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第一章:セルテと母親
8 僕は循環する温かな想いに感謝する
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十二歳の僕が一人で部屋を借りて一人暮らしをするのは無理だと言われ、気分が滅入ってしまった。
けれど、しょぼくれた僕を心配してくれたのか、レオンさんが柔らかな表情で事情を聞いてくれたんだ。
母さんが自宅を売り払うつもりだということ、叔母さんが僕を引き取って親権を持つことになり、遠方に引っ越さないといけなくなったこと。
僕はそれが嫌で、この町で一人暮らしをしたいと思っていることを、レオンさんに話したんだ。
すると彼は少しの間、腕を組んで目を閉じていたんだけど、穏やかな表情で話し始めたんだ。
「うーん。セルテ坊ちゃんの叔母さんが、どんな人かは分からないけれど、国営の施設とやらに勤めているのなら、しっかりした人じゃないか? それに見ず知らずの坊ちゃんを引き取ってくれるぐらいだし、結構良い人かもしれないぞ」
「そう、でしょうか……」
「一緒に暮らすのって、坊ちゃんが成人するまでの三年間だけだろ? 叔母さんの好意に甘えたら良いじゃないか」
……言われてみれば、確かにそうなのかもしれない。
未成年の僕があと三年間、「親権者」と関わらないといけないとして。
母さんだと、ロクでもない恋人が付いてくるのは確定だ。
叔母さんはそれよりはマシ……だといいな。
叔母さんの世話になるのは、あくまで僕が成人して独り立ちするまでの一時的なもの。
迷惑をかけないように家の手伝いをしたり、父さんから貰ったお金から少しずつ生活費を渡そう。
レオンさんのおかげで、少しは前向きになれた気がする。
叔母さんの家でお世話になるのなら、そんなに沢山の荷物は持っていけないだろう。
でも生家は売り払われてしまうから置き場は無くなるし、父さんとの思い出の品は捨てたくない……そんなことをレオンさんと話していると、近くにいた男性職員さんが声をかけてきたんだ。
「話は聞かせて貰ったぞ、セルテ坊ちゃん。少し前に俺の息子が家を出ていって、一部屋空いたんだ。坊っちゃんが独り立ちするまでなら、荷物置き場にしてもらってもいいんだが」
白髪交じりの黒髪に顎髭を生やした、ヒョロヒョロなオジサン。
僕はその人の顔に、全く見覚えが無い。
何で知らない人が、僕にそんなこと言うんだ???
突然の申し出に理解が追い付かず、呆然とその男性職員さんを見る。
するとその人は右手を胸に当て、僕に向かってお辞儀をしたんだ。
「私の名前はブローディ。昔、カーレム先生には色々とお世話になったから、恩を返すってだけだ。遠慮しないでくれよ、セルテ坊ちゃん」
この人、僕が成人するまで、父さんの荷物を預かってくれるの?
本当に父さんとの思い出の品を、捨てなくていいの?
父さんは昔から色んなところに寄付したり、色んな人に親切にしていた。
皆のお世話になったから、お返しだと。
父さんにとっては「お返し」だから、見返りなんて求めていなかっただろうけど、それが今、別の形で返ってきたんだ。
ブローディさんの温かい言葉に、じわじわと喜びが込み上げて目の奥が熱くなる。
「うぅ……ありがとう、ございます……よろしく、お願い、します……」
「良かったな、セルテ坊ちゃん!」
「寂しくなるだろうが、神の元に旅立ったカーレムさんが、坊ちゃんのことを見守ってくれるだろう」
レオンさんが嬉しそうに両手を握り、ブローディさんは穏やかな笑顔を見せてくれる。
荷物の置き場の件が解決して、本当に良かった。
嫌なことや悲しいことはあるけれど、意外と世の中、捨てたものじゃないのかもしれない……
けれど、しょぼくれた僕を心配してくれたのか、レオンさんが柔らかな表情で事情を聞いてくれたんだ。
母さんが自宅を売り払うつもりだということ、叔母さんが僕を引き取って親権を持つことになり、遠方に引っ越さないといけなくなったこと。
僕はそれが嫌で、この町で一人暮らしをしたいと思っていることを、レオンさんに話したんだ。
すると彼は少しの間、腕を組んで目を閉じていたんだけど、穏やかな表情で話し始めたんだ。
「うーん。セルテ坊ちゃんの叔母さんが、どんな人かは分からないけれど、国営の施設とやらに勤めているのなら、しっかりした人じゃないか? それに見ず知らずの坊ちゃんを引き取ってくれるぐらいだし、結構良い人かもしれないぞ」
「そう、でしょうか……」
「一緒に暮らすのって、坊ちゃんが成人するまでの三年間だけだろ? 叔母さんの好意に甘えたら良いじゃないか」
……言われてみれば、確かにそうなのかもしれない。
未成年の僕があと三年間、「親権者」と関わらないといけないとして。
母さんだと、ロクでもない恋人が付いてくるのは確定だ。
叔母さんはそれよりはマシ……だといいな。
叔母さんの世話になるのは、あくまで僕が成人して独り立ちするまでの一時的なもの。
迷惑をかけないように家の手伝いをしたり、父さんから貰ったお金から少しずつ生活費を渡そう。
レオンさんのおかげで、少しは前向きになれた気がする。
叔母さんの家でお世話になるのなら、そんなに沢山の荷物は持っていけないだろう。
でも生家は売り払われてしまうから置き場は無くなるし、父さんとの思い出の品は捨てたくない……そんなことをレオンさんと話していると、近くにいた男性職員さんが声をかけてきたんだ。
「話は聞かせて貰ったぞ、セルテ坊ちゃん。少し前に俺の息子が家を出ていって、一部屋空いたんだ。坊っちゃんが独り立ちするまでなら、荷物置き場にしてもらってもいいんだが」
白髪交じりの黒髪に顎髭を生やした、ヒョロヒョロなオジサン。
僕はその人の顔に、全く見覚えが無い。
何で知らない人が、僕にそんなこと言うんだ???
突然の申し出に理解が追い付かず、呆然とその男性職員さんを見る。
するとその人は右手を胸に当て、僕に向かってお辞儀をしたんだ。
「私の名前はブローディ。昔、カーレム先生には色々とお世話になったから、恩を返すってだけだ。遠慮しないでくれよ、セルテ坊ちゃん」
この人、僕が成人するまで、父さんの荷物を預かってくれるの?
本当に父さんとの思い出の品を、捨てなくていいの?
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皆のお世話になったから、お返しだと。
父さんにとっては「お返し」だから、見返りなんて求めていなかっただろうけど、それが今、別の形で返ってきたんだ。
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「うぅ……ありがとう、ございます……よろしく、お願い、します……」
「良かったな、セルテ坊ちゃん!」
「寂しくなるだろうが、神の元に旅立ったカーレムさんが、坊ちゃんのことを見守ってくれるだろう」
レオンさんが嬉しそうに両手を握り、ブローディさんは穏やかな笑顔を見せてくれる。
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