悪役令嬢になりたくないので婚約を阻止しようとしましたが、いつのまにか王子様に溺愛されています。

えるる

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第二章 <断罪阻止>

第9話 <今日の授業は>

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 残りの授業を休み、アシュガ様に連れられるまま学生寮に戻った。

「それで、話というのはなんですか?」

 見慣れたアシュガ様の部屋に入ってそう言うと、アシュガ様はまずソファに座った。
 隣をぽんぽんと叩くので、そこに座れということか。
 おずおずと腰掛け……ようとした時、抱きあげられて、気が付けばアシュガ様の膝に腰掛けていた。

「ひゃっ!?」
「話というのはね」
「え、え、このまま話すのですか!?」
「そうだよ。……ダメ?」

 耳元で甘く囁かれては、ダメなものもダメと言えなくなってしまう。あぁ、こんなことをするアシュガ様がいけないんだ。ダメと言えない私は悪くない。多分。

「うっ……」
「いいよね?」

 私がダメと言えないのわかってて言ってますよね!?

「くぅっ……」
「ふはっ、ローズは本当に可愛い……いじめ甲斐があるよ。」
「……もう、いいので話して下さい。」

 耐えられません。

「うん、それでね。どうやら私の可愛い可愛いローズに手を出そうと思っている輩がいるみたいでしょう?」
「か、可愛いは余計です」
「でも、これを公開しちゃうと面倒なことになってしまうんだ。つまり、大っぴらに護衛ができない。」

 私の発言をしっかりスルーしたアシュガ様の声が真剣味を帯びる。

「だから、これからどこへ行くにも私と一緒にしてくれ。放課後はできるだけ部屋に居て、授業でも注意して。絶対に一人にはならないこと。約束してくれるかい?」
「……わ、かりました。あ、あの。アザミ様を部屋に呼ぶのは良いですか……?」
「アザミ? ……あぁ、アカヤシオ家のご令嬢か。彼女ならいいよ」

 かなり自由が制限されるなぁ……。
 けれど、文句は言っていられない。アザミと話せるだけマシか。

「よしよし」
「ひぅ!?」

 この声は一体どこから出たのやら、自分でもわからない。
 ……すっごく恥ずかしい事だけは確かだ。

「あはっ、可愛い。」
「なんか可愛いの頻度高くないですかっ……」
「ローズが可愛い過ぎるのがいけない」

 いや、私はどっちかというと可愛いわけじゃないと思うんだけど……。悪役令嬢だし。
 ……まぁ、今に始まったことじゃないし、もう諦めよう。

 ☆.。.:*・゜*:.。..。.:+・゜:.。.:*・゜+

「りーりーいー」
「もうちょっとちゃんとした話し方はできないんですか、ローズ様。お帰りなさいませ」
「できますわよ?」
「……違和感がすごいのでやっぱりやめて下さい」

 テーブルに目をやると、湯気を立てる紅茶とクッキーが置かれていた。

「流石、リリー。」
「リコラスから聞きましたから。ローズ様が大変だったと」

 さっそく椅子に座ってカリッとクッキーをかじると、オレンジピールが入っている。
 酸味とほんの少しの苦味、クッキーの甘味が合わさってとっても美味しい。
 紅茶はダージリンかな。やはりこれも美味しい。

 と、クッキーに夢中になっていて気付かなかったが。

「……ん?リコラス?リリー、今呼び捨てにした?」
「なんの話ですか」

 しれーっと無表情で答えるリリー。
 ふふん、私は知っているぞ!
 リリーは、嘘を吐くときは無表情になるのだ!
 ……大体いつも無表情だけど。

「ふーん、なるほど……」
「何を想像しているのかは解りませんが違いますから」
「えー?本当にー?」

 ニヤニヤが止まらない。
 珍しく動揺しているリリーの様子を見るに、やはり二人は!

「ローズ様、そういえば。アシュガ殿下の前で、寝言を言ったらしいですね」
「……寝言? っまさか、あの時……」

 ニヤニヤしていたローズの顔が、一瞬で真っ青になった。

「しかも、その寝言。『アシュガ様ぁ』と甘えるように」
「ぎゃーー!! やめてーーー!!」

 今度は真っ赤になるローズ。
 青くなったり赤くなったり忙しい顔色である。

「これに懲りたら、揶揄からかうのはやめて下さい」

 今日、一つ学んだ。
 リリーを揶揄うのはダメだ……!

 ☆.。.:*・゜*:.。..。.:+・゜:.。.:*・゜+

 次の日、アシュガ様と共に登校する時間。
 寮から学校まではそう遠くない。だからそんなに多くはないが、二人きりで話せる時間は毎日楽しみにしている。

「アシュガ様、リコラス、おはようございます」
「おはよ、ローズ」 
「おはようございます、ローズ嬢」

 いつも少し離れた所で見ているリコラス。登下校中は、色んな視線に晒される。
 主にアシュガ様を熱っぽく見つめる視線だ。

「今日の授業はなんだったかな?」
「えーと、たしかラベンダー先生の魔法が二時間連続、それから男女別の授業だったはずです。あとは……」
「ロングホームルームだね。私達は昨日のホームルームに出てないから……何をするのか、わからないな」
「あぁ、そうでした。」

 そんな話をしながら教室へ向かうと、アザミがこちらへ向かってくる。

「おはよう、アザミ様」
「おはようございます、ローズ様!」
「おはよう、アザミ嬢」
「っ……お、おはようございますっ、アシュガ殿下!」

 ガチガチだ。

「そんなに緊張しなくていいよ。私達は学友なんだから」

 苦笑するアシュガ様。

「おはよう、レン」
「おはようございます、アシュガ殿下」

 そして、アシュガ様は誰かに声をかけた。
 そちらを見やると、そこには柔らかそうな茶髪に若葉の瞳を持つメガネ美青年……レンデュラ・シユリ、レン様がいた。

 何度か教室で見かけたことはあるが、私が必死に避けていたので間近で見るのは初めてだ。
 前世では画面の前であんなにきゃあきゃあ言っていたのに、今では何も思わない。それどころか、できれば関わりたくない。

 慌ててアザミに話を振る。

「ア、アザミ。私たち、もう敬語や様付けはやめにしませんか?」
「へ?」
「もう私達、友達でしょう?」

 私は友達だと思っているのに、相手はそうじゃなかったらと思うと少し寂しい。

「えぇ、そうですわね!ろ、ローズ。」
「ふふっ、ありがとう、アザミ。」

 するとアザミは、何かを思いだしたらしい。

「そういえば、昨日のことは極秘になったみたいね」
「えぇ、だから何かわかっても、教えられるかわからないみたいなの……」
「そう、いいのよ、気にしないで。」

 にっこりと笑って言うアザミ。

「それと。昨日の事があって、しばらく放課後に外に出られないことになりそうなの……」
「あら……」
「だからね、今度私の部屋に遊びにきてくれないかしら?」
「ええ、もちろんよ!」

 アザミとの時間は心地良い。アシュガ様も、アザミを部屋に呼ぶことを許してくれたし。

 その時、ホームルーム開始の鐘が鳴った。

「おい、はやく座れ。ホームルームを始める。」

 いつも通り、ラベンダー先生が言った。

「今日のロングホームルームは、生徒会役選だ。各クラスから4名選出される。以上だ。」

 ……生徒会!!

 しまった、すっかり忘れていた。
 フラワー・キスでは、攻略対象達とヒロイン、それと悪役令嬢が生徒会に入る。
 そして、またもや悪役令嬢がヒロインをネチネチ虐める。
 仕事を押し付けたり、手作りの差し入れを踏み潰したり、生徒会に相応しくないと嘲ったり。
 しかも、この生徒会のメンバーは入学試験の結果で大きく左右される。余程の事が無い限りは、成績順で生徒会のメンバーが決まる。
 つまりヒロイン、攻略対象、私がゲーム通り生徒会に入る確率は非常に高いのだ!

 うぅ……またゲームと同じ展開になるのか。
 どう足掻いても回避できないの?

「――ズ?ローズ?」
「っ!?」

 誰かに呼ばれていることに漸く気付いて、後ろを振り返る。

「アシュガ様。ごめんなさい、行きましょうか」

 そこにいたのは、心配そうな顔をするアシュガ様だった。

「うん、次は魔法の授業だから……授業中も、注意して私の傍にいてね?」
「わかりました。」
「……ローズ、大丈夫?」

 そうだ、いつまでもゲームの事に現を抜かしていてはいけない。
 一旦、心配なことは忘れて目の前のことに集中しよう。
 ローズは頭の中を切り替えて、アシュガに向かって無理矢理微笑んだ。

「大丈夫ですよ?」
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