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35話 『眠りし英雄』

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「ひええええぇぇぇ! やっぱり効いてないよおおおぉぉ!!」

「うるさいわね! 弱音を吐いてる暇があったら撃ちなさい!」


 この声はライムとミントか! しかしなぜここへ――。


「レニさん!」

「アリス!? なんで戻ってきた!」

「妖精の方と出会って、話をしたら助けに行くって……!」


 アリスは急いでお姉さんの元へ駆け寄る。どうやら意識は取り戻したようだ。しかしどうしたものか、さっきからミントとライムがひたすらベヒーモスに魔法を放っているが遊ばれている感じしかない。

 何か突破口は……そのとき異様な気配を感じた。正確には違和感のような、辺りを見渡すと石碑の前に剣が刺してあり、その後ろには半透明の男性が立っていた。
 なぜかこちらを見ている……もしかしてこいってことなのか。とりあえず石碑の元へ向かい剣に手を伸ばす。


「それに触るな!!!!」

「ギャーーーー!! また俺ーーーーー!?」

「お姉さま、何を!」

「ミ、ミント!」

「全員動くな、動けばこいつを斬る!」


 アリスのお姉さんは自分の剣先をミントに向けていた。顔をみるによっぽどこの剣に触れられたくないようだ。


「この剣はあんたのか? ここに人がいるんだ、誰かわかんないけど何か言おうとしている」

「なんだと……貴様、どこまでも私たちを愚弄するつもりか!」

「レニさん、その剣は…………お姉さまの婚約者だった方の剣です」

「アリス、余計なことを言うな!」

「もう目を覚まして! こんなことをしてもあの方が喜ぶはずありませんッ!」


 男性はとても悲し気に何かを呟いている……。

【ものまねし:状態(英霊:ヴァイス)】


『誰か……彼女を……』

「ん? 英霊ヴァイスって……この人?」

『き、君は……私の声が聞こえるのか』


 男性は驚き目を見開くが、まさか俺も話せるとは思わなかったためびっくりしてしまった。幽霊すら、ものまね対象になるとは――これも同じ状態だから声が聞こえたのか?


『私の名はヴァイス、どうか彼女を……レイラを救ってくれ』

「アリスのお姉さんのことか? 救いたいのはやまやまなんだが」

「さっきから何をぶつぶつ言っている!」

「キャーーーー! 刺さる、刺さるーーーーーー!!」


 この騒ぎのなか、なぜかベヒーモスはこちらのいざこざに対し仕掛けようとしてこず、むしろジッと何かを見定めているようだった。


「この通り色々あってね、しかも俺は一人じゃ剣をまともに扱えないんだ。誰かの真似くらいならできるんだけど」

『ならば私が導こう』

「あのベヒーモスはどうするんだ」

『私に任せてくれ。危険だがどうか私を信じてほしい』


 そういうとヴァイスさんは生前持っていた名残か幻影の剣を抜く――その姿は自信に溢れ希望を人に与えるような雰囲気を放っていた。本当に彼ならばこの場を解決してくれる気がする…………ならば俺がやることは……悟られないようルークに目を配る。目で合図をすると俺は剣に手を伸ばした。


「貴様、その剣に触れるなと言って」

「グウアアア!!」

「ちぃッ!!」


 レイラさんがこちらに注目すると同時にルークが突進――避けられはしたがミントから離すことはできた。そして俺は剣を引き抜く。剣は古ぼけていたが綺麗な模様が入っており薄っすらと光り輝いた。それをみるなりヴァイスさんはベヒーモス目掛け走り出す。
 後を追いかけながら俺は全員へと声をかけた。


「ベヒーモスは俺がなんとかする! みんなはレイラさんを止めてくれ!」

「わかったわ。ミント、ここまできて逃げるんじゃないわよ!」

「も……もうヤケクソだああああああ!!」

「レニさん、お姉さまは私たちが必ず! どうかベヒーモスをお願いします!」

「くっ……邪魔をするなーーーーーー!!」


 レイラさんがこちらに迫るとみんなが前に立ち塞がる。俺はそのまま走り抜けベヒーモスの元へと向かった。


『むっ? その剣はあやつの』

『友よ。遅くなったがあのときの約束を果たそう』


 俺はそのままベヒーモスの足元目掛け斬り込んでいく。かわされると同時に反撃がくるとヴァイスさんはそのまま弧を描くように剣を斬り返す。俺も同じように動き技を使った。

≪秘剣:四方≫


 ベヒーモスは動きを止め瞬時に何かを躱すように離れると、斬撃がぶつかり大きな音が鳴り響く。


『これは……どこでその技を知った?』

「今だよ!! あんたの友達が教えてくれたんだ!」


 俺たちの会話が聞こえているのかはわからないが、ヴァイスさんは間髪入れずに動き、それをまねた俺はベヒーモスを追い詰めていく。何度かの攻防を繰り返すと俺の動きを見続けていたベヒーモスは距離をとった。


『これも縁というものか。ならばお主には悪いが、約束の続き果たさせてもらうぞ』


 ベヒーモスの全身が光りだし、唸り声をあげると体に魔力が集まっていく――そして目の前にあったその巨体は消えるように動きだした。
 それをみたヴァイスさんは静かに言葉を放つ。


『少年よ、ここからが本番だ』

「ああ、頼んだよ」


 正直言うと俺はこの戦いの読み合いなどには全然ついていけてない。ものまねしのおかげで身体能力やすべてが高スペックにはなってるが……ここからどうなるかはもうヴァイスさん頼りなのだ。
 ベヒーモスの猛攻がくる――動きの癖を知っているのか、ヴァイスさんは俺に分かるように一手早く動き躱していく。そして猛攻がくる中で徐々に反撃し攻めていく。だが突如ベヒーモスは不敵な笑みを浮かべ距離をとり始めた。


『さぁこれで最後だ。お前は…………お前たちはどうする』


 そういって背後にあった高所に登ると角に大量の魔力が集まっていく。空気が震え、見ているだけであれは危険だと全身が信号を発した。


「お、おい、ヤバいぞあれ!!」

『大丈夫、君の力があれば』


 いやいやいや俺の力じゃなくてあなたの力次第なんですけど!
 そんな俺の気を知ってか知らずか、ヴァイスさんは堂々としていた。そしてベヒーモスから魔力の波動が流れだし何かがくる――そう思った瞬間、ヴァイスさんは動いた。

≪秘剣:魔封花≫


 光り輝いた剣を振ると、斬撃が飛び魔力を切り裂いた。そして切られた魔力は桜のような花に変わり散っていく。そして、今度は剣の光の色が変わると俺とヴァイスさんはそのままベヒーモスの角目掛け斬りかかった。

≪絶剣:桜花奉断≫


 剣と角がぶつかり合い大きな衝撃音が響き渡る……しかし、それでもベヒーモスは微動だにせずその場から動きはしなかった。ヴァイスさんは着地すると目の前のベヒーモス相手に歩みより剣をしまった。


『はっはっはっは! やはりとんでもない硬さだな!』

「なっ……笑ってる場合じゃ」


 動かずにいるベヒーモスの前で笑いだしたヴァイスさんに俺は動揺する。ここにいるのは実際は俺一人だ。
 たぶんヴァイスさんに攻撃は当たらないだろうが俺には直撃するだろう。生身という体がある限りさすがに攻撃が透き通るわけがない。
 何かを察したのかベヒーモスは俺と、見えないはずのそこに目を向けた。


『そこにいるのか』

「あんたにも見えているのか?」

『いや、何も見えん。だがお主の言動、そしてその剣を使えるものといえばあやつしかおらん』

『覚えていてくれたか。どうだ、私の剣も少しは効いただろう』


 ベヒーモスにはヴァイスさんの声は聞こえていないようだ。とりあえず俺は通訳のように伝えてあげることにした。


「彼が言ってるよ。効いただろ? って」

『ああ、合格だ。よくぞそこまで極めたものだ……そしてお主もな』


 あ、そういえば試すって言ってたが何をだったんだ? そんなことを考える俺をよそにベヒーモスはレイラさんをみる。


『どれ、まずはあの者を解放してやらねばならん』


 そう言ってベヒーモスはレイラさんたちのいる元へと跳ぶと、すぐに俺たちも後を追った。
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