上 下
121 / 201

121話 『終結』

しおりを挟む
「リリアさん、今日の分のお食事置いておきますね」

「ありがとうアリス……いつもごめんね」

「いえ、私にできることはこれくらいなので……何かあればすぐに呼んでください」


 あれから数日、魔界では死人が出るような大きな被害もなかったため、ただの喧嘩だったとすぐに収まりをみせた。エディとシェリーについてはスラム街での困窮を訴えるための行動だったとし、罪人とはなるもののリッドの下で監視、働くという名目で保護することになった。

 まぁ……それもこれも王様やレイラさんたちが色々と三文芝居を打ち事実を捻じ曲げてくれた部分が多いのだが…………。


「もうしつこいなぁ、終わったことをいってる暇があるなら鍛錬の一つでもしてなよ!」


 また言われてるのかな。本当にもう大丈夫だからって言ったのに……どうしたらいいんだろ。


「あーもう! 毎日毎日しつこいったらありゃしない!」

「ふふふ、もう気にしなくていいのにね」


 事が収まり真実を聞かされたエディとシェリーは子供ながら必死に謝罪を続けていた。

 スラム街では自分の起こした問題は自分で責任を取る――それがルール。しかしシェリーはまだしも、エディは自分の腕にヒラヒトツが使われ、死罪になるはずが私たちのお願いによりこれ以上ない酌量を与えてもらい助かった。そんなことをエディはすんなり聞き入れてはくれなかった。

 それ以来、ことあるごとにミントや私たちに何かできることはないかと聞いてくる。果てには奴隷にしてくれと言ってくる始末だ。


「ったく、早くお前からも言ってやってくれよ……もううんざりだよ……」


 ミントが語り掛けた視線の先、私の目の前にあるベッドでは彼が身動き一つせず眠っている。何度も私を助けてくれた身体は利き腕を失くし、呼吸はしているがとても弱々しく小さい。
 本能が生きようとしているのか辛うじて何かを飲み込むことはできるようで、食事はすべて液状にし飲ませている。

 もちろん、最初は回復薬から希少な薬まで色々飲ませてみたが、何も変化は見られなかったため今はごく普通の食事だけを与えることになっている。


 きっとレニ君なら『遅かれ早かれ使うモノだった、それがお前エディだっただけだ、だから気にすんな』とか上手いこと言って説き伏せちゃうんだろうなぁ。


「みんな、そろそろご飯にしよっか」

「クゥー」


 並べられた食器を取り机に持っていく――食事中会話を挟むが、どこかぽっかりと穴が開いたようにふと静まり返る。もう何度も繰り返し、そして慣れてしまった空気。
 まだあれから何日かしか経っていないはずなのに……まるで数ヵ月が経ったような気分……。そんな中扉を叩く音が響く。


「失礼、食事中だったか」

「アインさん、何かありましたか?」

「大事な話があるんだが夜に時間はつくれそうかい」


 今の私たちは基本的に何かがあるわけではない――強いて言えば彼に夕食を与え、たまに体を拭きミントの魔法で清潔を保ってあげる。あとはこの部屋を使わせてもらっている以上、レイラさんたちに何か仕事があれば私たちも協力させてもらうように伝えている……のだが、今のところミントが鍛錬の協力をしているくらいでほかには何も言われていない。
 ほぼ間違いなく、気を遣ってのことだろう。このままという訳にもいかないのはわかっているのだが……。


「いってきなよ、あいつは僕とルークで見てるからさ」

「クゥクゥ」

「それに少しは外に出ないと、こいつみたいに太っちゃうぞー」


 ミントがルークの身体を叩く。そうはいうが実際ルークは太ったりしていない。今となってはミントなりの気遣いというのがすぐにわかる。


「ふふふ、それもそうだね……それじゃあいってこようかな」

「すまないね、君たちも協力してくれてありがとう」


 アインさんはそれだけいうと時間がきたら呼びにくると言い残しすぐに部屋を出ていった。大事な話ってなんだろう……もしかして、まだ予言の本はどこかに残っているとか……。



「そういえばあの子・・・のほうはどうなんだい? いくら君の話は聞くといっても一筋縄じゃいかないんじゃないの」

「そうでもないよ。元々学ぶ機会がなかっただけでちゃんと説明すれば理解してくれるし、それに私以外にもレイラさんたちが助けてくれるから。たまにわがままなところはあるけど、子供ってそういうものでしょ」


 そう、あの子というのはこの事件を起こしていた最大の元凶であり張本人のシャルのことだ。
 シャルの想いによる力は絶大、両親もすでにこの世にはいないため、制御するという意味も含めて私が親代わりになった。

 シャルは私と同じで過去にシトリーを召喚したことがある。そのときシャルに興味を持ったシトリーは、母という存在を利用し何度も自分を呼び出させていた。そしてシトリー曰く、今度は魔人シトリーと魔力が混ざった私を母親と勘違いしているという。


 生きるうえで基本的なことから教えてはいるが……純粋がゆえの質問になかなか答えることができないときもある。この間は『なぜ好き勝手に魔法を使っていけないのか』ということに対し半日かかった。その前は『なぜ人の願いを聞いちゃいけないのか』、たくさんあったがどれも一概にダメとはいえない質問だ。

 とりあえず気になったことはレイラさんや私たちに聞くようにしてはいるが……。


「ママーーあそぼーーーーッ!!」

「こら、ここはパパが寝ているからうるさくしちゃダメって言ったでしょ」

「えーだってパパいつまで経っても起きないんだもん」

「パパはたくさん疲れてるからいっぱい休まないといけないのよ」

「ぶぅー……それじゃあミントおじちゃん遊ぼ!!」

「だから僕はおじちゃんって言われる年じゃないって……もう、これ食べてからだからね。ルークもいくよ。君もたまには動かないと飛べない竜になっちゃうからね」

「クゥー?」

「やったー! ルーちゃんも一緒ー!」


 シャルにとっては次元回廊に戻っていた頃と違い毎日新しい日々を過ごしている。シャルの両親が命をかけて守った……せっかくの新たな人生を無駄にするようなことはしたくない。


「ミント、ごめんね」

「いいさ、この子には教養が必要だからね。君もたまにはゆっくりしてるといい」

「ありがとう。シャル、終わったらちゃんと二人にお礼を言うのよ」

「あーい!!」


 みんなが部屋を出ていくと特に何をするわけでもないが、彼と二人だけの時間はあっという間に過ぎていった。後悔は後からやってくると昔お婆ちゃんに教えてもらったことがあったが…………

 こんなことになるなら、ちゃんと二人でお話しようって言うんだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~

伽羅
ファンタジー
 物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

処理中です...