悪役令嬢になりたくないので婚約を阻止しようとしましたが、いつのまにか王子様に溺愛されています。

えるる

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第二章 <断罪阻止>

第14話 <独占欲>

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 名残惜しそうに体を離したアシュガ様は口を開いた。

「ローズ、話があるんだ。私の部屋にきてくれるかな?」
「……? はい、わかりました」

 なんの話だろう?
 そう考えながらも、無言を貫くアシュガ様の隣を歩く。
 今更ながらに、歩くスピードが遅い私に合わせて歩幅を縮めていることに気がついた。

 そんな小さな発見もありつつ、アシュガ様の部屋に着き、いつものソファーに座るなりアシュガ様は口を開いた。

「単刀直入に言うと、ローズに攻撃してきた令嬢の父親――つまり、フォード侯爵が投獄された。」
「投獄……ですか?」

 確かに、彼女がしたことはこの貴族社会で立派な罪である。
 と言っても、被害は出ていないし、彼女はまだ子供だ。当人が修道院送りになって、侯爵が爵位一部返上等の重い罰を受ける事によって許される範囲であった……はずだ。

「横領、奴隷の売買、そして王太子の婚約者であり公爵令嬢の誘拐。充分投獄――それどころか、死罪に値するでしょう?」

 アシュガ様の目は激しい怒りに燃えていた。

「し、死罪……」
「ローズは気にしなくていいよ。そう言えば……もうすぐ試験だね」

 なんだか体よく話を逸らされた気がする。
 というか話題の方向が急に180°転換した。話題の逸らし方が下手だなぁアシュガ様。

「……そうですね」

 しかし、それを指摘するわけにもいかず相槌をついた。

「もうすぐ試験があって、学園祭の準備期間があって、学園祭。それからすぐ夏休みだね」
「なんだか早く感じますね……」

 学園に入ってから早くもふた月、色々ありすぎたのだ。
 イベントに誘拐、同級生による襲撃。前世を含めてもこんなに濃厚なふた月はなかった。

「夏休みが明けても、イベントが沢山あるね。ローズと一緒に楽しめると思うと、今から待ち遠しいよ」
「私達は生徒会に入っているのでとても忙しいと思うのですが……」
「それもローズと一緒にできるからね。思い出を共有できるのは嬉しいよ」

 思い出の共有。
 アシュガ様も案外、学園生活を楽しみたいんだな、と思う。
 まだ16歳ということはわかっているのだが、無意識の内に大人のように見ていたらしい。

「ええ、私も嬉しいですわ」

 心から言うと、アシュガ様は少し顔を赤くして言った。

「もう、ローズ……可愛い。」

 ぎゅっと抱きしめられる。
 遠慮がちにアシュガ様の背中に腕を回すと、アシュガ様は一瞬びくりとした。

「ローズ……だめだ、幸せすぎて死にそう。」

 そう言うとちゅっと口付けを落とした。
 そのままキスの雨を降らせるアシュガ様。

 ――む、無理。恥ずかしくて死んじゃう。

「あ……アシュガ様、その……そろそろ離して――」
「無理。」
「えっ」
「このままローズをどろどろに溶かして部屋に閉じ込めて一生俺しか見れないようにしようそうだ城に塔を」
「ややややめてくださいアシュガ様!?」

 アシュガ様のヤンデレが進行してるーー!!
 だめだ、非常にまずい。断罪を阻止できてもアシュガ様ヤンデレによる監禁ルートとか笑えない!
 城の塔とかダメなやつ!テンプレの監禁場所だから!!

「そ、そんなことをしなくても私にはアシュガ様しか見えていませんわよ……?」
「……やっぱり誰にも見せたくない」

 あれ逆効果?

「おいアシュガ、そこまでにしろ。ローズ嬢の身の危険を感じたらすぐ止めるようにとリリー……じゃないとにかくやめろ!」

 リコラスの口から一瞬私の侍女の名が出た気がする!!

「やっぱり、リコラスとリリーって……」
「わー違う!違うから!将来の同僚だ!!」
「伴侶か?」
「『りょ』しか合ってねぇ!!」

 おや、この様子じゃアシュガ様も気付いていたのか。
 やっぱりそうだよね……!?

「……とにかく、確かにもう遅い。ローズ、部屋まで送っていくよ」
「はい、ありがとうございます」

 アシュガ様と一緒にいると時が経つのがはやい。

 ☆.。.:*・゜*:.。..。.:+・゜:.。.:*・゜+

「ローズ、試験どうしようかしら……」

 前世でもお馴染みのセリフだ。
 幸いにも私は公爵令嬢としての教育と魔法の才能ハイスペックな設定のお陰で苦労はしていない。

「アザミは成績良いじゃない」
「ローズにだけは言われたくないわ」

 相次ぐ事件の根本となる人物が捕まったことで、私は最近より自由な生活ができていた。
 今は学園のカフェでアザミとお茶を楽しんでいる。

『だから――』

 足音と共に聞こえてきた、聞き覚えのある声。それに応える声もまた、聞き覚えのあるものだった。

『でもっ』

 段々近付いてくる、二人。

『ダメだと言っているだろう――』
『っ……』

 会話はもはやはっきりと聞こえてきた。
 心にじわじわと暗いものが広がる。

「学園祭くらい、婚約者から開放されてもいいと思うんですっ!」
「……」

 呆れた顔をしたアシュガ様と、頬を可愛らしくふくらませるアナベルがカフェの扉を開けて入ってきた。
 そこで、私の中の何かがプチンと切れてしまった。
 急に立ち上がった私に驚くことなく、まるで予想していたかのようにアザミも立ち上がる。

「御機嫌よう、アシュガ殿下、アナベル様。」
「ロ、ローズ様。」
「ローズ!?」

 驚くアシュガ様を無視して話を続ける。

「殿下の婚約者は私ですわ。アナベル様、あまり婚約者がいらっしゃる殿方に近付かれては良ろしくない噂が立つかもしれませんわ。そうなれば殿下にも貴女にも迷惑がかかるのではなくて?」

 直訳すると、私の殿下に近づくな!ということである。

「そ、そんな……ローズ様、私はそんなつもりでは」

 ……っ!
 このセリフは。ダメ、私、悪役令嬢と同じことを……
 けれど、これは公爵令嬢として、アシュガ様の婚約者として正しい行為なのだ。
 でも……もし、アシュガ様に、嫌われたら?

 そんな考えが脳裏を過ぎった瞬間、湧き上がったその気持ちを一瞬でかき消す言葉がアシュガ様から放たれた。

「ローズの言う通りだ。私に必要以上に近づくな。」

 冷たい声色。
 アナベルヒロインに向けるような甘い声ではなかったことに、とても安堵する。
 それとともに、『これでは独占欲を拗らせた悪役令嬢そのものじゃないか』と自分自身を責める声もきこえてくる。

「なん……なんで……」

 呆然とするヒロイン。
 すると、アザミが耳元で囁く。

「ローズ、その調子よ!」

 そう言えば、アザミは恋愛の鬼だった!
 その調子、ということは今回の対応は正解だったのか。
 つまり、再び怒涛のアドバイスお叱りを受けずに済んだということか!

「あのまま眺めているようなら、無理矢理にでも引っ張って行こうかと思っていたわ」

 ……うん、やっぱりか。
 そうだと思っていたよ。

「と、楽しんでいる所悪いけど、ローズ。君を呼びに来たんだ。どうやら生徒会室に行かないといけないらしい。アザミ嬢、ローズを借りていくよ」

 遠慮がちにアシュガ様から声がかかった。
 申し訳無いけれど、生徒会の仕事だろう。放置するわけにはいかない。

「はい。頑張ってちょうだいね、ローズ」
「ごめんなさい、また日を改めましょう」

 アナベルはいつの間にかいなくなっていたので、私はアシュガ様と二人で生徒会室に向かったのだった。
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