異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん

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幕間 ~それぞれの一年~

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◆コズエ・ヤマグチの場合④


「それにしても、随分本を溜め込んだな」


数日に一度やってくる高星カオシン皇子。先触れをちゃんと出してくれるので、散らかし放題の時に来たことはない。
それに、増えていく本の出所の半分は貴方なんですが?

今回もまた、新しく王宮の書庫から掘り出して来たという書物を持ってきてくれた。
本来持ち出しは禁止なのだが、古語で書かれている上に、読める人も少ない。
離宮は王宮の特定の門からしか来られないし、警備もかなり厳しい。かいくぐったとしてもウチには腕利きレーダーのターニャがいる。
つまり、不正な持ち出しなどはできないし、したとしても読める人がいない。

私の場合、言語変換が勝手にされているようで、普通に意味がわかります。書けって言われたら無理。


花麗ファオリー皇女を手懐けたとか?」

「いやあの子勝手に懐いてきてるだけね」

「好かれたもんだな。仕方のないことか。この王宮ではいかに親子、兄弟姉妹といっても家族らしい団欒などないからな。
エル・エレミア国のアルゼイド王家はかなり仲が良さそうで驚かされた。同じ王族でも違うのだなと」

「そんな仲いいかしら?」

「他国を巡り歩いたが、どこも我が国と似たり寄ったりだと思うぞ?
王は子を政治の道具としか見ていないだろうし、そこに親子の情を出すなどあり得ん。
アルゼイド王家もそうだろうが、あの国王と王妃を見れば、王子2人に愛情があると見てわかる」


そういうもんか。確かにルジェンダ陛下もシュレリア様もシリス殿下とカーク殿下のことなんだかんだと気にかけてるしね。
考えてみると、ゼクスさんもゲオルグさんの事とか厳しくあたってるけど気にしてはいるし。


「蓬琳って皇子皇女多いものね。でも同母兄妹なら交流あるでしょう?」

「まあ、確かにないとは言えないな。弟や妹と会うのは月に一度程度だが。
母上のお茶会に参加するくらいか」

「殺伐とした家族関係を披露頂きありがとうございます」

「皇族というのはこんなものだ。貴族の家でも変わりはないだろう?
子を産んだとしても手ずから育てることなどないだろう、大貴族ならば正妻には社交があるからな。
皇族ならさらに。言わずもがなというものだな」


淡白、というかなんというか。
確かに妃が何人もいれば、子も沢山産まれるだろう。
その全てが仲良しこよしか、っていうと…


「それにしても、貴方、皇妃様の子じゃなかったのね」

「驚いたか?」

「順当に第一皇子ってくらいだから皇妃様の子だと思ってたわ。
というか、こんなに貴妃様達がいっぱいいるとは思わなかったし」


高星皇子の説明によると、当初は兄皇子達がたくさんいたし、皇太子となる気もなかったそうだ。
しかし幼いながらに、どんどん亡くなっていく兄や姉達の代わりとならねばならない、と思ったそうだ。

流行病は一定の年齢の子供にしか流行らず、乳飲み子や幼児には流行らなかったらしい。
7~8歳から14~5歳の子供…つまり成長期の子供に流行ったようだ。

高星皇子が15歳になり、聖人として認められた時、当初皇太子は皇妃の子である現第二皇子の名が上がったそうだ。
しかし、皇妃自らがそれを覆し、高星皇子を皇太子としたそうだ。
『帝位は素質ある皇族が継ぐが相応しい』と。


「素晴らしい考えの御方、ね」

「頭が上がらんな。皇太子に付く時、母上からも言われた。『今後はあの御方を母とも思い、国の為に尽くす様』とな」


そして、皇妃陛下からは御言葉を賜ったのだとか。
『其方が真に国の事を憂い、考え、民の為に努力を惜しまぬのならば、妾は実の子同様、其方の貢献を致しましょう』と。


「それが国母としての役目、だとな。
数いる貴妃達の中、あの方は皇帝たる父上と並び立つに相応しい女人だ。
願わくば、俺の未来の伴侶たる女人にもそうあって欲しい」

「流石ねえ・・・そこまでの信念を持つって、簡単にできる事じゃあないわよね」

「何を言う、お前もその才能があると思うが」

「あっ無理、私自分の手でできる範囲しかやらない人なんで」

「・・・そのようだな」


はあ、と溜め息。知ってて聞いたよね?
そんな覚悟できてる子なんて、私の知り合いにはエリーしかいませんよ?
もしなんならご紹介しますけど?


********************


蓬琳国では書物を読み散らかし、皇女様のお茶会に付き合い、さらに春妃様、皇妃様までもお茶会に誘われた。
どうやら、皇妃様、春妃様のお2人には私が『異世界人』であると知られているらしい。

蓬琳国の内情…とまではいかないが、宮廷内にいる人ならば誰でも知っている範囲内の人間関係は知っている。
四貴妃の間はあまり良くはないらしく、ちょっとした派閥があるようで。
皆、それぞれに交友関係を持っているらしい。

その範囲内から外れまくっている私という存在は、春妃様や皇妃様にしてみれば気楽にお茶を飲める相手の様で。
とりとめのない話のお相手をさせてもらったりしていた。

書物を読むだけでなく、近くの町を巡ってみては、炊き出しを手伝ってみたり。
私がいることで、徐々に国内も落ち着いてきている、という事を直に感じられたりした。

高星皇子は独自の伝手を使って、異世界人の逸話だったりを教えてくれたりした。
それをターニャやライラ、高星皇子の側近である洸牙さんが手伝ってくれた。
私は皇都付近の町の神殿しか回れなかったけれど、遠くの町にある神殿については洸牙さんが行ってくれたり。
神殿では異世界人の話を語り継いでいた神官さんだったりがいた。
そこに残る文章であったり、書きつけを写してきてもらったりした。

そこで、私が知り得た事。

異世界人は本当に、この世界…この国に来る事があるようだ。
そして、この国に来る確率が何故か高い。数十年に一度のペースで見つかるようだ。
なんだろう、なんか穴とか空いてんのかな…?どうなってんだろ、この世界の神様って。

ただやっぱり、その人達の書いた日記やメモを発見はするんだけど、内容としてはイマイチ。

醤油職人、いました。
その人の書き残してるレシピ、ありました。
…これは今の職人さんに公開すべきかしら?

うーむ、これは色々見つけたけど…
これ以上は蓬琳にいても成果は上がらないかもしれない。
そう思ったのは、ここに来て10ヶ月程経った頃だった。
最初は読む物が沢山あって、本当に忙殺されていた。徐々に外に出るようになって、この国の皇族の務めに付き合ったりした。
被災地へのご挨拶や炊き出しなど。復興の現場を見たり、怪我人を治したり。

確かに色々わかったことはあるけれど、そのどれにも『帰った』話はなかった。
添い遂げた、という話はあっても、だ。

もし帰れたとしたなら、日記も途中で終わる事もあるだろう。
最後まで書かれていないものもあるから、その希望が潰えたわけではない。
けれど、方法としては…わからない。

そろそろ、一年が過ぎる。
蓬琳皇国での留学生活も終わり。来た頃は国内の活気も少なかったけれど、今では復興の息吹がそこかしこに感じられる。

エル・エレミア国の噂も聞こえて来ている。
エリーとカーク殿下の婚約破棄。
そして、エリーがシリス殿下の婚約者候補となった事。
アリシアさんがまた『星姫』を務め上げた事。

さて、帰還方法については全く手掛かりも得られなかった。
同じ異世界人の事は色々とわかったけれど。
私が見つけたのは、このひとつだけだ。

手元にあるのは、一枚の古びた用紙。

そこには魔法陣のような不思議な模様がある。
この紙、つい最近皇妃様が持ってきてくれた古書に挟まっていたものだ。
皇妃様曰く、この古書は昔から皇帝の執務室に置かれているものらしい。
持って来ていいのか…?と思ったが、誰も読めないものなどあってもなくても同じ、という大物なご意見をいただいた。
内容については蓬琳皇国の歴史についてのものだったけど、その中から出てきた。
皇妃様に見せたけれど、必要なら持って帰って構わない、と言われた。タロットワークの大御所ならばわかるかもしれないと。

私も数人のタロットワークの人に会った。
蓬琳皇国でもタロットワークの血族である人たちにも話を聞いたりさせてもらった。
やはり変人と紙一重…な人も多く、けれど有能なのは間違い無くて、この国の復興には欠かせない人達であるらしい。
そしてこの人達を援助しているのが皇妃様…であったりする。もしかしてちょっと血を引いてたりするのでは?

ともかく、蓬琳での成果はこの紙切れ一枚。
でももしかしたら、これが何かのキッカケになるかもしれない。

今、私が思うのは「いってらっしゃい」と背中を押してくれたゼクスさんやセバスさんの顔。
1年、って約束したのだから、何はともあれ帰らなくては。

高星皇子には『口説き損ねたな』なんて言われたけれど。
私はこの1年、彼を見ていてその頑張りや、挫けない強い精神にとても惹かれるものがあった。
とっても、ステキな男性になるだろう。そして、その隣に並ぶのは劣らないくらい輝いた女性でなくては。

戻ったら一体どうなっているんだろう?
エリーやアリシアさんからもお茶会の誘いをもらっている。
みんなからいろんな話を聞かなくちゃね。

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