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第四章:新生活の始まり
41 僕は急患の人を心配する
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医務室に鳴り響く音……それは机の上に置かれた小さな円盤から出ているようだ。
近くにいた茶髪の男性看護士さんがその円盤を手に取り、それに向かって話しかける。
「医務室の看護士、フラビンです。どうされましたか?」
すると円盤から、女性の絶叫する声が聞こえてきたんだ。
『テリーが!! テリーが!!! いやああああ!!! 助けて下さい!!!!』
『ううう……ああ……痛いぃぃぃ……』
どうやらこの円盤は、目の前にいない人と話をすることができる魔道具のようだ。
女性の悲痛な叫び声と、男性の呻き声がひっきりなしに聞こえてきて、尋常じゃない状況だということが伝わってきた。
「落ち着いて。一体何があったのか、テリーさんの状況を教えてください」
フラビンさんは真剣な表情で冷静に話しかける。
『えっと……鍋! 鍋を運ぼうとしたら、持ち手が外れて、落としてしまって! 熱いスープがテリーの両足にかかって……ああっ! 私のせいでテリーの足が!!』
「テリーさんは両足を火傷して動けないということですね。今から迎えに行きますが……これは……給食室でよろしいですか?」
『はい! 給食室です! 夕食の準備をしてる最中で……』
「でしたら、近くに水道はありますね。とにかく患部に流水をかけ続けて、冷やしてください。しかし身体の他の部分は冷やさないように、毛布などがあればかけてあげて下さい」
『分かりました! 早く来てください!!!』
円盤を置いたフラビンさんは皆の方に向き直り、指示を出し始める。
「聞いての通り、火傷の患者だ。エーヴィスとカルボは、救急セットと搬送板と毛布を持って給食室へ! アスコルはテアリン先生を呼んでくれ! 他の者は受け入れの準備を始めるぞ!!」
「はいっ!」「おうっ!」「ああ!」
医務室はついさっきまでの穏やかな雰囲気から一転し、緊迫した空気の中、看護士さんたちが忙しなく動いている。
僕はどうしたら良いのかわからず呆然と立ち尽くしていると、スタイズさんに腕を強く引っ張られたんだ。
「我々は邪魔にならないように、ここを出よう!」
「はいっ!」
病室に置いている自分の荷物を回収して、僕とスタイズさんは急いで医療棟を出たのだった。
建物の外に出た僕とスタイズさんは、振り返って入口の方を見る。
「火傷か……魔術研究所の医療水準がどれくらいのものかは知らないが、そんなに酷いことにならないと良いな……」
「そうですね……」
僕は給食室の人とは直接関わったことは無いけれど、毎日美味しい食事を用意してくれているし、いつかお礼の言葉を伝えたいと思っていた。
さっきの火傷で痛がっている声を思い出すと、胸が苦しくなってしまう。
以前、パートナー志望者と面談をした時に、工事部の人が事故で父親を亡くしたと言っていたのを思い出した。
娯楽小説だと、魔法で一瞬のうちに怪我や病気が治ることが多いけれど、現実の魔法はそんな都合の良いものでは無いようだし、本当に心配だ……
そんなことを考えていると、肩に腕を回された。
見上げると、スタイズさんが何とも言えないような表情で僕を見ていたんだ。
「心配だろうが、医務室の皆に任せるしかないな」
「はい……」
彼の穏やかな声、そして優しい手に、僕の悲しみは少し和らいだような気がしたのだった。
近くにいた茶髪の男性看護士さんがその円盤を手に取り、それに向かって話しかける。
「医務室の看護士、フラビンです。どうされましたか?」
すると円盤から、女性の絶叫する声が聞こえてきたんだ。
『テリーが!! テリーが!!! いやああああ!!! 助けて下さい!!!!』
『ううう……ああ……痛いぃぃぃ……』
どうやらこの円盤は、目の前にいない人と話をすることができる魔道具のようだ。
女性の悲痛な叫び声と、男性の呻き声がひっきりなしに聞こえてきて、尋常じゃない状況だということが伝わってきた。
「落ち着いて。一体何があったのか、テリーさんの状況を教えてください」
フラビンさんは真剣な表情で冷静に話しかける。
『えっと……鍋! 鍋を運ぼうとしたら、持ち手が外れて、落としてしまって! 熱いスープがテリーの両足にかかって……ああっ! 私のせいでテリーの足が!!』
「テリーさんは両足を火傷して動けないということですね。今から迎えに行きますが……これは……給食室でよろしいですか?」
『はい! 給食室です! 夕食の準備をしてる最中で……』
「でしたら、近くに水道はありますね。とにかく患部に流水をかけ続けて、冷やしてください。しかし身体の他の部分は冷やさないように、毛布などがあればかけてあげて下さい」
『分かりました! 早く来てください!!!』
円盤を置いたフラビンさんは皆の方に向き直り、指示を出し始める。
「聞いての通り、火傷の患者だ。エーヴィスとカルボは、救急セットと搬送板と毛布を持って給食室へ! アスコルはテアリン先生を呼んでくれ! 他の者は受け入れの準備を始めるぞ!!」
「はいっ!」「おうっ!」「ああ!」
医務室はついさっきまでの穏やかな雰囲気から一転し、緊迫した空気の中、看護士さんたちが忙しなく動いている。
僕はどうしたら良いのかわからず呆然と立ち尽くしていると、スタイズさんに腕を強く引っ張られたんだ。
「我々は邪魔にならないように、ここを出よう!」
「はいっ!」
病室に置いている自分の荷物を回収して、僕とスタイズさんは急いで医療棟を出たのだった。
建物の外に出た僕とスタイズさんは、振り返って入口の方を見る。
「火傷か……魔術研究所の医療水準がどれくらいのものかは知らないが、そんなに酷いことにならないと良いな……」
「そうですね……」
僕は給食室の人とは直接関わったことは無いけれど、毎日美味しい食事を用意してくれているし、いつかお礼の言葉を伝えたいと思っていた。
さっきの火傷で痛がっている声を思い出すと、胸が苦しくなってしまう。
以前、パートナー志望者と面談をした時に、工事部の人が事故で父親を亡くしたと言っていたのを思い出した。
娯楽小説だと、魔法で一瞬のうちに怪我や病気が治ることが多いけれど、現実の魔法はそんな都合の良いものでは無いようだし、本当に心配だ……
そんなことを考えていると、肩に腕を回された。
見上げると、スタイズさんが何とも言えないような表情で僕を見ていたんだ。
「心配だろうが、医務室の皆に任せるしかないな」
「はい……」
彼の穏やかな声、そして優しい手に、僕の悲しみは少し和らいだような気がしたのだった。
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