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幕間 ~それぞれの一年~
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しおりを挟む◆コズエ・ヤマグチの場合③
「お姉様?また本を読んでいますの?」
ぴょこり、と顔を出した花麗皇女。
気づけば、ほとんど毎日私をお茶会に誘いにやってくる。なぜ懐かれた。解せぬ。
「言ったでしょ花麗。私はこの為に蓬琳へ来たんだって。お勉強ですよお勉強」
「お勉強もよろしいですけれど、少しくらいワタクシにお時間をくださいませ!」
さあさあ!とぐいぐい腕を引っ張る花麗皇女。
まあこの子とお茶するの嫌いじゃなくなっちゃったからいいんだけどね・・・
皇女との再会は最悪だった。何が気に入らないのか、癇癪を起こして騒いでいる所にかち合ってしまったのだ。
私を見つけるなり、侍女たちにギャンギャン言ってたのをやめて私に言いがかりをつけて来たのだ。
その時、私も本を読み漁り始めて完徹してしまった日だった。
なので、ほとんど頭が回ってなかった状態で、眠かった。
その上、すごくうるさかった。何を言ってるか聞き取れなかったけれど、あんまりにもうるさいのでつい、やってしまった。
頭の上に、チョップを。
そこまで痛くはなかったと思う。
しかし、皇女様はおそらく初めてだったのだろう。
ビス、と決まったチョップに、その場が完全に凍りついた。
「うるさい」
「な、な、、、、、」
「いい歳して、ぎゃんぎゃん喚いてみっともない。皇女たるものそんな振る舞いしていいのかしら?
例え自分が偉い身分であったとしても、侍女相手に喚き散らすのは恥ずかしい事よ」
「な、貴女なんかに、」
「自分の主人が誰構わず当たり散らす人、なんて他の人から言われるのは貴女の侍女達よ」
「あっ・・・」
私の言葉のどこに心揺らされたのか、ハッとして彼女は後ろにいる侍女達を振り返った。
それから私を見上げ、どうしようか迷った顔をした。
きっと謝ろうとしたのかもしれない。
しかし!残念ながら私はものすごく眠かった。ものすごく。
なので、そこで花麗皇女をフォローする事もなく、すたすたと自分の部屋がある離宮へ戻ってしまったのだ。
私が何を言ったのか、その後花麗皇女が侍女達にどうしたのか知ったのは次の日。
たっぷり眠った後、ご飯を食べながらライラから話を聞いた。
私が去った後、花麗皇女は自分の侍女達に謝り、その後私にも謝りに来たらしい。
しかし私はガン寝していた。起きなかった。
なので日を改めたい事、そして皇女の筆頭侍女である姚蘭さんが御礼と非礼を詫びに来たそうだ。
ターニャもライラも何も聞いていなかったから驚きました、と言っていたが、『コーネリア様なら何をやらかしても仕方ないので』という台詞にはちょっと首を傾げざるを得ない。どうして私付きのメイドはこうなんだ。どうしてそうなった。
ちなみに、蓬琳から侍女を付けると言われたのだが、ターニャとライラがお断りしていた。
『私達だけで十分です!だってあの子達暗器も持ってないって』(ターニャ)
『仕事が遅いのはターニャ1人で十分です』(ライラ)
と、いう事だそうだ。ライラに比べ、仕事が遅いと言われているターニャだが、周りの侍女から情報を得てきたりだとか離宮の警備のみならず王宮の人からも話を聞いてきたりするその手練手管には一目置いているらしい。
ターニャからすると、適材適所です、だそうだ。
その前にだね、ターニャさん?暗器仕込むっていうのは必須スキルなの?
私からすると、ターニャも身の回りの世話をテキパキとしてくれていて文句なんてないんだけど、ライラからすると『及第点』であるらしい。
通常、侍女も5名ほどいるのが標準みたいなんだけど、私の周りは2人でササっと整えてしまっている。
これだけで他の侍女からは一目置かれているようだし、他の皇女様に至っては、自分の方に鞍替えさせられないかとちょっかいをかけてくる人もいるらしく。
他国から来たメイドを召し抱える、なんてできるのか?と思ったけれど、2人が頷く訳もない。
もし頷いたらセバスさん飛んできそうだもんね、お仕置きに…
「で、ですねコーネリア様。花麗皇女なんですけれど」
「ん?何?」
「一度きちんと謝罪したいと申し出が来ております」
「いやそこまでしてもらわなくても」
ライラが説明するところによると、これは花麗皇女の筆頭侍女である姚蘭さんからのお願いであるらしい。
花麗皇女は夏妃様の3人目の娘さんなんだとか。
しかし、上2人の娘さんは、流行病で亡くなった。
本来ならば、第一皇女と第二皇女だったそうだが、流行病とのことで、現在の第一皇女は冬妃様のお産みになられた子となった。
花麗皇女が産まれるまで、自分は第一、第二皇女を産んだ貴妃としてかなり幅をきかせていたのだが、転落。
ようやく花麗皇女を授かり、現在第二皇女の座を射止めた…というわけだ。
花麗皇女と同じ年に2人皇女が産まれたらしいのだが、妃嬪の娘ということで位は下げられたらしい。
「もしかして、私が言ったことがドストライクだった?」
「恐らくは。母親の姿を見て育ったこともあるのでしょう。花麗皇女は夏妃様の娘だそうですが、養育は乳母や姚蘭様がなさったそうですので」
母親には『道具』としてしか見てもらえなかった、ってやつだろうか。
夏妃様はわりとアグレッシブな方のようだから、侍女に当たり散らすってのもあったのかもね。
それを言われて我に返ったのかな?
…これは私が謝らなければならない案件では?
偶然とはいえ、トラウマ抉ったようなもんだもんねえ。
こうして、私は花麗皇女の謝罪を受け入れた。
その結果、『叱ってくれる人は姚蘭以外に初めてだった』というのがプラスに働いたのか、妙に懐かれている。
愛情が欲しいんだろうねえ。
母親からは構ってもらえず、姉がいるといっても冬妃様の子で、あまり交流もないようだ。
この国は皇子皇女の数はいるけれど、母親がそれぞれ違うので同母の子でなければ交流もないらしい、と聞いている。
ちなみに、高星皇子の同母兄弟は第5皇子と第4皇女だそうだ。
高星皇子の母親は皇妃様かと思いきや、春妃様である。
皇妃様の子は、第2皇子、ただ1人だそうだ。流行病で3人亡くされたのだとか。
そして現在花麗皇女は私に懐き、
「お姉様~♡」
…と、なっているというわけだ。
「花麗さん?あなたシリス殿下の正妃の座を狙っているんじゃなかったの?」
「あの方、とってもステキな王子様でしたわね!でもダメですわ、ワタクシやっぱりこの国が好きですし、出たくありませんもの。
あんまりお食事も美味しくありませんでしたし、エル・エレミアは」
「確かに蓬琳のご飯って美味しいわよね」
蓬琳の食事は基本、中華だ。そこに若干の和食っぽさが混じる。
米はやはり蓬琳からの輸入モノだったみたいだ。
しかし私がやっていたように『炊く』というよりは『蒸す』だった。ちまきね、ちまき。
もしかして地方によって食事も違うかも。中国と同じであれば、地方ごとの調理法あるよね。
エル・エレミアは基本的に洋食だったもんね。しかも単調な。
私は好き勝手にレシピ増やして美味しい食生活をしていたけど…王宮はどうだったんだろうか?
庶民達にどれだけ私の…というより地球産レシピが流れているのかまでは把握してないなあ。
タロットワークが絡んでいるから、流出まではいかないと思うけど。
しかし、味噌や醤油があった。調べたところ(もちろんターニャが)過去に異世界人が広めたらしい。
けれど製法は限られた職人のみが知ることができて、流出はしてない様子。
資源や特産が少ない蓬琳の重要な『輸出品』となっているそうだ。
「んー、醤油・・・」
「お姉様も異世界の方ですものね。ワタクシやこの国ではありふれたものですけれど」
「いやいや、これだけできれば十分だと思うわ」
「・・・失礼ながら、コーネリア様はもっと違う醤油をご存知なのではありませんか?」
姚蘭さんが花麗のお茶を変えながら聞いてきた。
まあこれくらいはいいか。私も作り方なんて知らないし。
「そうですね、醤油といってももっとたくさん種類ありますからね」
「そうなんですの?お姉様」
「そうなのですか!?」
「はあ。だし醤油とか?醤油と言っても作り方の違いで差が出るそうですし。塩分の違いとか」
「では、この醤油は?」
「それは基本というか、一般的なやつだと思いますよ?
あ、先に言っておきますが、私作り方は一切知りませんよ?大豆とか穀物からってことくらいしか」
ついつい喋ってしまう私だが、重要事項は漏らしてない、そう思いたい。
………大丈夫だよね?
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