異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん

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留学帰国後 〜王宮編〜

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これ以上エリーの話を聞くのが怖いものがあるのだが、ここは女子会、女子トーク。聞いておかねば後々自分が巻き込まれて怖いことになりかねないと思ったので最後までしっかり聞いておくことにしました。



「あと2人、って何?」

「シリス様の側妃候補を選別していますの。私が正妃となるからには、きちんと連携してシリス様を支える事のできる関係を築かなければなりませんでしょう?」

「そういうのって、エリーが決めるものなの?」

「いえ、そういう訳ではありませんのよ?
基本的には、シリス様や側近の方々、国王陛下や王妃陛下がお決めになる事なのですわ。
けれど、今回は特別に私が決めていいとお許しを得ましたのよ」

「もしかして、国王陛下から?」

「いえ、王妃陛下からですわ。なんでも私がローザリア公爵家で女主人として采配を奮っていたのを評価して下さって。
『貴方なら下手な女性を選ばないと確信していますわ』と言ってくださったのです」



ああ~、シュレリア、昔ルジェンダ陛下も女関係激しかったから色々と水面下で激しく女の戦いしたとか言ってたよな…
多分エリーが後妻さんと激しくバトって勝利したのを知ってるから全面的に許可したんだろうな…これ…

この事に関してはルジェンダ陛下も何にも言えないだろうし…
シリス殿下も口を挟む余地なんてないよな…



「大丈夫ですわ、ちゃあんとシリス様のお好みに沿うように、タイプの違う女性をお招きする事にしてますの。
王宮内での決まり事は、私がお教えしますもの」

「・・・、ね」

「ええ」



この曇りのない笑顔!
よかったねシリス殿下…多少の女遊びもエリーの許可があれば自由にできるかもよ…

この才覚は本当に王妃として最上のものではないだろうか。
社交的にも遺憾無く手腕を発揮してくれる、まさに最高の貴婦人といえる。

エリーがシリス殿下の側妃候補として選んだのは2人。



「お1人目はヒルドア侯爵家のメアリージェン様。年齢は24歳で、シリス様より2つ上ですわね。しっかりした性格の方ですから、私も安心できますわ」

「わりと・・・お姉さんね?」

「ええ、ヒルドア侯爵家を継ぐつもりでしたのですけれど、ご長男が突然他国から戻って来たんですの。メアリージェン様を推す声も大きかったのですけれど、メアリージェン様ご本人が弟であるご長男に家督をお譲りになりましたのよ。
私、前からヒルドア侯爵家とは懇意にしておりましたので、今回シリス様の側妃候補としてのお話をさせて頂きましたの」

「本人、いいって?」

「ええ、なんでも神殿に入ろうとしていらしたのですけれど、良いお返事を頂けましたので。間に合って良かったですわ」

「神殿・・・って」

「聖属性の魔力をお持ちなのですわ。とはいえ、そこまで大きなものではありませんので、神殿に入らずに過ごしていたんですの。
タロットワーク一族の遠縁でいらしてよ」



はー、なるほど。絵姿を見せてもらったけれど、とても美人さん。
清楚で儚げな感じを受ける。エリーは華やかな美少女だけど、この方は凛とした美女って感じ。



「もうお1人は、ヒルグラン伯爵家のルミナス様。19歳で、私達よりも1つ上ですわね」

「へえ、伯爵家から選んだの?」

「ええ、伯爵家の中でも上級貴族に近く、タロットワークの血が入っていますから申し分ありませんわ」

「え?・・・エリー、もしかして選定基準て」

「ええ、今回は第1にタロットワークの血が入っている家を選びましたわ。これで他の貴族達からもあれこれ言われることもありませんでしょう。
アルゼイド王家に入るタロットワーク前王家の血の薄さを嘆く方々が煩かったものですから」



ここでも出てくるのかタロットワーク前王家の血筋。
どんだけ構われてるのよ本当に。

呆れた私にエリーは真剣な顔をして話し始めた。



「コーネリアには異常に感じるのでしょうね。
けれど、私にも感じるものがあるのです。アルゼイド現王家には足りないものがあると」

「エリー、ちょっと流石に」

「いいんですのよ、ここは私のプライベートエリアですもの。何を言った所で問題になりはしませんわ。
私はローザリア公爵家の一員ですが、過去にタロットワーク前王家の方を何人も迎えてきた家の出です。血の濃さはアルゼイド現王家とさほど変わりはしませんのよ」



ハッキリと言い切ったエリー。
彼女もここを護る『影』達がいることを知っている。そして、その『影』達が今もなお、タロットワーク前王家を慈しみ、従っているのだということを知っている。



「勿論、私はこの国の貴族の1人として、アルゼイド王家に忠誠を誓っていますわ。・・・けれど、タロットワーク一族を思う気持ちは別格なのです。だって、この国を、愛するこの祖国の礎を築いた御方なのですもの」

「そういう、ものなの?」

「ええ、不思議でしょう?私も不思議なのです。
けれど、この王宮で過ごすようになってから、その気持ちは紛うことなく、根付いておりますの。
どちらも大事、どちらも大切。敬い、護り、繋げていく。彼等タロットワークの想いを、次の世代アルゼイドへ。
私の血が、そうさせるのでしょうね」



まるで祈りを捧げるように、話すエリー。
ああこの子は、本当に、この国が、人が、好きなんだなと思った。



「ですからね、ここでシリス様の周りにタロットワークの血が入っている貴族を添わせる事に意味があるんですわ。
下手な輩に、『次代の王妃にタロットワークの姫を』と言われないようにするためには」

「!?」

「コーネリアがシリス様の妻とならない事はわかっていますの。そうなってくれたら私もシリス様もとっても幸せになれると思うんですけれどね」

「え、エリー?何言って」

「けれど、そうなるとそれはまた貴族間のバランスを崩してしまいます。せっかくジェムナス先々王陛下が自由を求めて羽ばたいて行ったというのに、下手な枷を付ける訳には参りません」



ジェムナス・タロットワーク。ゼクスさんのお父様。現国王の2代前の国王陛下だ。
曰く、完璧なまでのカリスマを持つ、賢帝。

少年のようにやんちゃで奔放ながら、人心を掌握した賢帝らしい。
攻めてきた国には一切の慈悲なく対応をするが、決して自分なら攻める事のない王様だったという。
優しすぎることもなく、厳しすぎることも無い。



「まるで見てきたように話すのね、エリー」

「お爺様から子供の頃からずっと聞かされて育ちましたのよ?
私、嫁ぐならばジェムナス陛下のような素敵な男性にでしたら、身も心も全て捧げようと思ったくらいですの」

「まるでエリーの初恋ね」

「ええ、そうですわね。だからこそ実の父親のした事が許せなかったのですけれど」



笑っているがどこか怖い。
隠居して引きこもったのは正解です、エリーのパパン。



「ですので、この選別は私達にとっての保険の意味もありますの。ルミナス様は私やメアリージェン様と違って『夜の蝶』と呼ばれているくらいの恋多き方。きっとシリス様もご満足して下さるはずですわ」

「えっ、なんの保険?」

「ですから、他の女性に食指を伸ばさない為の保険です」

「ごめん、さっきまでの話だと血筋がどうとかって話じゃなかった?」

「もちろんそれもありますわよ?だってコーネリアはカイナス伯爵に気がありますでしょう?シリス様にはこれだけタイプの違う女性を宛がっておけば、コーネリアの事は諦めてくださるかなと思って」



なんて腹黒い子なのエリー!
しかしヒルグラン伯爵家のルミナス様は、本当に『夜の蝶』というネーミングの相応しい肉感的な美女…
まさにボン、キュッ、ボンといえる。しかもシリス殿下に気があるらしく、2つ返事で側妃になる事を了承したのだとか。

しかしエリーには頭が上がらない…帰りにはカイナスさんがこの1年どんな女性に言い寄られていたのか、過去の女性関係もきっちりと調べてきた報告書を渡されました。

恐るべしエリー…いや、頼もしいよ本当に…

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