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第七章:新しい魔術士とそのパートナーの歓迎会

79 僕は異様な雰囲気ではドキドキすることができない

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 しばらくすると落ち着いた雰囲気に戻り、ワートさんが魔道具を操作して動画の続きから再生されることになった。
 

 魔術士とパートナーの自己紹介が終わると、各テーブルに食事が運ばれる。
 落ち着いた雰囲気の音楽が流れる中で、食事と会話を楽しむ時間になるようだ。

 「動画は長いので、ここから先は三倍速で流しますね」

 ワートさんがそう言うと、突然、動画の中にあるものの動きが早くなった。
 食事をする人のナイフとフォークの動き、会話している人の口の動き、後ろでなっている音楽……何もかもが早くなっている光景は別世界での光景のように思えて、少し変な感じがする。

 それでも大まかな雰囲気と流れは十分伝わるので、分かったことといえば。
 しばらくしてから魔術士とパートナーが司会の人と一緒にテーブルを回って、何かを配りながら挨拶回りをすること。
 テーブルは沢山あるので一つのテーブルあたりの時間は短いのだけど、多くの人と接するので疲れそうだ。

 それが終わると有志による余興、ダンスの時間があり、賞品ありの遊戯大会が行われて、閉会の挨拶で終わる感じだ。



 動画は最後まで再生されたようで、空中に映された絵が消えた。
 ワートさんが魔道具を片付けて、僕に向かってニヤリと笑う。

 「まぁ、こんな感じっす。最初の挨拶さえ乗り切れば、あとは俺たちが良い感じにしますので、大丈夫っすよ」

 何となくではあるけれど、歓迎会がどういうものかが分かったので、少し安心出来たような気がする。
 僕が頭を下げてお礼の言葉を述べると、スタイズさんもそれに続いた。

 

 「いやー、さすがは学者の息子さんですね。子どもなのに礼儀正しくて、ビックリっす」

 ワートさん曰く、魔術士は元孤児で礼儀がなっていない子供が多く、貴族の生まれの人に持ち上げられることで、人生が大逆転したと調子に乗ってしまうことが多いそうだ。

 一応マナー講習の時間はあるらしいけれど、魔術士の機嫌を損なうことを恐れてなのか、あまり強くは言わないそうだ。
 そして魔術士を指導する立場であるはずのパートナーの中には、「自分は一般職員とは違う選ばれた存在だ!」と言って、魔術士と一緒に調子に乗ってしまう人もいるそうだ。


 アロイーズさんが深いため息をついた。

 「侯爵家の生まれなのに、下品でどうしようもない奴もいますけどね! セルテ様を見習ってほしいものですよ!!」

 その言葉に、ワートさんが「俺のことかァ?」と不機嫌そうに返す。

 「俺は侯爵家というしがらみから解き放たれて、一人の男として誰かを愛したいと思っているだけなんだが?」

 「思うだけなら勝手にどうぞって感じなんだけど、表に出されると気持ち悪いの!!」


 言い合う二人にどうしたものかと思って隣を見ると、スタイズさんはテーブルの上に用意されたクッキーとお茶を黙々と口にしている。
 過去の歓迎会の様子を見るという目的は達成できたし、僕もお茶とお菓子を食べて外に出よう……





 お菓子を食べ終わった僕とスタイズさんは、改めて催事企画部の皆にお礼の言葉を述べて、部屋を後にした。

 「賑やかな人たちでしたね」

 「何だかんだと言っても、結局は年頃の男女だ。貴族の責務が無ければ、あんなものかもしれないな」



 長い階段を降りて建物の出入り口に着いたところで、後ろから僕たちを呼ぶ声が聞こえてきた。
 振り返ると、ワートさんが一人で僕たちの方に駆け寄ってくるところだった。

 何か言い忘れたことでもあるのだろうかと思ったけれど、どうやらスタイズさんに聞きたいことがあるそうで。

 「さっき思い出したんですけど、その……『ストライズ・バッフェム』という名前に、覚えはないですか?」

 眉を下げて恐る恐るといった様子で、スタイズさんに質問をした。


 「スタイズ」と「ストライズ」……どちらも「ス」で始まって「イズ」で終わる名前だ。
 もしかして、何か関係があるのだろうか?

 そう思いつつスタイズさんの方を見ると、彼は顔を引き攣らせていて、眼光は殺意が込められているかのように鋭くて。
 彼がその名前に対して、良い感情を抱いていないことは明らかだった。



 ワートさんとスタイズさんは二メートルくらい離れて立ったまま、言葉を発することもなく、ただ見つめ合っている。
 僕はどうしたら良いのか分からず、スタイズさんの右手に触れたのだけど、小刻みに震えているのが分かった。
 凄く怒っている……?
 二人の間に何らかの因縁があるようだ。


 しばらくしてスタイズさんは「覚えはない」とだけ言って、ワートさんに背を向けた。
 そして移動用の魔道生物を呼んで、僕に乗る様に促した。

 僕がワートさんに会釈してから魔道生物の背中に跨ると、その後ろにスタイズさんも跨って僕の身体を支えてくれたのだけど、この異様な雰囲気では以前のようにドキドキなんてするわけが無い。
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