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第六章:病室で休む二人

66 僕は彼の言葉を心に留めておく

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 しばらくして夕食の時間になったので、僕とスタイズさんは談話室に移動した。
 既にテーブルの上には夕食が並べられている。
 今夜はパンと白身魚のソテー、サラダ、スープ、そしてフルーツの盛り合わせだ。

 「おお、今日の夕食も美味そうだな。セルテ君!」

 「そうですね」

 僕たちはソファーに二人並んで座り、両手を組んで目を閉じて、神様に祈りを捧げた。 



 スタイズさんがグラスを手に取って、少し掲げながら微笑みかけてきた。

 「セルテ君、今日も色々とあったけど、お疲れ様」

 「はい。スタイズさんもお疲れ様です」

 僕もグラスを手に取って、同じようにした。
 スタイズさんは一口飲んだ後、グラスをテーブルに置いて話し始める。


 「元々赤の他人同士だった我々が一緒に暮らすわけだから、これからも性格や価値観の違いなどから『これはちょっと……』ということはあるだろう」

 「はい」


 「私は年が離れたオッサンだし、長年ガサツな男共に囲まれた生活をしてきて、繊細さに欠けるところがあるから余計にな。気になることがあったら、遠慮なく言ってくれよ。君を困らせるのは、本意ではないからね」

 「はい。あっ、スタイズさんも、僕に関して気になることがあったら……」

 ……指摘してほしい、と言おうとして止めてしまった。

 思えば僕は、チビでヒョロヒョロだし、すぐ緊張するし、すぐ涙が出るし、男なのに頼りなくて……
 スタイズさんと違って駄目なところばかりで、そうなると彼は頻繁に指摘をしないといけなくなる。
 指摘をする方だって、あまり良い気分にはならないだろう。
 

 中途半端なところで話を止めてしまったせいで、僕たちの間に沈黙が流れる。
 スタイズさんが首を傾げたので、僕は慌てて笑顔で返したのだけど、引きつったものになってしまったかもしれない。

 「えっと、その……僕は、至らないところばかりですけど、頑張って直しますので……」

 居た堪れなくて、下を向いてしまう。
 するとスタイズさんが片手を伸ばして、僕の頭を優しく撫でてくれたんだ。

 「セルテ君。自分に自信がないと、どうしても欠点に目が向いてしまいがちになるのだろう。でも私は気にしていないし、君には良いところが沢山あると思うぞ」

 「僕の良いところ……」

 顔を上げてスタイズさんの方を見ると、彼は微笑みながら頷いた。


 「心優しく、謙虚で礼儀正しく、笑顔が素敵で、普段は控えめだが、いざという時は頑張れる根性があって、声が綺麗で…………」

 そして満面の笑顔で「僕の良い所」を言い続ける。
 身振り手振りを使って嬉しそうに話す彼の姿に、僕の機嫌を取る為に言っているわけではないのが伝わってきた。
 ただ、褒められすぎるのは、やっぱり恥ずかしく、顔が熱くなってしまう。


 するとスタイズさんがハッとした表情になり、苦笑いをしながら片手で頭をかいた。

 「まーた調子に乗り過ぎてしまったようだな。とにかく私が言いたいのは、君は素敵な子だし、私は君のことをとても気に入っているということだ。それだけは忘れないでくれよ!」

 彼の力強い笑顔を見ているうちに、僕の心のもやもやが晴れていくようで。
 つられて僕も笑顔になってしまった。

 「はい、心に留めておきます。スタイズさん、たくさん褒めてくれて、ありがとうございます。少しでも自信が持てるように、頑張ります」

 するとスタイズさんに背中をバシっと叩かれた。
 気合を入れるように。

 「よし! そうとなったら、冷めないうちに夕食を食べよう。お腹が空くと元気が出ないからな!」





 スタイズさんと他愛もない話をしながら夕食を済ませると、しばらくしてやってきたメイドさんによって食器が片付けられた。
 この後は病室に戻ってゆっくりするものだと思っていたけれど、スタイズさんがソファーに深く座ったままなので、僕も隣に座ったままにすることにした。



 「セルテ君。先程ライナートさんと話をした時に、今朝あったことについても話したんだ」

 今朝あったこと……そういえば、訓練の後に医務室に行ってライナートさんに医学的に正しい性知識を教えてもらおう……って話をしたんだった。
 懲罰魔法で倒れて医務室に運ばれるなんて、思ってもいなかったけれど。


 「君くらいの年齢向けの性教育の教材があるそうで、三十分くらいの動画らしいんだが……どうする? 訓練で疲れているだろうし、また今度にするか?」

 「うーん……」

 彼が言う「動画」というのがよく分からないし、性教育がどんなものか全然予想がつかない。
 けれど、また今朝みたいに下穿きを汚してしまったら嫌だし、対策があるなら早く知りたいと思う。


 僕が「性教育を受ける」と答えると、スタイズさんは立ち上がり、部屋を出て行った。
 しばらくして外からドアをノックする音が聞こえて、若い男性の声が聞こえてきたんだ。

 「看護士のライナートです。失礼いたします」

 スタイズさんに続いて部屋の中に入ってきた彼はお辞儀をした後、僕の前にあるテーブルを挟んで向かいにあるソファーに座る。
 そしてスタイズさんはさっきと同じように、僕の隣に座った。


 「スタイズ様から、セルテ様が性教育を希望されていると、お聞きしまして。教材を持ってまいりました」

 ライナートさんはそう言うと、掌より少し大きめの石板のようなものをテーブルの上に置いたのだった。
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