17 / 44
第二章 <断罪阻止>
第3話 <初の友人ができまして>
しおりを挟む
教科書木っ端微塵事件が起こってから早くも1週間、特に何も事件は起こっていない。
しかし、最近のアシュガ様はやたらと私に甘い。
……いや、もともとやたらめったら甘かったのだが、その甘さに拍車が掛かっている。
「ローズ、あーん」
「恥ずかしいですっ……!」
赤面するローズと楽しげにローズの口元へクッキーを持っていくアシュガ。
二人が居るのは、寮にあるローズの部屋。
「リリー、紅茶のお代わりを頼む」
「かしこまりました。」
あの日から、毎日のように何かに誘われるのだ。
図書館へ行こうと言われたり、ローズの部屋にアシュガが来てまったりと過ごしたり、逆にローズがアシュガの部屋へ行ったり。
授業が終わるのは夕方、その後は自由時間になっている。
自由時間は、サロンでお茶会をしたり、勉強をしたり、サークルと呼ばれる同じ趣味を持った者達が集う会の活動をしたりと、それぞれが好きに過ごす時間だ。
私はこの1週間、お茶会に誘われる事も多々あったが、何故か返事をする前にアシュガ様に何かしら誘われるのでまだほとんど参加できないでいる。
「アシュガ様、その、最近どうしたんですか」
「ん?なにが?」
ニコニコとしたその顔の裏で何を考えているのかはわからない。
なんだか一人恥ずかしくなっている私に恥ずかしさを覚える。
「……最近は、ますます甘いです」
「ローズが可愛いのがいけないんだ。あぁ、食べたくなってしまうよ……」
そう言って首筋をペロリと舐めるアシュガ様。
背筋がぞわりとする。
「ひぁっ……!?」
「ローズは甘いね」
「そういうことを言わないで下さいませ!?」
「ふふ、可愛い」
あぁ、アシュガ様には何もかもお見通しなのだろうか。
私がアシュガ様を好きなことも、未来に怯えていることも、何もかも。
アシュガ様にはやっぱり敵わないな、と思う。
「アシュガ様」
私が弱いから、アシュガ様は私の不安を取り除こうとこんなに優しいのだろう。
もっと強ければ、アシュガ様を信じられれば。
シナリオなんかに負けないほどの強さがあれば。
ヒロインには、その強さがあるというのに。
「大好きです、アシュガ様。」
今の私は、ただ縋ることしかできていない。
☆.。.:*・゜*:.。..。.:+・゜:.。.:*・゜+
「無理だ、ローズが可愛い」
「気持ち悪い。黙ってくれ。」
我が主が腑抜けている。
何度も、何度でも言うが、我が主は麗しのヘルビアナ国王太子である。
その原因となっているのは、ヘルビアナ国の筆頭公爵令嬢、ローズ嬢だ。
どう見ても両想いだと言うのに、お互いがお互いに好かれていないと思っている節がある。
……どうしてこんなに拗れたのかは、わからない。
「ローズが、最近不安そうにするんだ」
「将来お前に監禁されるんじゃないかと不安なんじゃないのか」
冗談めかして、でも半分本気で言う。
……こいつは、やりかねない気がする。
「まさか。俺はそんなことしない」
驚いたように言うアシュガだが、
「ローズが俺から逃げようとしない限りは。」
と付け加えるのだから恐ろしい。
「……とにかく、ローズが何故不安なのか考えたのだが、愛が足りないのかもしれない」
「ぶっ」
大真面目な顔でとんでもないことを言うアシュガに、思わず吹いてしまう。
「んなわけねぇだろ、お前の愛は充分足りてるはずだ!つか多すぎるわ!」
「……でもそれ以外考えられない」
本当にそうだとしたらローズ嬢の感覚はかなり狂っていると思う。
「なんでそう思うんだ?」
「ローズは、俺が他の女の子に近付くと時々怯える」
「……それだけ聞くと確かに愛が足りていないというのが合っている気もするが……」
……ローズ嬢が狂っているのか?
「うん、だからもっとローズを愛する」
「それ毎日のように見させられている俺はどうすれば」
「耐えろ」
「ひでぇ!」
……そういえば、こいつは有言実行する奴だった。
今回も例外なく。
☆.。.:*・゜*:.。..。.:+・゜:.。.:*・゜+
連日のアシュガ様の甘さに耐えかねて、私はアシュガ様の誘いを断って(その代わり休日を一日丸ごとアシュガ様に献上する羽目になった)、本を読もうと中庭へ向かった。
座ると植物に遮られて辺りからは見えにくくなるベンチへ向かうと、そこには先客が居た。
「お隣、よろしくて?」
本を読んでいる茶髪の少女に声を掛けると、メガネ越しの賢そうな青い目が私のほうを向いた。
見たところ貴族の令嬢のようだが、名前は思い出せない。
「どうぞ、お座り下さい」
少し驚いたその目。
それをどこかで見たことがあるような気がするのは、気のせいだろうか。
ふと、彼女の手元の本に目がいった。
そこに書かれている挿絵を見た途端、私はあっと声を出してしまった。
彼女が本から目を離して、不思議そうにこちらを見る。
「あ……いえ、その本、私も大好きなので……」
「本当ですかっ!? 初めてです、同じような本を読んでいる人にお会いするの……!」
確かに、貴族のご令嬢はこのような本をあまり読まないだろう。
この本は、平民、それも男性向けの冒険小説なのだ。
魔法を使える平民の少年が国を作り、王となって成長していく話だ。
夢と希望が溢れるこの物語は、平民の少年達に大人気だそうだ。
「面白いですわよね、特に主人公が敵と戦う所などはかっこよくて大好きなのです」
「とってもわかります!私も――」
と、辺りが肌寒くなるまで大好きな本について話し込んでしまった。
そろそろ部屋に帰らなければ、リリーに叱られるだろう。
そう思っている時に、茶髪の令嬢が立ち上がって言った。
「では、私はそろそろ……」
そこで、私は彼女の名前を知らないことに気が付いた。
「……あの、お名前を聞かせていただいても?」
「あ、申し訳ありません。アカヤシオ子爵家三女、アザミ・アカヤシオです。幼い頃から体が弱くて、ほとんど社交会へ出た事が無いのでご存じないかもしれませんが……」
なるほど、それで誰かわからなかったのね。
「私はネーション公爵家長女、ローズ・ネーションですわ。またお会いしませんか?」
「もちろんです!」
嬉しそうに微笑むアザミを見て、先ほどの既視感はどこかへ消えてしまう。
ローズは、学園に入って初の友達が出来た事に心が弾んだ。
しかし、最近のアシュガ様はやたらと私に甘い。
……いや、もともとやたらめったら甘かったのだが、その甘さに拍車が掛かっている。
「ローズ、あーん」
「恥ずかしいですっ……!」
赤面するローズと楽しげにローズの口元へクッキーを持っていくアシュガ。
二人が居るのは、寮にあるローズの部屋。
「リリー、紅茶のお代わりを頼む」
「かしこまりました。」
あの日から、毎日のように何かに誘われるのだ。
図書館へ行こうと言われたり、ローズの部屋にアシュガが来てまったりと過ごしたり、逆にローズがアシュガの部屋へ行ったり。
授業が終わるのは夕方、その後は自由時間になっている。
自由時間は、サロンでお茶会をしたり、勉強をしたり、サークルと呼ばれる同じ趣味を持った者達が集う会の活動をしたりと、それぞれが好きに過ごす時間だ。
私はこの1週間、お茶会に誘われる事も多々あったが、何故か返事をする前にアシュガ様に何かしら誘われるのでまだほとんど参加できないでいる。
「アシュガ様、その、最近どうしたんですか」
「ん?なにが?」
ニコニコとしたその顔の裏で何を考えているのかはわからない。
なんだか一人恥ずかしくなっている私に恥ずかしさを覚える。
「……最近は、ますます甘いです」
「ローズが可愛いのがいけないんだ。あぁ、食べたくなってしまうよ……」
そう言って首筋をペロリと舐めるアシュガ様。
背筋がぞわりとする。
「ひぁっ……!?」
「ローズは甘いね」
「そういうことを言わないで下さいませ!?」
「ふふ、可愛い」
あぁ、アシュガ様には何もかもお見通しなのだろうか。
私がアシュガ様を好きなことも、未来に怯えていることも、何もかも。
アシュガ様にはやっぱり敵わないな、と思う。
「アシュガ様」
私が弱いから、アシュガ様は私の不安を取り除こうとこんなに優しいのだろう。
もっと強ければ、アシュガ様を信じられれば。
シナリオなんかに負けないほどの強さがあれば。
ヒロインには、その強さがあるというのに。
「大好きです、アシュガ様。」
今の私は、ただ縋ることしかできていない。
☆.。.:*・゜*:.。..。.:+・゜:.。.:*・゜+
「無理だ、ローズが可愛い」
「気持ち悪い。黙ってくれ。」
我が主が腑抜けている。
何度も、何度でも言うが、我が主は麗しのヘルビアナ国王太子である。
その原因となっているのは、ヘルビアナ国の筆頭公爵令嬢、ローズ嬢だ。
どう見ても両想いだと言うのに、お互いがお互いに好かれていないと思っている節がある。
……どうしてこんなに拗れたのかは、わからない。
「ローズが、最近不安そうにするんだ」
「将来お前に監禁されるんじゃないかと不安なんじゃないのか」
冗談めかして、でも半分本気で言う。
……こいつは、やりかねない気がする。
「まさか。俺はそんなことしない」
驚いたように言うアシュガだが、
「ローズが俺から逃げようとしない限りは。」
と付け加えるのだから恐ろしい。
「……とにかく、ローズが何故不安なのか考えたのだが、愛が足りないのかもしれない」
「ぶっ」
大真面目な顔でとんでもないことを言うアシュガに、思わず吹いてしまう。
「んなわけねぇだろ、お前の愛は充分足りてるはずだ!つか多すぎるわ!」
「……でもそれ以外考えられない」
本当にそうだとしたらローズ嬢の感覚はかなり狂っていると思う。
「なんでそう思うんだ?」
「ローズは、俺が他の女の子に近付くと時々怯える」
「……それだけ聞くと確かに愛が足りていないというのが合っている気もするが……」
……ローズ嬢が狂っているのか?
「うん、だからもっとローズを愛する」
「それ毎日のように見させられている俺はどうすれば」
「耐えろ」
「ひでぇ!」
……そういえば、こいつは有言実行する奴だった。
今回も例外なく。
☆.。.:*・゜*:.。..。.:+・゜:.。.:*・゜+
連日のアシュガ様の甘さに耐えかねて、私はアシュガ様の誘いを断って(その代わり休日を一日丸ごとアシュガ様に献上する羽目になった)、本を読もうと中庭へ向かった。
座ると植物に遮られて辺りからは見えにくくなるベンチへ向かうと、そこには先客が居た。
「お隣、よろしくて?」
本を読んでいる茶髪の少女に声を掛けると、メガネ越しの賢そうな青い目が私のほうを向いた。
見たところ貴族の令嬢のようだが、名前は思い出せない。
「どうぞ、お座り下さい」
少し驚いたその目。
それをどこかで見たことがあるような気がするのは、気のせいだろうか。
ふと、彼女の手元の本に目がいった。
そこに書かれている挿絵を見た途端、私はあっと声を出してしまった。
彼女が本から目を離して、不思議そうにこちらを見る。
「あ……いえ、その本、私も大好きなので……」
「本当ですかっ!? 初めてです、同じような本を読んでいる人にお会いするの……!」
確かに、貴族のご令嬢はこのような本をあまり読まないだろう。
この本は、平民、それも男性向けの冒険小説なのだ。
魔法を使える平民の少年が国を作り、王となって成長していく話だ。
夢と希望が溢れるこの物語は、平民の少年達に大人気だそうだ。
「面白いですわよね、特に主人公が敵と戦う所などはかっこよくて大好きなのです」
「とってもわかります!私も――」
と、辺りが肌寒くなるまで大好きな本について話し込んでしまった。
そろそろ部屋に帰らなければ、リリーに叱られるだろう。
そう思っている時に、茶髪の令嬢が立ち上がって言った。
「では、私はそろそろ……」
そこで、私は彼女の名前を知らないことに気が付いた。
「……あの、お名前を聞かせていただいても?」
「あ、申し訳ありません。アカヤシオ子爵家三女、アザミ・アカヤシオです。幼い頃から体が弱くて、ほとんど社交会へ出た事が無いのでご存じないかもしれませんが……」
なるほど、それで誰かわからなかったのね。
「私はネーション公爵家長女、ローズ・ネーションですわ。またお会いしませんか?」
「もちろんです!」
嬉しそうに微笑むアザミを見て、先ほどの既視感はどこかへ消えてしまう。
ローズは、学園に入って初の友達が出来た事に心が弾んだ。
0
お気に入りに追加
85
あなたにおすすめの小説
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。

気配消し令嬢の失敗
かな
恋愛
ユリアは公爵家の次女として生まれ、獣人国に攫われた長女エーリアの代わりに第1王子の婚約者候補の筆頭にされてしまう。王妃なんて面倒臭いと思ったユリアは、自分自身に認識阻害と気配消しの魔法を掛け、居るかいないかわからないと言われるほどの地味な令嬢を装った。
15才になり学園に入学すると、編入してきた男爵令嬢が第1王子と有力貴族令息を複数侍らかせることとなり、ユリア以外の婚約者候補と男爵令嬢の揉める事が日常茶飯事に。ユリアは遠くからボーッとそれを眺めながら〘 いつになったら婚約者候補から外してくれるのかな? 〙と思っていた。そんなユリアが失敗する話。
※王子は曾祖母コンです。
※ユリアは悪役令嬢ではありません。
※タグを少し修正しました。
初めての投稿なのでゆる〜く読んでください。ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください( *・ω・)*_ _))ペコリン
悪役令嬢アンジェリカの最後の悪あがき
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【追放決定の悪役令嬢に転生したので、最後に悪あがきをしてみよう】
乙女ゲームのシナリオライターとして活躍していた私。ハードワークで意識を失い、次に目覚めた場所は自分のシナリオの乙女ゲームの世界の中。しかも悪役令嬢アンジェリカ・デーゼナーとして断罪されている真っ最中だった。そして下された罰は爵位を取られ、へき地への追放。けれど、ここは私の書き上げたシナリオのゲーム世界。なので作者として、最後の悪あがきをしてみることにした――。
※他サイトでも投稿中

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。

シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした
黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。
音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。
だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。
そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。
そこには匿われていた美少年が棲んでいて……
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

変な転入生が現れましたので色々ご指摘さしあげたら、悪役令嬢呼ばわりされましたわ
奏音 美都
恋愛
上流階級の貴族子息や令嬢が通うロイヤル学院に、庶民階級からの特待生が転入してきましたの。
スチュワートやロナルド、アリアにジョセフィーンといった名前が並ぶ中……ハルコだなんて、おかしな
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる