悪役令嬢になりたくないので婚約を阻止しようとしましたが、いつのまにか王子様に溺愛されています。

えるる

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第二章 <断罪阻止>

第5話 <とびっきりの上目遣い>

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 今日も俺は、ローズをどこかに誘おうと思っていたのだが、今日は忙しく、ローズに話せないまま放課後になってしまった。
 仕方なくローズの侍女にローズはどこにいるのか聞くと、中庭にいるとのことだ。
 あぁ、はやくローズに会いたい。

 そうして中庭へ向かうも、ローズの姿は見えなかった。
 もう少し探してみよう……と考えていたその時、声が聞こえた。

「あっ、アシュガ殿下!」

 どこかで聞いたことのある声だ。
 振り返ると、さらさらとした銀の髪が目に入る。……あぁ、オパール・アイの娘か。
 学園では身分が関係ない。
 平民……いや、イージュ男爵家の養子になったらしいから、男爵家の令嬢が王太子に、不躾に話しかけたことについては何も言わないでおく。

「なにかな?」
「そ……その、ローズ様と仲良くなるにはどうしたらいいのかと」

 ローズと仲良く……?
 少し違和感を覚えるも、続く彼女の言葉にそんな違和感は消えてしまった。

「ローズ様の好きな事とか、教えて欲しいんです。その、私、嫌われてるみたいだから、ローズ様には聞けなくて……」

 もじもじと上目遣いで聞くその娘。

 ――あぁ、ローズがこんな表情をしているのを見たら、俺は……

 って待て、今はそんなことを妄想している時間ではない。

「いいよ」
「っ本当ですかっ!?ありがとうございます! あそこに座って話しませんか?」

 彼女が指差したのは、すぐそこの東屋。

「あぁ、わかった」

 ローズについてなんて、いくらだって話せるだろう。
 そうして、俺はただひたすらにローズについてを語り出した。
 あぁ、幸せだ。

 ――なんて、調子に乗って話していたら、いつの間にかローズと過ごす時間は無くなってしまった。

「くそっ……ローズと会えなかったっ……」

 と、リコラスに話すことになることを、俺はまだ知らない。

 ついでに、ローズが次の日、バッチリ上目遣いをしてきて悶絶させられることもまだ知らない。

 ☆.。.:*・゜*:.。..。.:+・゜:.。.:*・゜+

 昨日、アザミから『必ず!』と何度も念押しされたので、寂しかったと言おうと思う。

 ……いや、理由はそれだけじゃない。
 やっぱり私は寂しかったのだ……。

 しかし、私はすっかり失念していた。
 今日は授業が休みだということを。

「……リリー。」
「なんでしょう?」
「これから、アシュガ様の部屋へ行くわ。だから、準備してちょうだい」
「わかりましたよ、どうせその後デートでしょうデート」
「そんなにデートデートって連呼しないで!?」
「いいじゃないですかデートなんですから」

 顔が赤くなるのを感じる。

 あぁ、もう。私の顔ってなんでこんなに赤くなるのかしら?
 ……いや、間違いなくアシュガ様のせいね。

 そんな会話をしながらも、リリーは髪を結い上げてドレスを着せてくれた。
 学園内では、放課後と休日は私服……女性は主にドレスで過ごす。
 今日のドレスは、シンプルなAラインのドレス。ちなみに色はアメシストのような紫アシュガ様の色

「では、行ってくるわね」
「いってらっしゃいませ」

 ☆.。.:*・゜*:.。..。.:+・゜:.。.:*・゜+

 そして、今私はアシュガ様の部屋の扉の前にいる。

 ……思ったよりもずっと、ずーっと、緊張する。

 ようやく意を決して、ふーっと深呼吸をしてから、扉を叩いた。

「誰だい?」

 扉越しのくぐもったアシュガ様の声が聞こえる。
 この先にアシュガ様が居るんだと思うと、緊張の度合いが更に上がった。
 ……えぇい、ローズ、勇気を出せ!

「ロ、ローズで」
「ローズ!どうしたの?」

 言い終わる前に扉が開いて、アシュガ様が出てきた。

 ……びっくりした。

 休日で、しかも突然の訪問にもかかわらず、アシュガ様は格好いいグレーの服を着ている。

「あああアシュガ様、その……」

 アザミは何と言っていたっけ?
 ……あぁ、そうだ。

「昨日は、お誘いいただけなくて寂しかったのですよ……?」

 とびっきりの上目遣いで言う。
 これで合格だろうか?

「はうっ……」

 アシュガ様から変な声が漏れた。

「無理……ローズ、可愛い……」
「あ、アシュガ様?」

 アシュガ様の、顔が、赤い。

「あの……アシュガ様、ですから、約束もありますし……今日、一緒にお出掛けしませんか……?」

 約束の休日一日。
 実は、密かに楽しみにしていたのだ。

「もちろんだよ、行こうか。……リコラス、馬車の手配を。」
「ああ」

 本当に、かっこいい……。
 突然の外出に対するスマートな対応も、見慣れたはずの私服も、ローズの瞳にはとてもかっこよく映る。

「さ、ローズ。行こう」

 にっこりと笑って、手を差し出すアシュガ様。
 その綺麗な手に自分の手を重ねる瞬間は、何度やってもドキドキする。

「はい、アシュガ様。」

 ☆.。.:*・゜*:.。..。.:+・゜:.。.:*・゜+

 馬車に揺られている時は、更にドキドキが増す。
 ……なぜなら。

「……アシュガ様、何故私はアシュガ様の膝の上に座っているんですか……?」
「ん、可愛いから」

 耳に吐息がかかる距離で囁いてくるその低い声。
 ……あぁ、だめだ。

「ね、ローズ、こっち向いて」

 振り向くと、至近距離にアシュガ様の顔があった。

「ふぁっ!?」
「……ほんと、可愛い」

 否応なしに顔がゆであがっていく気がする。
 と、突然アシュガ様の顔が近付いてきて……く、口付けられた。

「んっ……!?」

 チュッと唇を重ねるだけのキス。
 ……それだけでノックアウト寸前まで私の精神が削られていくのは気のせいだろうか……。

「はぁ……ローズは本当、可愛いし美味しい。」
「あああああアシュガ様!?そういうこと言わないで下さい!?」
「ローズが可愛いから仕方ない」
「っ~~!!」

 甘く囁かれると、既に真っ赤な顔が限界まで赤くなる。

「ローズ……可愛い。真っ赤になったローズも、美味しそうだね」

 蕩けるような表情。
 ……私が、このまま蕩けてしまいそうだ。
 主に羞恥で。

「アシュガ様……ほんとに、だめですわ。恥ずかしいっ……」
「あぁローズ、可愛い。」

 なんで更に表情が蕩けていくんでしょうかぁぁぁぁ!?

「……アシュガ、お楽しみの所悪いが着いたぞ」
「べっ、別にお楽しみの所なんかじゃないですわよ!?」
「チッ……ローズ、降りようか。」

 いやアシュガ様、バッチリ舌打ちきこえてますよ。
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