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おうちでーと
しおりを挟む眩しすぎる夏の光もけたたましい蝉の鳴き声も、窓の向こうに追いやって、白の薄いカーテンを引く。
ピッとワンボタンで冷風が吹き出し、あっという間に快適空間が出来上がった。
「さすが文明の利器。涼しー。」
「なんだそれ。」
笑みを含んだ返しがあって、何となく照れながら、今日初めて家に招いたお客さんをソファーまで引っ張った。
「どーぞ、座って。あ、お茶持ってくるよ」
「ん。サンキュ。」
キッチンで冷えた麦茶をグラスに注いでチラッとリビングに目を向けると、どことなく落ち着かない雰囲気でソファーに座る陽介がいて。
とくり、と心臓が跳ねる。俺の家に、陽介。
なんとなく俺までそわそわして、落ち着かないような。
「日向?」
じっと見すぎたかな。優しい声で呼びかけられて、ぽんっとほっぺに熱が灯る。
「あ、ううん!菓子、なんでもいー?」
「おう。ありがと。……なぁ、言ってたの、見ていいか?」
「いーよ。左の棚、全部そうだから。」
ソファーの前のテーブルにお茶とスナック菓子を並べて、いそいそと棚まで近づいた陽介を追いかける。
「すっげえ。」
チラッと陽介の顔を見れば、キラキラした瞳で、もうすでに棚の方に夢中だ。こういうところも可愛いけど、ちょっと悔しい。
「だろ?つっても、俺のじゃなくて親父の趣味なんだけど。」
「へえぇ。やべぇ。一生ここにいられそう。」
居て良いよ、なんて心の中で思ったりして。言わないけど。
弁護士として日々忙しい父親の唯一の趣味が映画。映画館に行くのもだけど、DVDは日本のメジャーなとこから海外のB級映画まで中々マニアックな取り揃えだと思う。
ビデオまで結構な数で、家ではまだまだビデオデッキが現役だ。
壁に張りつくその高い棚は、一番下の段に余裕を持たせながら、びっしりと映画作品が並ぶ。
映画好きで映研に所属している陽介に、父のコレクションの話をしたら、意気揚々と俺の家に来る約束を取り付けた。
「うわぁ。おもしろ。この辺マイナーなやつばっかだ。」
引っ張り出したケースを見比べて、興味津々といった様子の陽介。
なんだかなぁ。
お家デートってやつだと思って舞い上がったのは俺だけかもしれなくて、何となく寂しい。映画を目的に家に来てくれた分、文句は言えないけど。
「……何か見る?」
「うん。これ!これ見よう。」
タイトルを流し見て、ぴくっと頬が引きつりそうになった。
それ、あれでしょ、日本語訳ついてないやつ。マイナー過ぎて字幕も無いやつ。英語ならまあ、なんとなく分かるかな。たぶん。
「……いーよ。」
なんだかなぁ。
案の定、何となくしか内容が分からなくて、陽介が笑うポイントとかも何が面白かったのか分からない。こんなとき、俺あんまし陽介のこと知らないんだなって改めて思う。
出会って3ヶ月。付き合って2週間。
ムカつく。映画にばっか夢中の陽介も、気づけば陽介のことばっか考えてる俺も。
お前、俺のこと忘れてない?
映像の方を向いてる陽介の横顔に、だんだんとムカムカしたやつが胸の中で大きくなってくる。
なぁ。
こっち、見ろよ。
そんな気持ちで。
「っ!日向?」
ぽすんと、陽介の膝の上に跨がった。
目があって、真っ赤になって慌ててる彼の目の中に俺がちゃんといるのを見つけて、思わずにへらっと笑ってしまう。
「お前ね。」
呆れたように笑う陽介に、ぎゅうっと抱きついて耳元に囁く。
「ダメだった?」
「うん。ダメ。」
え。なにそれ。ショック……!
思わず腕を放して、じっと顔を見る。
「な、なんで……?」
そんなに邪魔されるの嫌だったのかな。と死刑宣告でも受けるような心地で聞いたんだけど。
ブフッという、堪えきれないと言わんばかりの吹き出しに、空気が弛緩する。
「ごめん、嘘だよ。ダメな訳ないだろ。」
くしゃりと頭を撫でられて、くすぐったいような気持ちになる。
「というか、ほんとごめん。つまんなかったよな。俺、思ったよりなんか……緊張してて。」
?どういう……
「この家。全部お前の匂いだし。なんかもう心臓うるさいし、胸いっぱいだし、なんも考えずに無心で映画見ようと思って適当に選んだら、完全に洋画だし。」
「へ?」
「あああぁ。俺、かっこ悪いな。」
心臓、うるさかった?
胸いっぱいになっちゃった?
なんだそれ。
嬉しくない訳ない。
じわじわと、照れと喜びが浮かんできて。
「むふふ。」
「日向、含み笑い?変態っぽいよ。」
そういう悪態ですら、真っ赤な耳で、照れ隠しなんだとわかるから。
「むふふふふ。しょうがないだろ、幸せなんだから。」
もうヤバいよね。顔面ゆるゆる崩壊だよ。さっきまでムカムカしてたくせに単純?
知ってるよ。
でも、どうしようもないんだ。
「何がだよ。初めて家に来といて恋人ほったらかしにするヤツなんて最低だろ。」
惚れた弱みってやつだから。
「嬉しいんだ。陽介が俺のことでいっぱいになるの、嬉しい。」
すり、と近づいて、おでことおでこをくっつける。自分と違う体温に触れて、心臓がさらに暴れ出す。
お互いの息が届く距離。
「ひな。」
呼ばれて、そうっと近づいて。唇がゆっくりと重なった。
離れて、またくっついて、ちゅって音を立ててみたりなんかして、クスクスと笑い合う。
ひな、ひなた。優しくそう呼ぶ声が好き。
くしゃりと頭を撫でる、大きな手が好き。
「ひな。大好きだよ。」
俺の欲しい言葉を、惜しげもなく言っちゃう君が。
「俺も、大好きだよ。」
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