛下の判断になるのだろうか。
これは直接会いに行くべきか…否か…!?
********************
王宮内にいるかもしれない異世界人を探しに行きたかったのだが、本日はアナスタシアの望みで近衛騎士団詰所に訪問に行く事になった。
今日は近衛騎士団内での順位争いバトルをするそうだ。
一体なんなのかと思うのだが、半年に1回ほど、団長から騎士見習いまで揃ってトーナメント戦をするらしい。
ここで互いの力量を見ることで、騎士団内での順位が上がったり、隊の組み合わせを変えたりなどするそうだ。
しかしトーナメント戦でフレンさんとアナスタシアが出たら相手は吹っ飛んでしまうのではないのか…?
「アナスタシア・・・ほどほどに・・・」
「さすがに私も一兵卒相手に本気を出したりはしないぞ?」
「あ、うん・・・」
(その手加減が果たして一般兵の手加減と合っているのかどうかが怪しすぎてなんとも言えない)
「そのドレスもよく似合っているよ、コーネリア」
本日もドレス姿。あれからやっぱり仕立て屋さんが来て、ああでもないこうでもないと採寸しまくって行った。
私はただ静かになすがまま…もう諦めの境地に入った事は言うまでもない。
ドレスのデザインは私の『あまりゴテゴテしたやつは好きではない』とか、好きな色とかを配慮されつつ、大体がアナスタシアとセバスさんチョイスで決まった。
これが夜会毎に行われるというのだから、たまったものではない。しかし経済を回すためだとか、その度に採寸しないとデザインが狂うだとかなんとか言われては仕方がない。
大人しく採寸される事が1番早く終わる、と悟りました。
まあアクセサリーや靴はある程度選ばせてもらえるし。
今日のドレスもアナスタシアが選んだもの。
質のいいシルクと、繊細なレースが重なったAラインシルエットのシンプルなドレス。私もお気に入り。
近衛騎士団詰所に着き、馬車から降りる。もちろん馬車からはアナスタシアが手ずから降ろしてくれる。
今日のアナスタシアは姫将軍装束の為、男装の麗人ばりに素敵です。でも、タイトなスカート(深いスリット入ってるけど)履いてるし、ヒールの高いブーツ履いてるし、女性的な服装なんだけどね。まあ凛々しいのよね、この姿さ。
「なんだか、いつもよりも賑やかね」
「ああ、順位戦は貴族の令嬢も見物に来るからな。婚約者の晴れ姿を見る為に詰め掛けている」
「ああ、なるほど。そこでロマンス生まれちゃうのね」
そうかなるほど、近衛騎士団なら貴族のご令嬢にとったらアイドルものよねえ。ここで見合い的なものもあるのだろうな。
そんな事を思いながら中へ進めば、広く開けた練習場が、今日は順位戦の舞台となっていた。
一角は仕切りが置かれ、席がいくつも設置されている。そこには夜会ほどではないが、お出かけ用に着飾った令嬢が何人もいた。
あ、バスケットなんか持ってる。
もしかして差し入れとか?ハチミツ漬けのレモンですか?
昔姉がよく試合前に作ってタッパーに持っていってたなあ。
余所見しながらもエスコートはアナスタシアに任せていたので安心。そのエスコートが止まったな、と思って前を向くと、そこには近衛騎士団長、フリードリヒ・クレメンスが正装姿で待ち構えていた。
「ようこそ近衛騎士団へ。お待ちしておりました、コーネリア・タロットワーク様」
「・・・こちらこそお招き頂き感謝致します。お久しぶりですね、クレメンス様。お元気そうで何よりです」
跪いて騎士の礼を取るフレンさん。
さすがに人目があるし、『お嬢』とは呼んでもらえないのかしら?
私もセバスさんに仕込まれた淑女の礼でご挨拶。アナスタシアが傍に控え、笑顔で見ていてくれる。よし、合格か?
「勿体ないお言葉です。ここからは案内を変わりましょう」
「あら、団長殿自らがエスコートしてくださるの?」
「ご迷惑でなければ、喜んで務めましょう」
アナスタシアを見れば、笑って促された。
私はフレンさんに向かって、ゆっくり手を差し伸べる。
恭しく私の手を取り、令嬢達に用意されている場所ではなく、別の場所へ案内してくれた。
お、もしかして特等席なのかしら?
「御身をお護りするのに他のご令嬢と一緒ではなにかと不都合があります。
少々不愉快な思いもするかもしれませんが、御容赦を」
「特等席でアナスタシアの姿が見られるなら喜んで」
「・・・そこは俺の勇姿を見たいわ、とでも言ってくれないとなあ。つれないなお嬢」
「ようやく他人行儀な話し方をやめてくれました?疲れちゃいますよフレンさんたら」
「あー悪い悪い、まさか他の奴らがいる所で『よう、お嬢!久しぶりだな!』なんて言えるわけないだろ?」
周りの視線が届かなくなると、フレンさんの口調も戻る。
私の目線に合わせて屈みこみ、ニヤッと笑う。
私もその笑顔に合わせ、微笑んで両手を出した。
「ん?なんだ?お嬢」
「寂しいですねフレンさん?1年ぶりに会ったのに、抱きしめてもくれないんですか?」
「なんだなんだお嬢。そんなに俺が好きだったのか~?」
「アナスタシアの旦那様、というくらいには愛してますよ?」
ダメ?と強請るように首を傾げれば、笑って私を持ち上げた。
いや、ハグを求めただけで、抱き上げろとは言っていないのだが…?
腰の辺りをひょいっと持ち上げ、そのまま抱きとめる。
がっしりした体躯。鎧を着ている訳では無いので、痛くはない。
抱き潰すのではなく、包み込むように抱きしめてくれた。
「よく帰ってきたな、お嬢。いや、コーネリア姫。約束は護っているぞ?」
「ええ、ただいま戻りました、フリードリヒ・クレメンス。
あの時の約束を護ってくれてありがとう」
あの日、この近衛騎士団詰所で話し合ったこと。
魔法薬で縛った約束だけれど、それを守り、今でも保ち続けていてくれることが嬉しかった。
素敵な旦那様よね、アナスタシア?
「おやおや。私の姫にそれ以上不埒な真似をしてくれるなよ、フリードリヒ」
「団長、それ以上姫君に触ったら何されるかわかりませんからね」
「あのなあお前達・・・これはコーネリア姫の求めに応じただけであってだな」
変わらない軽口。それが嬉しくて笑いが漏れる。
そっとフレンさんの抱擁から離れ、振り返ればアナスタシアと、カイナス副官がいた。
アナスタシアは優しい目で。カイナスさんは少しだけ驚いたような瞳。
うう、あの色々な女性関係を知った上で見ると、なんかこそばゆい!!!
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