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59話 『幕開け』
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「こんなに都合いいことってある?」
「あるかどうかでいったら、目の前で起きていることを信じるしかないな」
広大な砂漠の中、町の前には王子率いる軍隊が整列していた。そしてその向かう先にはサソリや蟻、ワームのようなモンスターの大群が集まり、いつこちらに襲ってきてもおかしくないように蠢いている。
俺たちはこの二つの勢力の間に隠れていた。
「で、どうするの。さっさと倒しちゃう?」
ルークの上でミントがだるそうに寝転がり足をパタパタさせている。ルークもモンスターを前にしても余裕なのか焦りは感じない。
「もし予言の通りであればリリアは一人ででてくるはず、もう少し待ってみよう」
しばらく待つと軍隊が大きな声をあげる。王子が前に出てくると手をあげ、隊の列が開かれたと思うと奥にいたリリアが一人で歩き出す。王子の横までくるとリリアはお辞儀をした。そして王子が何かを叫ぶと軍隊は武器を高く掲げ敬礼のようなしぐさをする。
リリアは杖を持ち、一人、モンスターの群れに向け歩きだした。
誰一人ついていこうとする者はいない、王子は最前列で見守っているだけ……いや、これから予言の通りになると思っているのか、怪しい笑みを浮かべていた。
「うわっ、本当にあの本みたいになったよ……」
「まさかここまでとはな。しかし問題はここからだ」
「王子があの子と結婚するってやつ?」
「それも必ず阻止しないといけないが……それよりも不可解なのは、リリア一人じゃあの量のモンスターはまだ倒せない」
「でもあの子、僕と違って変な魔法使ってるじゃん。なんか強力な魔法の一つや二つあるんじゃないの?」
「いや、リリアはまだあれしか知らない」
「嘘でしょ!? あんなんじゃ無理だって」
「とりあえずぎりぎりまで様子を見よう」
そしてモンスターは突然、何かにひかれるようにリリアへ向き一斉に動き出した。リリアは必死に杖を握りしめ魔法を使うが、モンスターとの距離があるため届きすらしない。
「や、やっぱり無理……誰か…………誰か助けて……」
リリアが迫るモンスターを見て後ずさると、ミントが焦りすぐにでも動けるよう飛び始めた。
「おい、そろそろいかないと!」
「クゥクゥ!」
「待て、まだ何か起こるかもしれない……もう少し……」
ミントとルークに詰められた俺はあろうことか、何かが起こる――そんな気を起こしリリアを見つめていた。体が動かない。いや、動こうとしていない。
ルークが変に思ったのか俺の体を押すが脚が前に出ない、本来ならばとっくに出ていってるはずなのに。
「クウウゥ!」
「ダメだ、脚が動かない」
「何を言って……もうやばいって!」
ミントたちは必死に俺をリリアの前に引っ張り出そうとするが俺の体は金縛りにあったように動かない。そしてモンスターが間近に迫る。
「……私が、なんとかしなきゃ……私が……なんとか………………」
リリアが杖を握り魔法陣を描き始める――――完成した魔法陣はリリアの周辺一帯を覆いつくすほど大きくなり怪しい光を放つ。そして……リリアの体に魔法陣が吸い込まれるように入っていくとリリアの髪が真っ黒に染まっていった。
「ね、ねぇ、なんかあの子、雰囲気が変わったよ?」
「なんだあれは……あんな魔法知らないぞ……」
リリアが閉じていた目を開くと、その目は獲物を狩る獣のように鋭くなり、持っていた杖を投げ捨てると自分の体を調べていた。
「まったく、同じ過ちは繰り返さぬといいながら……まぁ我には関係のないことだが」
な、なんだあの口調は……。まるで別人のような仕草をするリリアはモンスターの群れを見ると大きく首を振った。
「あの程度の奴らに我を呼んだのか。情けない」
そういってモンスターの元へ走り拳を突き出すとモンスターの群れは衝撃を受けたように四方に吹き飛んだ。
「ほう? これほどの魔力を有しているのは久しい、ならばとっとと終わらせるか」
リリアは見たこともない魔法を使いモンスターを圧倒していく。
「な、なにあれ……あの子、めちゃくちゃ強いじゃん」
誰だあれは……何がどうなっている……。ミントは好転していく状況に興奮気味だったが、ルークは俺に必死に訴えかけてきた。
「クウゥゥ……」
「あぁ、あれはリリアだがリリアじゃない。あんなに魔力を使ってたら何か支障がでてしまうかもしれないぞ。早く止めなければ……!」
必死に身体を動かそうと力をいれるが一向に体が動く気配はない。その間にもすでに半壊したモンスターの群れと、逃げ惑うモンスターを遊ぶようにリリアが蹂躙していく。
「グウウゥゥゥ……!」
「ルーク? あっ、おい待て!!」
ミントに止めるよう声をかけたが、ミントは高い位置で観戦しながら拳を振り回し気づいていない。
「クゥクゥ!!」
「おやおや何か気配がすると思えば……どれ、ひとつ遊んでやろう」
リリアはルークの元に走り出すと攻撃を始める。ルークは素早く避けるがリリアはすでに先回りしルークの体を蹴り飛ばす。
「ギャゥ!」
「ほらどうした、次がくるぞ」
「お、おい、あいつは仲間なんだろ? なんで攻撃してるんだ」
「今のリリアはリリアじゃない、たぶんだが魔法で別人になっている」
「じゃ、じゃあ早く止めないとヤバいだろ!」
「そうしたいのはやまやまなんだが……さっきから俺の体が動かないんだ」
「えー!? ど、どうするんだよ!」
「ミント、頼む……ルークと一緒にリリアを止めてくれ!」
「や、やだよ! めちゃくちゃ危ないじゃん!」
今回ばかりはさすがに無理か……しかし、早くどうにかしないとルークが危ない。地上では分が悪いと思ったのかルークは翼を広げ空に飛びあがる。リリアはそれを見上げ微かに笑った。
「ほう、空の王者というわけだな」
「あるかどうかでいったら、目の前で起きていることを信じるしかないな」
広大な砂漠の中、町の前には王子率いる軍隊が整列していた。そしてその向かう先にはサソリや蟻、ワームのようなモンスターの大群が集まり、いつこちらに襲ってきてもおかしくないように蠢いている。
俺たちはこの二つの勢力の間に隠れていた。
「で、どうするの。さっさと倒しちゃう?」
ルークの上でミントがだるそうに寝転がり足をパタパタさせている。ルークもモンスターを前にしても余裕なのか焦りは感じない。
「もし予言の通りであればリリアは一人ででてくるはず、もう少し待ってみよう」
しばらく待つと軍隊が大きな声をあげる。王子が前に出てくると手をあげ、隊の列が開かれたと思うと奥にいたリリアが一人で歩き出す。王子の横までくるとリリアはお辞儀をした。そして王子が何かを叫ぶと軍隊は武器を高く掲げ敬礼のようなしぐさをする。
リリアは杖を持ち、一人、モンスターの群れに向け歩きだした。
誰一人ついていこうとする者はいない、王子は最前列で見守っているだけ……いや、これから予言の通りになると思っているのか、怪しい笑みを浮かべていた。
「うわっ、本当にあの本みたいになったよ……」
「まさかここまでとはな。しかし問題はここからだ」
「王子があの子と結婚するってやつ?」
「それも必ず阻止しないといけないが……それよりも不可解なのは、リリア一人じゃあの量のモンスターはまだ倒せない」
「でもあの子、僕と違って変な魔法使ってるじゃん。なんか強力な魔法の一つや二つあるんじゃないの?」
「いや、リリアはまだあれしか知らない」
「嘘でしょ!? あんなんじゃ無理だって」
「とりあえずぎりぎりまで様子を見よう」
そしてモンスターは突然、何かにひかれるようにリリアへ向き一斉に動き出した。リリアは必死に杖を握りしめ魔法を使うが、モンスターとの距離があるため届きすらしない。
「や、やっぱり無理……誰か…………誰か助けて……」
リリアが迫るモンスターを見て後ずさると、ミントが焦りすぐにでも動けるよう飛び始めた。
「おい、そろそろいかないと!」
「クゥクゥ!」
「待て、まだ何か起こるかもしれない……もう少し……」
ミントとルークに詰められた俺はあろうことか、何かが起こる――そんな気を起こしリリアを見つめていた。体が動かない。いや、動こうとしていない。
ルークが変に思ったのか俺の体を押すが脚が前に出ない、本来ならばとっくに出ていってるはずなのに。
「クウウゥ!」
「ダメだ、脚が動かない」
「何を言って……もうやばいって!」
ミントたちは必死に俺をリリアの前に引っ張り出そうとするが俺の体は金縛りにあったように動かない。そしてモンスターが間近に迫る。
「……私が、なんとかしなきゃ……私が……なんとか………………」
リリアが杖を握り魔法陣を描き始める――――完成した魔法陣はリリアの周辺一帯を覆いつくすほど大きくなり怪しい光を放つ。そして……リリアの体に魔法陣が吸い込まれるように入っていくとリリアの髪が真っ黒に染まっていった。
「ね、ねぇ、なんかあの子、雰囲気が変わったよ?」
「なんだあれは……あんな魔法知らないぞ……」
リリアが閉じていた目を開くと、その目は獲物を狩る獣のように鋭くなり、持っていた杖を投げ捨てると自分の体を調べていた。
「まったく、同じ過ちは繰り返さぬといいながら……まぁ我には関係のないことだが」
な、なんだあの口調は……。まるで別人のような仕草をするリリアはモンスターの群れを見ると大きく首を振った。
「あの程度の奴らに我を呼んだのか。情けない」
そういってモンスターの元へ走り拳を突き出すとモンスターの群れは衝撃を受けたように四方に吹き飛んだ。
「ほう? これほどの魔力を有しているのは久しい、ならばとっとと終わらせるか」
リリアは見たこともない魔法を使いモンスターを圧倒していく。
「な、なにあれ……あの子、めちゃくちゃ強いじゃん」
誰だあれは……何がどうなっている……。ミントは好転していく状況に興奮気味だったが、ルークは俺に必死に訴えかけてきた。
「クウゥゥ……」
「あぁ、あれはリリアだがリリアじゃない。あんなに魔力を使ってたら何か支障がでてしまうかもしれないぞ。早く止めなければ……!」
必死に身体を動かそうと力をいれるが一向に体が動く気配はない。その間にもすでに半壊したモンスターの群れと、逃げ惑うモンスターを遊ぶようにリリアが蹂躙していく。
「グウウゥゥゥ……!」
「ルーク? あっ、おい待て!!」
ミントに止めるよう声をかけたが、ミントは高い位置で観戦しながら拳を振り回し気づいていない。
「クゥクゥ!!」
「おやおや何か気配がすると思えば……どれ、ひとつ遊んでやろう」
リリアはルークの元に走り出すと攻撃を始める。ルークは素早く避けるがリリアはすでに先回りしルークの体を蹴り飛ばす。
「ギャゥ!」
「ほらどうした、次がくるぞ」
「お、おい、あいつは仲間なんだろ? なんで攻撃してるんだ」
「今のリリアはリリアじゃない、たぶんだが魔法で別人になっている」
「じゃ、じゃあ早く止めないとヤバいだろ!」
「そうしたいのはやまやまなんだが……さっきから俺の体が動かないんだ」
「えー!? ど、どうするんだよ!」
「ミント、頼む……ルークと一緒にリリアを止めてくれ!」
「や、やだよ! めちゃくちゃ危ないじゃん!」
今回ばかりはさすがに無理か……しかし、早くどうにかしないとルークが危ない。地上では分が悪いと思ったのかルークは翼を広げ空に飛びあがる。リリアはそれを見上げ微かに笑った。
「ほう、空の王者というわけだな」
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