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第一章 <婚約阻止>
第8話 <揺れる心>
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避暑から戻ると、次の日にはドレスの採寸だった。
デビュタントということもあって、その日に鼻息荒いデザイナーと何時間にも及ぶ話し合いかと思って気が滅入っていたが、頭から爪先まできっちりサイズを測られてデザイナーは帰っていった。
腑に落ちない所はあるが、まぁ……デザイナーに何百枚あるのかと問いたくなる程のデザイン画を見せられるよりはマシか……。
それより、デビュタントの事を考えなければならない。
アシュガ様が根回しをして、何も知らないまま私のエスコート役はアシュガ様になっていたと、避暑中に1週間と空けずに届けられた手紙の中の一枚に書かれていた。
そして、その夜会にはヒロインも参加するはずだ。
……あれ、そういえば悪役令嬢は、この夜会でヒロインに何かするんだっけ……。
いや、特に何もしなかったはずだ。これは迷子になったヒロインをアシュガ様が見つけるというイベントだった。そこで、ヒロインの事を再認識するのだ。
アシュガ様を会場に引き留めておけば、防げる……?
その時、扉が慌ただしくノックされた。
「どうぞ」
何も考えずに言うと、扉を勢いよく開けたのはリリーだった。
「ローズ様。殿下が……」
「え、まさか来たの!?」
「……はい」
「リリー、ドレスはこのままで良いと思う?」
「失礼にはならないかと思いますが。そのままでいいんじゃないでしょうか」
「ありがとう、行ってくるわね」
――全く、王太子ともあろう人が女性の家に何の連絡も無しに来るなんてっ!
一言くらい文句を言ってやらなければ。
☆.。.:*・゜*:.。..。.:+・゜:.。.:*・゜+
「ローズ! とっても会いたかったよ……!私の未来の妃。」
庭で出迎えた私を見つけるなり、アシュガ様は普段よりキラキラオーラをだだ漏れにしながら笑った。
文句の一つでも言ってやろうと意気込んでいたが、暫く見ていなかったアシュガ様を見て、私の心は歓喜の声をあげていた。
そこで、自分も会いたかったんだと悟る。
ハッとして、思う。
――私は、アシュガ様が、好き?
「アシュガ様……私も」
けれど、その声は続くことなく途切れた。
突然、あることを思い出してしまう。
ローズ・ネーションに生まれてしまった私が、目を逸らせない事実を。
突然黙り込んだローズを見て、アシュガは心配そうに声をかける。
「ローズ?」
自分を呼ぶ声。思考の渦から我に返って、その声の持ち主を見た。深い青色、王家の色を持つその男は、いつか私を捨てるだろう。捨てるために、婚約する。
――嫌だ。そんな未来は、嫌だ。
「アシュガ様、私はアシュガ様の婚約者ではありませんわ。」
「ごめん、でも君はいつか私の婚約者になるから。」
「なりませんっ!」
少しの、沈黙。
「どうして?」
その瞳は、不安げに揺れていて。
嫌だ、嫌だ、見たくない。
――恋に落ちてしまっては、自分が辛いだけだ。
「私をっ、私を捨てるのに……優しくしないでくださいっ……!!」
もうたくさんだ、と思った。
アシュガ様への気持ちに気付いた瞬間、もう断り続けることも会うことも嫌だと思った。
恋をした瞬間に失恋ね、と心のどこかで自嘲する。
「……お帰り下さいませ。」
「待って、ローズ、どういうこと?俺は……」
「もういいのです、アシュガ様には将来好きになる人が現れるのですからっ!」
自分で言っておいて、心がズクンと痛み、俯く。
「あぁ……なんだ、ローズ、そんなことで私の気持ちを受け入れなかったんだね」
俯いているためアシュガ様の顔は見えないが、なんとなく腹黒い笑みを浮かべている気がする。
けれど、それももはやどうでもいい。
「……。」
「ローズ、心配しなくても俺にはローズしかいない。」
「でも……」
我慢できなくて顔を上げるも、その声も続くことなく途切れた。
ローズの唇が、柔らかい何かで塞がれたからだ。
頭が真っ白になって、思わず目を伏せる。
「んむぅ……!?」
思ったよりすぐに離れたその柔らかいもの。
それが何か考える間もなくわかってしまい、ローズは一瞬で顔を真っ赤にさせる。心臓がうるさい程に速く鳴っている。
「あ、あ、アシュガ様……!?」
顔を上げた瞬間、ローズは硬直した。
ただならぬ色気を垂れ流してながら、蕩けるような笑顔で微笑んでいたからだ。
「そんなに真っ赤になって……本当に、可愛い」
「うぐぅっ……」
さっきまであんなに悲しかった事は全て頭から吹き飛んで、今は目の前にいるアシュガのことで全身を支配される。
「ね、ローズ……私の事、好き?」
耳元で囁かれる、低く甘い声。
……ダメ、だ。
「……ローズ!?」
暗くなっていく目の前、聞こえたのはアシュガ様の声。
……倒れた原因は、色気の過剰摂取に違いない。
☆.。.:*・゜*:.。..。.:+・゜:.。.:*・゜+
目が覚めたのは、その日の夕方だった。
「ローズ様? おはようございます」
「むぅ……リリー、あれ、私……」
倒れる前の記憶を辿り始めた瞬間、ローズはバタンっと前に倒れて、布団に顔を突っ込んだ。
「……無理だ。」
そのくぐもった声を聞いたリリーは、ローズを布団から剥がして言った。
「ローズ様、アシュガ殿下にお姫様抱っこされて部屋まで来たんですよ」
「いやぁぁぁ!!やめて、リリー!それ以上言わないでー!」
既に真っ赤になっている顔を更に赤くして、ローズは叫んだ。
「ようやく両想いになったんでしょう、そんなに照れていてどうするんですか」
「……両想い?」
なんのことだ?
「あれ、違うんですか? アシュガ殿下、物凄く緩んだ顔で……」
「……もう一回倒れそうよ。もうやめて。」
心当たりが無い訳では、ない。
……好きか、なんて訊かれた後で倒れたんだもの。でもあれは許容範囲を超えた色気に当てられたからよ……!
「思い出すだけで倒れそうだわ……。というか、アシュガ様はもう帰ったのよね?」
「えぇ、散々心配そうにローズ様を眺めた後、従者の方に引っ張られて帰られましたね。未練たらたらって感じでしたけど」
リコラスには、今度お礼を言おう。
☆.。.:*・゜*:.。..。.:+・゜:.。.:*・゜+
私は、アシュガ様の事が好きだと思う。
考えてみれば当たり前だった。前世から、アシュガ様に恋をしていたんだから。
……それに、あんなに口説かれては好きにならないはずがなかった。私って意外とチョロいのだろうか。
でも、だめなのだ。
好きだ、でもこれ以上好きになっては……ましてや、婚約なんて、できない。
ゲーム補正での求婚。そうに違いないし、ヒロインのこともこれから好きになる。
そうなっては、耐えられる自信がない。ゲーム通りヒロインを虐めてしまうかもしれない。路地での事件があったとき、それ程の激情に駆られた。
ヒロインに、アシュガ様をとられたくない、と。
だからこそ、私は身を引かなければならない。これ以上、この気持ちを増幅させないよう、この気持ちを忘れられるよう、アシュガ様との婚約は受け入れられない。
デビュタントということもあって、その日に鼻息荒いデザイナーと何時間にも及ぶ話し合いかと思って気が滅入っていたが、頭から爪先まできっちりサイズを測られてデザイナーは帰っていった。
腑に落ちない所はあるが、まぁ……デザイナーに何百枚あるのかと問いたくなる程のデザイン画を見せられるよりはマシか……。
それより、デビュタントの事を考えなければならない。
アシュガ様が根回しをして、何も知らないまま私のエスコート役はアシュガ様になっていたと、避暑中に1週間と空けずに届けられた手紙の中の一枚に書かれていた。
そして、その夜会にはヒロインも参加するはずだ。
……あれ、そういえば悪役令嬢は、この夜会でヒロインに何かするんだっけ……。
いや、特に何もしなかったはずだ。これは迷子になったヒロインをアシュガ様が見つけるというイベントだった。そこで、ヒロインの事を再認識するのだ。
アシュガ様を会場に引き留めておけば、防げる……?
その時、扉が慌ただしくノックされた。
「どうぞ」
何も考えずに言うと、扉を勢いよく開けたのはリリーだった。
「ローズ様。殿下が……」
「え、まさか来たの!?」
「……はい」
「リリー、ドレスはこのままで良いと思う?」
「失礼にはならないかと思いますが。そのままでいいんじゃないでしょうか」
「ありがとう、行ってくるわね」
――全く、王太子ともあろう人が女性の家に何の連絡も無しに来るなんてっ!
一言くらい文句を言ってやらなければ。
☆.。.:*・゜*:.。..。.:+・゜:.。.:*・゜+
「ローズ! とっても会いたかったよ……!私の未来の妃。」
庭で出迎えた私を見つけるなり、アシュガ様は普段よりキラキラオーラをだだ漏れにしながら笑った。
文句の一つでも言ってやろうと意気込んでいたが、暫く見ていなかったアシュガ様を見て、私の心は歓喜の声をあげていた。
そこで、自分も会いたかったんだと悟る。
ハッとして、思う。
――私は、アシュガ様が、好き?
「アシュガ様……私も」
けれど、その声は続くことなく途切れた。
突然、あることを思い出してしまう。
ローズ・ネーションに生まれてしまった私が、目を逸らせない事実を。
突然黙り込んだローズを見て、アシュガは心配そうに声をかける。
「ローズ?」
自分を呼ぶ声。思考の渦から我に返って、その声の持ち主を見た。深い青色、王家の色を持つその男は、いつか私を捨てるだろう。捨てるために、婚約する。
――嫌だ。そんな未来は、嫌だ。
「アシュガ様、私はアシュガ様の婚約者ではありませんわ。」
「ごめん、でも君はいつか私の婚約者になるから。」
「なりませんっ!」
少しの、沈黙。
「どうして?」
その瞳は、不安げに揺れていて。
嫌だ、嫌だ、見たくない。
――恋に落ちてしまっては、自分が辛いだけだ。
「私をっ、私を捨てるのに……優しくしないでくださいっ……!!」
もうたくさんだ、と思った。
アシュガ様への気持ちに気付いた瞬間、もう断り続けることも会うことも嫌だと思った。
恋をした瞬間に失恋ね、と心のどこかで自嘲する。
「……お帰り下さいませ。」
「待って、ローズ、どういうこと?俺は……」
「もういいのです、アシュガ様には将来好きになる人が現れるのですからっ!」
自分で言っておいて、心がズクンと痛み、俯く。
「あぁ……なんだ、ローズ、そんなことで私の気持ちを受け入れなかったんだね」
俯いているためアシュガ様の顔は見えないが、なんとなく腹黒い笑みを浮かべている気がする。
けれど、それももはやどうでもいい。
「……。」
「ローズ、心配しなくても俺にはローズしかいない。」
「でも……」
我慢できなくて顔を上げるも、その声も続くことなく途切れた。
ローズの唇が、柔らかい何かで塞がれたからだ。
頭が真っ白になって、思わず目を伏せる。
「んむぅ……!?」
思ったよりすぐに離れたその柔らかいもの。
それが何か考える間もなくわかってしまい、ローズは一瞬で顔を真っ赤にさせる。心臓がうるさい程に速く鳴っている。
「あ、あ、アシュガ様……!?」
顔を上げた瞬間、ローズは硬直した。
ただならぬ色気を垂れ流してながら、蕩けるような笑顔で微笑んでいたからだ。
「そんなに真っ赤になって……本当に、可愛い」
「うぐぅっ……」
さっきまであんなに悲しかった事は全て頭から吹き飛んで、今は目の前にいるアシュガのことで全身を支配される。
「ね、ローズ……私の事、好き?」
耳元で囁かれる、低く甘い声。
……ダメ、だ。
「……ローズ!?」
暗くなっていく目の前、聞こえたのはアシュガ様の声。
……倒れた原因は、色気の過剰摂取に違いない。
☆.。.:*・゜*:.。..。.:+・゜:.。.:*・゜+
目が覚めたのは、その日の夕方だった。
「ローズ様? おはようございます」
「むぅ……リリー、あれ、私……」
倒れる前の記憶を辿り始めた瞬間、ローズはバタンっと前に倒れて、布団に顔を突っ込んだ。
「……無理だ。」
そのくぐもった声を聞いたリリーは、ローズを布団から剥がして言った。
「ローズ様、アシュガ殿下にお姫様抱っこされて部屋まで来たんですよ」
「いやぁぁぁ!!やめて、リリー!それ以上言わないでー!」
既に真っ赤になっている顔を更に赤くして、ローズは叫んだ。
「ようやく両想いになったんでしょう、そんなに照れていてどうするんですか」
「……両想い?」
なんのことだ?
「あれ、違うんですか? アシュガ殿下、物凄く緩んだ顔で……」
「……もう一回倒れそうよ。もうやめて。」
心当たりが無い訳では、ない。
……好きか、なんて訊かれた後で倒れたんだもの。でもあれは許容範囲を超えた色気に当てられたからよ……!
「思い出すだけで倒れそうだわ……。というか、アシュガ様はもう帰ったのよね?」
「えぇ、散々心配そうにローズ様を眺めた後、従者の方に引っ張られて帰られましたね。未練たらたらって感じでしたけど」
リコラスには、今度お礼を言おう。
☆.。.:*・゜*:.。..。.:+・゜:.。.:*・゜+
私は、アシュガ様の事が好きだと思う。
考えてみれば当たり前だった。前世から、アシュガ様に恋をしていたんだから。
……それに、あんなに口説かれては好きにならないはずがなかった。私って意外とチョロいのだろうか。
でも、だめなのだ。
好きだ、でもこれ以上好きになっては……ましてや、婚約なんて、できない。
ゲーム補正での求婚。そうに違いないし、ヒロインのこともこれから好きになる。
そうなっては、耐えられる自信がない。ゲーム通りヒロインを虐めてしまうかもしれない。路地での事件があったとき、それ程の激情に駆られた。
ヒロインに、アシュガ様をとられたくない、と。
だからこそ、私は身を引かなければならない。これ以上、この気持ちを増幅させないよう、この気持ちを忘れられるよう、アシュガ様との婚約は受け入れられない。
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