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第四章:新生活の始まり
47 僕は「この現実」で生きていく
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スティーブさんによると、一階は居間の他には小さな部屋があり、その他には湯浴み室、トイレ、洗面所があるそうだ。
一日三回の食事は、給食室で作られたものをメイドさんが部屋まで運んできてくれるので、台所はない。
だから自分で料理をしたい場合は、交流館という建物にある調理室に行くか、家の中に調理設備を付けてもらうかになる。
別に僕は料理を作るのが趣味じゃないし、折角美味しい料理を作ってもらえるのだから、ありがたくそれを頂くつもりだ。
調理設備は無くていいかなと思ってしまった。
水回りの設備は全て魔道具で、壁に付いている円盤を触ると空中から水が出てくるようになっている。
また、円盤の触り方によって水の温度を変えることができる。
出てくる水は、別の場所にある貯水槽から瞬間移動の魔法で転送されて来るそうだ。
そして排水溝に流れた水は、貯水池に転送された後に魔道生物によって浄化され、また貯水槽に送られるらしい。
洗面所ではスタイズさんが楽しそうな表情で円盤を触り、出てくる水を手で掬っていた。
「いや~、王国軍の兵舎にも同じようなものがあったが、これのように直接お湯が出るものではなく、出た水を別の魔道具で温めていたんだ。やっぱり本場の魔道具は違うな!」
僕よりだいぶ年上の人が無邪気に喜んでいる姿が微笑ましくて、僕も笑顔になってしまった。
一階を一通り見て回ったので次は二階に上がったのだけれど、やっぱり下と同じく白い壁で、質素な感じの内装だ。
二階には僕とスタイズさんのそれぞれの個室があり、他にも部屋が一つあるそうだ。
するとスティーブさんが、個室ではないの方の部屋のドアの元に向かい、ドアをゆっくりと開けたんだ。
「外部から持ち込まれましたセルテ様とスタイズ様のお荷物は、こちらに置かせていただきました」
部屋の中を見た瞬間、僕は息を呑んでしまった。
そこには父さんの著書、家族で旅行に行った時にお土産として買った置物、父さんと一緒に使っていた釣り道具、家族の写真など、見覚えのあるものが沢山置いてあったからだ。
どうしてここに? そう思っていると、肩に手を優しく置かれた。
振り返ると、スタイズさんが力強い笑顔を向けてくれたんだ。
「約束しただろう? 研究所に戻って来る時に、君の荷物を持って来ると」
……そういえばそうだった。
本当に持って来てくれたんだ……
僕はスタイズさんに感謝の言葉を述べた後、荷物に駆け寄って父さんの著書に触れた。
父さんのような立派な歴史学者になりたくて何度も読んだ本……表紙の手触りは記憶にあるものと同じものだ。
魔術研究所に来てからの日々は基本的に、優しい人たちに囲まれた穏やかなものだった。
だけど突然、今までとは全く違う環境に来て、僕の過去に繋がるものは父さんの遺灰以外はほとんどない状態。
日々の生活の中で色々と楽しく思うことはあったけれど、地に足が着いていないようなフワフワとした感覚に襲われることも多かった。
『世界がおかしくなったんじゃないのか?』
『実は壮大な夢を見ているだけで、そのうち目が覚めたら町に戻っているんじゃないか?』
だけど目の前にある荷物を見た瞬間、父さんとのこと、母さんとのこと、友達とのこと、町の人たちとのこと……色々な思い出が鮮やかに思い出されたんだ。
父さんは亡くなり、母さんに捨てられた。
なりたくもなかった魔術士になってしまったことで、もう町には戻ることはできなくなった。
魔術研究所から外に出られないから、父さんのように歴史学者になって遺跡の調査をするという夢は、叶えられなくなった……
やっぱり今までのことは、夢ではなかった。
僕はこれから「この現実」で生きていかないといけないんだ。
だけど今の僕は一人じゃない。
とても優しくて、格好良くて、頼りになる人がそばにいる。
僕の憧れの人、スタイズさん。
彼は僕の為に、人生を大きく変えてくれたんだ。
いつまでも過去を引きずってグズグズしちゃいけない。
僕は振り返り、父さんの本を両手で握りしめる。
「スタイズさん、ありがとうごさいます。これからよろしくお願いしますね!」
すると彼は目を見開き、そして柔らかな笑顔を向けてくれたんだ。
「ああ、よろしくな!」
彼の笑顔、優しい声で、僕の心が温かくなるのだった。
一日三回の食事は、給食室で作られたものをメイドさんが部屋まで運んできてくれるので、台所はない。
だから自分で料理をしたい場合は、交流館という建物にある調理室に行くか、家の中に調理設備を付けてもらうかになる。
別に僕は料理を作るのが趣味じゃないし、折角美味しい料理を作ってもらえるのだから、ありがたくそれを頂くつもりだ。
調理設備は無くていいかなと思ってしまった。
水回りの設備は全て魔道具で、壁に付いている円盤を触ると空中から水が出てくるようになっている。
また、円盤の触り方によって水の温度を変えることができる。
出てくる水は、別の場所にある貯水槽から瞬間移動の魔法で転送されて来るそうだ。
そして排水溝に流れた水は、貯水池に転送された後に魔道生物によって浄化され、また貯水槽に送られるらしい。
洗面所ではスタイズさんが楽しそうな表情で円盤を触り、出てくる水を手で掬っていた。
「いや~、王国軍の兵舎にも同じようなものがあったが、これのように直接お湯が出るものではなく、出た水を別の魔道具で温めていたんだ。やっぱり本場の魔道具は違うな!」
僕よりだいぶ年上の人が無邪気に喜んでいる姿が微笑ましくて、僕も笑顔になってしまった。
一階を一通り見て回ったので次は二階に上がったのだけれど、やっぱり下と同じく白い壁で、質素な感じの内装だ。
二階には僕とスタイズさんのそれぞれの個室があり、他にも部屋が一つあるそうだ。
するとスティーブさんが、個室ではないの方の部屋のドアの元に向かい、ドアをゆっくりと開けたんだ。
「外部から持ち込まれましたセルテ様とスタイズ様のお荷物は、こちらに置かせていただきました」
部屋の中を見た瞬間、僕は息を呑んでしまった。
そこには父さんの著書、家族で旅行に行った時にお土産として買った置物、父さんと一緒に使っていた釣り道具、家族の写真など、見覚えのあるものが沢山置いてあったからだ。
どうしてここに? そう思っていると、肩に手を優しく置かれた。
振り返ると、スタイズさんが力強い笑顔を向けてくれたんだ。
「約束しただろう? 研究所に戻って来る時に、君の荷物を持って来ると」
……そういえばそうだった。
本当に持って来てくれたんだ……
僕はスタイズさんに感謝の言葉を述べた後、荷物に駆け寄って父さんの著書に触れた。
父さんのような立派な歴史学者になりたくて何度も読んだ本……表紙の手触りは記憶にあるものと同じものだ。
魔術研究所に来てからの日々は基本的に、優しい人たちに囲まれた穏やかなものだった。
だけど突然、今までとは全く違う環境に来て、僕の過去に繋がるものは父さんの遺灰以外はほとんどない状態。
日々の生活の中で色々と楽しく思うことはあったけれど、地に足が着いていないようなフワフワとした感覚に襲われることも多かった。
『世界がおかしくなったんじゃないのか?』
『実は壮大な夢を見ているだけで、そのうち目が覚めたら町に戻っているんじゃないか?』
だけど目の前にある荷物を見た瞬間、父さんとのこと、母さんとのこと、友達とのこと、町の人たちとのこと……色々な思い出が鮮やかに思い出されたんだ。
父さんは亡くなり、母さんに捨てられた。
なりたくもなかった魔術士になってしまったことで、もう町には戻ることはできなくなった。
魔術研究所から外に出られないから、父さんのように歴史学者になって遺跡の調査をするという夢は、叶えられなくなった……
やっぱり今までのことは、夢ではなかった。
僕はこれから「この現実」で生きていかないといけないんだ。
だけど今の僕は一人じゃない。
とても優しくて、格好良くて、頼りになる人がそばにいる。
僕の憧れの人、スタイズさん。
彼は僕の為に、人生を大きく変えてくれたんだ。
いつまでも過去を引きずってグズグズしちゃいけない。
僕は振り返り、父さんの本を両手で握りしめる。
「スタイズさん、ありがとうごさいます。これからよろしくお願いしますね!」
すると彼は目を見開き、そして柔らかな笑顔を向けてくれたんだ。
「ああ、よろしくな!」
彼の笑顔、優しい声で、僕の心が温かくなるのだった。
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