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第六章:病室で休む二人

65 僕は器が大きい人間になりたいと思う

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 ――時々スタイズ様からの好意的な接触に、少し困っているようにも思えまして――


 ライナートさんの目には、僕が困っているように映るのだろうか?
 僕としては、恥ずかしくてどうしたらいいか分からないだけで、困っているわけではない……と思う。


 返事ができずにいると、ライナートさんは穏やかな笑顔で話し始めた。


 彼によると、スタイズさんは「家族」を持つことが長年の夢だったらしい。
 なので、僕のパートナーになることでそれが叶って、とても嬉しいと言っていたそうだ。
 血が繋がっていないとしても、親権者として僕のことを大切に守りたいと思っているとも。

 ただ、さっき廊下でライナートさんと話した時に、少し冷静になって考えたそうで。
 浮かれ過ぎていたというか、僕に対する好意を示そうという思いが強すぎたことで、逆に僕が不快に思っているのでは……と不安になってきたらしい。

 僕が控えめな性格だから、嫌だと思っても気を使って言い出せないのではないか?
 やはり好意的なものであっても、接触は控えた方がいいのだろうか?とも言っていたそうだ。


 ……ライナートさんからスタイズさんの思いを聞いて、僕は焦ってしまった。

 どうしよう。
 僕が恥ずかしがって、スタイズさんの好意に上手く反応できなかったことで、彼を不安にさせてしまったんだ。


 「ち、違うんです! 不快には思ってません。ただ、恥ずかしくて……」

 「ええ。セルテ様のご様子から、スタイズ様に対して悪いように思っているわけでないのは、よく分かります。ただ、コップに水を注ぎすぎると溢れるように、心にも許容量があります。最初のうちにどこまでなら大丈夫なのかを、お互いに擦り合わせた方が良いと思いますよ」


 そう言われても、スタイズさんは好意でしてくれているのだろうに、それを否定するようなことをして気を悪くしないだろうか?
 ライナートさんにそう伝えると、彼はゆっくりと首を横に振った。
 

 「スタイズ様はセルテ様の幸せを願っているのであって、自己満足の為に相手の気持ちを無視して好意を押し付けるような方ではないと思います。それにセルテ様がずっと我慢し続けて、時間が経ってから『やっぱり実は……』と言う方が、受け入れられていたと思っていた側としては辛いのでは?」


 そう言われれば、確かにそうかもしれない。
 僕が小さく頷くと、ライナートさんはゆっくりと立ち上がった。

 「ではセルテ様、これからスタイズ様を呼んできますね」



 そして病室から出たライナートさんは、しばらくしてスタイズさんと戻ってきた。
 スタイズさんは眉を下げて、申し訳なさそうな表情をしている。

 「セルテ君、その……君への思いが募るばかりに、ベタベタし過ぎたようで、すまなかった」

 彼はそう言うと、僕が座っているベッドの方に近付いてきて、頭を下げた。

 「いえ、スタイズさんは悪くありません。触れられるのは嬉しいんですけど、どう反応したらいいのか分からなくて……僕の方こそごめんなさい」


 すると、スタイズさんが右手を出してきたので、僕も右手を出して繋いだ。
 大きくて分厚い手に包まれて、守られている感じがして、とても安心できる。

 「手を繋ぐのは……大丈夫そうか?」

 「はい」


 次に頭を優しく撫でられる。
 スタイズさんの優しい気持ちが注ぎ込まれているようで、嬉しさから顔が緩んでしまう。


 次にゆっくりと、そして力強く抱きしめられた。
 うう、これは……!!!

 逞しい彼の腕に包まれて、身体が密着する状態。
 彼の存在を感じる度に胸がドキドキして、頭の中がワアアアっとなって、身体が熱くなってきた。

 落ち着け自分!!
 スタイズさんは僕のことを大切に思ってくれているだけなんだ。
 何も変なことは無い、落ち着いて受け入れるんだ!!
 僕は器が大きな男になるんだ!!!

 ……そう思うけれど、心と身体が追い付いてくれなくて。
 頭の中がグルグルして、どうしたらいいのか分からなくなって視線を彷徨わせると、少し離れた所に立っているライナートさんと視線が合ってしまった。
 恥ずかしい……緊張で僕の身体は強張り、ぎゅっと目を閉じた。


 「はいはい、スタイズ様。そこまでです」

 ライナートさんの声で、スタイズさんの腕から力が抜ける。

 「やっぱり抱きしめられるのは、恥ずかしがり屋さんのセルテ様にとっては、少し負担が大きいようですね。特別な時だけにしておきましょうか」

 するとスタイズさんは、僕の頭をポンポンと撫でた後、自分のベッドに戻った。
 そしてベッドの端に座り、穏やかな笑顔を僕に見せてくれている。
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