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留学帰国後 〜王宮編〜
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しおりを挟むシリス王子とエリーの婚約発表が行われてから数日後。
私は正式な帰国挨拶をするべく、王宮へと上がった。もちろん、きちんとドレスアップをして。
もう学園に通う学生ではないので、制服というわけにもいかない。あー学生だとこれがないからいいよなあ…
せっかく蓬琳皇国から帰ってきたので、あちらの皇妃様より頂いてしまった正装一式を着てみた。
…いらないって言ったのに『なに、これも留学の記念じゃ。今後何かと着る機会も出てこよう。妾との記念と思い諦めよ』とのお言葉。ていうか『諦めよ』ってところに私が断る事を封じているのがミソだわ…。色々と春妃様なんかが服を贈ろうとしているのをやんわりお断りしていたからなあ。でも皇妃様が贈ってきたやつは本当に国宝レベルっていうかなんというか。公式な場所に出るにはそれなりの物を着ろっていうのはわかるけど。
デザインはもちろん蓬琳風のドレス。チャイナドレスに近い。あれだ、韓流ドラマに出てくる昔の女性の正装。
飾り帯や珠飾りなんかで艶やかに着こなすやつ。
さすがに頭に鼈甲の簪を何本も刺したりはしないけど。多少は結い上げて髪飾りで留める。
髪飾りと飾り帯に使う珠飾りは、高星皇子から頂いた。これくらいは餞別だと言って。
「良くお似合いです、コーネリア様」
「ホントですね、それにこの刺繍は見事です~」
「いくらかかってるのかとか考えたくない」
「それは心にお仕舞いくださいませ。これは蓬琳皇妃様より心からの贈り物なのですから」
そう言われると受け取るしかない。皇妃様は私へ『国を立て直してくれた礼はこれだけでは足りぬな』とも仰っていた。
しかし私は特に何をしたという感覚はないのだから、このドレス1つで十分な程。
これから蓬琳を立て直していくにはどれだけお金があっても足りないはずだ。国庫に入るお金は民の税金なのだから。
「さて、行きますか」
「馬車のご用意は整っております」
「いってらっしゃいませ、コーネリア様」
本日のサポートはセバスさんだ。ターニャかライラが付いてくるものだと思っていたのだが、彼女達は来ないらしい。
王宮ではゼクスさんが待っているとのことで、両方のサポートをすべくセバスさんが付いてきてくれるとのこと。
「とてもお綺麗ですよ、コーネリア様。こういったデザインのものもいくつかお揃え致しましょう」
「これ以上ドレスいります・・・?」
「何を仰いますか。これから夜会毎に仕立てなければなりませんし、普段使いのものも必要となります。
学園に通われないのですから、それなりに私服は必要でしょう」
「コーネリア泣きそうです」
ドレスかー…やっぱこれまで通りじゃダメなのか?ワンピース風ではダメなのですね?
そんな私の考えを読んだのか、セバスさんの微笑みは崩れませんでした。ハイ、ダメなようですね。諦めましょう…
はあ、とため息をついた私の頭が揺れると、高星皇子から贈られた髪飾りがシャラン、と鳴った。
********************
王宮に着き、案内された部屋にはゼクスさんが待っていた。
すぐに謁見の間へと移動する。国王陛下達も暇ではないものね。
ゼクスさんに手を取られ、謁見の間へ続く廊下を歩く。後ろにはセバスさんが続く。
「あんまり緊張せずとも構わんよ、コーネリア」
「しますよしちゃいますよ。これ裾踏んだらどうしようとか」
「あまり大人数で待ち構えているわけでもない。いつもの4人に、エリザベス嬢がいるくらいでな」
「エリー・・・いえ、エリザベス様もいるのですか?」
「これまで通り呼んで差し上げるがよろしい。コーネリア、基本的にこの国で其方より上位にあたる婦人はおらぬ」
「え?」
ピタリ、と足が止まる。
え、それどういう意味?
ゼクスさんは私を見ず、前を向いたまま告げる。
「現在の王位継承権はシリス殿下が第1位、次いでカーク殿下、儂、コーネリア、其方だ」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ」
「対外的に身分としては王妃、王太子妃候補であるエリザベス嬢、次いで其方の順なのだがな。
保有魔力の質から言うと、王位継承権は其方が第4位となる。これは儂と国王、王太子のみが知る事だ。
・・・無論この場は『影』が人払いをしている故安心せよ」
「私、タロットワークとはいえ異世界人ですよ?」
「だから4位まで下げさせた。本来は3位となるが、儂が入った。・・・儂が継いだ所で長くは保たんのにな。
コーネリア、其方が異世界人と言うことは王族のみの情報だ。他の上位貴族達にはこの事は漏らせぬ。
しかし『タロットワーク』に未婚の子女がいる、という事はもう隠しようがない。
婚約の申し込みなんぞは儂やセバスの権限で如何様にもできる。が、其方の身分を公表しておかねば今後の情勢に流されることになる」
アナスタシアは『タロットワーク』を名乗りはしても近衛騎士団に所属、そしてクレメンス家に嫁いだ事で継承権はない。
ゲオルグさんにしても、継承権はありはするが私よりも下がるらしい。ゲオルグさんの子供は継承権は持たない。
今後、エリーがシリス殿下の子供を産めば、その子が継承権を持つことになるが、それでも私の下になる可能性もあるそうだ。
もしも、私が側妃となった場合、子供の継承権は第1位になる可能性が高い、と…
私、結構軽く見てたけど、『タロットワーク』の血(わたしにはないけど)ってかなり重要視されてない?
エリーにもタロットワークの血が入っている。現状、私は直系ではないが、王族以外の他の貴族にはその情報はない。
つまり、私は前王族の血を引く直系女子、と思われているということ。
タロットワークが養女を迎える、ということは直系の子供がいた、またはそれに準ずる濃さの血の持ち主だと認めたと認識されているようだ。
「うわ・・・」
「すまんな、コーネリア。こういう事が面倒で儂も父上も王族を退いたのだが。
周りは放っておいてくれんのだ。できる限りそういう煩わしさには触れさせんようにするつもりなんだが」
「それだけ、期待されていた、んですね」
「・・・・・」
「─────お二人共、皆様お待ちでいらっしゃいます。お話の続きは戻られてからがよろしいかと」
セバスさんがそっと足の止まった私達に声をかけた。
その言葉に背中を押されるようにゆっくりと歩き始める。
面倒な事になった、と思う反面、タロットワークという存在にこの国の人々がどれだけ期待をしていたのか、しているのかがわかった。
おんぶにだっことは思いたくはないのだが、それだけ『王様』を愛していたということなのだろうか。
あの頃の善き時代を忘れられないという事なのだろうか。
確かに建国より国を牽引してきた一族だ。愛されるのも、敬われるのも当然なのだろう。
別の血族へ王位を受け継いだのも、長い歴史から見ればほんの少し前の出来事だ。
アルゼイド王家がタロットワーク一族を越えるにはまだまだ長い年月がかかるのだろう。それまでは真摯に国と、民とに向き合っていく他ない。
タロットワークもまた、それを助け、導いて行く他ないのだ。
王位を手放した一族の役割として。
仕方ないよなあ、それをわかっていて私は我儘をさせてもらっているのだから。
こちらの世界へ引っ張りこまれたのは確かにこちらの人の責任でもあるけれど、特別扱いを受けているのは事実だもの。与えられているものは過度な程だ。
仕事と同じ。報酬は働いた分だけ与えられるものだもんね。
関わってしまったからには出来るだけの事をしなくては。それだけの事はしてもらっている…と自分は感じているのだからやるしかない。
継承権ったって本当に私にお役目が回ってくるわけないし。
なんとかなるでしょ、これまでのようにね。
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