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幕間 ~それぞれの一年~
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しおりを挟む◆コズエ・ヤマグチの場合①
私は今、大型の客船に乗って優雅にクルーズの旅に出ています。
「うう~、気持ち悪いです~」
「鍛錬が足りませんね、ターニャ」
側では船酔いしまくっているメイドが具合が悪そうにしています。
私もちょっと船酔いしそうだったけど、ちょいちょい買い置きしておいた干し梅をもぐもぐしているので大丈夫。
ターニャにも勧めたんだけど、どうやら梅干しは口に合わないみたい。
「うう、レディ失格です~」
「大丈夫だって、お魚さんの餌になるから」
「やめてください、コーネリア様。魚が可哀想です」
気にするところそっちか?と思いつつ。ライラは冷静にターニャの世話を焼いていた。船室で寝ていてもいいのだが、360度海とはいえ景色や潮風を感じていた方が気分が和らぐとターニャが言うので3人で甲板に出ている。
もちろん船員さん達の邪魔にならないようにはしているが。
********************
蓬琳国に向かう事を決め、エル・エレミア国を出た。
港からこっそり小舟で出航し、外洋に出る前に大型船に乗り換えた。大型船の方は大々的に送迎された模様。
さすがに留学していた蓬琳第一皇子が乗る船だ。王族を上げて見送るのは必要な事だったのだろう。
そこに加わるのは流石に気が引け…いや御遠慮申し上げたい私達は、別働隊として小舟で後から合流する事にした。
こちらには高星皇子の乳兄弟である腹心の男性が案内として付いてくれた。
「あれが蓬琳まで行く船です」
「うわぁ!」
「・・・これはまた、大きいですね」
「そうね」
ターニャとライラは驚いた様子。私は…えーと…
「・・・タロットワークの姫は驚かれませんか」
「あーいや、まあ」
「異世界にはあれよりも大きな船があるのですね、きっと」
あっさりと言われる。まあそうですね、クイーン・エリザベス号に比べたら小さいですね。大桟橋とかからクルーズで乗るくらいの大きさかな。
以前、横浜港にクイーン・エリザベス号が入港すると聞いて、友達とミーハー気分で見に行ってなければ感動していました。きっと。
あの時のド迫力に比べたら…うーん…しかしこの世界基準で考えたらきっと大きいのよね?芦ノ湖の海賊船みたいな感じだからなぁ、この船。
ハハッ、と笑いで誤魔化し乗船。
これは一体動力は何なんだろ?
「この船って動力何なんです?」
「・・・貴方ならいいでしょう。魔法と蒸気が半々でしょうか」
全てを魔法で動かすには魔力を注ぐ人員が足りないらしく、従来の動力と半々で動かすのが基本なのだとか。
「全てを魔法で賄う事が出来ればいいのですが、航行中に魔物に襲われないとも限りません。戦う事のできるように温存しておく事も必要なので」
「えっ? 航行中に魔物が出るんですか?」
「片手で済めばいい方です」
おい、かなり危険じゃないか…魔物なんてこっちの世界に来てからほとんど見たことない。課外授業の時に見たやつくらいだ。
しかし蓬琳国だけでなく、外洋…つまり大陸沿岸部を航行する時には海の魔物に遭遇してしまう事もあるのだとか。
故にこういった船には戦える人員を確保していないと、目的地にはたどり着けない。
「洸牙、そう姫を驚かせるものじゃない」
「これは殿下」
そこに現れたのはごってり着飾ったまま…ではなく、ラフな格好に着替えた高星皇子。半袖シャツに楽そうなズボン。船乗りさんのひとりのようにも見える。
「悪いな、こいつはこうやって人を喰ったことを言うんだ」
「これは心外ですね、私はありのままを申し上げたに過ぎませんよ」
「確かに、海の魔物は出る事もある。だが今回の航海には出ないだろう」
「? 何か策でも?」
私がそう聞くと、高星皇子は笑って私の手を取る。少し気取って手の甲に口付ける仕草をした。
「それはもちろん、お前がいるからだ」
「は?」
「恐らく、だがな。お前がいるから魔物は出ないだろう。出たとしても貧相なやつだろうがな」
『お前の加護はそういう類のものだ』と言外に言われる。…自分では全くその効果を味わった事はないのだけど、異世界人の知識がある蓬琳皇族に言われると信憑性もあるような気がする。
「海の魔物・・・と言えばクラーケンとか?」
「なんだそれは」
「え?でっかいイカ」
「・・・お前の世界ではそんなものが出るのか」
「出ないけど。あ、ダイオウイカならいるかな?10メートル級の」
「それは魔物でも普通サイズだろう?そのクラーケンとやらはどのくらいなんだ」
「さあ・・・見たことないし・・・物語だとこの船ぺしゃんこにできてしまうサイズかなぁ」
「そうだな、海の魔物達はそれくらいのサイズの奴が出る事もある」
ここは凪の海なんですか?大変だ海楼石持ってこないと…って某海賊漫画の知識を思い出してみる。
「偉大なる航路はどこから・・・」
「なんだって?」
「いえコチラの話です」
久しぶりに向こうのメタ知識を引っ張り出してしまった。私はそれ以上オタク知識を披露することもなく、船室に案内をされた。
客間のような部屋をあてがわれ、続き部屋をターニャとライラが。
この船は皇族が乗る専用船なので、こういった船室があるらしい。お姫様達用なのかもね?
********************
こうして、私達は10日にも及ぶ船の旅に出たというわけだ。
思っていたより長い航海ではなかったなぁ、なんて思っていたけれど、やはり加護の力は働いていたらしい。
とりあえず、大型の魔物に襲われる事はなかった。鳥型の魔物がちらほら出たようだけれど、それは難なく討伐され、食用のお肉として重宝されたらしい。
もちろん、美味しくチキン?ソテーとしていただきました。さばかれちゃえばそれはただの肉。肉なんです。塩胡椒して鳥皮ごとパリッと焼き上げてしまえば美味しくお腹におさまるのですから。
「うん、皮もパリッと」
「さすがコーネリア様ですわ~」
「食に関しての比類なき向上心・・・流石ですわ」
「二人ともそれ褒めてんの?褒めてないよね?」
鳥?肉を茹でるか蒸すかしかしなかった蓬琳料理。何故焼かない…?と不思議に思って、船内の料理長を説得して私自ら焼きましたよ、お肉。
伊達に10年近くひとり暮らししてたわけじゃない、自慢料理はないが、通常の料理はなんとかできる。鳥肉焼くなんてお手の物。
そしてパリッと焼き上げた鳥肉を頬張っているというわけ。私のやり方を見て覚えたターニャやライラも自分で焼きました。もちろんその後料理長もやってました。どうやら焼くだけだと少し臭みが出るのを嫌っていたようだけど、ちゃんとお酒ふって焼いたらそんなに気にならない。
うーん、蓬琳に行ったら食生活から変えないといけないのかな…?
私は到着するまでそんな呑気な事しか思っていなかった。蓬琳王国の現状を知るまでは…
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