異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん

文字の大きさ
上 下
110 / 158
留学帰国後 〜王宮編〜

133

しおりを挟む


夜会も終盤。王族の方々が広間から退出すれば、後は三々五々他の貴族客も順番に退出していく。
これを延々と待っている使用人達の忍耐、褒められるべきではないかと思う。



「つか、早よ帰れー」

「コーネリア様毒舌ぅ」

「だってこれいつまで待たせんのよ、もう終わったんだから帰んなさいよダラダラしてないでさあ」

「仕方ありませんよ、ここでまだ人脈作りに励む方々もおいでなのですから」

「でもさあいればいるだけみんなの仕事が終わらないじゃない?それって非効率よね」



招待客がいると片付けが進まない。楽団の皆様は徐々にお帰りになっているのだが、フロア警備の方々や、メイドの皆様は全員が退出してくれないとあまり動けない。

これって非効率よねー…映画館や劇場でもさっさと退出しないとお掃除の人の邪魔になるもんねえ…しかもこれ残業よ?残業代ちゃんと出るの?時間外通り越してこれは深夜手当発生するべきじゃない?だって22時すぎてんだからさあ。



「時間外超勤のため深夜手当を頂きたいわ」

「なんですかそれ」

「普段働く時間を大幅に超えているからちょっとしたお手当を要求したいってことよ」

「いいですねえそういうのあると」

「え、ないの?」

「ありませんよ普通」



それはイカン、労基署に訴えられちゃうわよ?
ていうかこの世界に労基署とかあんのか?他の貴族のお屋敷がどうか知らないけど、王宮にそういうのあってもいいわよね。今度ゼクスさんに言ってみようかな?タロットワーク別邸にはあるのだろうか。しかし深夜シフト的なものがあるからローテきちんと作ってそう。セバスさんが。

そんな事をつらつらを考えていると、ほとんどの貴族が出ていった。最後の招待客を退出させ、大扉がガコン、と閉められる。



「あーーー!!!終わったーーー!!!」

「コーネリア様、叫ばなくても」

「退出すんのに1時間かかるとか、遅いわよーーー!!!」



フロアに向けて絶叫。黙々と作業を始めているメイドや使用人達も数人コクコクと頷いている。
ライラも静かに頷いたところを見るとそう思っていた様子。

すると、男性の低い笑い声がした。
そちらへ顔を向けると、そこにはゼクスさんが入ってきていた。



「随分とお待たせしたようだのう」

「ほーーーんとですよ全く。
ゼクスさんも待ち疲れたんじゃないですか?」

「確かにそれはありますな。コーネリア、陛下達に御挨拶は後日でいいのですかな?」

、挨拶ですか?ちゃんと後日改めて公式に御挨拶した方がいいのではないですか?夜も遅いですし」

「ではそうするとしましょう。では帰るとしますか、アナスタシアも待っておりますぞ」

「あー、そうですね。では皆さん、今日はご迷惑をお掛けしました、ありがとうございます」



私はくるりと振り返り、今も片付けをしてくれているメイドさん達に向けて頭を下げた。
本来、貴族のお嬢様であればそのような事をしないのだろうけど、私の事をわかってくれている使は心得たように私に向けて同じように頭を下げてくれた。

ターニャとライラは周りのメイド達にいくつか話をして、私達と共に別邸へと帰宅。
帰りの馬車では女神様のようなアナスタシアをじっくり鑑賞しながら帰りました。うん、美人っていいわよね。



********************



蓬琳皇国から帰ってきてから変わったこと。

まず、ゼクスさんが私を呼ぶ時に『コズエ殿』から『コーネリア』と呼ぶようになったこと。
これは私がタロットワークの一族名を名乗る事を受け入れた時に、今後は娘として振る舞う事にしたからだ。とはいえ、本物の娘がいたというよりは、養女として迎えた意味合いとなる。

そうなるとゲオルグさんの妹…という位置になる訳だが、まあその辺は曖昧だ。年齢的にゲオルグさんの娘、としてが1番いいかもしれないのだが、そこはゼクスさんが譲らなかった。

『娘』としてよりかは『一族』に迎え入れたという形にしたかったようだしね。

そうなると、今までのように『殿』を付けて呼ぶのもおかしいということで、名前呼びとなった。
一族入りをしたことで家令のセバスさんには『そろそろ「さん」付けは辞めて頂かなくてはなりませんね』と笑顔を向けられたが、そこは外に出た時だけにさせてもらっている。…そのうち中でも外でもと言われるのは目に見えているけど。

アナスタシアにとっては妹ができた、と喜んでいた。
そうでなくても『私の姫』と呼ばれ掌中の珠ばりに大事にされている…うんもう諦めたので好きにさせてあげようと思います。過保護って訳でもないからね、一応。

学園にもそろそろ戻ることになるだろう。…と、思っていたのだが…



「え?復学はなし?」

「そのようです」



学園に復学できる…と思っていたのだが、まさかの学園からの受け入れ拒否。理由はなんなのかと思って聞いてみれば…



「うーん・・・まあ、理解できるといえばできるというか」

「学園側も色々と大変なようでして」



どうやら、同学年に王太子妃候補(確定)、星姫が揃っているだけでも警備が大変だというのに、そこに元王族タロットワークが重なった日には何か会った時にもう責任を負えない、という事のようだ。

私は正式な元王族タロットワークではないのだが、学園側にしてみればそんな事は関係ない。その名に『タロットワーク』を名乗っていれば直系だろうが分家筋だろうが関係ないという訳だ。



「プラス、コーネリア様に魔法の事で教えられる事はもう何も無いということでした。既に在学中に教えられる事は教えた、と」

「あー、もうそれ言われちゃうとなー」

「確かにコーネリア様がしていた事は学生の範疇ではありませんでしたからね。今ある魔法を改良していた訳ですから」



私を受け持っていた講師は既に学園を去っており、今は自分の研究室にいるとの事。つまり、ゼクスさんの職場だ。なので今後勉学に励むのであれば、そちらへ通われる事をお勧めする、と…

他にも歴史やマナーに至っては、個別に学ばれると宜しいのではというコメント付き。これはもう爆弾は来てくれるなとのことですね?



「ただし、学園内の図書館は解放します、とのことです。
勿論来る際には、護衛をお忘れなくと言っておりました」

「出入りを制限はしないけど、学生ではなくお客様ってことね。
まあ仕方ないか・・・これ以上お世話になるのも申し訳ないし、受け入れましょう。
これ以上の魔法を覚えようとは思っていないし」

「かしこまりました、学園側にはそのように。魔術研究所の方は如何致しますか?」

「できればそちらにも出入りできるようにしてもらいたいかな。帰還方法を探すには魔術研究所の書物を漁らないといけないかもしれないし。
ゼクスさんの研究室に入れればそれでいいかなと思うのだけど」

「それが宜しいでしょう。旦那様には私から伝えておきましょう。
明日から出入りできるよう、手筈を整えます」

「重ね重ね申し訳ないわね」

「いえ、コーネリア様の手足となるのが我々の役目でございます。なんなりとお申し付けを」

「セバスさん?そこまでかしこまらなくても」



セバスさんは私を見つめ、優しく微笑みながらも言い聞かせるように話す。



「コーネリア様、これまでは『お客様』としてお迎えしておりましたが、『タロットワーク』の名を冠したからには、我々は皆貴方様を旦那様と同じように『主』としてお迎え致します。
それが我等の役目でごさいますから」



留学前に言われたこと。
セバスさん達…元暗部の人達にとって、タロットワークの一族は命に替えても守り通すべきもの。
直接の血を引いておらずとも、その名前を冠したからにはその役目を全うするのが仕事であると聞かされた。

『タロットワーク』の名にはそれだけの重みがある。

だからこそ背負う事に気後れしていたけれど、自分の望みには変えられなかった。だから、これは私が受け入れなければならないことでもある。守ってもらっているのだものね。我儘ばかり言っていられない。

あーこれ、『高貴なるものに伴う義務ノブレス・オブリージュ』か?
いつだったかカーク王子に言った言葉がブーメランで返ってきてるー!これが等価交換ってやつか!?どこぞの錬金術師じゃないってのに!しまったー!

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~

夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。 「聖女なんてやってられないわよ!」 勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。 そのまま意識を失う。 意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。 そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。 そしてさらには、チート級の力を手に入れる。 目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。 その言葉に、マリアは大歓喜。 (国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!) そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。 外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。 一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい

うどん五段
ファンタジー
昔やっていたゲームに、大型アップデートで追加されたソレは、小さな箱庭の様だった。 ビーチがあって、畑があって、釣り堀があって、伐採も出来れば採掘も出来る。 ビーチには人が軽く住めるくらいの広さがあって、畑は枯れず、釣りも伐採も発掘もレベルが上がれば上がる程、レアリティの高いものが取れる仕組みだった。 時折、海から流れつくアイテムは、ハズレだったり当たりだったり、クジを引いてる気分で楽しかった。 だから――。 「リディア・マルシャン様のスキルは――箱庭師です」 異世界転生したわたくし、リディアは――そんな箱庭を目指しますわ! ============ 小説家になろうにも上げています。 一気に更新させて頂きました。 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る

拓海のり
ファンタジー
 階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。  頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。  破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。  ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。  タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。 完結しました。ありがとうございました。

処理中です...