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199話 『絆の邂逅③』

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『そろそろ頃合いか。皆の者、世話を掛けたな』

「め、滅相もございません! あのとき、私どもが力になれていれば……」

『お互い様だ。力に飲まれすべてが思い通りにいくと思い上がっていた我の責任でもある』


 幻獣が揃って頭を下げるが今更とやかく言う筋合いはない。
 それにあやつの力は我が子が継いでくれた――共喰いの竜などといわれたこともあったが力の継承がうまくいっていたのであれば十分。
 蒼い鱗を光らせたドラゴンが天高くから急降下してくる。


「グォォオオオオオッ!!」

『多少はマシになったようだが驕るでないぞ。その力と記憶は過去の産物、決して囚われることのないようこれからも心を鍛えるのだ』


 強者が世界を創る――それは世界の真理でありまごうことなき真実――そう信じて疑わなかった我にあの男はそれが間違いだということを知らしめた。

 真に世界を創るは心、この世のすべてが持つ意志とでもいうべきだろう。我は一度世界を滅ぼさんとし負けた。そして二度目の敗北、我は対話を知り救われた。

 力なくして交渉がありえないのもわかる。しかし、それ以前に必要なのは成そうとする意志だ。


「ニーズヘッグ様、本当に戻るおつもりで? いくらその人間が信用に値するといっても、寿命の短い奴らはすぐに手の平を返すように裏切ります。お気をつけたほうがいいのでは?」

『気になるのであればお主たちもその眼でみてみるがいい。存外気に入るやもしれぬぞ』


 幻獣たちの住むこの島は普通では辿り着くことはできない。だが、精霊にすら気に入られるあの男ならば辿り着くこともできよう。いつか幻獣たちの心も救ってくれるはずだ。


「グルルルルルッ!!」

『そろそろ向かうとするか。幻獣たちよ、いつかまた来たときはよろしく頼む』


 ルークが我先にと空へ飛び立つ。元来、竜は何にも従わず囚われることのない存在だがその力を利用しようとする者は後を絶たなかった。

 だがあの男だけは違った。流れとはいえテイムしたことを謝罪し我らのことを親身になって考えていた。ルークの話でも、長い旅で利用されたりしたことはなかったところをみると本当の仲間としてみてくれていたのだろう。

 もしかするとあの娘だけを助けるだけでなく、この世界を救う者として呼ばれたのかもしれぬな。



 * * * * * * * * * * * *
 


「リリアお姉ちゃんあっちにもお花が咲いてるー!!」

「綺麗だね~、でもあんまり奥にいっちゃダメよ」


 あれから三年、レニ君と出会ってから村に行くことが許され、今日も村の子どもたちと一緒に遊んでいる。
 レニ君は今頃お婆ちゃんとお喋り中かな……。よく食料を運んできてくれたり手伝いにきてくれるけど、決まってお婆ちゃんに何かの話を聞いているようだった。

 今度私ともゆっくり話をしてくれると約束をしたが、いつになることやら。


「ねぇあそこに何かいるよー」


 花を見に行っていた女の子が森の中を指差すと大きな影がみえる。あれは――間違いない、モンスターだ……。
 血のような赤毛の巨体は何かを気にしているのか辺りをキョロキョロとみていた。なぜこんなところにいるのかはわからないがまだ襲ってくる気配はない。


「みんな静かに、モンスターがでた。すぐに村に戻って――」


 その瞬間とてつもない咆哮が響き渡り、モンスターはパニックになったのか、森から抜け出てくる。


「私がひきつけるから逃げて!! お婆ちゃんにこのことを知らせて!」


 女の子の前に出るとすぐに逃げるように指示を出す。それを追いかけようとしたモンスター目掛け石を投げつけると顔に当たり、こちらを見定めてきた。
 すでに走り出した子どもと距離があいたためか私に標的を変えてくれたようだ。

 その姿をはっきり見るとお婆ちゃんの話を思い出す。間違いない、本来はこの辺りにいないはずのモンスター、ブラッドベアーだ……。

 咄嗟に背を向け走り出す――確か、このモンスターは獲物を見つけると執拗に追いかける習性があったはず。
 そして獲物が疲労で動けなくなったところを襲い掛かってくるのだが、逆にいえば元気に逃げ続けているうちは襲い掛かることはない。

 案の定、ブラッドベアーは草木に紛れるように隠れ始めた。子どもたちの方へいってないか心配だったがその不安はすぐに打ち消される。

 強い視線というか気配、これが殺気とでもいうべきなのだろうか、ガサガサとわざとらしい音を立てながらそれは追ってきていた。


 とにかくこのまま逃げて……そう思った矢先、空から大きな影が飛来するとモンスターがいたであろう場所から衝撃が響いてくる。
 倒れた木々の中から顔を覗かせたのは先ほど聞いた咆哮の主であろう竜だった。美しい眼とは裏腹に口にはべったりと血がついており、ブラッドベアーを一噛みで殺したのは明白である。

 次は自分の番――そう頭によぎった瞬間身体は走り出していた。
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