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第五章:初めての魔法の訓練

56 僕は訓練用の魔道生物と戦う

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 エイシア様の右手が光ると同時に前方の地面が光り、黒い物体が一体現れた。
 縦長の楕円型の胴体に、太くて短い手足が付いていて、全体に気持ちが悪い模様が描かれているし、頭が無いのが不気味だ。
 大きさは大柄なスタイズさんより一回り大きいぐらい……これが戦闘訓練用の魔道生物なのか。



 「コイツに攻撃魔法を当てると消えるようになっているが、別に死ぬわけではない。あと私とスタイズには防御魔法をかけるから、遠慮なく魔法を打つといい」

 エイシア様の説明が終わると同時に、魔道生物が僕の方に向かってゆっくりと歩き出したので、僕は右手を前に出して呪文を唱える。

 「ネアトリブーノ!!」

 魔法弾が魔道生物に当たると、光の柱が発生して、それに飲み込まれるかのように魔道生物の姿が消えていった。

 「や、やった……」

 こんな人外の存在と戦うという、娯楽小説のようなことを自分がするなんて、夢のようだ。
 スタイズさん、また格好良いと褒めてくれるかな?

 「右だっ!!」

 「えっ?」

 スタイズさんの叫び声が聞こえたので右を向くと、別の魔道生物がすぐそばまで近付いてきていて、僕に殴りかかるところだった。

 「うわわっ、ネアトリブーノ!!」

 間一髪のところで魔法弾が魔道生物に当たり、消えてくれた。
 また別の方向から来るのかもと思って辺りを見回すと、スタイズさんが拳を力強く振り上げて、応援してくれているのが見えた。

 「残り二十八体! 油断するなよセルテ君!!」

 「はいっ!!」


 次は前方から三体の魔道生物が並んで近付いてきたので、手を振りながら魔法を放ち、一気に倒した。
 続いて別方向から来た三体もあっけなく倒した。


 その後は魔道生物が一体ずつ出てくるけれど、出て来る間隔と魔道生物の動きが次第に早くなってきた。
 しかもバラバラの方向から来るので、まとめて倒すのが難しい。

 魔法を発動させるには、短くない呪文を毎回唱えないといけないし、別々に倒すなんて効率が悪い。
 僕は両手を左右に広げて、複数の魔道生物をギリギリまで引き付けてから呪文を叫んだ。

 「ネアトリブーノ!!!」


 次の瞬間、目の前が真っ白になって、身体が勢いよく浮いた感覚がした。

 「えっ???」

 何が起こったのか理解できず呆然としていると、光が収まり、下の方にある地面が割れているのが見えた。
 爆発の衝撃で飛んでしまったのか?
 魔道生物が消えていくのが見えたけど、このままだと僕は落下して地面に激突してしまう……

 「うわああああっ!!!」

 「セルテ君!!!」

 スタイズさんの叫び声が聞こえる。
 どうすることもできなくて、僕は恐怖から目を閉じた。

 直後、衝撃を感じたけれど痛くはなく、目を開けると僕は地面にうつ伏せで倒れていた。
 そしてエイシア様が近付いてきて、深い溜息をついた。

 「馬鹿かお前は。最初に岩壁を壊させて魔法の威力を教えたというのに、何故地上で全方向に魔法を打ったのだ。私が防御魔法をかけなければ、結構な怪我をしていただろう」

 「……す、すみません……」

 全方向って、何故か地面は大丈夫だと思ってしまったんだよな……


 スタイズさんが僕の元に駆け寄ってきて、僕の身体を起こして服をはたいてくれた。

 「大丈夫か、セルテ君」

 「はい……」


 僕の頭を撫でながら、スタイズさんは真剣な表情でエイシア様の方を向いた。

 「エイシア様。この子は戦闘経験のない普通の子どもです。訓練で最初から最良の行動を求めるのはどうかと。良くやっていると思いますよ」


 その言葉にエイシア様は、眉を顰めて何とも言えない表情をした。

 「そうか。ふむ……まあいい。残り六体、頑張って倒すことだな」

 そしてエイシア様の姿が消え、僕とスタイズさんの周りに六体の魔道生物が現れたんだ。
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