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第一章:セルテと母親

7 僕は一人暮らしをしたい

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 ベーコンが少し入っている野菜スープと、パン一個をゆっくりと食べているうちに、少しだけ元気になったような気がする。
 店員さんに笑顔で見送られながら食堂を出た僕は、葬儀証明書を提出する為に役場に向かったのだった。


 役場に着いて対応してくれたのは、職員のレオンさんだ。
 レオンさんは家の近所に住んでいて、僕が小さい頃は一緒に騎士ごっこをして遊んでくれた優しい青年。
 最近は仕事が忙しいようで一緒に遊ぶことは無くなったけれど、顔を合わせた時には挨拶をして、軽く近況を話したりはしている。

 「ぐっ、これは……カーレム先生は、亡くなって、しまったのか……」
 「はい……」

 僕が差し出した父さんの葬儀証明書に、普段は明るいレオンさんもショックを隠し切れない様で、眉を顰めて目を閉じて黙ってしまった。
 けれどしばらくして、彼は両頬を手で叩いて、僕が差し出した書類を処理し始めたんだ。



 手続きが終わった後に、何か心配なことはあるかと聞かれたので、父さんの財産はどうなるのかと聞いてみた。
 すると、相続人――僕と母さんの二人で相談して分けたら良いと、言われてしまった。


 母さんは父さんの財産は全て貰うつもりでいるようだし、僕と話し合いなんてする気はないだろう。
 もし揉めたら、母さんの恋人が出しゃばってくる可能性もある。
 何しろ、「自分たちが使えるお金」に関する話だから。

 恋人は金髪を逆立てて、身体に気持ち悪い模様を描いている、筋肉ムキムキな男。
 その怖い見た目の通り、粗暴な振る舞いをする奴だ。
 以前、自宅の廊下ですれ違った時、意味もなくお腹を蹴りつけられたことがある。

 大人二人と、小柄な僕一人じゃ、絶対に敵わないだろう。
 父さんの土地や預金は諦めるしかないんだろうな。
 私物には興味は無さそうだから、それだけは全部貰えるように、母さんにお願いしよう。
 


 続いて、レオンさんに部屋を借りたいことを話すと、役場でも紹介することが出来るそうで、母さんと一緒に来るように言われてしまった。

 母さんと一緒? ……それは困る。


 「あの、狭い部屋でいいので、僕の名義で契約して、一人で暮らしたいんですが……」
 「ええっ!? 坊ちゃん一人で? いやぁ……それはちょっと、無理だなぁ……」

 「お金ならありますので! 家賃はちゃんと払います! 仕事だってしますから」
 「うーん、ラファレトさんちはお金持ちなんだろうけど、そういう問題じゃないんだよ」

 僕の言葉に、レオンさんは困惑しているようだ。


 「えっと、どういう問題ですか?」
 「この国で契約ごとが出来るのは、成人となる十五歳以上と決まっている。だから面倒ごとを避けるために、十二歳の坊ちゃんに部屋を貸す人はいないだろうし、坊ちゃんを従業員として雇う人もいないだろうな」


 レオンさん曰く、ここアータイン王国では、十五歳未満の子どもは親権を持つ者の元で生活し、社会に出る為の勉強をしたり、職業訓練を受けることになっている。
 親権者が未成年の子どもの養育を放棄すると、それに関わった者も含めて罪に問われるらしい。


 だから罪人にはなりたくないけど僕の面倒は見たくない母さんは、僕を叔母さんに引き取ってもらうことを考えたんだろう。
 現在は、親権を渡すことが出来るのは基本的に血縁者のみで、それ以外の人は厳しい審査を受けないといけないらしい。
 親戚付き合いがほぼない母さんが頼れるのは、実の妹――叔母さんだけなんだろう。


 僕の年齢だと、母さんの名義で部屋を借りて、母さん名義の財産から家賃と生活費の支払いをすれば、養育していると見なされるらしい。
 それなら一人で暮らすことが出来るので、一度話をしてみたらと言われてしまった。

 きっと相談したところで、母さんが僕の為に余計なお金を払うなんてことは、しないだろう。
 かといって、父さんが作った僕の隠し口座のことを話すと、絶対に全部を奪おうとするだろうし、話すのはちょっとリスクがあるかな……
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