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2話

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 ゾクッ――

「ッ!?」

 なんだ今の寒気は……懐かしいような、思い出したくないような……。

 俺にとって冥獄の森は庭のような場所だ。罠師たるもの、素材の一つも実力で入手できないようでは話にならないと、何度か放り込まれたからな。

 ここも随分と前に走破している。奥にいけばヌシ候補の一匹や二匹捕まえられるだろうと思い、たまたま余っていた(決して隠し持っていたわけではない)師匠の素材を使って罠を仕掛けておいた。

「プルプルプルッ」

「……こいつは、スライム?」

 朝露のように透き通る丸い液体、だが俺の罠は反応している。

「なんでこんなところにスライムが? というか本当にスライムなのかこいつは」

 ここまで綺麗な色のスライムはみたことがない。というか弱点の核はどこだ。

 スライムといえば最弱といわれ、踏んでよし突いてよし、脆い核を壊せばいいだけだから杖をついた老人でも倒せる。赤ちゃんが手に持ったガラガラで倒したという逸話すらある。

「どうしたもんかな」

 スライムは金にならない。魔物使いテイマーなら掃除に利用できなくはないと思うが、その辺にたくさんいるし、とれる素材もほぼ皆無だ。

「プルンプルン」

「ん? なんだお前、それが気に入ったのか」

 当たり前だが罠にかかった魔物は暴れる。

 そのときついた傷が素材のランクを落としてしまうのだが、それを許すようでは三流以下だと師匠は口酸っぱくいっていた。

 もちろん俺の考えも同じだ。だから今回作った罠には常時回復する効果をつけた。

 脱出する唯一の方法は体力が全回復すること。つまり、暴れてダメージを負う魔物は一生でられない。逆にジッと動かなければすぐに出られる。

「もう発動しちゃったし食べちゃっていいよ」

「プルッ!」

 食べる――のかどうかはわからないが、スライムだって魔物だし腹も減るんじゃないかな。

 とにかく、頼りの収穫もなくなった今、早く町にいって仕事をみつけなければならない。

 森を抜け町にでると石造りの堅牢な建物をみつけた。

「冒険者ギルドか。そういえば師匠も昔は加入していたといってたな」

 便利だが面倒事も多いからやめたっていってたっけ。手持ちも伝手もない俺にはちょうどいいかもしれない。

「お邪魔しまーす」

「…………」

 冒険者ギルドってのは酒場と兼用なのか。こんな明るいうちから酒盛りなんて……楽しそうだな。

「あのー初めてなんですけど、受付はこちらでいいんでしょうか」

「た、大変失礼致しました! 本日はどのようなご依頼で!?」

「依頼というか冒険者になりたいんですが。あと仕事も紹介していただければ助かります」

「えっ」

 なにその反応……まさか紹介制だった? おいおい、一見さんお断りなんだったらそう書いててくれよ。

「……ご貴族様では?」

「いや、違いますけど」

「なぁんだ~緊張して損しちゃった~」

 なにこの受付、急に態度変わったんだけど。他所に行くときは言葉遣いを丁寧にしたほうが得するって聞いてたんだが……あれは嘘だな。

「あの、冒険者にはなれるんですか」

「あぁこの紙に職業と名前を書いてくれればいいわよ」

「待ちな坊ちゃん。頑張ってテイムできてテンション上がっちまったんだろうが、お前に冒険者になる資格はねぇよ」

「は? おっさん何を――」

「プルプルプル」

 なんでスライムがここに? てかこいつ森で会った奴じゃん。

「まさか……お前ついてきたのか」

 なぜかそうだといってるような気がする。これが魔物使いの力……って違うわ! 俺は罠師だ!

「まぁしかしだな、いくら資格がないとはいえこのまま帰してしまうのは俺も心苦しい。特別に俺と勝負して、勝つことができたら認めてやってもいいだろう」

「え、本当ですか?」

「ああ、ただしそこのスライムが相手だ。お前も初めての従魔が活躍できて嬉しいだろ?」

「はっはっは! よかったな坊ちゃんよぉ、相棒の活躍がみれるぜぇ~?」

 もしかしてこれが冒険者ギルドのしきたりなのか。師匠が面倒っていってたのがわかった気がする。

「プルンッ」

「えっ、やらせてくれって? 大丈夫なのかお前……」

「プルプル!」

 なぜかしらんがスライムのほうもやる気満々らしい。これがスライムの恩返しというやつだろうか。

 それならありがたく受け取っておかねば失礼だ。万が一倒されても俺がちゃんと素材として使ってあげよう。

「その勝負受けて立つ! っていってます、こいつが」

「はーっはっはっはっは! 勇敢な従魔でよかったなぁ! そんじゃあお別れだ!」

 急に攻撃とは、面通りでなんて卑怯なんだ。これじゃスライムは――

 ポヨン

「ぬぁんっ」

 卑怯なおっさんの攻撃をスライムボディが柔らかく受け止め弾く。

「おいおい、飲み過ぎて力も入んねぇじゃねぇのかぁ? はははははっ!」

 がやのいうことはもっともだ。飲み過ぎて調子が悪いなら日を改めたほうがいいと思う。

「う、うるせぇ! なんだこのスライムは!?」

 ポヨヨン

「ぬあぁんっ」

 何度も武器を振り下ろすがそのたびに弾かれる。そしてなぜか変な声を出す。

 俺はいったい何をみせられているんだ……。

「くそっ、こうなったら……くらえ! 〈パワースイング〉!」

 戦闘職によくあるスキルか。これならきっと――

 ポヨヨーン

「おぅふっ」

 おいおい、本当に調子が悪いなら休めって。

「プルン」

「えっ、そろそろやっていいかって? あー……まぁ、殺すのはなしで頼む。後々面倒そうだし」

「プルッ」

 わかったといわんばかりに向きを変えたスライムは(前後左右わかんないからしらんけど)、縮んだと思った瞬間、消えるように跳躍した。

「おごっ……」

「お見事」

「プルプル」

 どうやら周りには見えていなかったようだ。時間が止まったように倒れたおっさんをみている。

「あの、倒しましたけど。これで冒険者になれるんでしたっけ?」
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