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留学帰国後 〜王宮編〜
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しおりを挟む夜会も終盤。王族の方々が広間から退出すれば、後は三々五々他の貴族客も順番に退出していく。
これを延々と待っている使用人達の忍耐、褒められるべきではないかと思う。
「つか、早よ帰れー」
「コーネリア様毒舌ぅ」
「だってこれいつまで待たせんのよ、もう終わったんだから帰んなさいよダラダラしてないでさあ」
「仕方ありませんよ、ここでまだ人脈作りに励む方々もおいでなのですから」
「でもさあいればいるだけみんなの仕事が終わらないじゃない?それって非効率よね」
招待客がいると片付けが進まない。楽団の皆様は徐々にお帰りになっているのだが、フロア警備の方々や、メイドの皆様は全員が退出してくれないとあまり動けない。
これって非効率よねー…映画館や劇場でもさっさと退出しないとお掃除の人の邪魔になるもんねえ…しかもこれ残業よ?残業代ちゃんと出るの?時間外通り越してこれは深夜手当発生するべきじゃない?だって22時すぎてんだからさあ。
「時間外超勤のため深夜手当を頂きたいわ」
「なんですかそれ」
「普段働く時間を大幅に超えているからちょっとしたお手当を要求したいってことよ」
「いいですねえそういうのあると」
「え、ないの?」
「ありませんよ普通」
それはイカン、労基署に訴えられちゃうわよ?
ていうかこの世界に労基署とかあんのか?他の貴族のお屋敷がどうか知らないけど、王宮にそういうのあってもいいわよね。今度ゼクスさんに言ってみようかな?タロットワーク別邸にはあるのだろうか。しかし深夜シフト的なものがあるからローテきちんと作ってそう。セバスさんが。
そんな事をつらつらを考えていると、ほとんどの貴族が出ていった。最後の招待客を退出させ、大扉がガコン、と閉められる。
「あーーー!!!終わったーーー!!!」
「コーネリア様、叫ばなくても」
「退出すんのに1時間かかるとか、遅いわよーーー!!!」
フロアに向けて絶叫。黙々と作業を始めているメイドや使用人達も数人コクコクと頷いている。
ライラも静かに頷いたところを見るとそう思っていた様子。
すると、男性の低い笑い声がした。
そちらへ顔を向けると、そこにはゼクスさんが入ってきていた。
「随分とお待たせしたようだのう」
「ほーーーんとですよ全く。
ゼクスさんも待ち疲れたんじゃないですか?」
「確かにそれはありますな。コーネリア、陛下達に御挨拶は後日でいいのですかな?」
「これで、挨拶ですか?ちゃんと後日改めて公式に御挨拶した方がいいのではないですか?夜も遅いですし」
「ではそうするとしましょう。では帰るとしますか、アナスタシアも待っておりますぞ」
「あー、そうですね。では皆さん、今日はご迷惑をお掛けしました、ありがとうございます」
私はくるりと振り返り、今も片付けをしてくれているメイドさん達に向けて頭を下げた。
本来、貴族のお嬢様であればそのような事をしないのだろうけど、私の事をわかってくれているタロットワークお膝元の使用人達は心得たように私に向けて同じように頭を下げてくれた。
ターニャとライラは周りのメイド達にいくつか話をして、私達と共に別邸へと帰宅。
帰りの馬車では女神様のようなアナスタシアをじっくり鑑賞しながら帰りました。うん、美人っていいわよね。
********************
蓬琳皇国から帰ってきてから変わったこと。
まず、ゼクスさんが私を呼ぶ時に『コズエ殿』から『コーネリア』と呼ぶようになったこと。
これは私がタロットワークの一族名を名乗る事を受け入れた時に、今後は娘として振る舞う事にしたからだ。とはいえ、本物の娘がいたというよりは、養女として迎えた意味合いとなる。
そうなるとゲオルグさんの妹…という位置になる訳だが、まあその辺は曖昧だ。年齢的にゲオルグさんの娘、としてが1番いいかもしれないのだが、そこはゼクスさんが譲らなかった。
『娘』としてよりかは『一族』に迎え入れたという形にしたかったようだしね。
そうなると、今までのように『殿』を付けて呼ぶのもおかしいということで、名前呼びとなった。
一族入りをしたことで家令のセバスさんには『そろそろ「さん」付けは辞めて頂かなくてはなりませんね』と笑顔を向けられたが、そこは外に出た時だけにさせてもらっている。…そのうち中でも外でもと言われるのは目に見えているけど。
アナスタシアにとっては妹ができた、と喜んでいた。
そうでなくても『私の姫』と呼ばれ掌中の珠ばりに大事にされている…うんもう諦めたので好きにさせてあげようと思います。過保護って訳でもないからね、一応。
学園にもそろそろ戻ることになるだろう。…と、思っていたのだが…
「え?復学はなし?」
「そのようです」
学園に復学できる…と思っていたのだが、まさかの学園からの受け入れ拒否。理由はなんなのかと思って聞いてみれば…
「うーん・・・まあ、理解できるといえばできるというか」
「学園側も色々と大変なようでして」
どうやら、同学年に王太子妃候補(確定)、星姫が揃っているだけでも警備が大変だというのに、そこに元王族が重なった日には何か会った時にもう責任を負えない、という事のようだ。
私は正式な元王族ではないのだが、学園側にしてみればそんな事は関係ない。その名に『タロットワーク』を名乗っていれば直系だろうが分家筋だろうが関係ないという訳だ。
「プラス、コーネリア様に魔法の事で教えられる事はもう何も無いということでした。既に在学中に教えられる事は教えた、と」
「あー、もうそれ言われちゃうとなー」
「確かにコーネリア様がしていた事は学生の範疇ではありませんでしたからね。今ある魔法を改良していた訳ですから」
私を受け持っていた講師は既に学園を去っており、今は自分の研究室にいるとの事。つまり、ゼクスさんの職場だ。なので今後勉学に励むのであれば、そちらへ通われる事をお勧めする、と…
他にも歴史やマナーに至っては、個別に学ばれると宜しいのではというコメント付き。これはもう爆弾は来てくれるなとのことですね?
「ただし、学園内の図書館は解放します、とのことです。
勿論来る際には、護衛をお忘れなくと言っておりました」
「出入りを制限はしないけど、学生ではなくお客様ってことね。
まあ仕方ないか・・・これ以上お世話になるのも申し訳ないし、受け入れましょう。
これ以上の魔法を覚えようとは思っていないし」
「かしこまりました、学園側にはそのように。魔術研究所の方は如何致しますか?」
「できればそちらにも出入りできるようにしてもらいたいかな。帰還方法を探すには魔術研究所の書物を漁らないといけないかもしれないし。
ゼクスさんの研究室に入れればそれでいいかなと思うのだけど」
「それが宜しいでしょう。旦那様には私から伝えておきましょう。
明日から出入りできるよう、手筈を整えます」
「重ね重ね申し訳ないわね」
「いえ、コーネリア様の手足となるのが我々の役目でございます。なんなりとお申し付けを」
「セバスさん?そこまでかしこまらなくても」
セバスさんは私を見つめ、優しく微笑みながらも言い聞かせるように話す。
「コーネリア様、これまでは『お客様』としてお迎えしておりましたが、『タロットワーク』の名を冠したからには、我々は皆貴方様を旦那様と同じように『主』としてお迎え致します。
それが我等の役目でごさいますから」
留学前に言われたこと。
セバスさん達…元暗部の人達にとって、タロットワークの一族は命に替えても守り通すべきもの。
直接の血を引いておらずとも、その名前を冠したからにはその役目を全うするのが仕事であると聞かされた。
『タロットワーク』の名にはそれだけの重みがある。
だからこそ背負う事に気後れしていたけれど、自分の望みには変えられなかった。だから、これは私が受け入れなければならないことでもある。守ってもらっているのだものね。我儘ばかり言っていられない。
あーこれ、『高貴なるものに伴う義務』か?
いつだったかカーク王子に言った言葉がブーメランで返ってきてるー!これが等価交換ってやつか!?どこぞの錬金術師じゃないってのに!しまったー!
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