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留学帰国後 〜王宮編〜
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しおりを挟む「王宮筆頭魔術師ゼクスレン・タロットワーク様、コーネリア・タロットワーク様がお着きになりました」
大扉の前。掛けられた声と共にゆっくりと扉が開く。
ゲームの中だとか、映画の中だとかで見たような光景。
扉が開けば、赤い絨毯が引かれる先には、数段の階段の先に高く作られた場所に国王陛下、王妃陛下の姿。
そして階段の下には王太子となったシリス殿下。隣にはエリー。カーク殿下の姿も。
本来ならばその手前にずらっと貴族の人が並ぶのかもしれない。けれど今は王族のみ。
うわー…と思う私の手を、ゼクスさんが軽く引く。
見上げれば微かに目元が優しくなった。さっきの話もあったし、気遣ってくれているのかな。
「この場の誰より綺麗だぞ、コーネリア」
…ゼクスさん、この時を狙ってものすごく好みの低いイケボで囁くのはやめてください。
気の所為か後ろのセバスさんの殺気を感じます。
ゼクスさんも感じたのか肩を竦めてウインク。
私の緊張をほぐそうとしてくれたのだろう。逆に手汗かきましたけどね!
1歩、1歩歩く度に高星皇子から贈られた髪飾りがシャラン、シャランと音をたてる。さっきまで耳に届かなかったのに。頭がいっぱいだったからかな…余裕なかったのかも。
高星皇子の尊大で魅力的な声が耳に届くようだ。
『前を向け。胸を張れ。この場の主役はお前なんだからな』と。
蓬琳皇国で何度も人前に出ないとならない時、彼は私にそう言っていた。自分も自信が無い時はそうして前を向いてきたのだと。
見習いたい、彼のように、強くなりたい。
自分の向かう先に、堂々と歩いて行けるように。
迷わない、自分の帰るべき所に戻る為に。
その為に、私に出来ることを…課せられた役目をする。
「ご無沙汰しております、国王陛下、王妃陛下。
コーネリア・タロットワーク、蓬琳皇国より帰参致しました事、此処にご報告致します」
********************
見惚れた。
真っ直ぐに前を向き、歩く姿に。
この国の物とは違う、華麗なドレスを纏う彼女に。
その服を贈ったのはかの皇国の第1皇子だろうか?
そう思うと胸が軋むかのようだ。
ゼクスレン様に連れられ、父王に挨拶をする彼女を見て、愛おしく思うと同時に、彼女の隣に並ぶにはまだ足りないと思う。
そして、私の隣に並ぶ婚約者…エリザベス嬢に向ける想いもまた。
コーネリア…彼女に向ける想いは切なくも狂おしいばかりの情熱。
対するエリザベス嬢に向ける想いは、心が落ち着くかのような…隣にいて当たり前というような想い。
こんな風に2人の女性を想うのは自分は卑怯なのだろうか?
そう思っていると、ふいに私の手を包む温かく華奢な手。
目線を向ければ、ピンクトルマリンの優しい瞳が。
「見まして?シリス様。コーネリアの麗しい事。たまりませんわね・・・!早くお部屋に呼んでたくさんお話がしたいですわ・・・!」
ブレない。本当に私の婚約者殿はブレない。
私がこの気持ちは失礼だろうか?とか悩んでいるのがどこかに行ってしまいそうなくらい、衝撃的だ。
本当にエリザベス嬢の心の中に私はいるのだろうか。
もしかするといないのではないだろうか。
「どうしましたの?」
「いや、君らしいね、と思ってね」
「褒め言葉ですわよね?」
にっこり微笑む姿は春の女神のようだが、なんとなく背中に悪寒が走った。ここは頷かないと後がない気がする。
「勿論だよ、愛しい私の婚約者さん」
「嬉しいですわ、シリス様。でもシリス様にも頑張って貰いませんと、コーネリア様を私達の寵姫とするには難しくていらしてよ?」
この『私達の』という所に彼女の本気が見える。
やはり私は要らないのではないだろうか。男として不安を感じる。
カークに目をやると、もうこちらを見ません無視してください兄上、という心の声が伝わってくるようだ。
弟としてもう少し兄を助けてもらいたい。切に。
パサリ、と扇を広げつつ、エリザベス嬢はカークにも声を掛ける。
「カーク様ももう少し頑張りませんと、アリシアさんに見捨てられましてよ」
「うぐっ」
「私がアリシアさんに色々と淑女の嗜みを手解きしておりますけれど、それ以上に彼女は女性として花開いていましてよ?
このままだと他の男性に攫われてしまうかもしれませんわね?」
「エリザベス、婚約者でなくなってから辛辣じゃないか?」
「あら、私は元々こうでしてよ?カーク様がきちんと私に向き合って下さらなかったのではなくて?
まあ、アリシアさんにとっては、お相手がカーク様でなくとも他の貴族の男性の方が士官として進むにはいいかもしれませんけれど」
「エリザベス、どっちの味方なんだ」
「私?決まっていましてよ、私はコーネリア様の味方ですわ」
「・・・そこはアリシアじゃないのか」
「私の1番はコーネリア様ですの。そこはシリス様相手でも譲れませんわね?」
うふふ、と微笑むエリザベス嬢。
まさか国王陛下とコーネリア姫が会話している間、私達の間でこのうな会話がされていると気付く人はいないだろう…
********************
国王陛下、王妃陛下に留学の報告をしている間、視界の隅に2人の王子殿下とエリーが何やら話しているのが気になった。
この関係…三角関係なのか…?なんて思いながらも形式通りに帰国報告。大半はゼクスさんが受け答えしていたけどね。
とりあえず今後は学園に復学せず、魔術研究所の客人として勉強をすること。
多少の社交をすることをお約束したくらい。
そうそう、今後の研究…つまりは帰還方法についてだけど、王宮内の書庫を自由に使っても良いと許可を頂きました。
おいそれと出入りしていいのか?と思ったけれど、そこはさっきの面倒な王位継承権が関係していた。
本来、上級貴族であっても城への出入りはそれなりの役職がないと許されないのだそうだ。当たり前だけど…
ただし、王位継承権が発生した私には、その辺りはフリーパスとなる。城の中を歩き回るには護衛を付けることが条件だけどね。
どうやら、王宮内の書庫を使えるようにする為の理由付けでもあったようだ。役職を付けるには難しいけれど、タロットワーク一族の重要人物となればそこらの貴族が威張り散らせる相手ではなくなる。
身分に関してはこれでいいが、危険も増す。だからこその護衛付け、と。
これは私が留学する前から考えていた事らしい。
詳細を詰めたのは留学中という話だけれど。エラいこと引受させられちゃったな、と思う反面、色々と考えてもらっていたのだなと感謝もある。
謁見の間を退出し、やれやれと思いながらゼクスさん達と歩いて元の控え室へと向かっていると、1人のメイドさんが近付いてきた。
「恐れ入ります、エリザベス様よりコーネリア様をお茶にお誘いしたいとの事でごさいます」
「ほう」
「如何なさいますか?コーネリア様」
エリーからのご招待。行ってもいいのかな?
ゼクスさんとセバスさんを見ると、行ってもいいよという顔をしている。ならば迷うことも無い。
「行ってもいいですか?ゼクスさん」
「勿論、構わんよ。セバス、影を」
「かしこまりました。コーネリア様、お帰りの際は私がお送り致しますのでお呼びください」
「はい。ではエリザベス様の所へ案内して頂ける?」
「かしこまりました」
「オリアナ、失礼のないように」
「心得ております」
スっと礼をするメイドさん。
…オリアナ…って、この人もセバスさん仕込みの…?
「コーネリア様、王宮内では私が御身を預からせていただきます。
如何なる時もお守り申し上げますので御遠慮なく申し付けください」
「アッハイ」
やっぱり『影』の方でしたか…
うんまあゼクスさんもなんか言ったしそうじゃないかとは思ったけど何人いるのよ王宮内に?
なぜターニャやライラが着いてこなかったかを今更ながらに察してしまった私でした…
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