上 下
89 / 201

89話 『役割②』

しおりを挟む
「たぶんだがサーニャさんはほとんど何も聞かされず会議は終わるだろう」

「えっ、それじゃあどうするの? お爺さんの証言だけじゃ証拠としてまだ難しいんじゃ」

「リリア様の言う通り、いったいどうなさるおつもりで……」

「あそこにはミントをおいてきた。手元にあった資料なり何か隠すようなことがあれば調べてくれる」

「あの妖精さんが……大丈夫なのでしょうか?」

「心配いらないよ。ミントはあんなんだけど俺たちより――いや、爺さんの何倍も生きてるからね」

「ミントってそんなにお爺ちゃんだったんだ……」

「妖精だから俺たち人間と感覚が違うんだよ、本人は気にしてるようだから言わないでやってくれ。さぁて、こうして待ってても暇だしどうするかな」

「これは大変失礼致しました。今お飲み物とお菓子をご用意してまいります」


 気を遣わせてしまったようだがお菓子にリリアが反応したためお言葉に甘えることにした。さすがお城というだけあって、高級そうなお菓子と飲み物が運ばれてくる。
 いつサーニャさんが戻ってくるかもわからないため、リリアとルークには羽目を外し過ぎないようにいったら二人はなぜか上品ぶっていた。俺も暇だったため爺さんと世間話をしながら待っていると扉がノックされ、サーニャさんと王様が入ってくる。


「待たせたの。さて、改めてになるが此度の件、礼を言うぞ」

「いえ、俺たちも旅の途中だったので。それに砂漠の国でも何やら大変だったようで……心中お察しします」

「そこまで知っておったか……サーニャには申し訳ないことをしたものよ」

「私は大丈夫です。それよりも父上、先ほどの会議はいったい」

「お前が気にするほどのことではない」

「なぜ隠そうとするのですか!」


 サーニャさんは何一つ情報を得られなかったからか必死に王様から聞き出そうとしていた。


「サーニャさん、その辺で……王様もきっと姫様のためを思って色々考えていたんでしょう」

「ですが……仕方ありませんね……」


 一度サーニャさんを落ち着かせると、王様は仕切り直すように咳払いする。


「して、お主たちは褒美に何を望む?」

「それならば一つお願いがあります。王様に面会を希望する人物がいるので会って頂けないでしょうか」

「儂にだと?」

「もちろん謁見という形でも構いません。どうしても渡したいものがあると……たぶん、献上品でしょう。すぐに終わるのでこのままサーニャ姫もご一緒に会って頂ければ」

「ふむ……それならばお主たちへの礼もできるしちょうどよいな。それでは準備ができ次第すぐに始めよう」


 時間ができたため俺は準備をすませたラカムとフィルをサーニャさんの手引きで城へいれる。しばらくすると呼ばれたため謁見の間へと向かった。


「此度は我が娘、サーニャを救ってくれたことを感謝する」

「いえ、こちらこそわがままを聞いて頂きありがとうございます」

「その者らが儂に渡したい物があるということで間違いないな?」

「はい」

「よかろう、品を出すがよい」


 俺の隣でひざまずいていたラカムとフィルが顔を上げる。王様はその顔をじっくり見ると何か思い出したように声をあげ、そして周りにいた側近たちも口々に騒ぎ始める。


「お、お主は……!」

「お久しゅうございますね、王様」

「あいつは! 兵よ何をしている、早くこの罪人を捕らえよ!」

「あんなやつを招き入れるとは……あいつらもひっ捕らえてしまえ!」

「やっぱりあんた人気者ね~」


 周りが騒ぎ立てる中でサーニャさんが必死に訴えかけていると王様は静かに椅子へ座り直した。


「静粛に。この者の退場を命じる」

「父上……!」

「いいかサーニャよ。いくら恩人の願いと言え国を裏切った者を許すわけにはいかん」

「王様、ちょっとくらい話を聞いてあげてもいいのでは?」

「いくらお主たちの頼みだろうとそれだけはできん。サーニャのこともあるゆえ今回に限り罪は問わん、即刻この場を去れ」

「彼が砂漠の国からの使者だと言ったら……どうします? 大事な書状の一つでも持ってきてるかもしれませんよ」


 その一言に王様はピクリと反応するとジッと黙りラカムを見つめる。ラカムはさっきから動揺することなく立っていた。
 さすが修羅場をいくつもくぐってきた海賊だけあるな……そして続くようにフィルが前に出る。


「我らは常に見ている――王よ、2度目はないぞ、選択を違えるな」


 そういうとフィルは別人のような雰囲気で王様を見つめた。


「ま、まさか…………」

「もしこれ以上惨めな行為を選ぶというのならば覚悟を決めることね」

「貴様、王に向かって無礼だぞ! えぇい何をしている、早くこいつらを捕らえろ!」

「やめて、彼らの話を聞いてください!」


 サーニャさんは王様に言うが兵士が集まり周りを囲み始めていく……だが大方予想通りだ。そして……


「待て……話を聞こうではないか」

「王様!?」

「砂漠の国からの使者だと言ったな? 何用でここにきた」

「やっと聞く耳をもってくれましたか。いやね、あちらさん砂漠の国が姫様の件で謝罪をしたいと言っているんですよ」

「なぜそんなことをお主が……いや、それよりもそんな戯言を信じるとでも思うか?」

「この通り――書状も預かってきてるぜ。姫様も確認済みだ」


 ラカムは俺が渡しておいた書簡を取り出す。王様はそれを見つめるとサーニャさんへ視線を移した。


「彼の言ってることに間違いはありません。もし、砂漠の国との友好が結べればこの国の平和にも繋がります」

「なぜそれを…………」

「失礼ですが王様、また裏切られる可能性のある国と友好を結ぶなど、いかがなものかと思われます」


 側近の一人が近づいてくるが王様は黙って何か考えているようだった。そして、しばらく静まり返った場に声が響く……い~いタイミングだ!


「ちょっと多すぎでしょこれ――――まとめて持ってきちゃったよ」

「あ、ミントおかえり!」

「クゥー!」


 頭上に現れたミントは魔法で紙の束を運んでいる。よし、ここからがもう一勝負だ。


「よ、妖精がなぜこんなところに……?」

「彼は俺の仲間です。ちょっと頼みごとをしてまして」

「はいこれ、読んでみなよ」


 そういってミントは王様に紙の束を渡し戻ってくる。王様はそれを読むと、どんどんめくり進め……わなわなと震えると紙を叩きつけ立ち上がった。


「な、なんだこの内容は!?」

「妖精に嘘は通用しないんですよ」

「お、王様……いったいどうなされたのですか」

「読んでみろ。某国への書状だ……全面的な支援、そして隣国に対する防衛のための資源譲渡……こんなもの、誰がしてよいといった!」


 複数の側近たちがその紙を読むと驚き慌てた――いや、この中にそれっぽく装っているやつがいるはず。


「父上、なぜ私が砂漠の国へ送られたのかはすべて知っております。だけどそれは国のためにしたこと……そのことを恨んだりはしておりません……ですが、隣国へ助けを求めようなどとは浅はかすぎます!」

「くっ……サーニャよ、もはやそう簡単な問題ではないのだ」


 王様はそういうとため息をつき椅子へ座った。俺はすぐに手を上げ王様へ進言する。


「だったらこの問題の解決策を教えてあげましょうか?」

「……なんだと」

「簡単なことです。だけどそうですね……ここじゃ隣国のスパイがいるかもしれない。俺たちと王様、それにサーニャさん以外はここから出ていってもらいたい。あ、お付きの爺さんはそのままでいいですよ」

「なッ!? ふざけたことをいうな、王の身に何かあったらどうする!」

「じゃああんただけ残ってもいいけど」


 俺はあえて一人を許可した。さっきから事あるごとに突っかかってくるから、俺の中じゃすでに犯人扱いなんだが、ここじゃこいつだという証拠はでないだろう。そしてサーニャさんとフィルは王様へ提案をのむように勧めはじめる。


「この方は私を助けここまで導いてくれました。どうか話を聞いてはくれませんか」

私たちセイレーンとの約束を破ろうとしたあなたにほかに道はないわよ?」


 フィルに関してはほぼ脅しだったが、それが功を成したのか王様は頭を抱えると周りをみた。


「全員外に出ておれ」

「王様!?」

「同じことを二度も言わせるな」


 どこか静かなその声は部屋全体に響き、すぐに兵たちが部屋を出ていくと側近たちも渋々出ていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?

伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します 小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。 そして、田舎の町から王都へ向かいます 登場人物の名前と色 グラン デディーリエ(義母の名字) 8才 若草色の髪 ブルーグリーンの目 アルフ 実父 アダマス 母 エンジュ ミライト 13才 グランの義理姉 桃色の髪 ブルーの瞳 ユーディア ミライト 17才 グランの義理姉 濃い赤紫の髪 ブルーの瞳 コンティ ミライト 7才 グランの義理の弟 フォンシル コンドーラル ベージュ 11才皇太子 ピーター サイマルト 近衛兵 皇太子付き アダマゼイン 魔王 目が透明 ガーゼル 魔王の側近 女の子 ジャスパー フロー  食堂宿の人 宝石の名前関係をもじってます。 色とかもあわせて。

あの日、さようならと言って微笑んだ彼女を僕は一生忘れることはないだろう

まるまる⭐️
恋愛
僕に向かって微笑みながら「さようなら」と告げた彼女は、そのままゆっくりと自身の体重を後ろへと移動し、バルコニーから落ちていった‥ ***** 僕と彼女は幼い頃からの婚約者だった。 僕は彼女がずっと、僕を支えるために努力してくれていたのを知っていたのに‥

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

来訪神に転生させてもらえました。石長姫には不老長寿、宇迦之御魂神には豊穣を授かりました。

克全
ファンタジー
ほのぼのスローライフを目指します。賽銭泥棒を取り押さえようとした氏子の田中一郎は、事もあろうに神域である境内の、それも神殿前で殺されてしまった。情けなく申し訳なく思った氏神様は、田中一郎を異世界に転生させて第二の人生を生きられるようにした。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

世界樹の生まれ変わりはちょっと臭かった「むっつりが異世でぺちゃぱいエルフにホレられた」

モルモット
ファンタジー
小悪魔のアケミとむっつりのトシユキは見学旅行で訪れた資料館で展示品の生贄の台座を破壊してしまい異世界へ飛ばされる。 その異世界は童貞をこじらせたものは魔物を召喚する力を手にし、暴れてしまうとうい危険な世界。 元の世界に戻る方法を探すが、それには誘拐されたエルフの長老に合わなければいけない。 冒険の中でトシユキはぺちゃぱいのエルフに出会うのでした。

処理中です...