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76話 『片鱗』
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「おらおらおらッ! どうしたさっきまでの威勢は!」
「くっ……速い……!」
「ボケっとしないでよ! こっちも手一杯なんだ!」
ラカムは中型のナイフを使い斬りかかってくる。ミントの援護により辛うじて斬られることはなかったが、厄介なのはあの布だ。すべての魔法に耐性があるのかそのまま突っ込んでくる。そして自在に動くため隙を狙っても覆いかぶさりラカム自身の盾となってしまう。
ときには目隠し、そして盾となり自在の武器となる。魔法職にとってこれほど厄介な相手はいないだろう。
「隙ありだ」
「しまっ――」
布が僅かに視界を覆い、まだそこに敵がいると私は思い込んだ。だがすでにラカムの姿はそこになく声がした瞬間、とっさに私は逆のほうへと跳んだ。
するどい刃が仮面をなぞり、紙一重で顔へのダメージはなかったが私はそのまま地面に倒れ、斬られた仮面と一緒にクマが出した仮面とマントがすべて消えてしまう。
「魔法が……な、なんで……」
「あぁ? なんだその髪」
何があったのかわからずラカムを見上げていると横から魔法が飛んでくる。
「何ボーッとしてるんだよ!」
「ご、ごめん!」
ミントから怒号ともいえるような口調で言葉がとび、私はとっさに体勢を整える。挟み撃ちしていた状況は逆転し、私の後ろには仮面とマントが消え素の状態のミントがいた。
「どういうこと……クマの気配もすべて消えた」
「彼は、魔力を裁断したんです」
「裁断? ただ切ったんじゃなくて?」
「はい、彼は元々私に仕えていた裁縫師。ですがあるときから姿を晦ませ行方がわからなくなっていたんです」
「裁縫師がなんであんな動きできんだよ、何か秘密があるんだろ」
ラカムはすぐに攻撃をしてくると思ったが構えを解き、敵意をみせることなく自然と近づいてくる。
「おいお前、だいぶ苦労してきたみてぇだな。ちょうどいい、お前も俺のところにこい。悪いようにはしねぇ……むしろ今まで苦労した分好きに過ごさせてやる」
「私は王女様を助けてお爺さんの元に送り届ける! それだけだ!」
「まったくどいつもこいつも……あの国は滅ぶんだ。なら俺と一緒にきたほうがいいと思わねぇか?」
「そんなことわかんないじゃない!」
「そうか、残念だ」
その瞬間ラカムはミント目掛けナイフを投げた。
「ミント!?」
「馬鹿目を離すな!」
迂闊だった――敵を前に、目を離す行為。己から殺してくれと言ってるようなものだ。即座に脚を動かそうとしたが布がすでに絡みついていた。
懐かしい殺意の塊と、死という現実が迫る…………究極的に意識が集中しているのか、視界が、音が、世界が凝縮されていく……そして、斬られる直前、何か黒い影が横切り衝撃が私を突き飛ばした。
「きゃッ!」
砂埃が酷く状況がよくわからない。何が起こったのか訳もわからず全員が静まりかえっている。
「なんだ今の……あそこからとんでもない魔力を感じるんだけど」
「クゥクゥー!」
「サーニャ!」
「フィル、無事だったのね!」
「ルーちゃん!? ってことはあそこにいるのは……!」
王女様にフィルと呼ばれた女性は先ほど連れていかれたセイレーンだった。誰かが助けたんだ……そしてルーちゃんがいるということはあそこにいるのは……来てくれたのは! 徐々に砂埃が収まり姿が見えてくる。
「レ……二君……?」
そこには腕を振り下ろした姿勢で動かない彼がいた。体を覆った魔力が大きなドラゴンの爪を形作り、布は切り裂かれ地面にまで爪痕が残っていた。
そして全身は未完成だがドラゴンを形作ろうと魔力が揺らいでいる……。片翼や尻尾まで徐々に出始めていた。
「なんなんだこいつは! てめぇらの仲間か!?」
「うぅっ……グウウゥゥ…………」
レニ君の目はドラゴンのように鋭く、まるで獲物を仕留めるようにラカムを睨んでいる。
「くそ、まさかバケモノがでてくるとはな」
「グウゥぁああアアアアアア!」
ラカムが喋るとレニ君は即座に飛び掛かり……一瞬だった。ラカムはなんとか転がるようにかわすと反撃するようにナイフを投げようとしたが、気づけば岩に叩きつけられていた。ふよふよと魔力が形作っている尻尾がやったということはどうみても明白だった。
「ぐはっ……」
ラカムは血を吐きその場に崩れ落ちたがレニ君は気にしている様子はない。むしろ間違いなく重傷をおっているはずの相手にとどめをさそうとしていた。
「クゥー! クゥー!」
「お、おい、そいつはもう動けないぞ!」
「お願い、その人を殺さないで!」
「サーニャ危ない、いっちゃダメだよ!」
ミントが声をかけるが反応がない。そして必死に叫ぶ王女様をフィルが止める……。なんだかんだ言っても同じ国の人だ、死ぬ姿は見たくないのかもしれない。
それに……私もレニ君が誰かを殺す姿なんて見たくない。それが自分のせいだったとしても――私はラカムへゆっくり近づいていく彼の元へ走った。
「もう大丈夫、だからお願い……落ち着いて!」
レニ君の体にしがみつくと体を纏っていた魔力は徐々に消えていく。
「あれ、俺は…………うぐゥっ…………」
レニ君は頭を抑え膝をついた。何か様子がおかしい。
「だ、大丈夫!?」
「リリアか、無事でよかった。それにしてもこれはいったい」
辺りの様子を見ながら不思議そうに聞いてくる。やっぱり何か変だ。
「覚えてないの? レニ君が私たちを助けるためにやったんだよ……」
「な……なんだって?」
「くっ……速い……!」
「ボケっとしないでよ! こっちも手一杯なんだ!」
ラカムは中型のナイフを使い斬りかかってくる。ミントの援護により辛うじて斬られることはなかったが、厄介なのはあの布だ。すべての魔法に耐性があるのかそのまま突っ込んでくる。そして自在に動くため隙を狙っても覆いかぶさりラカム自身の盾となってしまう。
ときには目隠し、そして盾となり自在の武器となる。魔法職にとってこれほど厄介な相手はいないだろう。
「隙ありだ」
「しまっ――」
布が僅かに視界を覆い、まだそこに敵がいると私は思い込んだ。だがすでにラカムの姿はそこになく声がした瞬間、とっさに私は逆のほうへと跳んだ。
するどい刃が仮面をなぞり、紙一重で顔へのダメージはなかったが私はそのまま地面に倒れ、斬られた仮面と一緒にクマが出した仮面とマントがすべて消えてしまう。
「魔法が……な、なんで……」
「あぁ? なんだその髪」
何があったのかわからずラカムを見上げていると横から魔法が飛んでくる。
「何ボーッとしてるんだよ!」
「ご、ごめん!」
ミントから怒号ともいえるような口調で言葉がとび、私はとっさに体勢を整える。挟み撃ちしていた状況は逆転し、私の後ろには仮面とマントが消え素の状態のミントがいた。
「どういうこと……クマの気配もすべて消えた」
「彼は、魔力を裁断したんです」
「裁断? ただ切ったんじゃなくて?」
「はい、彼は元々私に仕えていた裁縫師。ですがあるときから姿を晦ませ行方がわからなくなっていたんです」
「裁縫師がなんであんな動きできんだよ、何か秘密があるんだろ」
ラカムはすぐに攻撃をしてくると思ったが構えを解き、敵意をみせることなく自然と近づいてくる。
「おいお前、だいぶ苦労してきたみてぇだな。ちょうどいい、お前も俺のところにこい。悪いようにはしねぇ……むしろ今まで苦労した分好きに過ごさせてやる」
「私は王女様を助けてお爺さんの元に送り届ける! それだけだ!」
「まったくどいつもこいつも……あの国は滅ぶんだ。なら俺と一緒にきたほうがいいと思わねぇか?」
「そんなことわかんないじゃない!」
「そうか、残念だ」
その瞬間ラカムはミント目掛けナイフを投げた。
「ミント!?」
「馬鹿目を離すな!」
迂闊だった――敵を前に、目を離す行為。己から殺してくれと言ってるようなものだ。即座に脚を動かそうとしたが布がすでに絡みついていた。
懐かしい殺意の塊と、死という現実が迫る…………究極的に意識が集中しているのか、視界が、音が、世界が凝縮されていく……そして、斬られる直前、何か黒い影が横切り衝撃が私を突き飛ばした。
「きゃッ!」
砂埃が酷く状況がよくわからない。何が起こったのか訳もわからず全員が静まりかえっている。
「なんだ今の……あそこからとんでもない魔力を感じるんだけど」
「クゥクゥー!」
「サーニャ!」
「フィル、無事だったのね!」
「ルーちゃん!? ってことはあそこにいるのは……!」
王女様にフィルと呼ばれた女性は先ほど連れていかれたセイレーンだった。誰かが助けたんだ……そしてルーちゃんがいるということはあそこにいるのは……来てくれたのは! 徐々に砂埃が収まり姿が見えてくる。
「レ……二君……?」
そこには腕を振り下ろした姿勢で動かない彼がいた。体を覆った魔力が大きなドラゴンの爪を形作り、布は切り裂かれ地面にまで爪痕が残っていた。
そして全身は未完成だがドラゴンを形作ろうと魔力が揺らいでいる……。片翼や尻尾まで徐々に出始めていた。
「なんなんだこいつは! てめぇらの仲間か!?」
「うぅっ……グウウゥゥ…………」
レニ君の目はドラゴンのように鋭く、まるで獲物を仕留めるようにラカムを睨んでいる。
「くそ、まさかバケモノがでてくるとはな」
「グウゥぁああアアアアアア!」
ラカムが喋るとレニ君は即座に飛び掛かり……一瞬だった。ラカムはなんとか転がるようにかわすと反撃するようにナイフを投げようとしたが、気づけば岩に叩きつけられていた。ふよふよと魔力が形作っている尻尾がやったということはどうみても明白だった。
「ぐはっ……」
ラカムは血を吐きその場に崩れ落ちたがレニ君は気にしている様子はない。むしろ間違いなく重傷をおっているはずの相手にとどめをさそうとしていた。
「クゥー! クゥー!」
「お、おい、そいつはもう動けないぞ!」
「お願い、その人を殺さないで!」
「サーニャ危ない、いっちゃダメだよ!」
ミントが声をかけるが反応がない。そして必死に叫ぶ王女様をフィルが止める……。なんだかんだ言っても同じ国の人だ、死ぬ姿は見たくないのかもしれない。
それに……私もレニ君が誰かを殺す姿なんて見たくない。それが自分のせいだったとしても――私はラカムへゆっくり近づいていく彼の元へ走った。
「もう大丈夫、だからお願い……落ち着いて!」
レニ君の体にしがみつくと体を纏っていた魔力は徐々に消えていく。
「あれ、俺は…………うぐゥっ…………」
レニ君は頭を抑え膝をついた。何か様子がおかしい。
「だ、大丈夫!?」
「リリアか、無事でよかった。それにしてもこれはいったい」
辺りの様子を見ながら不思議そうに聞いてくる。やっぱり何か変だ。
「覚えてないの? レニ君が私たちを助けるためにやったんだよ……」
「な……なんだって?」
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