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これもきっと、ひとつのカタチ

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「めーちゃんめーちゃん!」
「私はそんなヤギっぽい名前ではないよ?りっくん。」
「めーちゃん!」
「……聞いてないね。りっくん。」

「そんなことより聞いてよ!」
おおう。なんと横暴な。

「りっくん、君はあれかい?いつの間にか、ゆるふわっとしたチャラ男から俺様に路線変更したのかね?暴君ヨクナイ反対ネ。」
「は?俺様?……そうじゃなくてね!めーちゃん!俺また振られたぁぁぁ……!なーんでいつもこうなのかなぁ。」

ふむ。そーゆーとこだと思うよ。

とは流石に言わないよ、うん。空気読める子よ、私。

「そーなん。それはあれだね。りっくんが思ったより鬱陶し……重…………見た目と違って真面目すぎたんじゃないかな!」 
「慰める気無いっしょ、めーちゃん。」

うん、つい。

「分かってるんだよ!俺が重ーいやつだってことは。何回も言われたし!だってさ?普通、付き合ってんだし嫉妬くらいするよね?マメに連絡欲しいよね?」
「ソウデスネ。」

ただし、嫉妬って言ってもヤキモチと呼べる可愛らしいレベルならね。あと連絡も、返事来ないからって何十件も送るとか、着信履歴埋め尽くすとか、恐怖だからね。

見た目ゆるふわっとしたチャラ男なだけに、遊んでる人だと思って気軽に近づいた女の子が、この想定外のギャップにキュンとくるような奇跡はまず起きない。
残念なことに、りっくんが付き合う女子のタイプは、束縛されて喜ぶヤンデレ入ったドMじゃなくて、自分を着飾るのが得意で遊び慣れたキラキラ女子だ。S寄りの。

「で?今度は何したの?」

その言葉にりっくんは一瞬でブスッとむくれる。子どもか。

「なーんで俺が何かした限定なわけ?」
「最近の傾向から?」
「ひどいよめーちゃん!」

事実を言ったまでだ。
これまでの束縛遍歴を(無理やり相談されて不可抗力に)全部知っている私には、りっくんに大きな原因があるように思えてならない。

「今回は俺、なんもしてないし!」
へえ。
「交友関係に口出しは?」
「……ちょっとは言ったけど、我慢した。」

ちょっと言ったのね。

「電話は?」 
「へらしたよ?1日10回までって決めて!」

10……まだちょっと多いんでない?
りっくんのことだ。昼も放課後もべったり一緒にいるだろうに、その回数はヤバいと思う。

「……LIMEは?」
「一方的にならないようにちゃんと返事待ったし!」
「成長を感じるね……。」

きっと頑張って返事を待ったのだろう。 
ん?まてまて。
「まさか既読つくの待ちかまえて、速攻返信してたり……。」
「え?当然じゃん。女の子って待たされるの嫌いじゃないの?」

いつ送っても、送った瞬間既読がつく。

「怖いよ。」
りっくん、モテるのになんでそんなにがっついてんの。微妙な恋の駆け引きとか、無いのかね?

「何言ってんのめーちゃん。これだからめーちゃんは。」

お前が何を言ってんだ。

私を貶してる場合じゃないよ。今どき小学生でも、もっと上手に恋を楽しんでいる気がするよ。



「ま、それは置いといて。別れた原因は?」

「ほんともうヒドいんだよ、浮気された!」 

ありゃ。こりゃ今回は彼女さんにも非があるのかも。

「から、キレて相手の男ボッコボコにしてやったら、『こんなことで怒るなんて意味不明!重すぎかよキモい!』って。その男、俺と付き合うより前から関係のあったセフレだったらしい!どう思う?意味不明はそっちだろ!」

おおふ。おこだね。ぷんぷんぷりぷりしてらっしゃる。
というか、ボコボコに……うん、それは置いとこう。

どうやら彼女さんは相当な遊び人だった模様。そしてりっくんのことも遊び人だと思って付き合ったんだろう。
なんというこった。
結構酷い振られ方なのに、前にも似たような話しを聞いたような。これが良くあるパターンとか、りっくん女運悪いな。


「俺のこと好きって言ったのは何だったんだろ。リップサービス?気まぐれ?重いのはわかるけど、キモいって何。というかやっぱり重いんだよね、うん。やっぱりだーめかぁ。でもさぁ、でも、それでも、」



好きだったんだって。



ぷんぷんぷりぷりが、次第に目線が下がってしょぼんとなってしまう。ああぁ。


なくの。



「りっくん。」

呼ぶと、僅かに潤んだ目が、私のほうを向く。

「別れて正解だよ。むしろこっちから願い下げにしたって良いと思う。りっくんの愛は正しいよ。大切にしたかったんだよね?ちょっと、結構、んー、かなり暴走するときもあるけど、りっくんはいつだって本気で一生懸命だから。それが伝わらないのは、悲しいね。……きっとさ、ちゃんと本気でりっくんと向き合ってくれる人だって、いるよ。」
その人はヤンデレかつドMかもしれないけども。それはまぁ、目を瞑ってもらう方向で。

「次付き合う人はさ、同じ重さで釣り合うような人なら良いね。」

ちょっと落ち込んでるりっくんの、私より20センチは高い頭を撫でる。
昔は私の方が高かったのに。といっても、抜かされたのは何年も前だ。小学3年の時にはもう、りっくんの方が背が高かったっけ。背ばっかり大きくなって、いっちょ前に髪も染めてるくせに、変わらずに馬鹿まっしぐら。

見た目だけはチャラ男で、どうしようもなく惚れっぽくて、けど一途で愛が深すぎる。どうせ1日うじうじ泣き言言ってても、次の日には立ち直って、そのうちすぐに好きな人が出来た!って言うのだ。

何度も何度も。
いつだって振られては私に愚痴って。


いい加減、幸せにおなりよ、と思わないではいられない。




普段私はそっけなくて、慰めるにしてもこんな風に真っ直ぐ言葉にしたのは初めてだからか、りっくんがビックリしたように目を見開いて、涙も引っ込んだ。

「め、ちゃん?」
「私の名前はそんなベリーショートじゃないよ、律くん。」

ちゃんと呼んでおくれよ、りっくん。

「…彩芽。あやめ。あやめ、あやめ。」
どんどん舌っ足らずでゆるゆるで、甘やかな響きになっていく。

「そんな連呼しなくても聞こえて、」
「あやめ!」
私の言葉を遮るように一際大きく呼ぶと同時に、むんぎゅっと抱きしめられた。



……あれ?抱きしめられた?

「ちょっと、待って待って。タイム。今のはなんか違ったよ?なんでハグ?」
まさかね。そんなはずはない。ないない。

「いやいやいや、無いから。」
なんだか嫌な予感がしたけどきっと気のせいだ気のせい。

「あやめ。」
「おいこらドサクサに紛れて顔近づけるんじゃない。」
「ぅえ!?」
グイッと押しのけてささっと距離を開ける。


「なんでさ!今の完全にちょっといい感じだったよ!新たな恋始まっちゃう感じだったよ!」
「ありえん。やめなさい。いくら地味な私にも、選ぶ権利があると思うのだけれど!」
「無いよ!あぁ、ヤバい。なんで今まで気づかなかったんだろう、こんな側にいたのに!」
「何言ってんのかな!?というか、ちゃんと考え直そう?うん。どう考えても私じゃないよね?」

やめてくれ。惚れっぽいにも程がある。

というか、あれ?ついさっき、数秒前まで泣きそうになってたのに、いつの間にこんな話になってんだ。 

え?
名前で呼んだから?
そんなことで恋に落ちるなよチョロインかよ。

うん、ごめんなさい。ちゃんと名前で呼べっていうのは、ずっとなんとかせねばと思ってただけなのだ。

「彩芽」なのにあーちゃんでもあやちゃんでも無くめーちゃん、という呼び方は、誰が聞いてもあれ、なんで?って引っかかるよね。
りっくんはコレでも一応ゆるふわっとしたチャラ男でイケメンだ。クラスでも派手なグループの、さらに中心人物。

対する私、クラスで本、もといラノベを愛読する根っからのオタク。めちゃくちゃ不細工というわけではない、と思ってはいるけど、お世辞でも綺麗だね、じゃなくて可愛いね、しか言われたことのない平凡顔。
めーちゃんって呼ばれる度に、は?何なの?みたいな鋭い周りの目がこっちに向くの、怖すぎたからね。


「めーちゃん。逃げようったって、もう無理だよ?ほら、」
りっくんが私の右手をつかんで自分の心臓の上に当てる。
「ね、めっちゃ速い。」

なんなんだ。
ね、じゃない。
ドッドッドッと駆け足の心拍が、手のひらから伝わって、こっちまでドキッとしてしまうじゃないか。

「あ、照れた。可愛いー……。」

う、わぁあああああ。やめんか!なにそのくっそ甘い声!溶けまくった表情!

「ち、がうよ、これ違う。あれだよ、弱ってるとこ思わぬ優しさに触れて、ついうっかりドキッとしちゃっただけ的な?絶対そう。一時的な!勘違い!」
「うん、弱ってるとこに優しく励まされてどうしようもなく惚れたんだよ、違わないね。永遠ってきっとあるよ、あやめ。」 

うん、失敗したね。なんで名前呼びにしたのかさっきの自分の言動が甚だ謎だ。無駄に破壊力たけーなおい。

「まっ」
「待てない。あやめ、好き。」

ああもう。

「そーですか。」
「そーです。付き合ってください。」

なんでさっきの今で告白なんかしてるんだ、この人は。
でも。

「ごめん無理です。」
「……なんで?もしかして、他に好きな男でもいるの。」

顔が怖いよ。目が据わってる。
え、なにかね?もしかしなくても、もうなんか変なスイッチ入ってないかこの人。

「い、ないけど!っだから近いよ!?」
「なぁんだ!なら良いよね。これからよろしく。あやめ。」

良くない。良くないよ、りっくん。
「却下!異議あり!」
「却下を却下。往生際が悪いよ?あやめ。」

なんで私が悪いみたいになってんだ。

「とにかく、りっくんとは付き合いません!」



というような問答が長く長く続き、りっくんが粘り勝ちのガッツポーズを掲げたとか、掲げなかったとか。
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